31【出ました魔物】
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尚、今回少しグロ系の表現が出てきます。
苦手な方はお控え下さい。
信じられない
一体どれだけいるのよ!
その気持ちの悪い犬のような生き物は、倒しても倒しても一匹が遠吠えをあげると、どこか林の奥から湧いて出てくる
それは私たちの国で例えるならパグとかブルドッグとかの見た目に似てて、でも全身の色が紫色をしている。 加えて二つの目がギョロリとお互いに違う方向を見るから、死角がないのか隙がない
大きな口からはダラダラと涎が流れ落ち、その付け根には鋭い牙がこの距離からでも確認できる
何より大きさが普通じゃない!
1メートルくらいあるんじゃない!?
一歩前に出てきたその魔物にグレンが剣を振り下ろす。剣の斬れ味は抜群で割とあっさり倒してはいるけど、次から次へと増えて来るからきりがない
今度は二匹同時に襲ってくる。 だけど一匹はグレンに喉を斬られ、もう一匹は脳天に矢が刺さっている。グレンの後方5メートルほどの距離にいるリュカは弓を構えていた。 彼の弓の腕は確かでどの魔物も確実に仕留めていた
「 何をもたついているのです」
フレデリックが不満げにフッと息を漏らした
彼は、私とサラとターニャの三人の周りにシールドのようなものを張り、その前で私たちを守ってくれていた
突如脇の方から一匹の魔物が私たちの方へ襲いかかってきた! 飛びかかった魔物は、あと少しの距離で鋭い爪のある前脚を振り下ろし、フレデリックの身体をズタズタにすることができたのかもしれない。 しかしフレデリックが冷たい視線で魔物を一瞥すると、人差し指で何か小さな物でも弾くような仕草をした
その瞬間、飛びかかった魔物は脚元の方から黒い粉なのもうなものを出しながら消えていく
いや、魔物が黒い粉を出してるのではなくて、魔物が粉化したのね! そう気がついた時にはその粉はハラハラとシールドの周りを流れ落ち、草の上へと落ちていった
魔物の咆哮が林の中に響いていく
また奥の方から加勢するように魔物がやってきた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
旅の目的地が決まってから、馬車は二時間ほどは順調に進んでいた。しかし、草原の向こうから何か大きいものがこちらに向かってくるのを見て、私はフレデリックに「 あれは何なの?」と尋ねた。私の指差す方向をフレデリックが確認すると、素早く馬車の前の方にある小窓を開けて叫んだ
「 グレンッ!左です!!」
その一言でグレンは事態を察して「 リュカ!!」と言いながら馬の向きを変えた。 リュカも遅れを取ることはなく「 ハッ!グレン様!!」と応え馬の向きをグレンにならった
続けてフレデリックは、秘密とでもいうように二本の指を唇へと当てて何かを呟やく。すると馬車が丸ごとフワリと宙に浮き、ゆるゆると進むのをやめた
完全に馬車が停止すると、フレデリックは私たちを見て「 降りましょう」と促し、私たちもそれに従った
馬車を降りると普通に地面に足が着くから、浮いたように感じたのは錯覚かと思ったけど、よく見ると馬車の周りにはまるでシャボン玉みたいな何か薄い膜ができている
三人とも馬車から降りるのを見届けると、フレデリックは馬車をしまい、自分はゆるりとその膜から出た
グレン達が少し先の林の方に向かってるのを見てフレデリックは諦めたように振り返った
「 あまり彼らと離れるのは良くありませんね。仕方がありません、私たちも行きましょう。出来るだけ私と離れないで付いてきてください。それにそのシールドからも出ないように注意して下さい」
そして、現在に至る
林の中で次々に現れる魔物を、私は呆然と見続けた。 魔物との初遭遇にただただ圧倒されるばかりだった
三匹が同時に襲いかかると、グレンが二匹を同時に斬るか、リュカが続けて二匹倒す。たまに剣でも斬られたのに矢でも射られる魔物がいたが、私にその魔物を可哀想と思える余裕は全くなかった
信じられる!? 魔物よ? 本当にいるのね。突然変異で大っきくなってラリってる犬じゃないわよね?
