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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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55【初めてのプレゼント】

「 …… つまんないわね。」


「 もう、セナ様ったら!」


 だあってぇ〜 サラ、退屈なんだもん。思わずぼやいちゃったけど、今の言葉は忙しく動き回るグレン達に聞かれなくて良かった。


 私達はいま、人身売買の中継となっている村の正面にいる。


 朝早くに村へと転移すると、すぐにフレデリックが別の魔法をかけ、私達のいる一画を周りからは見えないようにしてくれた。


 その枠の中で静かにしていれば、訪れた人に気づかれることはない。この場所で待機して、のこのことやってきたザゴバを捕らえようという作戦だ。


 もちろん村の中にも、村の付近にも騎士たちは配備されている。悪い奴らを一人も逃さないよう万全の体制を整えているようだ。


 三日前にフレデリックが村全体にかけた魔法は、今は解かれていて、私がコテンパンにしたゴロツキたちは眠らせたまま隠してあり、新たに村に戻って来た者達も捕まっていた。


 はじめは、大捕物を間近で見れる事にワクワクしたのよね〜。だけど一時間経ち、二時間も経つとなんだか飽きてしまった。


 こんなことなら、サラ達と町のカフェや雑貨屋さん巡りをしたかった。


 この世界に来て今日で十日目だ。休暇は二週間なのだから、私はあと四日間しかこの世界にいれない。それならばもっと有意義に時間を使いたかった。


 元の世界でも人身売買なんて非人道的なこと、絶対に許されない。だから今回の大捕物は騎士も魔導師もかなりピリピリしてて、そんな時に「遊びに行きたい」なんて、とてもじゃないが口にできなかった。


 あーあ、あと四日かぁ ……。


 比較的忙しくない時期とはいえ、二週間もの特別休暇をもらったのだ。連休明けには会社の人に、何かしらのお土産などを配るのが筋だろう。


 この国で買った物を、元の世界に持ち込むことはできるのだろうか?


 時計の町の通りや、ラグドール城下町で見かけたショップには、かわいいお菓子屋さんや雑貨屋さんがたくさんあった。


 お菓子とかフルーツとかの食べ物は、検疫していないからダメよね? 雑貨はむしろ税関を通さなくて良いからラッキーよ? でもねぇ、社員全員に雑貨を買うとなると結構な金額になる。


 うちの部署だけでも6人、会社全体だと40人位いる。この国の物価が分からないけど、ものすごく安かったりしないだろうか?


 そもそも、私は所持金が 0 だ。


 この国の危機を見捨てて帰るのに、お土産代下さいと言えるほど、私は面の皮が厚くはない。


 仮に手土産的な物をもらえたとしても、私はずっと気になっていることがある。

 この世界に召喚されたとき、私は会社から帰ったばかりだったから鞄を持っていたはず。でもそれはこちらの世界には転移されなかったのよね。


 じゃあやっぱりその逆も然りで、こちらの物をあっちに転移させる事は出来ないのかもしれない。


 う〜ん、となるとやっぱり早めに戻ってデパ地下に行くしかないわね。幸い今のデパートには全国各地のグルメが揃っている。旅行話をアレコレ聞かれても困るから、北陸の実家に帰っていたとでも言おう。


「 セナ?聞いていますか? これをどうぞ。」


 突然フレデリックが私に何か差し出した。

 なんだろう?と思いながらそれを受け取る。


「 これ …… 懐中時計だわ。」


 大きさはやや小さめで、直径三センチくらい。文字盤はギリシャ数字で見やすく、蓋部は透かし彫りになっていて、所々に小さく淡い水色の石が散らしてある。白銀色でチェーンは長く、ネックレスだった。


「 差し上げます。今後は肌身離さず持つようにして下さい。」


 えっ …… なに ……? どうしたの急に?


 男性から(まして超美形から)贈り物をもらった事なんて初めてで、耳まで赤くなるのを感じた。恥ずかしさでモジモジしていると、フレデリックはみんなに同じように配っている。


 あっ、みんなの分もあるのね? ビックリした。てっきり自分だけにプレゼントかと勘違いしちゃったじゃない。


 それならと、私はいそいそと首にかけてみた。

 うっわぁ!!…… めちゃめちゃかわいい。


 サラの時計はピンクゴールド。

 ブレスレットになっていて小さな真珠。

 ターニャのは白金でチョーカー仕様。ピンクの石がついている。


 男性陣の時計は直径四センチ位で、蓋に透かし彫りはない。グレンはゴールド製にルビー、蓋には獅子の刻印。

 リュカはブラックシルバーにサファイア、蓋には鷲の刻印。

 そしてフレデリックは木製で黒の文字盤。蓋は木製の縁にガラス製となっていた。


 グレンとリュカは短い鎖に留め金が付いていて、ベルトや服にかけれるタイプ。

 フレデリックは皮の収納ケースに入れていた。


 みんなが「やっと出来上がったのか」とか「楽しみでしたの!」と賑わっている所をみると、私が眠っている間に注文した物なのだろうか?


