33【お屋敷探検隊】
いつも読んでいただきありがとうございます!
「 屋敷の時間を戻すのか? しかしあの術はかなりの魔力を消費するのではないか?」
「 ええ、確かにそうですが 、他に方法がおありですか?」
「 そうだな。この先次の町まで何事もなく無事に辿り着けるのならそれをお願いしたいところだが …… どうしたセナ様、そんな顔をして」
はぁ? 何言っちゃってんの? 新築に戻すですって? そんなことしたらこのお屋敷のホラー感 ……いえ、このアンティーク感がゼロになっちゃうじゃん! それに普通の新しい家に侵入するのってなんだか泥棒さんの気分よ? それはそれは居心地が悪いんじゃないかしら? 廃墟だから気軽に入れるのよ!
だめだめだめ
新築に戻すのはだめ
「 いぇ、新築に戻せるような魔法ができるなら、この状態をこのまま止める事は出来ないのかなーと思って」
「 このまま止める?」
グレンはよく分からないといったところだ。 私は続けて説明した
「 魔法の原理はわかりませんが、例えば壊れそうな階段に足を乗せても、階段は壊れずに今の形状を保ったままで変わらないとか」
うまく説明できたとは思えないが、グレンがフレデリックに出来るか?という風に顔を向けると、彼は無言で頷いた
「 その空間に皆が入れるような術を加えたとしても、時間を戻すよりは遥かにシンプルです」
「 そうか、では …… それでいくか」
余談だけど、フレデリックはグレンとはちゃんと目を合わせて会話をしている。てことはこの魔導師はやっぱり極端な人見知りなのだろう
建物の真横に当たる部屋に、広々としたサンテラスがあり壁の三面がガラス張りで30センチ角の格子状となっていた。天井の方は丸く半球で屋敷本体へと繋がっているので、鳥かごを縦半分にして壁にくっ付けてあるようなデザインだ
薄い細かなレースの織り込んであるカーテンが、高い天井からぐるりとガラスに沿って下がっていたのだろうが、今は朽ち果てて所々しか残されていない。その部屋には外への扉が設けられていたので、グレンはそこの鍵だけ魔法で開けると、フレデリックに向き直り頷いた
フレデリックは地面に片膝をつき、手袋をした片手も地面につけると何か呪文を唱えている
フワッと地面から、風というより空気が上に移動したような感覚がありそれはすぐに収まった
「 もう入っても大丈夫です。術をかける以前から床が抜け落ちてる場所はそのままなので注意してください」
さっき話し合った結果、お屋敷の中に入るのはグレンとフレデリックと私の三人で、サラとターニャは外に残り、その護衛としてリュカも外に残ることとなった。というか、リュカは露骨に廃墟へは入りたくなさそうだった
「 入ろう」
グレンがテラスの扉を開くと「ギィィィィィィイ」と、実に小気味よい効果音を出してくれる
うは! 高まる〜やっぱり幽霊屋敷はこうでなくちゃ!
私はグレンに続き、ゾクゾクしながらテラスの中へと足を踏み入れた
中は思ったよりカビや埃の匂いはなく、想像していたより不快感はない。 タイル貼りの床の上には三人掛け用のテーブルと椅子があった
テラスを抜けるとキッチンや納戸のような部屋が続いていたが、壁のタイルや壁紙は剥がれ落ち、棚に並んだ瓶のラベルも劣化が激しく読める物は一つもなかった
続いては食堂。 長テーブルに椅子が整列している。 倒れているのは燭台だ
キッチンと同様に、壁や床、天井など建物の躯体や椅子に張られている布、カーテンなどの老朽化は激しかったが、物が散乱してなかったり、荒らされている形跡もないので、ただただ物哀しい廃墟だった
た、たまらない
そりゃ食べ物が腐ってたり、イタズラで壁に落書きされてたりすると不快感が勝り興醒めだ。 主人の帰りをただひたすらひっそりと待ち続けてる、この凛とした空間がなぜこんなにも愛おしく感じるのだろう
私たちもできるだけ汚さないようにするからね
そう思い静かに家具の間をすり抜けようとするけど、グレンがドタンバタンとこの静かな空間に騒音を立てる
まぁ、魔法で静止させてるから大丈夫なんだろうけど、少しは空気を読んでほしい
ジロリとグレンの後ろ姿を睨んでいると、部屋の奥の方でガタンと音がした
私たち三人は顔を見合わせる
次の部屋への扉を開くと、そこは暖炉のあるリビングだった。 暖炉の開口部は紋章の入った鉄の蓋のような物で塞いである。あの蓋を外して使うのだろうか? ソファやテーブルには布が掛けられている。このお屋敷は別荘として利用していたのだろうか?
