30【旅の目的地】
いつも読んでいただいてありがとうございます!
「 それで、行き先なんだが 」
ターニャの素性を知り、一旦ラグドール城に戻ろうかとグレンとリュカとフレデリックの三人でゴニョゴニョと相談していたが、ターニャが「私、ぜぇったいに戻りませんわ!」と言い張るので仕方なく旅は続行となった
私とターニャとサラの三人は、まっいいかと、これまで通りの関係でいこうということになった
食後の紅茶をターニャが入れて「 召し上がれ!」とカップをリュカに差し出すと、リュカは恐縮そうに頭を何度も下げていた
こういう世界もいろいろ大変ね
私だって自分の世界でいきなり首相のご家族や皇室の方々にお会いしたら、やはり狼狽えるのかもしれない。さっきまでの傲慢な態度が一変して低姿勢になったリュカを責めるのはよそう
「 それなのですが、シャルトリュー王国を目指してはいかがでしょう?」
チラリとターニャを見ながらフレデリックが提案する
「 私は自国にも戻りませんわよッ!!」
すかさずターニャは大きく叫んだが、フレデリックはそうではありません、と続ける
「 ここからソマリ王国に進むには、セイシェルワの森があります。魔物が強くなっているいま騎士団の一行と共に旅するならもとかく、このメンバーだけであの森を抜けるのは厳しいでしょう」
「 ではアスパングルド王国はどうだ?」
グレンの提案にサラが耳元で「 エルフ族の束ねる王国ですわ」と教えてくれる
なんと!エルフですって!?
それは是非一度お目にかかりたい!
しかしフレデリックはサラリと前髪を揺らして整った顔を傾ける。この人は絶対に目を合わせてくれない。 まぁこんなに綺麗な男性に直視されたらヤバいけど
「 アスパングルドでも構いませんが、あの国は他の民族に対して閉鎖的な面もあります。ターニャ様が仰っていた通り、シャルトリュー王国とラグドール王国の国交は極めて良好だと言えますから、旅をしていても比較的安全ではないでしょうか。それに民族のことで言えば、王国に向かう途中にあるミンスキン村はホビット族が束ねています。 彼らはとても友好的な種族と言えるでしょう 」
一同がなるほどと頷くなか、リュカが真剣な表情で身を乗り出す
「 シャンティリー湖はどうです?? このまま馬車でシャルトリュー王国へ行くには、シャンティリー湖を通らなくてはなりません。 あの場所は近年あまり良くない噂を耳にします」
良くない噂?? えー 何それ?
そうだな、とグレンも頷いて腕を組む
「 確かにあの湖は、怪物が出るとか幽霊が出るとか何かと気味の悪い噂が後を絶たないな」
「 えっ?だってターニャはそこを通ってラグドール王国まで来たのでしょう?」
不思議に思ってターニャに問いかけると、ターニャは苦笑いして答える
「 いえ、私はシャルトリュー王国の中のターミナルから、一気にラグドール王国まで転移しておりますので、シャンティリー湖は通ってないのです。 悲しいことですが確かにあそこは地元民でもあまり近づかない、不気味な土地となっておりますわね」
ターニャは少し目を伏せた
ふむ、 そんな所なら行かない方が良いのかもしれないわね
……………。
ねぇ、さっき誰かホビットって言わなかった?
ホビットってあの? 背のちっこい歌ったり踊ったりばかりしてるホビット!?って言うかね?? 湖には良くない噂? 幽霊?? やだもうッ!! なんていい響きッ!!
内緒にしてるけどさー ( 誰に?)
私はかなりのホラー好きだ。 ライトなものからヘビーなものまで映画も小説もどちらも嗜む。 もちろんゾンビものも大好きなジャンルの一つだけど、ミステリーだって嫌いじゃない
「 そこにしましょう?」
はっきり言って行きたい! エルフも捨てがたいけど、ホビットだっていいじゃない!!
この世界の危険な事とか全然分かんないけど、幽霊が存在するならこの目で見てみたい〜〜!!
私は一人一人の顔を確認するように見渡すと、決して邪な興奮を顔に出さないように努めて、極めてキリリとした眼差しで口を開いた
「 私たちはシャルトリュー王国を目指しましょう!!」
その言葉に反論する者は誰一人なく、全員が頷いた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
旅の目的地が決まり、それぞれが席を立つとサラがテーブルを片付け始めた
ふと、このままこの床に乗って移動はできないのかと聞いてみると、この宙に浮いた床は可動式ではないらしく、ましてこれ以上高い位置には設けられないようで、空飛ぶ絨毯とは全く異なる物のようだ。
ターニャは私の質問にケタケタと笑い、進んだとしても物にぶつかっちゃうし、第一格好わるいと嘆いていた
そうか、そういうもんなのね。 今ひとつ魔法のルールが分からないわ。 うーん、魔法って深いのね
学校の成績は悪い方ではなく、むしろ私は優等生の部類に入っていたと思う。 もし私がこの世界の人間だったら、どれほどの魔法が使えたのだろうか? それはそれで楽しかっただろうな、とクスリと笑ってしまう。ふと顔を上げると、フレデリックが道路に馬車を出していた
おっといけない!
ゾンビの運転手を見逃しちゃいけない!
こうしちゃいられないと私はいそいそと馬車の前方へと回り込み、シルクハットに制服姿の運転手の顔を恐る恐る見上げた
はぁ? 何これ!?
馬車の運転手はマネキンのようなものでできていて顔はのっぺら坊。 どこをどう見ても血の通った人間には見えない。 それに馬車を引いてくれる馬も煌びやかな衣装を装着しているから気が付かなかったけど、よく見ると本物の馬ではなかった
あっ、そう言えば!
馬に餌をあげてたのはグレンとリュカの馬だけで、馬車の馬はそのまま片付けられていた。馬車の運転手に気を取られてそんな事にも気がつかなかった
「 ねぇ、生身の人や馬は、馬車やテーブルみたいにしまえないの?」
異世界から来た私からすれば本当に素朴な疑問なのに、質問されたフレデリックは露骨に怪訝な顔をして「 なんて恐ろしい事を」と呟き馬車に乗り込んでしまった
え〜? 私そんなに酷いこと言った? やっぱり魔法は難しい
まぁいいか。二週間しかこの世界に居ないんだし、旅の恥はかき捨てって言うしね? と私も馬車に乗り込んだ
サラとターニャが馬車に乗るのを確認すると、馬に乗った騎士達はお互いの顔を合わせ馬を走らせた。 それに合わせて馬車もガタンと動き出す
動力や理屈は全然分からないけど、もしかするとグレンやリュカの馬に合わせて進むような仕組みになっているのかもしれない
馬車の窓から外の景色を眺める
草原はどこまでも続いている
今朝まではずっとお城の中にいたのよね
皆にもそれぞれ故郷があり、この世界も私たちの世界のようにとても広いようだ
たった二週間で、私はどれだけこの世界を知ることができるのだろうか
「 あっ」
窓の方を見たまま私は小さく声をあげた
「 オランダだ」
そう、チューリップと風車の国はオランダだ
じゃあポーランドには何があるの?
元いた世界に戻ったら、少しあの国について調べてみようか。目に優しい緑の景色を眺めながら、私はそう思った




