13【憧れの浴室】
「 セナ様、風邪気味と仰いましたがご入浴はいかがいたしましょう?」
すっかり空になった食器をミニキッチンへと運びながらサラが振り返る
お風呂かぁ
実はお風呂のことはさっきから気になってたのよね。 ほら! こういったお城とかだと、ものすごい大浴場で侍女達に体や髪を洗ってもらうシーンとかよくあるでしょう?
えー ? この子達に洗ってもらうの〜??
それは無理よ〜。せめて1人で入りたい
私が返事に詰まってると、離れた場所から大きな声がした
「 えっ! 入らないのでございますか?? もうお湯張っちゃってますよ〜?」
ターニャが部屋の奥から袖まくりしながら戻って来た
「 ええっ!? お風呂ってこの部屋にあるの??」
「 ございますよ!すごい浴室ですわ〜!! お部屋に専用のお風呂があるなんて!このお城の中でも数部屋しかないんじゃございません??」
ターニャの言葉にサラが我慢できない様子で「私も見てこよう!」と浴室らしき方へ向かう
もちろん私もそれについていく
部屋の奥には、金色の花唐草模様で作られた金属製のつい立があり、その向こうに更に短い廊下が続いていた
近寄ると、廊下だと思った空間は洗面台や棚、椅子などが置かれているので、ここは洗面所のようだ。洗面所の突き当たりにはトイレがある
てことはその手前の扉が浴室かしら?
どれだけ広いんだと私はその扉を開けて中を覗き込んで絶句した
「 なっ! …… 信じられないッ!!?」
床は桜色の磨りガラスの様なタイルが貼られていて、その縁取りは純白のタイル。壁には金色の柵のある暖炉、そして、シルバー製?の鏡が二箇所にあり、壁は床よりもっと淡い色のピンク色。壁から出てる白板の棚は二段あり、上段にはラベンダー色のバスタオルとフェイスタオル、下段には様々な形のガラスの容器がいくつか並べられている
そして…私はペタンと床に座り込んだ
神さまありがとう!
生きてて良かった!!
浴室の半分あたりの天井からは、床や壁と同じく淡いピンク色のカーテンが下がっていて、その向こうに鎮座しているのは、丸みを帯びた舟形の白い陶器製のバスタブだ。金色の猫足が四隅についている
そのバスタブにはなみなみとお湯が張られていて、温かい湯気が立ち上っていた
「 セナ様!? 大丈夫でございますか?やはり今夜はお風呂を控えた方がよろしいのではございませんか??」
座り込んだ私をみて、サラが心配そうに覗き込む
いやよ!!入る!!
絶対入るわッ!!
たとえ40度を超える熱があったとしても!
こんな経験2度と出来ない!
ずぇったいに入るわッッーーー!!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いやぁ〜
そこからの展開は速かった
サラとターニャに、お風呂の使い方や用意してもらった服の着方を教えてもらう。クローゼットにある服などもついでにざっくりと教えてもらった。服はデザインはともかく、着方は元の世界とほぼほぼ変わらないから大丈夫
お風呂はガチで魔法を使うのでかなり驚いた
まぁでも蛇口を捻ればお湯が出るし、魔法と言っても入浴中に必要ではないから、これも問題なかった
侍女のお仕事内容や、勤務体制など簡単に質問して、明日の朝食時間なども話し合った
部屋の灯りは全て蝋燭なんだけど、魔法を使わなくても付けたり消したりできるよう教わり、ミニキッチンの使い方などサラリと聞いたら、二人には「今夜はもう休んでね 」とお願いした
すると二人とも、侍女のお務めは消灯までと言い張ってきかない
「 慣れない異国で気を張ったので、今夜は早めに一人になりたい 」といった旨を伝えると、渋々ではあるが承諾してくれた
二人が部屋を出るときに、私は改めて彼女達に礼を言う
「 今夜は本当にありがとう。祝宴を欠席した時点で夕食は諦めてたし、お風呂も入れると思ってなかったの。サラとターニャのおかげでこの国に来て良かったと思えたわ」
一瞬二人は目を輝かせて嬉しそうな表情を浮かべたけど、すぐにお互いが目を合わせた
サラが少し目を伏せて声のトーンを落とした
「セナ様、実は私たちは侍女のお務めをするのは初めてなんです」
うん? それが何か??
詳しく話を聞くと、今回の召喚式で、私たち三人の勇者にはそれぞれ二人ずつの侍女が付く事になったらしい
誰もがその役をやりたがったけど、他の勇者の侍女に選ばれたのは侍女歴10年超えのベテランさんであり、自分達が任される事は絶対にないと思っていたそうだ
それがまさかの大抜擢!
選ばれたのは嬉しいけど、今度はちゃんとお務めが出来るか不安でいっぱいのようだ
サラはキリッと私の方に背を伸ばす
「 私たちは経験が浅く至らない点は多いかと思いますが、ご指名をお受けした以上、精一杯努めさせていただきます。どうぞよろしくお願い致します!」
そう言うと深々と頭を下げ、ターニャもそれにならった。
「 二人とも顔を上げて」
私は彼女達が頭を上げるのを確認すると、自分の正直な気持ちを伝えた
「 お互い生まれ育った場所は違うけど、こうして一緒にいられるのも何かのご縁だと思うの。この国の事で分からない事は教えて欲しいけど、あまり畏まらずその他のことは一緒に楽しみたいわ?お友達といる時みたいに。それじゃあダメかしら?」
ターニャはきょとんとしていて、サラは返事に困っている。
「 もちろんお互いの立場とか、周りの目はあると思うから、三人でいる時しかそうはできないかもしれないけど。…… 嫌かしら??」
サラとターニャはお互いに視線を交わし、再び私を真っ直ぐに見ると元気よく答えてくれた
「「 ハイッッ!!! 」」
ついでに侍女を選んだのが誰だったのか尋ねると、それは各勇者の護衛になった団長だそうだ
二人がキャッキャと笑いながら廊下の先に消えて行くのを見届けると、私はそっと扉を閉めた
「ふぅん、なるほどね」
私の侍女を指名したのは、あのグレンて騎士のようだ。花音ちゃん達にはベテランの侍女をつけて、私には不慣れな侍女を?
もともとてきとうな性格なのか、それとも他に理由があるのかしら?
私は部屋を出て行く時の騎士の顔を思い返した
侍女達の間でも違和感があるのなら
それは故意を疑ったほうが良いのかもしれない
そう思うと、異世界旅行の楽しい気持ちがまた少し沈むのだった




