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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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23【捜索】

城の中腹にあるこの広間には大勢の人が集まっているにもかかわらず、その空気はピンと張り詰めていて、いまや口を開く者はだれひとりとしていなかった


あの正体不明の男が庭の奥へと消えてから二時間ほどの時が経った。広間には私以外に奏太と花音ちゃん、おのおのの侍女たち、王様や長老、そして部屋の中と外の両方に、騎士団と魔導師が警備隊として守りに徹している


また同時にグレンなど騎士団長たちは数人の部下を連れて、正体不明の男の捜索に駆り出されていた


グレンの指揮は迅速かつ的確だった


あの後『また会おう』なんて物騒なことを言われ取り乱した私を安全な所へ移すと、即座に隊員を集め手短に状況を説明した。そしてそれぞれが指示された役を全うするために俊敏に動いた


そして事態を重く見た王様や長老たちも広間へ集まり、ことの顛末を私は細かく皆に伝えた

男の特徴や起こったこと、会話などを出来るだけ正確に伝えたと思う。王様たちは初めは何かボソボソと話し合っていたが、そのうち広間には重い沈黙が広がった


「 セナさん、その男の人ってグレン団長さんの知り合いではないんですか?私達に関係あるのかなぁ」


花音ちゃんがコッソリと話しかける

彼女もこの部屋の重々しい空気に耐えられないといった様子だ


実際にあの男に会ってなければ、あの底から這い上がってくるような恐怖感は伝わらないだろう

早く部屋に戻りたいのかもしれないけど、私はあの男性が捕まるまで一人になるのが怖かった


「 さぁ…男の人は団長さんの名前も呼んでたから知ってる風だったけど、団長さんの方は全く知らない感じだったと思う」


あの会話は二人が前にもどこか別の場所で会っているように受け取れた。 尋ねてよいのか迷ったが、沈黙に耐えられず私は王様に向かって質問した


「 あの …… バーミーズ …… マウンテンてなんですか?」


私の質問で、王様だけでなく騎士や魔導師たちにも動揺が走った。どこかの山の名を口にしただけなのにこの皆の恐怖に怯えるかのような態度には、質問した私の方が驚いた


テラスに来た男が口にしたのは確かそんな山の名前だった。聞いちゃいけなかったのかしら


気まずい空気が流れ、誰も答えないので王様がやれやれと重い口を開いた


「 バーミーズマウンテンは、この世界の最北端にそびえ立つ山だ。 その山には塔があり、その塔には石が納められている」


それから物憂げそうに私や花音ちゃん、奏太を眺めて付け加えた


「 いまや納められていた …… と言うべきか」


ということは、私たちの集めなくてはならない石が納められていた山ってこと?

会話の流れから私はそう受け取った。王様も続けてそうである事を説明してくれる


「 昨日そなたたちが見た石は、その塔に残されていたものだ。先日騎士や魔導師たちがそこから持ち帰った物だ」


王様はひと言ひと言噛みしめるようにそう言って頷いた。 それがあの男とどう関係があるのか更に詳しく尋ねたかったけど、何故か踏み込んではいけない様な気がして、それ以上は尋ねることが出来なかった。

そのうち扉の向こうから騒々しい音が聞こえてくる。


「 失礼します!!」


入ってきた先頭はグレンだった

なんとなく彼の無事な姿を見てホッとしてしまう


続いて奏太や花音ちゃんの護衛をしている団長達も入ってきた

彼らは王様の御前まで来ると恭しく跪いた


「 ご報告します。 城内総てを捜索しましたが、怪しい男の姿は確認できず、どの衛兵に確認しても侵入経路を特定することはできません。やはり転移で侵入したのではと推測いたします。また現在は警備を強化し、衛兵以外に騎士団の増員と各地点に魔導師も配備してございます」


「転移」と聞いて皆がざわつく

王様も「 なんと!それは誠か! 」と呻くと黙り込んでしまった


すると今度はオーティスが慌てた様子で「フレデリックは何をしておるのじゃ!」と少し咎めるような口調で近くの魔導師に尋ねた


フレデリックって、あの超絶美形な魔導師さんよね? そういえばさっきから沢山の魔導師らしきローブ姿の人達が集まってるけど、その中に彼の姿は無かった気がする


魔導師は言葉に詰まり返答に困っていると、代わりに王様がその場をおさめた


「 よい。 男の城への侵入が転移ならば、この城の結界は既に破られているということだろう。 結界の強化は可能か??」


「 そうじゃな …… 急ぎ結界に携わった魔導師らを集めよう」


オーティスが頷いて部屋を出て行きながら「 全く!フレデリックはこんな時に何処をフラついておる!」と悪態を吐きながら広間から出ていった


彼がいなくなると、今度は奏太が立ち上がった


「 僕たちに何かできることはありますか!?」


私はその言葉にびっくりした

ええッ!? この状況で?

