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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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14【グレンの乙女心②】

そろそろ日付けが変わる頃だろうか


ずいぶん暖かくなってきたとはいえ、真夜中の外気はまだ肌寒い

勇者召喚を祝う宴はつつがなく終わりを迎え、会場に残る者はだいぶ少なくなってきた


会場の一画でワァワァと騒いでいる集団を眺める。

7〜8人はいるだろうか? その中心には異世界から来たソウタ様がいて、本日何回目かの乾杯をしている。こちらの国の者と異世界人とでは、どちらが酒が強いのか?と言い合いになり飲み比べをしているのだ

とはいえ皆が楽しそうに笑っているので、ケンカ腰というわけではない。「人懐っこい奴だな」と素直に思う。実際話していても、とてもハキハキして気のいい人柄だ。この国に残ってくれて本当に良かった


もう一人の勇者であるカノン様は、王様や長老達とは話をしていたが、その後は侍女とばかり話をして、食事が終わると早々に部屋へと戻ってしまった

まぁいきなり知らない国に召喚され、辛い選択を強いられ疲れも出る頃だろう。そういえば最初にこの国に残ると決断したのはあの少女だ。それはとても勇気ある行動だと言えよう


三人目の勇者が何故宴に出席していないのかと、かなりの者から言われた

正直に気分が優れないそうだと伝えると、やれ医師を呼べとか様子を見に行けだとか、あれは完全に仮病ですとも言えず、イライラした感情は膨らむばかりだった


まったく、明日からの自分の任務を思いやると酒が苦くなる。


サァッと風が吹いて、会場の外にある草木がさわさわと揺れる

私は石段をゆっくりと降りた


正直宴はあまり好きではない


剣を交じ合わせる友と交わす酒は好きだが、こういった席では必ずといっていいほど「恋人はいるのか」「結婚はまだか」そんな話ばかりで辟易する


そう質問される度に、手元の酒が無くなったふりをして新しい酒を取りに行くので、たいして飲みたくもない酒をずいぶんと飲むはめになる


石段を降りきると、そのまま庭園へ続く石畳みをふらりと進んでいく


今夜もかなり飲みすぎたようだ。冷たい風が心地いい


今まで何人かの女性と付き合った事はあるが、結婚をしたいとまで思えた女性など一人もいなかった。

そもそも何故か付き合いは長く続かない


私は自分で自分の事を決められなかったり、すぐに人に頼ろうとする者は苦手だが、女は特にそれが強いような気がする。では儚くか弱いかというとそうでもない。なかなか図太かったりする。

そうなると、もうどう扱って良いのか分からなくなった


樹々の間を抜け、美しく手入れされた庭園へと入って行き、冷たい夜風がサラリと髪を流すのを心地よく感じながら思いを馳せた


この先、私が心から愛せる女性に出会うことなどあるのだろうか…


そしてふと、いま自分がいる場所に意識を戻した


庭園の奥は会場の灯りがほとんど届かないが、青白い月明かりで今夜は遠くまで見通すことができた

右手には城から続く塔があり、何となくそれを見上げ眉を顰めた


こんな所まで来てしまったのか

この塔の上は、自分の護衛すべきセナ様がいる部屋がある。部屋の灯りが消えているところをみると、今夜は大人しく寝たようだ


夕食はどうしたのであろう?

侍女を適当に選んでしまったが、だいたいどの侍女がどんな感じなのかなんてよく知らない

たとえ数日しかこの世界に滞在しないとしても、最高のもてなしをするのが礼儀であることは重々承知していたが…

自分らしくない選択をしたことに今更ながら自分が分からなくなった


何だか全てが面倒だ

まあ、自分の事は自分でやるみたいなこと言ってたくらいだ、どんな侍女でも大した問題ではないだろう


この国の最高位の騎士まで登り詰めたが、別にその地位に固執はしてない


塔の窓を見上げたまま心の中でそう呟くと、いつのまにか前方に誰かが立っていた


あれは…… 女か?


こちらに背を向けてることと灯りがないことで不明瞭ではあるが、長い髪と膝下までの白いワンピース姿で女性だと分かる


彼女も宴の会場から出て来たのだろうか?


もしかしたら灯りがないから道に迷ったのかもしれない。だとしたら会場までお連れしなければ …… と近づくが


なんだ? 裸足か?


その女性はよく見ると、足には履物がなく剪定された芝生の上に素足で立っている

どうやら彼女は月を見上げているようだった


しばらくそのまま様子を伺っていたが、全く動くそぶりがない。仕方なくこちらから声をかけることにした


「 こんな夜更けにいかがなされました?」


できるだけ相手を驚かさないよう丁寧に声を掛けたつもりだ。しかしその女性は私の問いかけには答えず、ただひたすら月を見上げたままだった


「夜風はお体に障ります、建物の中へ戻りましょう」


そう声をかけながら彼女の隣に並び、さりげなく顔を確認する

そして私は息を飲んだ


白磁のように白い肌、月明かりのせいか真っ直ぐに伸びた黒髪は少し青みを帯びている。高い鼻筋は女性の凛とした表情を創り、整った眉は知性を感じさせる。憂いを含んだ切れ長の目は、隣にいる私など全く意に介さない。慈しむような眼差しで月から視線を外さなかった


何故だか理由は分からないが、私は急に不安になり心細くなってきた

 なんとかして、この美しい人の注意を自分に向けたいと思うが、どうしたら良いのか分からずそのまま動けずにいた


「 月が …」


永遠にこの時が続くのではないかと思えたが、突如その女性が口を開いた


「 月がニつ ……」


薄い可憐なその唇は、女性に上品な印象を与える。その唇から初めて自分に向けての言葉が発せられた事に、胸が熱くなるのを感じた

いや、女性の視線は変わらず空を見上げたままだ。もしかすると独り言なのかもしれない。

 だとすれば会話が成り立つよう何か気の利いたことを言わなければ…


「 そうだな …… 月はニつある……」


違う、こんな事を言ってどうする

当たり前のことを言ってしまった

 今日は快晴だったから今も雲一つないすっきりとした夜空だ。当然二つの月は何にも邪魔されることなく明確に見ることができる

何か言葉を続けなければ …… そう焦っているとその女性は月を見上げるのをやめた


「 貴方はどっちの月が好き?」


今度こそ間違いなく彼女は私の方を見て囁いた

なんのかげりもない無垢な笑顔とは裏腹に感情が全く読めない


「 私か?私は ……」


 どちらの月が好きかなんて、そのようなこと今の今まで考えたことがない。どちらが好きだと答えれば、この女性を喜ばせることができるのだろう。それとも、この場合どちらも好きだと答えるのが正解なのか?


その時背後から大きな声が響き渡った


「 グレン様!!こちらにおられますかー?グレン様ー!」


あの声は私の部下であり、自分を探している

永遠とも思える不思議な時間を邪魔されたことに落胆し、一瞬迷ったが彼女から視線を外すと、自分の名を呼ぶ部下の元へと向かった


「 リュカ! 静かにしろ! 一体今を何時だと思ってる」


「 あっ!グレン様〜!! やはりこちらにいましたか! みんなが部屋で飲み直そうって言ってますよ! グレン様もご一緒にいかがですか?」


リュカはニコニコと笑っている


「 わかった、あとで行くから先に戻ってくれ!」


今はそれどころではない、と背後を振り返ると、そこには月明かりに照らされた美しい庭だけが残り、あの美しい女性の姿は忽然と消えていた

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