41【時計の町】
翌朝になり朝食を済ませると、私たちは町の中を散策した。といってもそんなに大きな町ではない。石の在処はすぐに見つけることができた
問題は石の場所で、町の端にある時計塔の中、その中へ入るには塔の鍵が必要だった。リュカが許可を取ってきます!と、町の中へ戻ろうとすると、それにグレンもついていく
彼は昨日の夜の件で、私とあまり目を合わさない
当然よね?どこかの女性と私を間違えたんだから
もっと気まずい思いをすればいいのよ
それにしても、時計塔は横幅はそんなにないけれど、とにかく上へと高い! この高さだったら町のどこからでも時間を知ることができるだろう。正面の石段を登ると、塔の周りを一周できるよう柵がある。それより上部は石積みが続いていて、外部から上に登ることはできない
ほどなくしてグレンとリュカが戻ってきた
更にもう一人中年の男性も一緒だ。どうやら彼は町の人のようだ。男性は塔の裏手にある入口の鍵を開けて、どうぞ、と私たちを中へと案内してくれる
塔の中を見上げると、石積みの壁に沿って螺旋階段となっていた。所々に明かり取りの窓があるので、昼間は蝋燭はいらない
町人に頭上に注意して下さい!と言われるより前に張り出てた棒にしこたま頭をぶつけた。うぅ、と頭を押さえてると背後でリュカがクスリと笑った
リュカがフレンドリーになってきたのは喜ばしいことだけど、本気でかなり痛い。もっと早く言って欲しかった
階段を上りきると、そこには鉄のパイプを軸にした大きな歯車達がカタカタと回転していた。そして正面に大きな時計が見える。こちらからは裏側なので文字盤が逆さになっていた
「 魔法なしでこれだけの物を造るとは、本当に素晴らしいですね」
フレデリックが感心して辺りを見回している
その言葉に町人は誇らしげな表情で頷く
「魔法はかけた者がいなくなると、それ自体も時が止まってしまいます。我々は、永遠に動き続ける事ができる物を作りたかったのです」
その説明に、フレデリックだけでなく皆が頷いている。粋なことを言っているのは何となく理解できたけど、私の関心はもはや別のところにあった
あった、あそこだ
石は時計の長針にある真ん中のくぼみに挟まっている
どうしよう? せっかく塔の中に入ったけど、石は大時計の外側にあった。それに大きな歯車は複雑に入り組んでいて、大時計までたどり着くことができない
私の視線に気づいたのか、フレデリックも石の場所が分かったようで、あれですね?と頷き、手袋をした手を宙に伸ばした
小さく呪文を唱えているが、ふと動きが止まり怪訝な顔をする
もう一度、今度は先ほどとは違う呪文を唱えると、大時計の窓枠ごとカタカタと揺れ始めた
「 なんてことだ、あの石には魔法が効きません」
フレデリックは、これ以上魔力をあげると、塔ごと破壊してしまいます。と眼鏡を指で押さえた
グレンとリュカが、ここまで届くようなハシゴなんてないしなぁ、と頭を抱えた。それならば一度塔を降りて、今度は外側からフレデリックに階段を作ってもらうか…など相談をしていると、その場にいた町人が口を開いた
「 なんだ? あなた方、時計の外側に用があるのですか?」
それならそうと早く言ってくれ、と町人は手前にある鉄の棒をガタンと90度に折り曲げ、時計の動きをピタリと止める。そして器用に歯車をガタガタと移動させ、大時計の枠にある留め金を外すと、大時計を塔の内側へと開いた
男性は、ホレこれでいいか?と振り返る
あまりにも簡単に解決したので、一同は何となく笑ってしまう
そりゃそうよね
メンテナンスとかする時を考えて造られてるわよね 。。。
そのままうっかり石へと手を伸ばすと、その直前でグレンに腕を引かれ戻された
「私が取ろう」
そっか、もう忘れてた。その日にいくつ回収出来るか分からないんだもの、迂闊に宝石に戻しちゃったらダメなのよね。でも石を目の前にすると、ついふらふら〜となっちゃう
グレンは難なく石を外し、町人が大時計を戻そうとしたとき、私が「あそこは何ですか?」と遠くの景色を指さした
町の向こうには森があり、その更に向こうに小高い丘が見える
「 あーあの丘かい?あそこには昔、墓があったんだ。今はその墓も町へと移したからその跡しか残ってないんだ」
「 お墓? どなたのお墓ですか?」
何となく聞いてみたけど、町人も誰のお墓なのかまでは分からないようだった。森や丘には魔物が出るため、随分前にお墓を町へと移したようだ
私たちは町人にお礼を言い、塔を下りた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 じゃあ、次の石を取りに行きましょうか」
私がそう言うと、全員が驚いて振り返る
なぁに?この町に石は一つだけ、なんて一言も言ってないわよ?