「 二人とも!いつまで遊んでるおつもりですか!?」
フレデリックが珍しく声を張って叫ぶと、グレンはこちらを振り返りニヤリと笑みを浮かべた
「 怒られたな!」そう無邪気に言い放ち剣を高く上げた。 次の瞬間、彼は呪文を唱え腰を落とし、漢字で「一」の文字を書くように剣を真横に振りきった。 その剣の流れと共に目の前が真っ赤に燃え上がり、炎がおさまった時には魔物は全て消炭となっていた
グレンは振り返るとこちらに来て、私たちに「 怪我はないか?」と尋ねるが、背後から何か拾い物をしていたリュカは口を尖らせていた
「 グレン様ずるい! 私だってとどめを刺したかったのに!」
フレデリックはシールドをはずすと咎めるようにグレンを睨む。グレンは片手を顔の高さまで上げごめんの仕草をした
「 すまないフレデリック。少し肩慣らしをしたかったのだ」
肩慣らし? アレが?
私は今まで熊に襲われたことも、猪に追いかけられたこともない。犬に追い回されたことだって一度もないわ。 改めてグレンとリュカの顔を見ても汗ひとつかいていない
本当に肩慣らしだったんだ
今更ながら、魔物がいる事実とこの世界の人が戦いに慣れていることに、異世界にいることを実感した
私たちは林に入り込んでしまったので元来た道へと歩いた。 またいつ魔物に襲われるかと気を抜くことができなかったけど、サラとターニャは隣を歩いていてヒソヒソと会話が弾んでいた。それは実に女の子らしいかわいい会話だった
「 グレン様の炎を操る姿を見るのはお久しぶりですわね!」
「 あら、前にも見たことがおありですの?」
「 ええ、各国で武器と術を競い合う大きな催し物が、前にラグドールで行われた時に」
「 あの大会ね! 私は見たことがありませんの。お父様にまだ早いと止められていて。グレン様は剣の技もお見事でしたわ!」
「 リュカ様の矢の腕前もお噂通りですわね!」
「 あの方も炎の術者ですの?」
「 いえ、リュカ様はスノーシュー王国出身でしょう? 氷の術者なのではないかしら?」
「 まぁそうですの…… それにしても、凄いのはフレデリック様!魔物を瞬く間に灰に変えるあの術は一体なんですの!?」
「 恐ろしいですわよね、私何が起こったのか全く理解できませんでしたわ」
「 そうなの?」
ここでようやく私が口を挟んだ。私からするとグレンが使った魔法もフレデリックが使った魔法も同じように凄かったけど、どう違うのだろう?
「 そりゃもう 」と二人が頷きサラが説明してくれる
「 セナ様も、グレン様が炎をお出しになったのはご覧になったでしょう? あの術は炎を出し相手を燃やして倒す魔法でございます。実際魔物は黒焦げとなって息絶えておりました。ですが …」
ここで一度言葉を止めて後ろを歩くフレデリックを振り返った。 彼は整った顔を崩すことなく無言で歩いている。少し離れているので、私たちの話す声は聞こえても内容までは分からないだろう
「 フレデリック様が魔物を倒す時に炎は見えましたか?」
「 あっ!?」
確かにそうだ、火はどこにも見えなかった
サラはそうなんですと頷くと更に言葉を続けた
「 火は見えないけど灰になる。これがどういうことなのか?それに魔物が灰になっていく間、魔物自体の動きが静止していた様にも見えませんでした? もしそうなら一人の人間が、二つの術を同時にかけるなんて並大抵の術者にはできません。それにあの時は私たちを守ってくれるシールド魔法まで施されていましたでしょう?」
なるほど。さすが魔導師長の為せる技といったところなのかしら。つまりフレデリックは三つの魔法を同時に掛けてたって事なのかしら?
サラとターニャは顔を合わせて
「「 素敵でしたわね〜〜!! 」」
と歓喜の声を上げている
私からするとサクサク魔法を使ってる、サラとターニャも充分凄いと思う
ようやく気味の悪い林を抜け(本当は爽やかな林なんだろうけど魔物がいたから怖く見えちゃうのよね)、馬車が通っていた道の方向を確認したところで私はぴたりと足を止めた
草原の奥の道とは反対の方向。そう、あの犬みたいな魔物の最初の一匹が走ってきた方向を目を細めて見る
私はため息をついた
「 ねぇ待って」
私の大きな声に、前を馬を引きながら歩いているグレン達が振り返った
「 ちょっと待って 。あのね、ええとあっちに石があるけどどーする??」
どうして私がこの時「どーする?」と言ったのか
それは後になって分かる事となる




