44【山の頂上】
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洞窟の空気はひんやりと冷たい
「ひゃっ!?」
そして次第に小さな魔物も出るようになってきた
二人はここの魔物なんて全然強い魔物じゃないと笑う。だけど暗闇で目が赤く光っていたり、いきなり雄叫びをあげたりするのでいちいち心臓がもたない
山道を進むと今度は洞窟があり、それは右へ左へと複雑な道となっていた。最初は階段を上ることが多く、途中からは下りることの方が多く感じた。恐らく墓を荒らされないために、複雑な道を作ったのだろうとグレン達は話していた
道は一本道ではなく、何本かの分かれ道の時もあった
そのため闇雲にすすんだら迷子になってしまいそうだけど、この山路には町の人が描いたのであろう『墓はこっち ➡︎ 』と案内板があるから迷うことはなかった。もしこれがなかったらと思うとゾッとする
時々、唐突に青空の下に出てまた鎖のハシゴがあったり、階段があったりですぐに洞窟へと戻ってしまう。
「 イタッ!!」
ぼんやりとしていたら、何かに足を噛まれた
ん、いや今も進行形で噛まれ続けている!?
私は声にならない悲鳴をあげると
すかさずグレンがその魔物に剣を刺した
うぅ…… 地味に痛い
…… ん? あれぇ? 痛いと思ったのは錯覚だったのだろうか?
顔を上げると、フレデリックがこちらを見ている
もしかして彼がケガを治してくれた?
ありがとう、私がそう言うと
フレデリックは少し頷き、前へと進んだ
もぉ〜
ブーツに穴が空いちゃったじゃん!!コレはこれで気に入ってたのにー……
「あぃたぁー っ!!」
今度は頭上から何かが降ってきた
その魔物たちはポヨンポヨンと軽快に跳ねて、素早くどこかに行ってしまった。軽いげんこつを3発ほどくらったのを想像してほしい。あぅ〜、舌を噛まなくてよかった
グレンとフレデリックも、たまーに魔物の攻撃を受けてるけど、サラリとかわしてダメージを受けない。それどころか、グレンは小さい魔物から逃げ回る私を見て笑いをこらえている
うぅ、あんなヤツ階段から滑り落ちればいい
ささやかに呪いながら長めの階段を上ると、前方から爽やかな風が吹いてきた。顔を上げると眩しい光が見える
また外に出るのね
そこには小さな野原があり、ぽつんと大きな木が1本だけあった。そしてその木の下にはささやかなベンチがあった。私はベンチに近寄り遠くの景色を眺めた
遠くに町があり町の端には時計塔が見える。あれが私がいま滞在している町だ。では眼下に見える森が先ほど通ってきた森だろう。かつてはあの町の住人達も、こうして眺めていたのだろうか
思ったより高い所まで登ってきたようだ。下のほうから上がってくる風が強い
ここはもう山の頂上のようだ
グレンに名前を呼ばれ振り向くと、昼食の準備をしていた。テーブルは魔法で出したのだろう
メニューは簡素なサンドウィッチと飲み物だ。出発前にリュカがグレンに渡していた
「少しは魔物を倒せるよう、剣でも覚えてはどうだ?」
手早く食べ終えたグレンが、面倒なことを言い出す。するとフレデリックもそれに応戦してきた
「それが良いかもしれませんね。あの程度の魔物ならこの世界の子供でも倒せます」
えー? やだよ。どんな魔物でも剣で刺すとか無理だし。私らの世界で、道でそんな事してたら警察沙汰よ? すぐに通報されちゃうわ
そうね「魔法で消す」とかなら頑張ればできたかもしれないけど「刃物で生き物を傷つける」といった行為は生理的に抵抗がある
私が露骨に嫌そうな顔をしたのを見て
グレンは、まぁいいけど、と息を吐いていた
ため息をつかないでよー! 私の世界では極々真っ当な意見よ?というか私が魔物を退治したら、護衛のあなた方の存在意義は?
「さて、腹ごしらえもできたことだ、そろそろ石探しとするか」
昼食を終え大きい岩の間をくぐると、目の前には吊り橋があった
橋といってもそれほど大きい物ではなく、幅は人一人が渡れるくらいで、距離も10メートル程だ。山の頂上がラクダの背中のように二つに分かれていて、その間を吊り橋で結んであった
その向こうには石で作られた枠のような跡がある。きっと町の人達の墓はあそこにあったのだろう
最初にグレンが橋を渡り、それから私が恐る恐る渡る。あと少しで橋を渡り切ろうとした時に、グレンが私の背後に向かって大声をあげた
「魔物がいるぞ!!気をつけろッ!!」
しかし、フレデリックにその声が届くより速く、その大きな魔物はフレデリックを岩へと叩きつけた。彼はすぐに体を起こしたように見えたけど、その体があった場所に、魔物は容赦なく大きな炎を噴きつけた
何なの …… あれは!?
