48【誘拐】
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うぅ…… 酔ったかも 。。。
私は石造りの地面に座り込んで、頭のクラクラが治まるのを待った。
……… ここは??
見上げると、見たことのある時計塔がある。間違いない、ちゃんと時計の町に戻れたようだ。
骸骨の兵の前で思いきり転移先を叫んでしまったから、追ってこないとも限らない。
私はヨロヨロと立ち上がり、みんなの元へと向かった。
宿屋の主人は私を見ると、とても驚き駆け寄って来る。
「 今まで一体どこに!? 皆さま …… それはもう …… 見ていてこちらがつらくなくほど、連日探し回っておられましたよ。」
そうなんだ。迷惑をかけてばかりでますます落ち込む。「 逃げてきたの」と小声で言い訳し、談話室へと行こうとすると、宿屋の主人は慌ててついて来た。
「 騎士様達はここにはもうおられません!あれから更に不明者が出て、皆さま助けに行かれました。」
「 不明って …… 私以外に誰かいなくなったの!?」
話をご主人に詳しく尋ねると、グレンとフレデリックは毎日あの山まで行き、私を見つけ出す手がかりを探していた。
昨日も二人は山へと行っていたが、宿屋に戻るとリュカやサラ、ターニャの姿はなく、部屋の荷物はそのままだった。
夜になっても三人は戻らず、不審に思い始めたころ、町の人から怪しげな情報を入手した。なんでも最近町を訪れていたゴロツキグループが、今日になって急にいなくなったという。更にそのグループの慌てようから、グレンとフレデリックはこれは誘拐かもしれないと疑った。
「 二人がこの宿を出たのはいつ頃なの!?」
「 騎士様たちですか? そうですねぇ、夜が明けずして出て行かれましたから、4時ごろではないでしょうか?」
4時 …… もう10時間も経っている。
でもどうして? なぜサラ達が拐われたりするのだろうか?
宿屋の主人はとても言いにくそうに、若い女性は高く売れ需要があると視線を逸らした。私は身体中がざわざわと総毛立った。
…… そんなの許さない。
「 あの、申し訳ありませんが、馬を借してもらえませんか?」
「 い、いけませんッ!!お客様は騎士様が戻られるまでこの宿で身を隠して下さい!!」
なかなか勘のいい主人ね。でも、じっとなんてしてられない。
「 馬を借して欲しいと、私は言っているの。」
これは相談ではない、ここで借してくれないなら他で借りるわ。
主人は一瞬息をのんだ。
「 え、ええ、承知しました。すぐにご用意致します。」
思っていたよりもすぐに馬は用意され、私は迷わずその背中に跨った。
きれいな馬。乗馬なんてたった一度だけ、それもつい先日グレンと一緒に乗ったことがあるだけだ。グレンは筋がいいと褒めてくれたけど大丈夫だろうか? でも、今はこれしか方法がない。
「 これはこの近隣の地図になります!どうぞお持ち下さい!!」
「 いえ、地図は要りません。…… 多分なんとかなりますから。」
「 では、せめて武器だけでも!!」
宿屋のご主人はとても親身になって心配してくれる。私は彼の差し出す短剣を見つめ首を振った。
「 いろいろありがとうございます。でも私はその剣を振るうことはできません。…… 馬は必ずお返ししますッ!!」
それだけ言うと、私は馬を走らせた。
町を出ると、道を通らず草原を突っ切る。
方角はこっちで良いはず!!
私の集めるべき石がかたまって移動している。そこを目指せば、必ずグレンと合流できるわ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
不謹慎だけど、騎手って凄いわね。
馬というものは全力疾走で何時間も走り続けるものではない。二時間も走り続けると少しずつ馬の速度が遅くなってきた。
そうね、機械じゃないんだから、休ませてあげないといけない。…… 頭ではそう思っても、こうしてる間にもターニャ達が怖い思いをしてたらどうしよう、と気持ちが焦る。
「 ひゃぁぁッ!?」
石の気配に一直線に進んできたからか、目の前の崖に気付かなかった。急勾配とまではいかないけど、馬の背にいるとかなり怖い。
なんとか振り落とされず下まで降りると、今度は前方が川になっている。それほど深くはなさそうだけど、川幅がかなりある。馬はしばらく迷う素振りを見せたが、完全に止まってしまった。
私は馬にしがみついたまま叫んだ。
「 ねぇお願い!この先に友 …… いえ大切な人がいるのッ!! その子らは私が心細い時に助けてくれた子らよ? お願い!…… あなたも疲れてると思うけど力を貸してッ!!」
動物相手に気持ちが通じたなんて思わない。けど
馬はゆっくりと前に進んでくれた。浅いと思ったのは間違いで、川を進むと馬の足はほとんど水に浸かってしまった。私は馬から降りて、手綱を引っ張りながら歩く。
何とか向こう岸に着いたときには、かなりの体力を奪われた。水の抵抗がこんなに辛いとは知らなかった。川原に膝をつき、深く呼吸していると馬が頭を下げて、脇腹をつつく。
「 な …… に? 乗れってこと??」
馬は頭を上げてブルルとうなる。
「ありがとう」そう呟いて再び背中に乗る。
馬がこんなに感情豊かとは思わなかった。犬や猫より、もっと人に近い感じがする。「動物」と言うより「戦友」だ。
崖を降り川を突っ切ったおかげで、ずいぶんグレン達に近づいた。10時間のタイムラグがあっても、あっちは探したり聞き込みなどでそれほど進んではいない。
もうそれほど遠くない!!
