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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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34【魔導師フレデリックの精察③】

いつも読んでいただき

ありがとうございます!


またブクマと評価していただき

ありがとうございます!

扉が軽くノックされ、グレンが部屋へと入ってくる。私は読んでいた本から顔を上げた


「 意識はまだ戻らぬか」


私はベッドで眠り続けるセナ様をみた

昨日から何も変わらず穏やかな呼吸を繰り返している。 グレンはしばらくの間彼女の顔を心配そうに眺めていたが、やがてこちらに看病を代わろうかと提案してきた。 私がそれを断ると、まだ何か言いたいことがあるようだったが「また来る」と言って部屋から出ていった

彼はこの町にいる間、町周辺の魔物を討伐する仕事がある。せめてそれ以外は身体を休めて欲しい


あの後 …… 廃墟の中で石を見つけるとこの女性は意識を失ってしまった。グレンは騎士団として簡単な医療の心得もあり彼女の容態を診ていたが、事態は思ったより深刻で、体温は低く脈も止まってしまうのではと思えるほど微弱になっていた

 すぐに城に戻るか、旅先で一番近い町まで進むか皆の意見は割れたが、そうこうしているうちにセナ様の容態が安定し行き先を町へと決めた

 町へ辿り着くと、先に到着していたリュカが宿の手配などを全て済ませてあり、まごつくことなく整ったベッドに彼女を寝かせることができた


リュカは、若いとは思っていたが、あのローゼンタール家のご子息なら歳は17くらいか

 国交や政治にまで何かと意見するローゼンタール家に正直あまり良い印象はなかったが、リュカ自身は貴族としても騎士としても、実に優秀な人材であることがここ数日旅を共にして知ることとなった


ふと、あの草原での朝食を思い出す


侍女として共に旅に出たサラ殿とターニャ様

先ず大前提として、ラグドールの城に侍女としてやってくる女性は、他の国の侍女とは異なり身分が高い。 従っていくらお付きとなったのが国を挙げて祭り立てられる「勇者様」だったとしても、城から出て共に旅をするという事は絶対にしない


だが、あの二人はついて来た


それが自らの意思か、セナ様にお願いされたのかは不明だが、三人を見ているととても仲が良く、そこには強制的な関係は微塵も感じられなかった

 魔導師や騎士でも団長クラスにまでなれば、それぞれに侍女がつくこともある。規則正しい生活スタイルの騎士で侍女をつけるのは稀なことに対し、書物に没頭しがちで昼夜の判断できない生活になりがちな魔導師は、団長ならずとも侍女を希望する者もいた。そういえば、私の侍女のカーラは見送りに出てくる事もなかった。恐らく私が城から出て行くことすら信じられないといったところなのだろう


サラ殿はラストリア家のご令嬢

私と同じソマリ王国領出身だが、私の生家のアンダーソン家とラストリア家では貴族としてのレベルが違う。ラストリア家は歴史は古くソマリ王国とも繋がりが深い。 ローゼンタール家と比較して悪いが、ラストリア家は民衆からの人望も厚く、国王様からも民衆からも信頼のおける貴族として慕われているため、当主としてはそんなつもりもなく政治や祭りごとに関わる立場となっている。 サラ殿はお爺様の奇行を言いにくそうにしていたが、ソマリ王国でそれを非難する者は誰一人としていないだろう。いや、サラ殿の父君はボヤいてるのかもしれないがな


一方ターニャ様だ


こちらは流石に私も驚いた。 まさかシャルトリュー王家の姫様とは……。 いまだに信じられない

もともとセナ様を守るのが魔導師や騎士団の役目とはいえ、余計についてきたデザートが重すぎる。 何かあれば国を揺るがす大問題へと発展してもおかしくはない。知らなかったとはいえ、グレンやリュカが、ラグドール城から出るときにターニャ様の父君や次期国王と称される弟君に無礼を働いたと嘆くのも仕方がない


フッと笑いが漏れる


あの時一瞬だが自分の中にも「しまった 」と思う感情があった。 自分は上にのし上がる事など微塵も興味がないと思っていたし、数時間前には宮廷魔導師長という立場さえ疎ましいと感じていた私がだ

この事を友であるジャスパーが聞いたらなんて言うだろう


…… 旅か


この私がジャスパー以外と旅に出ることになるとは夢にも思わなかった。 グレンとセナ様が国王に直訴していると聞いて、自分でも不思議なくらい自然と足が動いていた。 私があの忌まわしき塔より持ち帰った石を、光り輝く宝石に変える力に興味がなかったといえば嘘になるが、それよりも城を出るチャンスだと思った

 結界のある城に侵入した者がいるため、いくら勇者のお供でも許可は下りないかと思ったがあっさりおりた。 今考えると、ターニャ様が旅のメンバーに入っていたから、国王としても生半可な魔導師を付けるわけにはいかなかったのだろう

