↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/174

54【お手紙】

「 何をしてるでしか!? は、はやく開けるでしよ!!」


 足場がどうなっているのか分からないけど、骸骨の兵は窓枠にしがみつきプルプルしている。


 どうしよう? 助けを呼ぶべきだろうか?

 あぁッ!? 落ちちゃう!!


 魔物は足を滑らせたのか、ガクンと窓枠から消えた。いや、かろうじて手が枠に引っかかっている。


「 は、早くするでしィ〜!!」


 私はとっさに窓を開けて手を伸ばした。骸骨の兵は、必死で私の腕をつかみヨジヨジと登ってくる。なんとか部屋に入ると床にへたり込んだ。


「 ふぅ〜、危なかったでし!死ぬかと思ったでしよ。」


 え? それ本気で言ってんの? 既に骸骨じゃん。


 そう突っ込みたいところだけど、そんなに親しい間柄じゃないから言えない。とりあえずグラスに冷たいお水を注いでテーブルに置くと、骸骨の兵はさも客人かのように対面に座った。


 微妙な沈黙が流れる。

 異世界の宿屋で、魔物とテーブルを囲むことなんで、つい最近まで想像もしなかった。いやそれを言うなら、今この世界にいること自体がそうなんだけどね。


 骸骨の兵の表情を窺うと、あちらもジッとこちらを見ている。なんせ骸骨だから何を考えているのか全く分からない。


「 私は何でここにいるんでし??」


「 へっ!?」


 それはどういう意味かしら? 魔物はキョトンとつぶらな瞳(?)で答えづらい質問をしてくる。


「 それは …… たぶん私があのお屋敷から逃げたから …… 捕まえに来たんじゃないかしら?」


 こう言うことって普通私が説明することかしら?

 恐る恐るそう答えると骸骨の兵は、急に騒ぎ出した。


「 ハッ!!そうでしたでしッ! なんで逃げたでしか!?」


「 シーッ!!大きな声出さないで!誰かに気づかれたらどうするの!?」


 食事が終わって誰かが二階へやってきたら大変だ。ん? あれ? この場合見つかった方が良いのかな?


「 はやく屋敷に戻らないと、ご主人様に私が叱られるのでしよ〜!」


「 あのね、せっかく逃げてきたのに、私がおとなしく戻ると思う?」


「 思うでし。」


「 何で?」


「 だって …… こんなに頼んでるでしよ……。」


 骸骨の兵はそう言うと、しょんぼりと肩を落とした。


 ま、まさかの泣き落としー!?

 クッ!やばいわね!これは非常に断りづらい。ここはむしろ彼が骸骨で良かったわ、表情が分かればその分余計にグッときちゃうから。


「 あの島は、この世界のどの辺にあるの?」


 このままではまずいと、私は話題を変えた。


「 島? 屋敷の島でしか?」


 海のど真ん中でし。と魔物答える。

 フッ、まぁ期待はしてなかったけどね。


「 あなたのご主人様はどんな人なの? ずいぶん魔法が使えるみたいね?」


 少しでも情報を得ようと努力はしたのよ?だけど天然なのか計算なのか、のらりくらりとかわされる。


「 じゃあね …… ストロベリーって言える?」


「シトロベリー?」


「 お寿司は?」


「 オシシ。」


「 アハハ!言えて無いじゃない!」


 お互い話は激しく脱線していたが、骸骨の兵は次第にソワソワしてきて、遂に「夕方までに私を連れて帰らないと、大変なことになる!」と騒ぎ出した。

 夕方というのは私が逃げ出した日のことを言っているのだろうか?


「 あのね?とっても言いづらいんだけど、もう夜だし、そもそもあれから二日も経ってるわよ?」


 骸骨の兵は、言っている意味が最初は分からなかったようだ。しばらくするとガタガタと慌てだす。


「 た、たいへんでし!!はやく!はやく行くでしよッ!!」


 私が絶対に行かないと言い張ると、骸骨の兵は地団駄を踏んで腕を引っ張る。仕舞いには床に寝っ転がって泣きべそをかき始めた。


 どうしよう、とんでもない駄々っ子だわ。


「 分かったわ!じゃあこうしましょう? 私からあなたのご主人様にお手紙を書くわ。私はお屋敷には行けないけど、あなたはいじめないで下さいって!…… どう??」


 こんな子ども騙しであの主人が納得するとは到底思えない。でもなんとかこの場を収めたくて私はその場しのぎにそう提案した。


「 ナ!ナイスアイデアでし〜!早く書くでしよ!」


 あっ、いいんだそれで。


「 急かさないでよ!いま書くから!」


 宿屋に置いてあるメモ用紙とペンを用意して文面を考える。骸骨の兵は椅子を私の近くに移動させ、手紙を一心に見つめた。


 なんか緊張するわね。


 仕事上お客様へのお手紙や、取引先へのメールは慣れている。簡単に書けるだろうと考えていたけど、出だしでつまずいた。


「 あなたのご主人様の名前は何?」


「 名前?ご主人様はご主人様でしよ?」


 仕方なく私は、冒頭に『島のお屋敷のご主人様へ』と書いた。


 とりあえず、山から落ちたところを助けてくれたお礼を書く。どんな相手であろうと、これだけはちゃんと伝えなければならなかった。

 更に、勝手に帰ってしまいすみません。と付け足す。そして、私はあと少しで元いた世界に戻るから、お屋敷に行くことはできない旨も添えた。

 そこでペンを止める。


「 あなた、名前は何ていうの?」


「 私でしか? 私はパトリック・ロイド・Ⅲ世でし。」


 三世!? 想像の斜め上をいく豪華な名前ね。

 えっ?ちょっと待って!いま小さな声で36歳って言わなかった? あっ!もう!動揺して文字が歪んじゃったじゃない!