部屋の壁には背の高いガラス張りの棚があり、中には色々物があるようだけど、ガラスが曇っていて何があるのか判別できない
手のひらでガラスを擦って見ようかとも思って手をあげたけど、そのまま下ろした
先ほどの物音は侵入者のせいで雑貨か何かが転がったのだろうか?
「 セナ様、この部屋にも石はありませんか?」
敬語で細い声だったからフレデリックに問いかけられたのかと思ったけど、声の主はグレンだった
あれ?ぶ厚いカーテンで日光が遮られているせいなのか、グレンの顔色が悪いように見える。 それに額には脂汗を浮かべているようだ。 確かに外に比べると風もないし、少し暖かいかもしれないけど、汗をかくほどの暑さではないわよね?
逆に「 どうしたの?」と尋ねようかと思ったとき更に隣の部屋でタタタと足音がした
「 何かいるようですね」
表情一つ変えずフレデリックはそう呟いて、スタスタと前へ進み、ためらうことなく隣の部屋への扉を開けた。私もそれについて行くと、そこは玄関ホールへと続いていた
いくつかの部屋を通り過ぎて、建物のちょうど中央まで来たのだろう
リビングとは反対の壁を利用して弧を描くように階段が二階へと繋がっている
ホールには絨毯が敷き詰められ、台座のついた石像らしき物はあるが布が掛けられていて中の様子はわからない
玄関ホールは二階まで吹き抜けになっていて、正面の壁に縦長の格子窓が並び、その上にも丸い大窓があるため、外から眩しい光が射し込んでくる
廃墟に入ったのが初めてだから知らなかったけど、カーテンの引かれた部屋より光が射す部屋の方がより一層悲痛感が増し陰鬱な気持ちになった。天井から吊るされている豪華なシャンデリアはいくつかの留め金が外れ今にも落ちてきそうだった
「 …… なに?」
「 …… いや?」
気がつくとグレンが私の背後にピタリとくっついている。 薄々は気づいていたけど、グレンって怖いのダメなのかもしれない。なんかもう乙女のように肩をすぼめてキョロキョロしている。リュカを外へ置いてきたのはその姿を見られたくないからかしら?
割と傲慢な彼のそんな姿を見ていると、思い切り背後から「 わー!」って驚かしたい衝動に駆られる。でもここはそんなに仲良しでもないからグッと堪えた。これほどのイケメンの狼狽する姿は見られたもんじゃないしね。
相変わらず、さして感情を面に出すことのないフレデリックは、静かにホールを通過して反対の部屋の扉を開け中を覗き込んだ
「 石はどこです?」
彼はこのお屋敷を堪能する気は全くなさそうだ。 あくまでさっさと石を見つけたいようだった
私は上を仰いだ
「 上ですね」
彼は眼鏡を片手で直しながら、開いてた扉を閉めようとする。 私は慌てて彼に駆け寄り代わりに部屋の中を覗き込んだ。 石とは関係なく全部の部屋を見たいのよ!
「 うわぁ!」
この部屋は正面の庭木が窓を割って入り込んでいる部屋だった
奥行きの長いこの部屋は、沢山のお客様や友人達を集めてパーティでも開かれていたのだろうか? しかし部屋の奥の天井は抜け落ち太陽の光や風を直接感じることができる
ふかふかになった床部分だけでなく、壁や天井にまでびっしりと蔦が這っていて、部屋全体に緑が溢れ自然に還ろうとしている
キッチンからリビングなどセピアな風景を見ていたのに、急に色鮮やかな緑色を見たから少しくらくらした
これはこれで写真に収めたいような美しい景色だ。
私はせめて、玄関ホールにまで雨風が入らないようしっかりと扉を閉めた
……タタタタ
先程からの足音の主は二階へと逃げたようだ
何なんだろう? ネズミにしてはハッキリとした足音じゃない?
階段の途中の踊り場で足を止め、壁に掛けられている肖像画を眺めていたフレデリックは、私が階段の所まで来たのを確認すると、更に上へと進んでいった
私も肖像画を見たかったけど、今は足音の方が気になる。フレデリックに追い付けるよう進むと、もれなくグレンもついてきた
正直いまのグレンはあまり頼りにならない気がする。 足音の正体は分からないが、明らかに私たちを避けている様子からあまり友好的な態度とは言えないだろう
ここはグレンよりフレデリックの近くにいた方が安全を確保できそうだ
階段を登りきって廊下を進むと扉があり、10センチほど開いていた。それをフレデリックは躊躇なく開く。扉の向こうは廊下が続いていて、両サイドの壁に扉があった
しかし、フレデリックはその扉達には目もくれず、まっすぐ突き当たりの部屋まで進んだ
彼には怖いものなど無いのだろうか? 足音の主は扉の開閉が出来るのだ。 流石にちょっと怖くなってきた
私はフレデリックのスルーした右側の扉を開いて中を覗いた。 ここは子供部屋だろうか? 下の部屋のような重厚感のある造りより、柄の入った壁紙や机とベッドの並べ方がライトな雰囲気だった。一階以上に朽ちてはいるが光が多く差し込む暖かみのある部屋だ
次に向かいの左側の扉を開けると頭上でグレンが「 ヒッ!?」と短い悲鳴を上げる。私だって部屋の中の光景に唖然としたが、むしろこの時はグレンの声に驚いた
うわーこれが夜だったらさすがに逃げ出すわね
「 中へ入るのか!?」
足を踏み入れようとした私の服を引っ張り、グレンが菱形の口をして非難の声を上げる
彼は部下の前でもこんな姿を見せるのだろうか?
