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【 ローファン連作短編集 】

誘拐疑惑で死刑が確定したテイマー

作者: 塩谷 文庫歌
掲載日:2026/10/16

1人ひとつの【神の恩恵】を授かる、人類。

しかし、俺のテイムには回数制限があった。

テイマーとして致命的な1度きりの制限が。

それでも。

奮励努力で1番凄い魔物『魔王』をテイム!

が……魔王様、テイムされた自覚は、無い。


転生14年目、魔法学園中等部の女生徒だ――

 初日に逮捕されて、近々王立裁判所で無罪を主張するのだが、証拠書類の1つ目『鑑定書』が作成できない。レベル9999(カンスト)の俺を鑑定できる、レベル9999(カンスト)の【鑑定士】がいないのだ。擬制自白が成立して敗訴確定、近日中に未成年者略取・誘拐罪で死刑になると、弁護人に言われた。


 一発でテイムしようと、実績を積み上げてきた。

 それが完全に裏目に出てしまった。


 提案されたのは、司法取引。

 3柱存在する、魔王の討伐。

 達成条件は『北の魔王』が持つ遺物欠片(オーパーツ)の回収。


  ズッ ドーーーーーォオオン!!


 そんな経緯で、中央諸国を北へ向かって漫遊中。


  ドッ ゴーーーーーォオオン!!


 道中の魔物は、魔王様がAoE(範囲攻撃)を連発して掃討。

 辿った軌跡はクレーターだらけ、後々クレームが恐いが、無実を証明するために先を急ぐ旅。前だけ向いてズンドコ進んでいく魔王様についていく。


 ギィイイィ  バタン。


「 う 」


 その快進撃が、『見た目は子供・頭脳は大人で、迷宮なし』のアイキャッチ的な音と共に、ピタリと止まった。むしろ我々は迷宮入りしている。


 ここは遺跡に入ってすぐの小部屋。

 黄緑色に光るコケが石壁に繁殖し、意外に明るい。


「ん~、むむむー! ぷはぁ。 ……ダメだこりゃ」


 問題は、二人で入った瞬間バタンと閉じた鉄扉。押しても引いてもビクともしない。実は引き戸で横方向に開閉というオチでもないらしい。



 まいった、これは困った。

 ここは、トラップルーム。

 探索者を脱出不能にする、死の罠。



「まおちゃん」

「な、なに?」

「道を知ってるから、先を歩いてたんじゃなくて?」

「知ってるわけないじゃん? 城から出たことない」

「引きこもりだったのか!」

「どこをどう解釈したのよ」

「魔法学園の中等部だろ?」


 学生証を渡された。

 パッと見は、本物。

 偽造ではないが……ん?


 [通(・)信(・)制(・)課(・)程(・)] 魔法科?


「通信なのよ、通信教育。魔王討伐に来た人間が、『下校時間まだなんで~』って待たされたら気の毒でしょ? 学校には通えなかったのよ」


 まおちゃん、変なとこ真面目……。


「追々細かく聞いて学業を継続する方法は考えるけど。この現状は、北へ向かって真っ直ぐ歩き、直線上にあったダンジョンに迷わず入って、完全に迷子になって、この部屋に入った?」



 ゴ ワ ア ァ ァ ン !! ゥワン ワン ワン ン ……



 魔王様は、全力でドアを蹴ッ飛ばした。

 どこか中華風の効果音、反響が物凄い。


 中華って……なに?


「誰よ、こんなとこにダンジョン建設したの誰?!」

「犯人は『魔王様の御命令で建設しました』って答えるかな」

「誰? 誰よ、その傍迷惑な魔王っ!!」


 地図を思い浮かべて考えてみる。


「ここね、まおちゃんの支配地域」

「……そうなの?」

「うん」


「そっか」



 やっと静かになった。



「現状を整理しようか。物理攻撃を無効化し、魔法が一切使えない結界。この部屋自体がトラップになってる」

「六方塞がりじゃないの!」

「八方塞がりね。四角い部屋の前後左右に床・天井じゃないよ?」

「面倒臭、指摘が細かっ!」


 そして、これだ。


「扉にヒントを書いてる。『開キタクバ〇o〇セヨ』。時代遅れの謎解きトラップで、今さら感漂う『〇〇しないと出られない部屋』。やたらカビ臭いと思ったら、相当センスが古い。忘れてても仕方ないくらい、ずーっと昔に発注したみたい」


「じゃ〇o〇したら開くの?」

「でもね、他にヒントが無い」


 ふぅむ、と思案顔になる。

 そして、ニヤリと笑った。


「一旦、落ち着いて? AoE(範囲攻撃)じゃないよ?」

「扉を開く、3文字、真ん中は小さい。簡単な謎解きだな!」

「さすがは魔王様」

「はーっはっは!」


 魔王様は、偉そうにふんぞり返った。

 体は14才だ、乳揺れなどは、無い。


「きっ……きききキ(・)ッ(・)ス(・)でしょ?」

「そんなわけない」

「試してみる価値はあるよ~?!」


 全否定しちゃダメだったか。

 顔を真っ赤にして怒ってる。


 でも。


「ソロの探索者はキッスする相手がいないですよ? 1つ目の部屋で詰み。そんな残酷なトラップ仕込みます? かといって、なぞなぞを正解するまで出られない。破壊不能に設定した金属扉、こんなに頑丈で……」



 コンコン!


