56【異世界の異世界妄想】
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「 おとり捜査?なんだそれは?」
雨はあれから本降りになった。私たちは村の中に入り、見晴らしの良い建物の二階から通りを見下ろしていた。体が冷えたため温かい飲み物を飲もうとテーブルへ移動する。
「 ターニャ様、あまり顔を出すと相手からも見えてしまいます。」
窓枠からはなれないターニャに、フレデリックは優しく声を掛ける。私は話を続けた。
「 おとり捜査って言うのはね、警察が …… いぇ、この世界で例えるなら、騎士が悪い奴の仲間になったフリをして、取引現場を押さえる捜査方法なの。」
詳しく知ってるわけではないけど、刑事ドラマとかだとだいたいそんな感じだよね?
「 いやいや、そんなのすぐバレるだろう?」
ありえない、とグレンが鼻で笑う。
「 そこをバレないように演技するの。服装から髪型、話し方や癖も変えたりして。」
よく知らないけど、何となく意地になって警察の味方になる。
「 セナ様、それは私も無理があるかと思いますわ。」
サラまで苦笑している。
「 考えてもみろ。もしこの中にあいつらの一味が混ざってたら、俺はすぐに気がつくぞ?」
それはそうよ、気づかないほうが怖い。
「 だーかーらー!そーゆー場合は、騎士団に入る所からじっくりと時間をかけて、奴らはやるのよ!」
「 騎士団に入るとこから? ハハ、悪いがラグドールの騎士団は、そんなに簡単には入れんぞ?」
「 でも頑張ってそれをやってのけるの!それで、毎日の訓練とかお仕事もしっかりこなして、周りの人の信頼を得るのよ。」
「 入団試験もパスして、訓練も仕事もキッチリこなす人間は、既に立派な騎士団員だ。」
「 ほらっ!…… そうやって、どんどん周りに信用されて、次第に奴は国の重要機密まで任されるようになってくるの。」
私が声を潜めると、外を見ていたターニャもテーブルへと戻ってきた。
「 それは …… すごい奴だな。」
「 そうね、奴は凄いの。仮に奴の名前をアルマジロとしておきましょう。」
「 セナ様は、アルマジロ様とお知り合いなのですの??」
「 違うわターニャ、例えよ例え、アルマジロは実在しないんだからね。…… ええと、何だっけ? それでアルマジロは騎士団として仲間と助け合ったり、民衆を守るうちに、だんだんと幸せを感じ始めちゃうの。」
「 しかし、本来は悪い奴なのだろう!?」
「 そうよ? 彼のボスは、小さいころ親に捨てられたアルマジロの命を救ってくれた恩人なの。アルマジロはボスのことは絶対に裏切らない。」
「 ボスはいい奴なのか!?」
「 いい奴なんてとんでもない!悪いことはなんでもやる汚い奴よ!アルマジロを助けたのだって、自分の身の回りの世話をさせたかっただけだもの。」
「 そんな!ひどいですわ!アルマジロ様はボスを信頼されてますのに!!」
サラが口を覆った。
リュカも話に耳を傾けている。
「 それでもね。アルマジロにとってボスは、たった一人の父親のような存在だったの。そんなボスを裏切れる?」
「 だが、アルマジロは騎士団として幸せになってきたんだろう?」
私はゆっくりと首を振る。
「 それがね? みんなに信頼されればされるほど、アルマジロは今度は段々とつらくなってくるの。」
「 それはどうしてですの!? 」
ターニャが驚く。
「 それはね、大好きな騎士のみんなを騙しているから。」
「 アルマジロ …… 一言私に相談してくれれば何とかしてやれるかもしれぬのに!」
いいわね!グレン。感情移入ハンパないわね!
「 アルマジロのいる国と、隣の国とは長年戦争をしていてね、近々大きな戦いになりそうだった。ボスは当然このチャンスを逃さない。アルマジロは、戦いの作戦や、武器の数、騎士団の人数や配置など、戦争に不利な情報を流すよう要求されたわ。」
「 何だって!? それはダメだ !!アルマジロを止めなければ!!」
「 ついでにアルマジロは、ボスから薬を受け取った。即効性の眠り薬。それを騎士団の飲み水に混ぜろ、とね。」
「 なんて事だッ!!やめるのだアルマジロ─── ッ!!」
私はグレンの反応の方が面白い。動画で見たら100回は笑えそうだ。リュカだってちょっと引いてるじゃん。
「 決戦の日は刻々と近づく、さぁ、アルマジロはどうすると思う??」
みんなは息をのむ。サラはターニャの耳を塞ぐ準備をしていた。
「 と、まぁコレがおとり捜査の例えよ。」
話のオチはご想像にお任せするわ。
「私は信じるぞ!アルマジロはそんな奴じゃないのだ。」
「 私もですわ! 本当はアルマジロ様は心お優しいお方なのですのよ!」
「 私は仲間の中にそんな奴がいるだけで不愉快ですけどね。」
「 だがなー、王国の機密が流されるとは恐ろしい話だな。」
体も温まって来て、それぞれが退屈しのぎのお話で盛り上がってると、フレデリック涼しい顔で作り笑いを浮かべた。
「 なかなか面白いお話でしたが、騎士団に入る者の身元は徹底的に調査されます。そこに経歴詐称は許されません。アルマジロはその時点で弾かれますよ。」
もぉ〜、だから例えだってば!フレデリックはいつでも冷静ねー。
「 …… ですが、今の話はいいかもしれませんね。」
フレデリックはボソリと呟き何か考え込んでいる。
「 やってみましょうか?」
彼は眼鏡の中央を中指で押し上げた。
「 おとり捜査です。」
今回のお話は完全に閑話ですねー。
次話も気楽に読んでください!




