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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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47【魔物だらけのお屋敷】

「 もう食べないんでしか?」


「 ええ、大丈夫。」


「 本当にそれだけでいいんでし?」


「 うん、大丈夫。」


 私がニコニコと笑顔で答えると、骸骨の兵はガチャガチャと鎧の音を立てて、部屋から出て行った。毎回大量の料理(?)を運んでくるけど、私はそれを少しだけ取り分けると、残りは持って帰ってもらう。


 ねぇ、あなたは食べ物を食べたりするの? そう骸骨の兵に尋ねたい。だけど親切に面倒を見てくれてるのに、彼を怒らせたり悲しませたりしたくないから何とか我慢する。だいたい心臓がないのに、あの魔物はどうやって動いてるのだろう?


 窓から外の景色を眺めると、どこまでも真っ青な海が広がっている。私が連れてこられたこの屋敷は、周囲が海に囲まれた小さな島だった。


 ここに来てから三日経ってる。食事やお風呂など身の回りのお世話をしてくれるのは魔物ばかりで、人の姿は全く見えない。


 そしてテーブルの上にある、今しがた骸骨の兵が置いていった食べ物 …… らしき物体。

 ………。

 何を調理すればこうなるのか??


 仕方がないので今日もそのお皿を持って、こっそりと部屋から抜け出す。廊下を進み、階段を下りるとキッチンへと向かった。途中魔物たちとすれ違っても、攻撃もされなければ、話しかけられることもなかった。


 厨房に入り、部屋の中を見渡してげんなりする。


 あぁ!もうまた!どうして毎回こんなに汚すのよ!?


 厨房は散らかったままで、調理した食材がバタバタになっていた。私は袖をまくりそれを片っ端からキレイに片付け、ダメになった食材はゴミ袋に入れる。その中に部屋から持ってきたお皿の中身もそっと入れた。


 厨房に残ってる食材を見ても、人間が食べる物なのかよく分からなかったけど、せっかく調理してくれたのを捨ててしまうのに申し訳ない気持ちはある。心の中で「ごめんなさい」と謝った。


 それから自分用の食事を作る。


 肉類はなんだか怖くて使えない。カボチャのニョッキを作りそれにチーズをからめる。そらから具沢山の野菜スープとフルーツ盛り合わせを作った。

 このお屋敷の食器は、ガラスと銀食器をコラボした、凝った作りの物が多くとても可愛い。今日はどの食器にしようか?


 選んだ大きめのグラスに氷を入れ、昨晩寝る前に作っておいた飲み物を冷蔵庫から取り出した。


 うん、よく冷えてるわね!


 キッチンには茶葉やスパイスが揃っている。それを使ってチャイを作ってみた。グラスに注ぎ、他の料理と一緒にトレイに乗せると私はキッチンから出た。


 部屋へは戻らない。玄関ホールの階段を二階へ上ると、上りきった廊下が広めのフロアとなっている。その一画にテーブルとソファが置かれていた。


 私はテーブルにトレイを置くと窓を開けた。ここから見える景色も海一色だ。穏やかな潮風が部屋の中へと入ってくる。波の音や海鳥の鳴き声は生まれ育った故郷を思い出させた。軽く深呼吸して本棚から本を一冊取り出すと、ソファに腰を下ろした。


 この世界に来て、言葉も通じるし文字も読める。

 宿屋にあった本を読んでいたときも、フレデリックに驚かれた。

 あれはおそらく、日本人が英語とかフランス語の本を読んでるみたいな感じなんだろうか? だとしたら、結構お得よね。


 かぼちゃのニョッキは、チーズがよくからみ美味しい。きのこも入れたかったけど、毒キノコだったらと思うと使えなかった。代わりに入れた胡桃は正解ね! しばらく食べると、味を変えたくて胡椒を削って入れた。


 再び本に目を落とす。


 昨日読んだのは魔法に関する本だったけど、魔法の基本が分からないから読んでも面白くなかった。この本は物語のようなので、そのまま読み進めた。


 しばらく食事をしながら本を読んでいると、小さい魔物が足下へとやってきて、ソファに飛び乗って来た。ちょっと身構えたけど、お皿に並ぶフルーツを眺めているからあげてみる。魔物はそれを美味しそうに食べて、そのうち私の隣で眠り始めた。撫でてみたいけどやめておく。


 物語は塔に幽閉されたお姫様のお話で、そこに訪れる人たちのことが書かれていた。淡々としていて、さほど盛り上がる場面もないので私は外の景色を眺めた。


 よく冷えたチャイは、スパイスを贅沢に使ったから、濃いミルクの臭みが消えていてとても美味しい。茶葉の渋みもちょうど良いので、甘くすればターニャが喜びそうだ。


 みんな、どうしてるだろう?