ぞろぞろとみんなで宿の反対側まで歩くと、私はあるお店の前で立ち止まった
ここだ
私がお店を指さすと、お店の看板を見たグレンは目を細めた
「 まさか、ここでお昼を食べたいというお願い…」
「 じゃあないから」
彼の言葉を即否定して、私は力強く頷いた
「 石はこの建物の中にあります!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お店の扉を開けると、カランカランと小気味好いベルがなる。中では数人のお客様が食事をしていた
「いらっしゃい!何人だい?」
威勢のいい声と共にがっしりとした体型の男性が、厨房からこちらを覗いている。どうやらあの男性が店主のようだ
リュカが店主の元へ行き何やら話すと、男性は明らかに不機嫌になり「分かりました」と頷いている
店主は不機嫌なまま帽子を外すと、フロアへと出てきて食べている客達にこう言った
「すまねぇが、急用が出来ちまった。お代はいらねぇから今日は帰ってもらえるかい?」
その言葉を聞いて私は飛び上がった
「 なっ!!ちょっと待って!!お客様をお返しするなんてそんなのダメよ!」
私は驚いて思わず声を上げた
確かに石は欲しいけど、こんなやり方は好きじゃない。まして自分も接客業をしてる側なのだから、これほど迷惑なお願いは許せない
私は慌ててリュカを遮り、店主にお店の営業時間を尋ねた
いつもは朝から21時まで通しで開店しているけど、いまは店主の奥さまが出産間近でお休みしていて、お昼は15時から17時まで閉めているそうだ
店主が一人で調理場からフロア、後片付けまでやっているため、途中でお店を閉めないと回らないらしい
そんな話をしている間にも、お客様は次々と入ってくる。時刻は11時半を過ぎたところだ。人気のお店だと15時に終わるかどうかも定かではない
それならば…
「 ねぇご主人、私にお店を手伝わせてよ。その代わり14時から私たちに時間をくれませんか?」
「セナ様!何もそこまでしなくても!」
「リュカ聞いて、権力は従わせる為にあるものじゃないの。それに大丈夫、このくらいのお店なら私でも手伝えるから」
「 ほぅ、うちの店も随分舐められたものだな。騎士に守られたお嬢様に何が出来る?」
おっと!私の言葉はかえって店主を煽ってしまったみたいね。でも啖呵を切ってしまった以上、もう後には引けない
「このお店の品質と評判を落とすことはしないわ、交渉は成立で良いかしら?」
いまさら引くつもりも無いし
「 面白れぇ、やってみろ!」
店主からエプロンを受け取ると、髪を結い身嗜みを整える
お店は正午を中心に、お店は8割程度埋まるというから、まずは目立たない席にグレン、フレデリック、リュカ( 役に立たない三人 )を座らせた
本音を言うと彼らはジャマだし、テーブルの一つでも陣取られるのは迷惑だから宿に戻って欲しかった。だけど護衛上離れるのはどうしてもダメだと言い張るから仕方なくそうして貰った
次に私は、お店のメニューやランチの組み合わせ、厨房の間取りなどを確認した
手伝ってくれるというので、ターニャにはお客様のテーブルの片付け、サラには下げられて来た食器を洗うことをお願いする
カランカランと扉のベルが鳴り、私は「いらっしゃいませ!」と笑顔でご挨拶
さぁ、久しぶりの接客よ!腕が鳴るわ!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ありがとうございます!またお越し下さいませ!」
カランカランと扉が閉まる
店主がフロアに出てきてお店を閉めた。時刻はまだ13時半だ、閉めるには早い。私の表情を読み取ったのか店主はニヤリと笑い、今のが最後のお客様だと言う。小さい町なのでお客様習慣なども分かっているのかもしれない
「 いやすごいな!なんて手際の良さだ!王宮の人間てのは、みんなこんなに働けるのかい?」
