42【魅惑の森】
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………… キレイ
一歩踏み出すだす度に、フワリフワリと舞い上がる
「時計の町の近くに、まさかこんな森があるとはな」
グレンは手袋をした手で、木々から落ちてくるその綿毛を手のひらに乗せた
そこには、時計塔のてっぺんから森を見たときには、想像もしなかった世界が広がっていた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
町のレストランで石を手に入れたあと、恐らくこの町最後の石を取りに行こうと提案した。だけど石の気配は町を出た森の向こうだと伝えると、森に入るにはそれなりの準備がいる、と渋い顔をされ探索は翌日となった
私たちは宿に戻ると、手に入れた二つの石を戻すかどうかで話し合い、大きめの石を一つだけ宝石に戻した
途端に力が抜けていく
意識をすると、体力が石に奪われてることをもの凄く実感する。しかしたとえ体力を消耗しようとも、もう一つの石も宝石に戻したいという衝動に駆られる。つい石に触れそうになるが、その瞬間フレデリックに取り上げられてしまった
「いけませんセナ。一日一つまでと約束したでしょう」
私は玩具を取り上げられた子供のように口を尖らした
「 じゃあ私に回復魔法をかけてよ!それで回復できたら、石を戻してもいいんでしょう?」
フレデリックは頷くと、私に魔法をかけてくれた
「どうだ?」
グレンが私を覗き込む
うーん。なんとなく元気になったような気がするんだけど、そもそも回復の魔法をかけてもらったのが初めてなので、よく分からない
「回復した」
私はそう言って、フレデリックから石を取り返そうと手を伸ばした
「良いでしょう、ではここまで取りに来てください」
彼は立ち上がり、テーブルから数歩背後へと下がった。不適な笑みを浮かべながら石をチラつかせる
クッ!
フレデリック、見事なSっぷりね
忌々しいと思いながらも、石を目の前にすれば逆らえない。仕方なく私は立ち上がり、フレデリックへと足を踏み出した。瞬間くらりと目眩がする
「セナ様! 危ないですわ!!」
「平気よサラ、ただの立ちくらみだから」
こんなの石の影響でも何でもない、誰だっていきなり立てばフラつくことくらいあるじゃない
そうでしょう? フレデリック
「 …… アウトです」
チキショウ!!陰険メガネめ!
心なしか石という麻薬のせいで口まで悪くなってくる
「石を戻すのは一日一つがリミッターと考えよう。無理はしないでくれ」
グレンはキッパリとそう言い切ると、フレデリックから石を受け取り、あの可愛い宝石箱に片付けてしまった
それから後は、先にお風呂に入り、夕食を食べて部屋へと戻った。ベッドに倒れ込み時計を見ると、時刻はまだ19時、けれどそこからの記憶はない。私はそのまま眠ってしまったようだ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝はスッキリとした目覚めで、私の朝食の食べっぷりをみたグレンとフレデリックは、これなら森へ行っても大丈夫だろうと判断した
リュカが、昨日のうちに森の情報を仕入れていて、森に入るための手袋とレインコートのようなポンチョとブーツを用意してくれた
サラとターニャは宿屋に残り、その護衛のためリュカも残ることとなった
「えっ!? 馬で行くの??」
「ああ、森の近くまではな」
立派な馬を目の前にして、グレンがどうぞと私に合図する
いや、乗った事ないし
自転車なら乗れるんだけどな
私がもたもたしていると、グレンがここに足をかけるとか、体を支えてくれたりとかして、なんとか馬の背に乗ることができた
馬は二頭いて、もう一方の馬にはフレデリックが乗っている
アレッ? 三人で行くんだよね?