「 凄いな、高かっただろ?」


 グレンが時計を見ながらそう言うと、フレデリックはしれっと首を捻る


「 さぁどうでしょうか。石集めに必要な物は経費として計上させていただきました。」


「 セナ様いかがですか?…… お気に召されましたでしょうか??」


 ターニャが心配そうに聞いてくる。


「 ええとても。こんなのもらって良いのかしら?」


 ターニャとサラは顔を合わせ、ニッコリと微笑んだ。流れから察するに、この時計のデザインを選んだのは、二人のようだ。


「 ありがとう。でもこれって、もしかしてオーダーメイドなんじゃない?」


 私がそう尋ねると、全員がニヤリと笑った……ように見えた。ブライダルジュエリーは見慣れている、ここまでそれぞれのイメージに合わせた商品は既製品とは思えない。


「 だって!名工と呼ばれる職人のいる時計の町に来たのですもの!」


「 記念に1つくらい土産があってもいいよな。」


「 帰ったらお姉様に自慢しよう!」


 私は改めて時計を眺め、首から下がる時計部分はワンピースの中にしまう。そして服の上からそっと押さえると、心から祈った。


 神様お願い …… 一生大切にするから、どうかこの時計だけは私と一緒に、元の世界へ ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 時間は刻々と過ぎ、村は静けさを保ったままである。たまに林から魔物が飛び出てくると、リュカが弓を使ってそれを射止めた。


「 そういえば、昨夜は部屋で宴会でもしていたのか?」


 昼食中に、グレンが女性陣に向かって質問した。

 サラもターニャも首を振る。そのタイミングでパトリックの事を話してしまえばよかったのに、私は「宴会」と聞いて首を振ってしまった。


「 おかしいな。夜中に騒ぐ声がしたから、どこかの部屋で集まってるのかと思ったんだが。」


 私はギクリとした。その時になってようやくグレンが言っているのは私とパトリックの会話のことだと理解した。

 すると、リュカが「アッ !!」と声を上げる。


「 セナ様!!あのようなお時間に間食はおやめください!」


 リュカは私がフロントに、マフィンをもらいに行ったことを皆に話してしまった。

 それを聞いたサラがアングリと口を開ける。


「 まぁ!セナ様!お夜食用のクッキーだけでは足りませんでしたの? でしたらご夕食をお持ちいたしましたのに ……。」


 ああ、クッキーを部屋に持ち込んでたことまでみんなにバレてしまった。これじゃ私が甘い物ばかり食べてるみたいだ。


 というか、今もミートソースとクリームチーズのサンドウィッチと、ローストチキンのベーグル、そして煮込み野菜のスープを完食したあげく、二個目のデザートに手を伸ばそうとしている。


 だって、キャラメルナッツのタルトと苺のゼリーは、どちらかなんて選べないでしょ!?


「 …… 食後に運動でもしたらどうだ?」


「 はー? 運動 ??」


 私が露骨に顔をしかめると、グレンは呆れ顔でリュカを指差した。


「 リュカに弓でも教わると良い。あの木でも狙ってみてはどうだ?」


「 いやよ!リュカから教わることなんて何もないもの!」


 私ってこの世界に来てから太ったのかしら? そういう焦りから、つい心ない言葉をいい放ってしまった。今の言い方は完全に私が悪い。

 リュカはプライドが傷ついたようで、プイと顔を背けてしまった。


「 あぁ!リュカ!違うの。ごめんね?」


「 いいんです!どうせ私なんて誘拐される愚かな騎士なのですから。」


 そういう意味で言ったんじゃないんだけど、今更なにを言っても言い訳だ。ひたすら彼のご機嫌を伺っていると、顔に冷たいものを感じた。空を見上げるとポツポツと雨が降りはじめている。


「 雨か、まずいな。」


「 ええ、多少の雨なら問題ありませんが、これ以上雨足が強くなれば、ここに我々がいることがばれてしまいます。」


 この姿を見えなくする魔法は、光の屈折を利用していて、天気に左右される不安定なものらしい。何としてもザゴバを捕らえないといけないこの状況で、みんなの願いも虚しく分厚い雲がみるみるうちに太陽を覆っていった。


 フレデリックは立ち上がった。


「 駄目ですね。仕方ありません、村の中へ移動しましょう。」

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