魔法なんか出されたら私達なんか一捻りじゃないの? 出来ることなんて一つも無いでしょ


「 いかんいかん!そなたたちに何かあっては一大事だ。安全が確保できるまでは、部屋で待機するのが良かろう。魔物たちには指一本触れさせん」


王様の優しい言葉に花音ちゃんが大人しく頷く

私はグレンをチラリと見ると、彼はこちらを見て小さく首を横に振った

王様は今度は私に視線を移した


「 セナ殿、謎の男の言葉通りならば、貴女は特に注意をせねばならん」


そして王様は騎士にも注意を向けた


「 ハッ!セナ様は必ず私がお守りいたします」


グレンはそう王に誓った


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「 バーミーズマウンテンまではどのくらいの距離があるの?」


私は石の廊下を歩きながらグレンにそう尋ねた

だけど彼は振り返らず答えもしない

広間を出てからの彼は、いや、男が侵入してからの彼はピリピリした雰囲気を纏っていてとても話しかけにくかった


サラとターニャは夕食の準備をするために食堂へ向かった。残念だけど男の侵入騒ぎで花音ちゃんたちとの夕食会をする雰囲気ではなくなってしまった。

私とグレンは先に部屋へと戻るところだった


質問が聞こえなかったのかと思い、私はしつこくも今度は大きな声で同じ事を尋ねると、彼は石階段を登ろうとする足を止め身体ごとこちらに向けた


「 どのくらいの距離とは何です?」


端正につくられた顔を歪め、その吐き捨てるような言い方に戸惑う


「 山までの距離を聞いてどうする? まさかそこに行こうとでも言いたいのか?」


うわッ! めっちゃ怒ってる

だって石が祀ってあった場所なんでしょう?

私が興味を持ってもそんなにおかしくはないじゃない


「 貴女が行ってどうする!? 行ったところで貴女には何もできない! 何もできやしないのにッ!」


中途半端に口を出すなってこと?

恐らくだけど彼はそう言いたいのだろう

今回の侵入者のことは、それほど大事だったのか、もはや勇者としての敬語など彼の言葉には存在しなかった


会話を続けるのは気が引けたけど、聞かなくてはならないことはまだあった

私は睨みつけるグレンを正面から見返した

 私だってアレコレ詮索したい訳じゃない。でも興味本位だけで知りたいわけじゃない

召喚された者に使命があるのならば、状況を把握できないまま従うのは性分に合わなかった


「 転がってるって何?」


彼の片眉がピクリと上がる

これは多分だけど、グレンが一番聞かれたくない事だろう。それでも私は彼に言葉を投げつけた


「 あの男はあなたの部下と言ってたわ。転がってるってどういうことよ!? 私には関係のない事なら話さなくて構わないけど、とてもそうとは思えない! 待機してる間も王様もお爺ちゃん達も何も教えてくれないし、あなたも肝心なことは何も話さないじゃない!あなた達がこの世界に私を連れてきたのよ?私は既に当事者なんじゃないの?? だったら隠さないでちゃんと話してよッ!」


わざわざ言わせなくても何となく想像はできる

だけどちゃんと彼の口から説明が欲しい

本当にこの恐ろしい想像が当たっているのか


グレンは片手で自分の顔を覆い、体を石の壁に寄りかかった。話すべきか迷ってるんでしょう?

話さないならそれでも構わない、その代わりそれなら私だってあなた達には一切協力しない


あの男は私に用があったような気がする

でも私はあの瞬間の出来事が怖かった

何も事情を話してもらえないなら、私は今すぐにでも元の世界へ帰りたい


やがて彼は冷静さを取り戻すと、その手で金髪の髪をゆっくりと搔き上げ、覚悟を決めたように私を見下ろした


「 分かった …… 全てを話そう」

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