草原を走り、林を抜けると急に建物が見えた。
馬の速度を落とし近づいて行く。
ここは村なのだろうか? 魔物の侵入を防ぐためか、建物の周囲は高い塀で囲まれている。
石の気配はこの付近だ。グレン達はこの中にいるのだろうか? 私は塀の周囲を辿りながら村への入り口を探した。
なかなか大きい村ね。
そう思っていると、林の方から「おい!おいっ!」と声がする。見ると、木の間から男性が手招きをしていた。
「 お前、こんな所で何をしてるんだ?ここがどういう場所か分かってるのか??」
男は声をひそめながら、私と馬を林に隠れさせる。私はふるふると首を振り「馬と散歩していたら川に落ち、道に迷った」と説明した。
「 …… 馬鹿だなぁ。よりによってこんな所に来ちまうなんて。そういえばずぶ濡れじゃねぇか。」
男は私をジロジロと見ると、ヨシッ!と頷いた。
「 どこのお嬢さんかしらねぇけど、そのままじゃ風邪を引いちまう。馬もケガしてるし手当てしてやろう!」
えっ!? 男の言葉に驚いて馬の足を見ると、蹄から血が出ている。
全然気がつかなかった。ごめん …… 私が無理をさせたせいだ。
「 お願いします!治してくださいッ!!」
男は頷き「ついて来い」と言うと、林から出て塀を進んだ。角を曲がると、村への入り口がある。そこには甲冑を着た、二人の大きな男がいた。
「 ちょっと待ってろよ!」
男はそう言うと、門の男性と何かを話し、すぐに戻って来る。甲冑の男性も一緒だ。
近くで見ると本当に大きい。
その男は、いかめしい顔でジロジロと私を見ると、続いて馬の足を見た。
「 確かにケガをしているな。いいだろう、条件をのんでやる。」
そう言って入り口の方へとアゴを向けた。
林の男は「ありがてぇ!」と私の腕を引っ張った。条件というのは、馬を治してくれることと、乾いた服でも与えてもらえるのだろうか?
甲冑の男は一人は入り口に残り、もう一人は私たちについて来た。村の中の家々は十軒くらいありそうだけど、何というか生活感が薄い。
「 モタモタするな!」
キョロキョロと辺りを見ていると、甲冑の男に背中を小突かれた。馬小屋へ行くと、甲冑の男は馬の世話をしている者に「手当てしておけ」と命令する。
良かった。回復薬とかで一気に治してもらえると嬉しいんだけどな。まぁ贅沢は言えないか。
「 お前はこっちだ。」
馬からなかなか離れない私の腕を、今度は甲冑の男が強引に引っ張る。仕方なく私はおとなしくついて行った。
村の中で一番大きな家に入ると、数人の男性がいて、林の男はそこで待たされることとなった。
私は甲冑の男と地下へと下りる。
肌寒くなってきて「くちゅん」とクシャミをすると、男はニヤニヤしながら「風邪引く前に着替えないとなぁ」と言って、私の肩を抱いた。
ちょっと、ベタベタ触らないでくれる?
地下室へ下りても何人かの男性がいた。部屋でくつろいでいるというよりは、何かを見張っているような感じだ。部屋の突き当たりの本棚を押すと、その奥に廊下が続いていた。
隠し扉があるなんて、変わった家ね。
背中を押され廊下を進むと騒がしい声が聞こえて来る。辿り着いた部屋では、数人の男達が酒を飲みながら、テーブルを囲んでカードゲームをしていた。
「 …… なんだぁ? そのお嬢ちゃんは??」
中央の男が肘をつきながらこちらを見る。かなり酔っているのか鼻が赤い。甲冑の男は私の両肩をがっしりと掴んだ。
「 なんでも服が濡れたから、着替えたいそうだ。」
それを聞いて男たちはゲラゲラと下品に笑う。
その後ろの壁は鉄格子があり、中に不安そうな女の子達の姿が見えた。
あー そうね、なるほどね …… どうやら私はだまされたようだ。