どうして二頭しかいないんだろうと首を捻っていると、グレンは私の背後に乗り込んで来た
そりゃそうよね。
私、馬を操縦できないもん
うぅ結構密着するのね
こうして、私たちは森へと向かった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
町を出てから30分ほど経っただろうか?初体験の乗馬にもだいぶ慣れてきた
最初は、地面からの高さが想像より高くて怖かったけど、慣れてくるとグレンがアレコレ教えてくれて、周りの景色を楽しむ余裕ができた。普通はこんなに早く身体を馬に合わせられないらしく、私は乗馬に向いているとほめられたのが嬉しかった。また一つ、異世界に来て良かったことが増えた
森の入り口へ辿り着き馬をくくり、餌と水をあげる。グレンが馬の周りで何か呪文を唱えていたので聞いてみると、馬が魔物に襲われないよう小さな結界を張ったのだという。この術は騎士としての最低限のスキルらしい
森に入りしばらくは、木々の間から太陽の光も差し込み歩きやすかったが、だんだんと薄暗くなり森が緑深くなる
そのうちとうとうフレデリックが灯りをつけた
その辺りから魔物も出始めたけど、こちらはグレンがサクサク倒していった
動物(魔物)が剣で斬られるのを見るのはまだ慣れなくて、なんとなく直視することができない
ふと気がつくと、頭上から白い物が降ってきた
それはたんぽぽの綿毛が丸いまま落ちてくるようで、ふわふわととても綺麗だった。頭や肩に跳ね返り、スルリと地面へと落ちていく
進んでいくうちにそれがどんどんと増え、今では足首より20センチくらい上まで積もっていた。ブーツはこのための物だったのかと、改めてリュカの情報収集力に感心する。雪と違って軽いので、歩くのには抵抗がないけど、服や靴の中に入るのは困るもんね
そう思いながらも、しばらくは転ばないよう足元を見ながら歩いていた
「おい」
唐突にグレンに声をかけられ顔を上げると、そこには信じられないくらい幻想的な風景か広がっていた
「 わぁ!!」
先を歩いていたフレデリックが、灯りを大きくしてくれる。一面の綿毛が深い森の緑を透き通らせ、薄緑の絨毯となっていた
ふわりふわりと断続的に落ちてくる綿毛も、灯りを反射させてチラチラと光る。そしてそれが織りなす影がまた心地いい
心の底からスマホが欲しかった
なんとかしてこの景色をサラやターニャにも見せたい
フレデリックとグレンが再び歩き出したので、私も歩き出そうとすると、ふと森の横手に何かの気配を感じた
それはゆっくりとこちらに近づいて来る。その動物の正体は私でも分かったが、声を上げると消えてしまいそうなので、そのまま見つめていると私のすぐ近くでそれは歩みを止めた
…… なんて美しいの
息を呑むとはこのことだろう。私はそれのたてがみをなでると、それは気持ち良さそうに目を細めた
…… ユニコーンだわ
魔物がいる世界だもの。伝説上の生き物がいてもおかしくはない。それでも実際に目の前に現れると、想像以上にそれは美しかった
私がユニコーンをなでているのを、他の二人も気がついたけど、彼らはとても険しい顔をしている
どうしたのかしら?
そのうちユニコーンは撫でられるのも飽きたのか、不意に向きをかえると森の奥へと去っていった
私は少し興奮気味に二人へと駆け寄ると、何かに足を引っ掛け転んでしまった
その瞬間ブワリと綿毛が舞い踊る。そらでも何とか顔を上げて、恥ずかしかったからエヘヘと笑った
「 今のカッコよかったね!異世界って凄い!あんなのもいるんだー!…… あれ?どうしたの??」
二人はヘナヘナと力が抜けたようになり、グレンは「 心臓がもたない …」と顔を覆った
「セナ!ユニコーンはとても獰猛な生き物です。迂闊に近寄ってはいけません!」
えー? あんなにおとなしそうだったのに?
二人の様子を見れば分かる
本当は気性の荒い生き物なのだろう
私がごめんなさい。と小さく言うとグレンもフレデリックも顔を見合わせ笑いあった
「 幻の神獣だぞ!契約を結びはじめるかと焦ったな!」
「ええ、ほんと。驚きました。私なら無理矢理でも契約します」
「 てか、俺はユニコーンに触れたことなどないぞ?撫でるとかありか?」
「 あり得ません!今だって冷や汗が止まりません!」
ひとしきり笑い合うと、二人は同時に手を伸ばし
私を起こしてくれた
その後は、二人にユニコーンのたてがみの硬さや、近くで見てどうだった?など質問攻めだった
朝町から乗って来た馬と同じだと私が答えると、そんなわけない!とグレンに言われ、また皆で笑った
いつのまにか綿毛の森から抜けていて、魔物も出はじめたので、あまり騒がないよう静かに歩くようになり、木々の間から光が差すようになったと思うころ、森が終わり草原の先には小さな山があった
間違いない
石はこの山の上にある
私たちは山に向かって歩き出した