店主は帽子を脱ぎながら感嘆の声を上げた
私は曖昧に頷き、自分たちの料理をテーブルへと運んだ。店主は途中で気を利かし、暇を持て余している男性陣三人に、ランチを提供してくれていたのだ。そして最後のお客様の料理が出し終わると、私たちの女性陣の分も作ってくれたのだ
男性陣は、今はアイスティーを飲んでいる
本当にただ居るだけだったから、心の底から邪魔だった
料理をお客様に出している時から、なんて美味しそうなんだと思っていたけど、このお店の料理は実に手間ひまかけて丁寧に作られている
お店のランチメニューは三種類あり、ありがたいことに私たち女性陣は一番豪華なコースを食べることができた
前菜のサラダには生ハムやチーズ、そして絶妙に茹でられた玉子が添えられている
パンは石窯で焼かれていて、中に香草が練りこんであるから香りがとっても爽やかだ
メインはハンバーグとポークステーキが一皿に盛り付けられ、それぞれにソースが異なっていた
ハンバーグはふっくら柔らかく、ポークステーキはカリッと焼かれているので香ばしい
デザートは奥さまが作っているらしく、プリンにアイスと生クリームが添えられている。このプリンがめちゃくちゃ美味しい!一口食べて顔を上げると、グレンが「おいしいだろ?」となぜか得意げだった
私たち女性陣が、きゃあきゃあとデザートを食べているとそこで横槍が入る
「それでセナ様? 本当はこの店のランチが食べたかったわでは、ありませんよね?」
さんざん待たされたリュカが少しキレ気味で責めてくる。そんな言い方するなら宿に戻ってれば良かったのに。彼は先ほど私に嗜められて完全に機嫌を損ねてしまった
石のことを皆に話そうとすると、店主がアイスティーを運んで来る
「 言われた通り、窯の火を落としたぞ? あの中に何かあるとは思えんが、あったところで炭になっちまってるだろ?」
リュカが、まさか!?と私を見る
そうなのよ
石は窯の中にあるみたいなの
楽しい食事の時間を終え、食器を下げようとすると、店主がそれはいいと手を振る。お言葉に甘えて私たちは厨房へと入った
灰出し棒で、窯の中の物をすべてかき出すと、その中に黒い塊があり、私はそれを指さした
いくらなんでもまだ熱くて触れない。そのまま石を眺めてるとグレンがリュカに何やら合図を送る
するとリュカは私を脇へと退かし、フゥッと小さく息を吐いた
「 わぁぁすごい!なんてキレイなの!?」
キラキラと光る粉が石へと舞い降りる。まるでダイヤモンドダスト、氷の粒たちは黒い塊を急速に冷やしていった
グレンが石を持ち上げ、水で洗い流すと例の石へと変わる。店主はそれを見て、そんな物が欲しいのかい?と呆れていた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 お嬢ちゃんの働きぶりを、うちのかみさんにも見せてやりたかったぜ!またいつでも食べに来な!!」
私達は店主に石のお礼と、ランチのごちそうさまを告げるとお店を後にした
もちろん食事の代金はちゃんと払ってますよ?
店主は遠慮してたけど、そこはきっちりさせていただきましたとも
サラとターニャは、お店のお手伝いは初体験だったので楽しそうに話していた。リュカは無駄な時間だったとぷりぷりとむくれている
「 まぁ、町のレストランの割には悪くない物を出してましたけどね」
とか言っちゃってるから、なんとなく憎めない
遠くを見上げると、朝一に立ち寄った時計塔が見える。時刻は午後2時15分に差し掛かろうとしていた
「さて、時計塔から見えた、森の奥の丘に石の気配があるわ。今から行く??」
何となく今日はもうやり遂げた感のあるグループに、私はにっこりと微笑んだ。一同は凍りつく
「ま、まだありますの!?」
いい加減引き気味に、サラがそう呟いた




