32【丘の向こう】
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「 何を言っている、どうするも何もそこに石があると言うのなら、取りに向かうに決まってるであろう?」
馬の向きを変え、私に近寄りながらグレンは爽やかに笑った
その所作を見て、ああ、この人は学校とか職場にいたらさぞかしモテるんだろうなー …なんて場違いなことを考えた
顔良し!スタイル良し!しかも引き連れているのが白馬ってどんだけよ。 王子様なの!? いや騎士様か
「 どうした? 早く行くぞ!」
どうぞ、いってらっしゃい
ついそう言いそうになるのをぐっと堪えた。さっきまであんなに沢山の魔物を退治してたのにこの騎士たちはとても元気なのねー
「 セナ様?」
グズグズと動かない私を不審に思ったのか、少し前を歩くフレデリックが訝しげに問いかける
ハイハイ、わかってる。
行けばいいんでしょ?
渋々と私も自分が指差す方へと歩みを進めた
目指すべき草原を見上げると、それはなかなかの急勾配になっており、遥か先の丘の向こうに何があるのかここからでは確認することができなかった
なんか …… 旅って結構疲れるのね
自分はかなり体力のある方だと思っていたから
このずっしりとのしかかる疲労感に戸惑った。今朝はずっと馬車に乗っていただけだけど、車と違って振動があり、音も反響するからあまり会話もできない。それに慣れない環境で他人に気を遣い、目的地も想像がつかず、そこにきて魔物に襲われるかも分からないこの現状
そして石を集めることへのプレッシャー
冷静に置かれてる立場と状況を分析すれば、この疲労感は単純に体力だけの問題ではないのかもしれない。事実、一緒に行動してるサラ達は元気そうだった
先に馬で走るグレンとリュカは楽しそうだ
普段の騎士の仕事がどういったものなのか私は知らないけど、グレン達にとっては今回の私との旅は、いつもより楽な方なのかもしれない。って普段の騎士の仕事を何も知らないのにこんなこと考えるのは失礼か
あの丘を越えたら何があるのだろう? 石の気配は確かにあるから間違いではない。けど問題はそれに辿り着くまでの距離だ
今のところあっちにあることぐらいしかわからないのだ、更にどこまでも丘が続いてたりして…
そう考えると軽く目眩がした
どうか、どうか近くにありますように
丘を登りきったグレン達はしばらく私達の方を見下ろしてたが、やがてリュカの姿が見えなくなった。
彼は先に進んだようだ。という事は少なくとも崖や川というわけではなさそう。 私はホッと胸をなでおろした
うんせと歩きながら、私は以前観たこの世界と似たような世界を仲間とともに大冒険する映画を思い出した
観たのが随分と前なのではっきりとは憶えてないけど、小さな主人公は雪山や真っ暗闇の洞窟などかなり過酷な状況を旅してはいなかったか?
私はぶんぶんと首を横に振った
いやいやいや、あんな山とか絶対無理だし。 高山病になるんじゃないの? だいたいあの吹雪はダウンジャケットでも対応しきれないよ? …… 洞窟だって何がいるか分からないでしょう? ジメジメして気持ち悪そう。湿度的にお肌にはいいかもしれないけど、ああいう場所は私や花音ちゃんは無理だから奏太に任せるべきよね
それに比べたらこの草原なんてかわいいものよ?むしろ草原で良かったわ。 ほら、顔をなでる風が気持ちいい!見渡す限りの黄緑色の草花を眺めると …… 流石に飽きてきたわね
小鳥のさえずりだって聞こえてくるじゃない
仕事に追われていた毎日からは想像できない大自然を、今私は体験しているの!
そう、頑張ろう!丘を登りきるまであと少し! すでにグレンの姿もいなくなっている。 先へ進んだのだろう。 きっとそんなに遠くへは行ってないわ
言っとくけどコレはフラグじゃないわよ?「登りきった先には気の遠くなるような丘が続いていた ……」なんて展開を期待してるかもしれないけど( 誰が?)
甘いわよ!残念でした! 私の石アンテナはどんどん近くなってますから
さっきまで「1」だったのがもう「3」よ
バリバリにアンテナ立ってまーす!
なんでも受信できそうなくらいよ?
だから …… ね?
