20【グレンの乙女心③】
一体どこへ行ったのだ?
そして一体どれだけ待たせるのだ?
あの女はどれだけ私をイライラさせれば気がすむのだ!?
召喚式から一夜明け、正午前に他の団長らと話し合った結果、勇者達にこの国の雰囲気に慣れてもらおうと、城下町を案内してはどうかとの意見が出た
ならばさっそく勇者達に了解を取らねばと、私達はそれぞれに護衛を任された勇者の部屋へと向かった。しかしセナ様の部屋からはどれだけノックしても返事はなく、安否確認も含め仕方なく部屋を覗いてみたが不在だった
では先に他の勇者達はどうかと担当の騎士に尋ねてみると、ソウタ様は二日酔いでつぶれていて、カノン様も不在との事だった
ならば食堂に行っているのでは? と思い足を運ぶが見当たらず、その他思い当たる部屋を探すが見つからない
こんなことなら、昨夜から部屋の前に警護の騎士を設けるべきだったと、自分の甘さに猛省した
私自身やるべき任務も少なからずある。その用事を済ませた時に、宮廷で働く者から妖精の庭で見かけたと情報を得ることができた
まさか庭で食事をしているとは思いもよらず、全く見当違いな場所を探していた自分にも腹が立ち、急いでその場に向かったが人っ子ひとりいなかった
途中ソウタ様にお会いしたので、街へ行く話を振ると、今夜も飲み会があるから体力を温存したいと、訳の分からぬことを言っていた
お前は一体何しにこの国に来たんだ?
そして、庭園にいないのなら部屋に戻ったのであろうと、セナ様のいる塔に向かい扉をノックするが、やはり返事がない。深いため息が漏れる …
仕方なく踵を返そうとしてはたと止まった
またすれ違いになるのではないか?と
この城はその広さと複雑な造りでも有名である
時刻は15時を回ってる
夕食まではまだまだ時間があるし、また探し回るよりはここで待った方が賢明なのではないかと考えた
塔の石廊下には等間隔に窓があり、私はそこから外の景色を眺めた
ここ数日、平和だった世界がガラリと変わった
私は占いなど信じていなかったが、今回の事で少し考え方を変えるべきなのかと痛感した
占い師の言ったとおり、塔の上の石は粉々になっていた
そして、あの部屋の奥から出てきた魔物 ……
思い出すだけで背筋に嫌な汗が流れる
あのタイミングでフレデリックが転移をかけてくれなかったらどれほどの被害が出たか想像もつかない
いや…そもそも自分も生きて帰れたか自信がなかった
魔物たちはなぜあれほど増え、つよくなったのか。その為に魔力も回復薬も予想より早くなくなった
しかし体力が全開だったとしても勝てただろうか?
最初の一撃で、私は左腕をもぎ取られ左目を失った。城に戻り魔導師達の治療で今は元通りとなったが、もう少し処置が遅ければこの様には戻れなかったであろう
「 クソッ!ジャスパー …」
今回の視察で、私は自分の部下を何人も失った
それを思うと胸が痛むが、魔導師フレデリックの胸中は計り知れない
もちろん人の命に差はない
だがジャスパーはフレデリックの唯一心許せる友であり、幼少の頃からの幼馴染だ
このラグドールで、あの気難しいフレデリックにあそこまで物怖じせず言えるのはジャスパー以外にはいなかった
何よりジャスパーは魔導師としても最高クラスだった。フレデリックほどではないが二人で同時に繰り出す魔法はその威力もケタ違いだった
我々が撤退できたのも、彼が盾となってくれたからだということは充分理解していたし、それが故に辛くもあった
そしてフレデリックがギリギリの所で転移をしてくれたこと。皆の命を救ってくれたことの礼を言いたかったが、あれ以来フレデリックは私と目を合わせようとはしない
いや、彼は心を閉ざし物事のすべてから背を向けてしまったように感じる
これからどうしたらいいものか …
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれからかなり時間が経った
やはり戻って探した方が良かったのだろうか?
カサリと音がして、ハッと顔を上げると音を立てた正体は窓枠に止まった鳩だった
はぁ、と深呼吸をして壁によりかかる
そして今度は昨晩の事を思い返す
あの後、庭を隈なく探したがあの女性を見つけることはできなかった
草木はあるとはいえ、他の庭園と比べれば小さな庭だ。隠れてもそう姿を隠せるものではない。 庭を抜ける小径は一本でありそこには私とリュカがいた。 私たち二人の目をすり抜けて宴会場へと戻ったのか? いいやそれは無理だ、ましてあの白い服だ、絶対に気がつくはずだ
では彼女はどこに消えたのだ?
昨夜から同じ疑問が何度も何度も頭の中を巡り、明確な答えが出ないままでもどかしい
なぜか分からないがもう一度あの女性に会いたいと思った
あの女性は本当に美しかった
単に美しいというだけじゃない。 声や話し方、漂わせる雰囲気の全てが興味をそそられた。 今日まで生きてきてこれほど心が惹かれることはあっただろうか?
どこかの貴族の娘なのだろうか?
うーむと考えていて、ハッと目を見開く
本当に生きている人間だったのだろうか?
いや…そうだ、そうかもしれない。
確かにあの妖艶な気配は生身の人間が出せるものではない。これだけ歴史のある城なら、霊の2〜3人いても何もおかしくないのではないか?
だとしたら
だとしたら、もう二度と会えないのかもしれない
心にじわじわと絶望感が広がっていく
神様、別に幽霊でも構わない
自分でも不思議だがただもう一度、もう一度でいいから彼女に会いたいと願った
その時、廊下の奥の階段の方から軽快な足音が耳に届いた
やれやれ、漸く戻ってきたか
ご機嫌だな、鼻歌まで歌っている。人を散々待たせといて、何がおかしいのかクスクスと笑い声まで混じっている
何時間も待たされ、私のイライラは頂点にきていた。丸メガネは曲がりなりにも勇者様だ。あまり感情を表に出し過ぎてはならなが、怒りを面に出さずにいられるか自信がなかった
しかしあまり冷酷な対応をしてまた「帰る」とも言い出しかねない、私はやれやれと息を吸った
私はセナ様が廊下を曲がってくるのを身構えた
叱り飛ばすつもりはないが、もう少し危機感をもつよう諭さなくてはならないと考えを巡らせた
彼女の姿が見える
そこには昨晩の庭で会った女性が立っていた
確かに幽霊でも構わないとは言ったが、これはあまりにも残酷な仕打ちではないだろうか