「 だって ……」
理由を言おうとしたときに、廊下の奥からガタガタと激しい音がしてフレデリックの声がした
「 大人しくなさい!」
グレンと目を合わせ急いで奥の部屋に向かうと、フレデリックの足元でキーキーと騒ぐ何者かがいた
「 ひゃ!これは何なの!?」
「 屋敷に棲みつく魔物だ」
私の驚きの問いに答えたのはグレンだった
耳がとんがって大きく、鼠色の肌をしているが体毛はなくぬるりとしている。全長30センチくらいだろうか。頭の大きさの割に身体は小さい。何か針金のようなもので体をグルグルと巻かれている。これはフレデリックの仕業だろう。その魔物は苦しいのか目を細めてキーキーと騒いでいた
「 ちょっ!まってよ、ここは私たちの家じゃないんだからかわいそうよ! 放してあげたら?」
私がそう言うと、魔物はカッと緑色の目を大きく見開き耳障りな声を発した
「 コロシテヤル ッ!…… オマエタチッ!!…… コロシテヤルゾ〜〜!!」
「 早く始末して」
私の言葉にグレンとフレデリックが「 え〜?」って顔でこっちを見る。 だって怖いじゃない!?
動物園の動物がいきなりこんなこと言い出したらゾッとするでしょう?
わぁ!ファンタジー!? …… なーんて絶対に思わないわよ!こんな物騒なセリフを口にする魔物 …… 末代まで祟られたらどーすんのよ!
「 ま、まぁ、数時間後に自由に動けるように術をかけます。この魔物は入ってきた者にイタズラはしますが、この建物からは出ないでしょうから大丈夫です」
あ、そうなの? そう、それならいいわ。無益な殺生は良くないからね
それでも私が物珍しげに魔物を眺めているとフレデリックにやんわりと指摘された
「 石は見つかりましたか?」
あぁ!と私は思い出したかのように立ち上がり、先ほどの部屋へ戻り中に入った。中の光景を眺めて改めてゾクッとする、この部屋には所狭しと人形が並んでいた。 フランス人形のようにガラスのケースに入っているものもあるけど、朽ちかけた人形ほど怖いものはない。どの人形もこちらを静かに見ているように感じた
部屋に入ってわかったけど、人形の他にも布を掛けられた調度品がいくつも置いてあり、この部屋は北に面していて日光にも当たりにくいことから納戸として使用されていたのかもしれない
その中の一つの小さい布をめくると、そこにはガラスの宝石箱があった
開くと中には錆びれた貴金属が入っていて、そこからお目当ての石だけを取り出し、私は元の輝く姿に戻してあげた
再び宝石箱に布をかけ部屋から出ようとして、何となく部屋を振り返った。 調度品の中で人形だけに布がかかっていなかったのよね。もしかするとあの魔物の遊び相手なのかなと考えると、なんだかこの人形達も可愛らしく思えた
楽しかったお屋敷の探検も終わり外に出ると、フレデリックは建物にかけた魔法を解き、テラスに鍵を掛けた。この建物はいつか崩れるのだろう。そしたらあの魔物はどうするのかな
「 セナ様〜!!」
ターニャが元気よく走ってくる。 その姿は何度見ても可愛い
「 石は見つけることができましたの?」
私が「ええ、見つけたわ」と頷くと、彼女は満面の笑みを浮かべた。そもそも彼女にはあの廃墟に入ること自体、とても勇気がいることだと私を褒め讃えた
「 疲れましたでしょう?あちらの丘の上に昼食をご用意致しましたの、御休憩なさって!」
行きましょう!と小さな手が私を引っ張る
確かに疲れを感じた。
私は丘を見上げ、昼食のメニューは何だろう?と思ったのを最後にスゥッと目の前が暗くなり草原に崩れ落ちた。薄れゆく景色の中でターニャの悲鳴にも似た叫び声を聞いたような気がした
こんな小さな子に、心配させてはいけない
大丈夫ターニャ …… 私は大丈夫だから ……