ホラ、石はすぐそこに ……
丘を登りきった私は目の前の光景を見て絶句した
確かに石はすぐ近くにあるのかもしれない …… けど
先に到着したグレンとリュカも馬から降りてそれを見上げていた
私たちの足元から今度は急勾配でくだった眼下には …
そこには、幽霊屋敷があった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 ほ、本当にこの中に入りますの? 」
サラが禍々しいものでも見るように、そのお屋敷を見上げるのも無理はない。それは完全な廃墟でありとても生きている人が住んでいるようには見えなかった
私たちも丘をくだりグレン達の近くへと辿り着いた。 遠目で見ても薄気味悪い家だけど、近くで見るとその恐怖感は一層迫力が増していた
入り口は幅二メートル程の石階段が90度の螺旋状となっていて、朽ちかけたアーチ状の門をくぐると進んだ先に入口と思える大きな扉が見えた
だけどお屋敷前の庭は荒れ果てていて、人が住んでいた時には美しく咲き乱れていたであろう薔薇たちも、網のように生い茂っていてまるで私たちの訪問を拒んでいるようだ。よく見ると庭の隅には噴水がある。 大理石の天使像は右半身が欠けてしまっていて、物哀しさを語っている
建物自体も相当の年月放置されている。庭の木が屋敷の窓を突き破り建物の中へと侵入してしまっていた
ここから眺めても、二階部分の三分の一は老築化なのか崩れて消失してしまい、残りの屋根部分だって、腐っているようで緩やかにたわんでいた
庭に無尽に広がる薔薇の枝は、その建物までをのみ込んでいて、廃墟らしさをさらに強調させていた
「セナ様…石は確かにこの中にあるのだな?」
私の視線と態度から察したのだろう。グレンの最終確認に私は力強く頷いた
けれどどう考えても今にも倒壊しそうなこの建物の中に入るのは危険行為だろう。 地震や台風が来たらあっさりとぺちゃんこになってしまいそうなほど老築化が進んでいる
「ならばどうにかして中に入らねばならないな。危険なのでしばしそこに居てくれ」
グレンはそう言ってリュカと共に建物の周囲を確認するため裏手へと回った。その間私は後ろに何歩か下がり、改めてお屋敷全体を眺めた。 どの角度から見ても正式な(?)お化け屋敷だ。私はさっきまでの疲労感がぶっ飛んだ
ちょっと、 きたわよ! 廃墟よ!
これってあれよね? そう幽霊屋敷!!
なんで誰も住んでないんだろうね? いやね? これだけの立派な建造物なんだから、相当な資産家さんが住んでいたんだと思うのよね。もしかして事業に失敗しちゃったのかしら? それとも最愛の妻を亡くした悲しみで当主が精神的に病んじゃって …とか!?
きっとここで私たちが想像できないような悲しい出来事が起こったのよ…
しんみりする所よ?
私は断じてワクワクなんてしていないから
でもね、でもね? みんなの憧れお化け屋敷じゃーん!
よく夏場とかのバラエティ番組でさぁ、数人の芸能人とかが真夜中に心霊スポットの病院とか倒産した観光施設に入るやつあるでしょう? 私あれ観るの大好きなのよね〜!
でもね?
撮影は夜だから見通し悪いし、テレビ映えしそうな場所とか、芸能人のリアクションばかりが中心で、あんまり細部までは映されないことにもどかしさを感じたことはないかしら?
そう、 私だって分かってる。視聴率ってものがある事くらい。 見所しか流さないのにはちゃんと理由があるのよね。じゃあ日中に廃墟に自分で行けば?とか思った人いる? そんなの行くわけないじゃーん!だってあんなのほとんどが私有地で立入禁止な場所なのよ? モラルってもんがあるでしょう? いろんな人に迷惑をかける事態になりかねないでしょう? 下手したら警察沙汰よ?
そういう場所は行っちゃダメ、 絶対に!
それがどういう訳か、いま私の目の前に建ってる
石があるから私は嫌でも入らなくちゃいけないしね!
大丈夫、これは公務なんだから!
見上げるお屋敷の二階の窓にはレースのカーテンが引いてあり、少し隙間が空いてる。そこには小さな女の子が哀しそうな眼差しでこちらを見下ろして …… はいないわね
えーん、早くはーいーりーたーいー!
中を隈なく探検したいわ。 でもそれにはちょっと崩れすぎかしら? 迂闊に中を歩き回って怪我をするのは遠慮したいもんね。 一体どんだけ放っとかれたのよ? せめて30年くらい早く出会いたかったわね
「ダメだな」
屋敷の安全性を確認していたグレン達が、フレデリックやサラ達の集まるところへ戻ってきた
腕を組みながら屋敷を眺めていた私も慌ててそちらに向かう
ダメって何が?
うん?早く入ろうよ
「裏手や建物の横など入り口は数カ所あるのだが、どこも脆くて無理をすると建物ごと崩れそうだ」
どうする?といった感じでフレデリックの方を見る。 フレデリックはその漆黒の目で建物を観察し、端然とグレンに向かってとんでもないことを提案した
「それでは、お屋敷を新築に戻しましょうか?」




