53【ホームシック?】
「 わぁあッ!?」
私はベッドから跳ね起きた!!全身から汗がふき出る。心臓がドクドクと脈打つのを感じた。
「 …… いきなりそんなに大きい声を出されると、さすがに私も驚きます。」
後ろから静かな声がして、私はもう一度「 わぁ!」と跳ねた。
振り向くとそこにはフレデリックが椅子に座っている。
「 お、お祖父ちゃんには言わないでッ!!」
お? おぉ、フレデリックがキョトンとしている。
「 …… アハハッ!!あなたは本当に面白い方ですね!!」
おぉ…… 今度は大爆笑。コレもなかなかレアなんじゃない? っていうか、お祖父ちゃんに言わないでって、私なに言ってんの??
「 ずいぶんとうなされていましたが、怖い夢でも見ましたか?」
そう言いながら、冷たいお水をグラスに注いでくれる。私はそれを受け取り、一気に飲み干した。
そう。とても怖い夢を見たの。
んー?? あれ? そういえば何の夢を見たんだっけ?
「 さて、お目覚めになったことですし、お腹空いていませんか? 何か運んできましょう。」
「 待って!その前にお風呂に入りたい。ご飯はその後にする。」
私が倒れた後、何かしら処置をしてくれたのか、体からお酒の臭いは感じられなかった。だけど汗もかいたみたいだしスッキリしたい。クローゼットを覗くと、ちゃんと着替えが用意してある。
サラとターニャに後でお礼を言わないと。
大浴場に向かい、浴槽に身を沈めるとホッとする。
はぁ〜 気持ちいい。
お風呂って物を造った人は天才だわ!と本気で称賛する。
そんなに長く浸かってないのに、軽くめまいがする。体がまだ本調子じゃないのだろうか? 私はのろのろと洗い場に向かうと、のんびりと身体や髪を洗った。
大浴場は絶えず大量のお湯が出てるから、溢れたお湯が川のように大理石に流れてる。いつかターニャがそこに寝そべっていたのを思い出した。
そうだ!誰もいないし私もやってみよう。
石の上にゴロリと寝そべると、水の流れる音が耳元に響いて心地いい。天井を見上げると、うっすらと模様が描かれていた。タオルをお湯に浸し体の上に掛けて時計を見ると、時刻はもうすぐ午後2時だった。
しばらくの間、目を閉じてこの国に来てからの事を反芻する。それから薄く目を開け、片方の腕を上に伸ばして手を開いた。
拳に男達を殴ったときの傷があったはずなのに、きれいに治っている。…… あの村で起こったことは、きっともうみんなが知っているのだろう。
私は上げた腕を下ろした。
実戦で技を使ったのは初めてだ。
お稽古をしている時は、こんな技を覚えて一体何の役に立つのかと思っていた。だけど今回はそれに救われた。
うちの古武道は、空手や合気道とはケタ違いに殺傷能力が高い。闘って勝つというより、瞬殺できるレベルだ。
「 決して人に向けてはならない 」
お祖父ちゃんは、いつも私にそう言ってたのに教えを破ってしまった。
「 ごめんなさい ……。」
私は誰にともなくそう呟いた。それでも、また同じような境遇に立たされれば、私は同じことをするだろう。少しだけ平和な元の世界が恋しい。
お湯が適度な温度でサラサラと流れていき、ついウトウトとまぶたが閉じようとする。
いけないこんな所で眠ったら、風邪をひいてしまう。そうは思うけど、気持ち良さに抗えない。
カラカラカラ ……。
どこか遠くで扉の開く音がする。
「 大変よサラッ!!セナ様が倒れてますわ!!」
その声を聞いて、私は急いで身体を起こした。
そういえば、フレデリックが二人に声をかけておくって言ってたっけ?
ターニャは「 あれぇ?」と近寄ってくる。
「 大丈夫 ! 気持ちいいから寝転んでただけよ!」
慌てて体を起こしたせいで、頭がクラクラする。
サラも心配そうにこちらを伺う。私は元気元気とはしゃいでお風呂から上がった。
食堂へと向かうと、すぐに食事を用意してくれた。その華やかさに思わず笑顔がこぼれる。
平たい大皿に、一口大の料理が碁盤の目のように綺麗に並べられていた。
すごーい!!まるでプチフールのみたいに色鮮やかでかわいい。単に食べやすいように小さくカットされてるだけじゃない、一つ一つのお料理の細部に至るまで、とんでもないこだわりがみられる。
使われてるお野菜はベビーコーン、ミニきゅうり、小かぶ、ミニアスパラ、マイクロトマト、小茄子、芽キャベツと小さく改良されたものの他に、小さめのさやいんげん、しめじ、椎茸、ブロッコリーの小さい株などをそれぞれに調理している。
お肉料理も500円玉サイズのミニステーキには、ちゃんとグリルした網目が入っていたり、ハンバーグも小さい楕円形。
テリーヌや海老フライまでミニサイズだ!