 あの日、山から落ちた日の夜、私はこのお屋敷で目を覚ました。


 落ちていくときフワッとした感覚と、誰かに体を支えられたような記憶はあるけど、はっきりとは覚えていない。

 このお屋敷の主人は、私をここへ運んでくると、どこかに行ってしまったようだ。まぁ、建物中魔物だらけなんだから、主人も人間じゃないのかもしれないけどね。


 この三日間、グレンやフレデリック達は私を探しているだろうか? 落ちた先に私の身体がなければ、きっと探してるだろう。


 本当に情けない、迷惑をかけてばかりだ。


 なんとかみんなの所へと戻りたくて、屋敷の中をウロウロしたり、島からの脱出ルートを探したけれど、陸へと続く道もなければ、船も見当たらない。きっとこの島から出るには「転移」しかないのだろう。


 骸骨の魔物にも、目が覚めたときには驚いたけど、話してみるとそれほど悪い人(??)ではない。忘れっぽいし、このお屋敷のご主人のことを聞いても今ひとつ要領を得ない点を除けば良い人(??)だ。


 それでも私が部屋からいなくなると「 もぉ〜!ご主人に叱られるでし!」と毎回怒るから、脱出ルートに関しては尋ねることができなかった。


 食事が終わり、読んでいる本のお姫様が、勇敢な騎士に助けられたあたりでウトウトと眠くなる。

 いけない、お昼寝は片付けをしてからじゃないと ……。そう思いながらも柔らかいクッションに逆らえないでいると、一階の奥から騒がしい声が近づいてきてハッと意識が戻された。

 玄関ホールへの扉がバタンッと勢いよく開かれる。


「 一体いつからいなかった!? それすらも分からないのですか!?」


「 いえ、さっきまではいたのでし ……。」


「 だが今はいないではないか!!」


「 おかしいでしねぇ?」


「 だいたいあの子が目を覚ましたら、知らせなさいとあれほど言ってあったでしょう!?」


「 知らせてないでしか??」


「 私は聞いてませんッ!!」


 私は二階の手すりから、そっと玄関ホールを見下ろした。なんと声を荒げてるのはラグドール城に侵入した男だった。


 会話から察するに探しているのは私の事だろう。

「でしでし」言ってるのは骸骨の兵だ。


 どうしよう、助けてくれたんだし話せば分かる人かと思ってたけど ……。


「 それで? いつ目を覚ましたって??」


「 今朝でし。」


「 …… 本当か?」


「 もちろんでし!」


 ウソです。


「 まぁいい。この島から出るには緋色の鏡からしか出れない!必ずどこかにいるはずです! 屋敷の隅々から崖の方まできっちりと捜しなさい!!」


 骸骨の兵は「自分で探さないので?」とぶつくさ言っている。お願いだからこれ以上相手を怒らせないで欲しい。


「 いいか? 私が戻る夕刻までにあの子を見つけておかなかったら、お前の休暇を取り消しますよ!分かりましたね!!」


 男はそう言い切ると階段を上がって来た。


 やばいッ!!

 こっちに来る!!どこかへ隠れないと!!


「 まったく!食べた物はちゃんと片付けなさいといつもいってるでしょう!」


「 ハイでし!」


 私の食べた食器の事で魔物が叱られている。…… ごめんなさい。


 男と骸骨の魔物が廊下を進み、扉の向こうへと遠ざかると、私はソファーの裏から顔を出した。


 危なかったー。ソファーが大きくて見つからずに済んだ。とにかくここにいてはまずい、あの男が言っていた「緋色の鏡」には心当たりがある。


 私は足音を立てないように一階へと下りて、脇の扉を開き一直線に廊下を走った。

 途中魔物がいたので、少し速度を落としたが、何事もなくすれ違うことができた。


 突き当たりの部屋の扉をそっと開き中を覗いた。


 いいわ、誰もいない。


 部屋の中に入り、隅にあるカーテンをめくるとそこには大きな鏡があった。

 朱色をしている。


 きっとコレだ。お屋敷をウロウロしてるときに見つけたのだ。…… それで、これをどうしたら良いの??


 鏡の表面を触ってもペタペタなるだけで、何も起こらない。どこかにスイッチがあるとか?鏡自体ドアになってるとか??


 しばらくの間、鏡の前でたたずんでいたけど私は意を決した。


 そうね、やはりアレをやるしかないのかない。


 軽く咳払いで喉の調子を整える。


「 鏡よ鏡 …… 」


「 何してるでし?」


 唐突に声をかけられ、私は飛び上がった!!

 振り向くと骸骨の兵が立っている。


 しばらくの沈黙の後、私は言った。


「 この鏡 …… どうやって使うでし??」


 ダメかしら?


「 そんなことも知らないのでしかー? しょうがないでしねぇ。行きたい場所の名前を言って飛び込めばいいのでしよ。」


「 そうなの、ありがとう!」


 いえいえ、どういたしまして ……。と去ろうとする魔物はハッとして振り返った。


 ごめん!!申し訳ないけど、そのとき既に私は「 時計の町へッ!!」と叫び、鏡へと飛び込んでいた。

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