吊り橋の蔓にしがみつき、フレデリックッ!!と叫ぼうとしたが今度は背後で剣の音がする
グレンがフレデリックを攻撃した魔物とは別の魔物と戦っている
私はどうしたら良いのか分からず、ただただその場にしゃがみ込んだ
さっきまでの穏やかな山道とは一転して、激しい魔物との戦い。途方に暮れてオロオロとしていると、魔物が大きな悲鳴をあげた。
いや断末魔というのか、耳を塞ぎたくなるような嫌な叫びだった
その声はフレデリックの方で、碧い炎が渦巻き魔物の体に巻きついている。魔物は地べたに這いずり、フレデリックから逃げようとしているが、フレデリックが碧い炎を出している手とは逆の手を上げると、さらに魔物は断末魔をあげた
バシュッ!!っと大きな音がして、グレンに向き直ると、魔物が縦半分に割れている。一瞬倒したのかと思ったけど気持ち悪いことに、魔物はじわじわと体をつなぎ元の形に戻ろうとしている
すかさずグレンは「させるかッ!」と剣から稲妻を放ち、黒焦げとなって魔物は焼け落ちた
気がつくと、フレデリックが私の背後に来ていて、私の体を起こしてくれる
「怪我はありませんか?」
いやいや、それはこっちのセリフだ。グレンも魔物が消滅すると、剣を鞘に納め「大丈夫か!!」とこちらへ駆け寄って来た
ヘェー!二人とも凄い!!
何事も無かったかのように傷一つ負っていないのね!!
「ドラゴン系の魔物でしたね」
「あぁ、なんでこんな町の近くにいるんだか」
私が首をひねるとグレンは説明してくれた
ドラゴン系の魔物は、大きな山や人の居ない場所を生息地としていて、こんなに町から近い場所にいることは滅多にないそうだ
ていうか、ドラゴン系?
なんだか今のは私が想像しているドラゴンとはだいぶ違う。フレデリックが倒したのは、馬鹿でかくてでっぷり太ってたし、グレンのは人間のように二本足で羽根が生えていた。できれば二度と会いたくない
それにしても、グレンはともかくフレデリックはかなり派手にぶっ飛んでた。彼に怪我はないのかと尋ねると、岩にぶつかる直前にクッションを作り、魔物の炎を浴びる前に、シールドを張っていたそうだ
ふふっ、クッションてなんだろうね?
とはいえニ人とも無事で良かった。こんな危ないところもう嫌だ。早く石を見つけて町へと戻りたい
探してみたが墓の跡地には石はなかった。意識を集中して石の気配を感じると、足下にあるような気がする
山の中の迷路から枝分かれした道の先が、ここの下につながっているのだろうか? だとしたら、またあの洞窟まで戻らないといけない
私がその事を二人に話すと、崖の下を見ていたフレデリックが「こっちに来てください!」と言った。近寄ると彼の足下から鎖のハシゴが降りている。のぞき込むと、すぐ下に足場があった
「これは気が付かなかったわ。まるで隠し部屋ね」
さっそくグレンが先に降りて、次に私が降りる。
魔物が出たこともあるので、フレデリックには山頂に残ってもらった
降りた先は小さな洞窟になっていて、中へと入ると、部屋の奥にはニ対の石像があり、その中央の台座の上に古びた宝箱があった
「待って!石はそっちじゃないわ!」
私はそういいながら部屋の左手に進んだ
部屋の隅には、灯り取りの燭台があり、その一つの受け皿の中に石はあった
グレンは、やったな!と石を拾い、それを自分の宝石箱へとしまった
そしてさてと、と宝箱を振り返り「 戦利品だな!」と箱を開けた。中には宝石やネックレス、腕輪などの貴金属や、金銀のコインが入っている
私が感嘆の声を上げると、グレンもニヤリと笑い、宿に戻ってから皆で見ようと言い、宝箱を魔法で片付けた
凄い!旅の冒険で宝箱ゲットなんて、まるでトレジャーハンターだわ。私は後でサラ達に得意げになる自分を想像して口元が緩んだ
……… ゴゴゴゴ
ん?なに?なんの音かな?
再びフレデリックがいる山頂へと戻ろうとした私たちの背後から、地響きのような音がする
振り返ると、あろうことか二対の石像が動き出している!
「や、やだ!もしかして宝箱を盗んだから怒ってるんじゃない!?早く元の場所に戻してよ!」
「 いや、そういう問題ではない!単純に侵入者への仕掛けだろう。退がってろ!!すぐに始末する!」
私は急いで鎖梯子のある足場まで戻り、フレデリックに助けをもとめようと上を見上げた。すると頭上で眩しい稲妻が走り、バリバリッと雷が割れるような音がして、耳をつん裂く雄叫びが聞こえる
なんてこと、フレデリックも魔物と戦っている
私が洞窟に視線を戻すと、二対の石像は大きな斧を同じ様に構え、グレンに向かって同時に振り下ろした
瞬間、凄まじい爆風が巻き起こり、私は身体ごと後ろに飛ばされた
なんとか堪えようとしたけど、残念ながらその足下に地面はなかった
「 セナ ──ッ!!」
グレンが私の名前を呼んだ
「セナ様」ではなく「セナ」と…
こんな時なのにそんなことが頭をよぎる
彼は私を掴もうと腕を伸ばした
でもその腕が私に届くことはなく、私は声もなく崖から落ちた