エスプレッソ用の小さなカップには、カボチャのポタージュが入っている。
パンは厚目の食パンを三センチ角に切り落とし、その両面をバターでカリッと焼いあるものと、玉子がサンドしてあるもの、ハムがサンドしてあるものがある。
ウズラの卵は殻ごと立たせてあり、上の三分の一位が割れている。中には半熟の卵に香ばしいソースがかけられていた。
料理の手前の方は前菜やメイン料理だけど、最奥列の五つの料理はデザートだ。
小さなガラスの容器には赤ワインのゼリー、三センチくらいのミニタルトに乗っているのはマロンペーストと生クリーム。ふんわりと粉砂糖がふりかけてある。
やはり三センチ角のショートケーキには、苺ではなくクランベリーやラズベリーをあしらってあり、その隣には丸いマシュマロがチョコレートでコーティングしてあった。
そして最後に、シュー生地でミニスワンが作られていて、中にはカスタードが入っていた。
ここまでくると芸術品ね!
食べるのがもったいないくらいよ!
宿のご主人の話では、このメニューはサラとターニャの二人が、私が目覚めたときのために考案したらしい。確かに女の子らしい料理よね。
っていうか、これはうちの結婚式場のランチでも出したい!手間がかかるから料金は高めになるかもしれないけど、絶対に人気のメニューになるだろう。
…… 高杉や他のスタッフ達は元気でやってるだろうか? そんなことを考えたせいで、私はまた切ない気持ちになる。
「 あっ!ありがとう。」
先ほど宿へと戻ってきたリュカが、グラスにアイスティーをニコニコと注いでくれた。
彼は城を出た時とは態度がずいぶん異なり、今はとっても従順でかわいらしい「セナ様!セナ様!」とアレコレお世話をしてくれると、却って調子が狂う。
時刻が午後3時と言うこともあり、食事をしてるのは私だけで、みんなはそれぞれに時間を潰している。一人での食事が淋しいだろうとの心遣いなんだと思う。
その後、談話室へと移動するとサラが温かい紅茶を入れてくれた。テーブルの中央にクッキーやマフィンが用意されている。私はもうお腹いっぱいだったから、クッキーだけにしておいた。
フレデリックがぼそりと「まだ食べるんですか」と呟いたけど、聞こえなーい。
なんと!私は二日間も眠っていたようで、その間に、グレンとリュカは、囚われていた女の子を家に帰したり、近隣の町の騎士たちと打ち合わせ、明日の取引の対応をしていたようだ。
話はやはり、私が山から落ちてからの事になり、私は魔物だらけの島の事、鏡を使ってこの町に戻り、それから石の気配を辿ってグレン達を追った事をみんなに話した。
「 信じられない!なんて無茶なことを!!」
グレンは呆れて絶句し、リュカはおとなしく紅茶を啜っている。フレデリックは椅子に軽くよりかかり腕を組んだ。
「 なるほど、これで納得しました。城に侵入したほどの者なら、高速で崖から落ちるセナをとらえることも、そこから転移することもできるでしょう。しかしその島の場所を知りたいですね。」
島からの景色に、何か目印になるような建物などはなかったか聞かれたけど、私が見た限りでは、水平線の先に陸はなかったし、建物の中にも島の位置を示すような物はなかった。
「 昏睡になる前に、私に渡した四つの石はその島で入手したものですか?」
「 ええっと二つは島で、あとの二つはこの前の村よ、男達のいたテーブルの下と馬小屋にあったの。」
「 それなら言って下されば、僕が拾ったのに!!」
リュカはそう言ってむくれる。確かにそうなのだが、石が目の前にあると、どうにも自分を抑えることができない。
「 そうか、これでセナが私達より先に村に辿り着いた訳が分かった。石があったからなのだな。それにセナが傷だらけだった理由も。我々のように迂回せず、一直線で村を目指せば怪我もするさ。…… しかしなんとも間抜けな話だ、奴らは酒を飲み過ぎケンカになり自滅とは ……。」
ええっ? 自滅?? 慌ててリュカを見ると、彼は長いまつ毛でパチリとウィンクした。
そういうことになってるの??
私が男達を倒したことは内緒にしてくれたのね?
私は内心ホッとした。
「 それで、皆無事に揃うこともできたことだ、改めて石探しの旅に戻りたいのだが、王命で明日の取引には、私たちも立ち会わなくてはならなくなった。危険かもしれないので、女性はこの町にいてほしい気持ちはあるが、私達と一緒のほうが良いような気もする。どうする?」
確かに町に残り、また誘拐されてはたまらない。
でもサラ達はもうあの村へは行きたくないだろう。と考える私の予想に反して、二人は「絶対について行く! 」と言い張った。
話し合いが終わり、夕食の時間になったけど、私はまだお腹も空いてないので、明日のためにもう少し睡眠を取ることにする。
談話室から出るとき、こっそりリュカにお礼を言うと、彼は満面の笑みで「貸し一つですよ!」と嬉しそうだった。
時間的には早いけど、正直なところまだ体が本調子では無い。みんなに「おやすみ」を言って、冷たいお水をもらうと部屋へと戻る。
ベッドのサイドテーブルにある、二十センチ四方のトレイにグラスを置く。このトレイは今の飲み物の冷たさを維持してくれる優れものだ。
私はベッドに横になり、灯りを消そうか迷っていると、窓の外からコンコンと音がした。
えっ!? ここって二階だよね?
そんなはず無いと思いながらもカーテンを開くと、そこには …… なんと骸骨の兵がぶら下がっていた。




