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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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45【騎士団アーシャの計画①】

 今日こそは ……。

 今日こそは、カノン様に申し上げなくては ……。


 ラグドール王国に勇者が召喚されて、今日で五日目となる。


 一人目の勇者は、数日前に城を出て行き、既にいくつかの石を見つけたとの報告がなされていた。


 そして昨日、二人目の勇者も城を出て行った。


 残るは三人目の勇者、私が遣えることとなったカノン様のみである。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あの日、私はまさか召喚式が成功するとは思っていなかった。確かに今のラグドール王国の魔導師団は素晴らしい。だがいくら優秀といえど、異世界から人を呼び寄せるなど、到底ありえない話だと思った。


 魔導師団が提示していた500年前の資料も、本物かどうか疑わしいばかりか、召喚式に対し真剣に取り組む魔導師団は、申し訳ないが少しばかり滑稽にも見えた。


 そう、魔導師長フレデリック……。


 彼は、国王様へ500年前の資料を基に、自ら再構築した召喚式行うと上申し、そしてそれを見事にやり遂げた。

 彼が私の祖国であるシャム王国の魔導師であったなら、どんなに誇らしかったであろう。残念ながら、彼の出身国はソマリであり、我が国と友好的とは言い難い。


 そもそもシャム王国と友好的な国などない。


 絶海の孤島に位置する我が国は、温暖な気候と豊富な資源もあることから、それほど国交も積極的ではない。その上、現国王はプライドが高く、ラグドールの王様のように、他の王と酒を交わしたりなど決してしない。


 それでも、ラグドールの王はシャム王国の人間が望めば、騎士団や魔導師として受け入れてくれる。その寛容さ、ラグドール王の懐の深さは誰もが認めざるをえないものであった。


 もちろん望んだ人間の全てが騎士団や魔導師になれるわけではない。魔導師のほうはよく知らないが、この国の騎士団になるまでには、それこそ血の滲むような鍛錬を要した。


 努力の甲斐があって、今では私も騎士団の中でも「長」と呼ばれるようにまでなり、十二騎士団のうちの一個隊を任されるようになった。


 召喚式の後、それぞれの勇者に一人ずつ騎士団長があてられる事となったが、私はどうしてもそれに選ばれたかった。


「勇者と共に世界を救う」その素晴らしい功績に、シャム王国の騎士団がいたと、後世に名を残す事ができたなら、それほど名誉なことはないだろう。


 あろうことか国王様は、安易に勇者に騎士団を選ばせた。私としては剣の腕前や一個隊のレベルの高さなどで、その権利を勝ち取らせてほしいと焦ったが、たまたま運良く私は選ばれた。


 本音を言うと、共に世界を救うなら男性であるソウタ様がよかった。丸メガネの女性は、生半可な気持ちでこの国に残るようなので論外。そしてもう一人の少女はか弱く、とてもじゃないが過酷な旅など出来ないだろうと思われた。


 しかし、現実はソウタ様はララノアを選び、私はカノン様に選ばれた。


 気の毒だったのはグレンだ。


 彼はこの国一の剣豪である。それは私も認めよう。

 どうすれば、あのようなしなやかで豪快な剣さばきができるのか? 何度か剣を交えたことがあるが、やはりレベルの差を感じざるを得ない。私もシャム王国では剣士と呼ばれていたが、上には上がいるものだ。加えてあの男は人柄も良く頭も切れる。気位の高いことで有名な、あのローゼンタール家のリュカが、大人しく言う事を聞くのはグレンくらいだ。


 そんな男が、丸メガネの女性に「誰でもいい」と言われた事は、これ以上にない屈辱であろう。

 私はあの時、恐ろしくて隣を見ることができなかった。


 それなのにあの二人は最初に旅に出た。

 噂によると二人で王に直訴したらしい。当初の会議では、勇者達はこの世界の生活習慣に慣れていただくために、十日程度の時間を予定していた。であるのにたった数日でそのような展開に運べるのは、やはりグレンの手腕が素晴らしいのだろう。

 事実、彼はフレデリックを旅の仲間にしている。

 魔導師としては一流だが、人付き合いが難しいと評判の彼を、いかようにしてスカウトしたのだろう? 私には想像もつかない。


 いま彼らは確実に石を集め、様々な情報を城へと知らせてくれる。


 勇者は石に命を削られる。

 宝石に戻すのは日に一つまで。

 石で消費した体力は回復魔法では戻せない。など、これらの内容は、勇者が自ら実験台となり立証していることらしい。


 あの丸メガネの女性に、それほどの自己犠牲の精神があろうとは。書簡によると、一度は命を落としかけたが、臆することなく次の石を探し求めたようだ。そうなると召喚式での私の見立ては間違っていたのだな、やはり勇者として召喚される者は只者ではないのかもしれない。


 ……… 正直羨ましい。


 私は一体いつになったら旅に出ることが出来るのだ!?