こうして私は『勇者と共に石探し』という大義名分を手に入れ城を出る事ができた


私は椅子から立ち上がり、眠り続けるセナ様へと近づく。 勇者としてあつらえた服は侍女殿が着替えさせ、今は寝装でベッドに入っている


こうして改めて眺めると、とても美しい娘だ


召喚式の時には髪型も服装も今とは違い、もっと堅い印象だった。あの日以来眼鏡をかけていないところをみると、視力が悪いわけではないらしい。では何の為にかけていたのか


だいたいこの娘の行動は不可思議なことが多い

初日の祝宴は欠席したとカーラが言っていた

何か機嫌を損ねたのかと思ったら、翌日には中庭で楽しそうに食事をしていた

王宮の者が三人の勇者の中で、国を救うことに一番興味がなさそうだったのは彼女だと言っていた。 だが実際に最初に石探しに出たいと言い出したのはセナ様だ

 王と話していても物怖じせず、交渉術にも長けているようだった。 …… そういえばあの時、セナ様もグレンも密かに城から出たいと話していた。 賑やかなことが苦手な自分にもその考えは良いと思えたが、実際には派手な見送りが待っていた。 私はバカバカしいと思いすぐに馬車に乗り込んだが、この女性は一人一人と丁寧な挨拶を交わしていた

 彼女だってあの時点ではターニャ様の身分を知らなかったようだが、ターニャ様の父君や弟君にもそつなく言葉を交わしていた


城から出てしばらく進んだところで突然馬車を止めろと言い、走り去る姿を見てやはりこの娘は変わってる、と思ったが、石のありかをピタリと言い当て、一人でも難なく石を宝石に変えた


馬車では単調な景色が続き、侍女達はそのうち眠ってしまった。しかしセナ様は一度も眠らなかった。欠伸を何回も噛み殺していたから眠たかったのだろうが、石を見落とさないようにと考えているのか絶対に眠らなかった

 私もこの旅の決定から出発まで時間がなく、宮廷内の事務処理など引き継ぎに追われ、殆ど寝ていなかったが、彼女のその様子を見て眠るのを堪えた


そしてあの屋敷の探索


女性があの気味の悪く汚れた所に立ち入るのは嫌だろうと、時戻しの術をかけようかと思ったが、それを否定したのはセナ様だった

 彼女は屋敷の中を慈しむように見て回り、努めて荒らさないよう細心の注意を払っていた

石を宝石に戻した時も、人形に落ちている布をかけようか迷っていたがやめていた


あの屋敷の中にいた魔物は寂しがり屋だ。もしかすると彼女もその事に気付いて、布を元に戻さなかったのかもしれない


私は屋敷を新築に戻すことに何の疑問もなかったが、そのままにと主張した彼女の考えが正しいような気がしてイライラしていた。そして屋敷内でのセナ様の姿勢を見れば見るほど自分を恥じた。それがなぜなのか分からず更に不快になり、彼女には余計に冷たい態度を取ってしまった


一つだけ彼女もグレンも気付かなかった事がある

あの屋敷には地下へと続く隠し階段があり、今も住人が住んでいる。私もはじめは無人の廃墟だと思っていたが、そのうち屋敷の廃れ具合が部屋によって異なっているような違和感に気がついた。 それは時戻しの術を使える私だから気がついたのかもしれない。 恐らく玄関ホールの調度品の台座が地下への入口だろう

 そう、住人は光を好まない。生き血を啜り闇に生きる者。 私は階段にかけられていた肖像画を見てその正体を知った。歴史の中で絶滅してしまった人種だと思ったが、まさか今でも生き延びていたとは。彼らの仲間である小さい魔物をうっかり殺さなくて良かった。後々地下の住人からの報復で面倒な事になるところだった


私はベッド脇に手を伸ばし、部屋に新鮮な風を入れようと窓を開けながら彼女の顔を見下ろした


もしこのまま目を覚まさなかったらどうする?


昨夜から何度もそう思い気が滅入る。どうするもなにも城へ戻るしかないでしょうね。国内最高といわれる宮廷の医師なら、彼女を回復させる事が可能かもしれない。せっかくこうして息の詰まる場所から逃げ出せたが、娘の命には代えられない


彼女はいつから体調を崩していたのだろう? それとも発作的な持病でもあるのだろうか? 今になって思い返すと、魔物を倒したあと侍女たちが何やら盛り上がっていた話にもあまり入らず、最初の石と違って二つ目の石の時には「石があるけどどうする?」と聞いてきた


その時すでに体調に変化があったのではないのか? 丘を登る様子もつらそうだったが、屋敷を探索している時は、むしろグレンの方が顔色が悪く感じたので気のせいかと思ってしまった


いや、あの時は自分が子供のように機嫌を損ね、他人のことなど気にかける余裕などなかったのだ


面倒だな


旅の初日でトラブルなど想像していなかったが、そもそも護衛など他人を気遣うこと自体私には向いていないのだろう

もっと彼女の体調に配慮が必要だったと思う反面、煩わしいとも感じた


気がつくと、小さな虫が風に乗って部屋へと入ってきた。その虫はセナ様の髪へと着地すると、そのまま髪の流れに沿って首すじへと降りていく

私はややしゃがみこみ、手袋を外しながら彼女の首すじへと手を伸ばした


その時、唐突にグレンが部屋へと入ってきた

ありがとうございます。


次回のお話はグレン編を書こうかと考えています。


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