 私は手紙に、パトリックは悪くないので罰を与えないで下さい。と綴り、ついでに彼に休暇を取らせてあげてと書き足した。

 すると急に隣で騒ぎ出し、そこの部分はアンダーラインを引いて、くれぐれもお願いします。と追加させられる。


 宿屋のフロントで紙袋をもらい、島で着ていた服をたたんで入れる。その中に手紙とついでに夜食用のクッキーを包んで入れた。


「 ヨシ!これでいいですか?」


 パトリックは紙袋を受け取ると、嬉しそうに(?)頷いた。彼が自分より歳上だと知り、微妙に敬語にシフトチェンジしたことは突っ込まないでいただきたい。


「 そういえば、玄関ホールの二階に、食べた食器を置きっぱなしにしてごめんなさい。」


「 アッ!!あれはあなたの仕業でしか!!」


 言葉の最後は小さな声となっていた。彼はお屋敷へと転移したのか、一瞬でその場からいなくなってしまった。私はそれを見届けるとベッドに倒れ込む。すぐに睡魔が襲ってきてウトウトとする。


 あの魔物は結局お水を飲まなかった。

 たまたま飲まなかったのか、骸骨だから飲めないのか?どっちなんだろうと思いながら、深い眠りに落ちていった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 …… どこか遠くでカンカンと音がする。

 なんだろう? 何の音??


 そうぼんやりと考えてると、ガタンと大きな音がして、ガチャガチャと騒がしさで無理やり起こされた。


 部屋の明かりを灯すと、カーテンの向こうでモゴモゴと何かが動いている。いやからまってる?


「 今度はカギがかかってなくてよかったでし。」


「 パトリックさん。もう真夜中よ?」


 私がカーテンを外してあげると、パトリックはやあやあと入ってきて、ちょこんと椅子に座る。手には先ほどの紙袋があった。


 もしかして、島への帰り方が分からなくなったのかと不安になったが、そうではなかった。


「 ご主人様からでし。」


 紙袋を受け取り中を見ると、そこには先ほど入れたワンピースと、私が山から落ちた時に着ていた勇者の服、それに手紙とバラの花が一本入っていた。


 手紙を取り出して封筒の裏を返すと、赤い蝋で封蝋してある。こんなの映画でしか観たことがないので、ちょっと嬉しい。私は蝋を割らないよう慎重に開封し、中の手紙を抜いた。


 手紙には、わざわざお手紙をありがとう、屋敷に来てもらえず残念。服は差し上げよう。パトリックの件は承知したなどの事が書かれ、更に、クッキーのお礼が丁寧に綴られていた。

 最後に、追伸、冷蔵庫にある飲み物のレシピを教えてほしい、とあり、思わずクスリと笑ってしまった。


「 良かったですね!パトリックさん、休暇をもらえるみたいですよ?」


 そう告げると、彼はとても喜んだ。ついでにお屋敷に戻ったとき叱られなかったのか確認すると、彼のご主人様は私からの手紙にとても喜び、褒めてもらえたと得意げだった。


 どうしよう? お洋服をいただいてしまって良いのだろうか? それにバラの花はどこか懐かしい、素敵な香りがした。


 私はもう一度宿屋のフロントへ行くと、真夜中でもスタッフさんは起きていて、キャラメルソースのマフィンはないかと尋ねた。一つだけ残っていたのでそれを包んでもらう間、リュカが通りがかった。


「 セナ様、このようなお時間に何をされてるのです?」


 何ってそれは ……。返答に困っていたら、バットタイミングでスタッフさんがマフィンを持ってきてくれる。それを見たリュカに「真夜中によく食べますねー」と呆れられてしまった。


 部屋へ戻ろうと階段へ向かうと、途中の踊り場で、パトリックが壁の絵を眺めている。慌てて部屋へと戻し、自分の立場が解ってるのかと軽く説教した。


 私はメモ用紙とペンを取り、ワンピースのお礼とチャイのレシピを書き綴る。


 マフィンを手紙と一緒に紙袋に入れてると、パトリックがそれを見つめている。マフィンが食べたかったのかと尋ねると「私は甘い物は苦手でし」となかなかダンディな事を言っていた。


「 ハイ!これをお願いします。今夜はもう遅いから来ないで下さいね!」


 くれぐれもそう念を押し、パトリックを見送る。

 テーブルにあるバラは、風通しの良く陽の当たらない場所に逆さに吊った。こうすればドライフラワーとなり長く楽しめるだろう。


 ベッドに入りしばらくは寝つけなかった。しかし今度は邪魔されることなく、朝を迎えることができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。