 私の隊の騎士団や魔導師たちは、いつでも出れる準備をしている。しかしカノン様は、今日も侍女達と城下町へ遊びに行くだけで、旅の話など会話の端にも出てこない。


 つい先ほど城へとお戻りになられたのだが、私はこの後、カノン様に夕食をご一緒するよう言われている。今夜こそ、毅然とした態度で少女を説得し、石探しの旅に出るようお勧めしなくてはならない。


 余談にはなるが、どうやら彼女は私に恋心を抱いているようだ。あの歳頃の少女にはありがちな話だ。自分を守ってくれる男性に憧れ、それを恋と勘違いしている。


 だが私には国に愛する女性がいる。そしてその彼女も私の事を想ってくれている。そんな私が、カノン様にうつつを抜かすなどあり得ない。ましてやお相手は「勇者様」だ!恋に落ちることなど、言語道断!!恐れ多い。


 私は夕食の時刻になり、カノン様の部屋を訪れた。今宵は雨が降っているから、屋内での食事となるだろう。


 カノン様は、今日一日の城下町への護衛について感謝の言葉を述べ、私が一緒だといつも心強い!と胸が熱くなるようなことを言ってくれる。


 彼女は会話のときに、相手の顔をジッと見つめる癖があり、その真剣な眼差し、キリリとした眉は、私の話を丁寧に聞いてくれているのがとてもよく伝わる。その他の所作や食事のマナーに至るまで、本当に育ちの良い賢いお方だった。


 だが一度笑い出すと、その後はくだらない事でもコロコロと笑い続ける。あまりに笑い続け、自分でも辛くなるのだろう、途中でしばらく我慢する。そんな時は、侍女や私が無言で見つめると、彼女はまた笑い出す。もぅやめて!と怒りながら、実に楽し気に笑うのだ。


 私はそれを思い出しフフ…と笑ってしまった。


「 なぁに ア、アーシャ?」


 いつのまにか食事の食器は下げられ、目の前には紅茶が注がれていた。この紅茶はこの昼城下町で見つけたものだ。香りが王宮のものとは異なり、爽やかなフルーツの香りが混じる。


 彼女は私の事を「アーシャ」と呼ぶ。初めは「アーシャさん」と呼ばれていたが、それでは立場的におかしい。それでアーシャと呼ぶようお願いした。まだそう呼ぶことには慣れないようで、私の名前を呼ぶ時には毎回恥ずかしそうな仕草を見せる。


 それがなんともカワ……いや、なんでもない。


「 いえ、それでカノン様、食後にお話があると言う事でしたが……?」


 また遊びに行く相談だと断りにくい。

 明日は城下町で朝食を取りたいとか、そのような話であろうか? だとすれば私の気に入った店がある、そこをご紹介しよう。


「 実は、アーシャにお願いがあるの。」


 私にお願い??


「 あのですね、私もそろそろ石を探しに出たいと思うの!」


 ───!!

 なんと!願ってもない話ではないか!!


「 それで、一緒に旅に行くメンバーに、グレンさんの隊にいる、ロッシュさんも同行する了解をとってもらえないかしら?」


 は? グレンの隊員を?


「 なぜロッシュが必要なのですか?」


「 え? ええっと、か、彼は氷の魔法に長けていると聞きました。なので一緒に行きたいのです!」


「 ……ですが、氷の魔法を使える隊員は、私の隊にもおります。」


 それなのに他の隊から呼べば、こちらの隊員の士気が落ちる。団長としてそんな事は認められない。


 私の言様が強かったのか、カノン様が困ったように侍女たちを見ると、侍女のイルーゼが何やらヒソヒソと彼女に口添えをする。


「 あっ!なるほど、アーシャ、あのね? セナさんはシャルトリュー王国へ向かい、ソウタさんはアスパングルド王国へ向かったと聞きました。だとしたら私たちは、どこを目指したら良いと思いますか?」


「 どこを? …… そうですね、それならソマリ王国へ向かうのが良いかと思われますが ……。」


 他にもスノーシュー王国など選択肢はあるが、中でも比較的安全なルートをあげるなら、絶対ソマリだ。だがそれとロッシュを隊員に加えることとどう繋がる?


「 私はこの世界のことをほとんど知りませんが、ソマリ王国へ行くには、大きい森を越えないといけないのでしょう?」


 私は頷いた。

 確かにそうだ。ソマリ王国へ行くには、セイシェルワの森を通る。あそこはとても危険で魔物も多い、だから少人数で旅に出たグレン達は避けたのだろう。


「 それで、聞いたところによると、ロッシュさんはここ数ヶ月の間、その森が管轄だったとか? だったら安全な道も知ってるのじゃないかなと思ったのです。…… ダメかしら??」


 私は言葉もなかった。毎日遊んでばかりいると思っていたこの少女は、自分なりに情報を集め、私たちの世界の事を考えていたのだ!


「 承知致しました。直ちに王様に許可をいただき、グレンの隊員に協力を求めましょう!」


 私は立ち上がり、部屋から出て行く。


 王の許可は問題なくおりて、グレンの隊員もロッシュだけでなく、数人が快く承諾してくれた。

 ただ、万が一旅先にいるグレンからの集合がかかれば、グレンの隊員はそちらに向かわねばならない。その事をカノン様に伝えると、彼女も納得している様子だった。


 さあ、準備は整った。

 多少出遅れた感はあったが、いよいよ出発だ!!

 私達の物語はここから始まるのである!!



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