 ギィイイイ――――ィ。



「ごめん。ノ(・)ッ(・)ク(・)だった」

「なんてことしたのよ!」

「や。だから、ごめんて」

「そんなことじゃ~魔王をテイムなんて夢のまた夢だよ?!」


 まいったな、すねた。

 完全に機嫌を損ねた。


「じゃ、成功したから御褒美ください」

「む。テイムの好機を逃さぬよう、なんなりと申してみよ!」

「では。キッスを」

「うむ、よかろう」





「ぬ?」





「今……なんて?」

「だからキッスを」



「や、ややや、ぃゃいやいやいや! 早すぎるでしょ~?!」

「遅かれ早かれでしたよ? ノックでなきゃ、キッスでした」

「色々選択肢あるでしょ! キックとか!!」

「最初まおちゃん、豪快に蹴っ飛ばしてたし」

「ほら! 他に、あれとか?」

「どれ? キックとキッスと、ノック以外?」

「や……パッ、と出てこないけど」

「じゃ、今はキッスしてください」

「なんて言い草、ファーストキスだよぉ?!」

「そっか。なら、キックでいいや」

「 そ う い う と こ だ よ ! 」

「じゃ、やっぱり。まおちゃんにしてみたい」


 ビックリ → 困惑 → 赤面。

 思いっきり、大声で叫んだ!



「イケメンだからって魔王が好き勝手されるもんかーっ!!」



「はい、ちゅ~♪」


 へ た り


「あ……ほ(・)っ(・)ぺ(・)?」

「3文字で、真ん中は小さい」

「〇o〇? よ、よかろう!」

「うん。ぷにぷにしてて、すっごく良かった」

「そ、そうか? なんなら左も確かめるか?」

「そうする」


 地図をペラリと広げた。


「欲張りな奴め……ぇ、左にもするのぉ?! ま、まぁ、魔王が約束を違えるわけにはいくまい? ひ、ひっ、ひ、左のホッペもチューを許す!!」

「やっぱり。地図ではダンジョン通らないみたい。左に迂回路がある」

「え、道? 左って……道?」

「一応、道を確認しておこう」



 ギルドから貸与されている、人工遺物(アーティファクト)を起動する。

 少しだけ間があって……『宣託の塔』に接続した。


『こちら宣託の姫巫女、アポカリュプセ・オッフェンバールングです! 本日は、どのような御相談でしょうか?』


「アポカさん、北の魔王城って、ダンジョン左の脇道を北上?」

『お久しぶりですグラスプさん! はい、道なりに北上です!』

「左の道が最短ルートですか?」

『はい! 道(・)中(・)お(・)気(・)を(・)つ(・)け(・)て(・)!』



 最短で、最難関。

 それが左ルート。


「左の道を行こうか? たぶん一番早く着く」

「その前に少し休も? 足、痛くなってきた」


 なにしろ歩幅が半分くらい。

 予定の半分も進んでいない。


 野宿に備えて持参した、羊毛の毛布を広げて腰を下ろす。

 まおちゃんは靴を脱いで、小さい足をモミモミしだした。


 こういう姿は本当に子供っぽい。

 ワガママも聞いてあげたくなる。

 そもそも、基礎体力は無さそう。


 今日は無理させすぎた……。



「にしても。ファーストキスは言い過ぎじゃない? そんなに可愛いのに、世界の始まりから今の今まで、浮いた話のひとつも無いって、ありえないでしょ?」


「いや、なぁに。頻繁に討ち取られては生き還っているのだ。14年も生きたのは初めてのこと。まおちゃん初体験だらけ、やさしくしてネ! ……どしたの?」


「うん。整理するから待ってて?」



 初めて14才を迎えた?


 死んでグルグル輪廻した、回(・)数(・)が(・)凄(・)い(・)だ(・)け(・)?

 まおちゃん14才から先の経験は皆無とは。

 攻略法を練って挑む人類側に、頼りの魔力総量だけで戦略も無くゴリ押しちゃ~アッサリ討伐されてきた魔王が、初めて、反抗期まで生き残れた。


 やんちゃな娘だと思ってたけど。

 物凄く不憫な娘なんじゃないか?



「俺、誤解してたよ」

「は? 誤解って?」

「俺。まおちゃんを、立派な魔王に育ててみせるっ!!」

「いきなり育成系~?! 人類に反旗を翻したのぉ?!」


「結果的に探索者ギルドのレベル9999(カンスト)なだけで、自分がテイムできないから、探索者の成長を見守る活動をしてたんだ。これからは最強魔王になる手助けする、プロデューサーのレベルを上げることにした! 今、そう決めたっ!!」


「いやいや! テイムしないで9999(カンスト)したグラスプが、最強魔王企画を統括管理してPLvを上げたら、人類滅亡しちゃうでしょ~?!」


「そこは。ほら……匙加減?」

「なんでそこ小声なのぉ?!」



 まずは「北の魔王」に相談。

 そこからプロデュース活動。

 これから忙しくなるぞ~!!


 ペースアップするかぁ……。


「よいしょ、っと」

「キッスの後に、お姫様抱っこ~?!」

「こうしちゃいられない」

「近い、これ、すんごい顔が近いっ!」

「大丈夫、任せて」

「大丈夫じゃない、心拍数ヤバぃい!」

「俺、健脚だから」

「そう? じゃなくって――――ぇ!」



 グッと両足を踏ん張って力を込め、魔物を蹴り飛ばしながらダンジョンの入口へ向けて一気に加速。数秒で左の迂回路に到達し、そのまま道なりにドンドン速度を上げていく。


「急ごう」

「待って、止まってぇ~?」


 周囲には沢山の魔物が横行闊歩していたが、唐突に飛び出してきた超高速の人間(と、この地域を治める魔王)。事態が呑み込めず、ぽかーんと見送るだけだ。


 これなら、今日中に到着できる。

 道路整備、クレーターよりマシ。


「見てる、みんな見てるからっ!」

「質問責めに合うよりいいだろ?」



「これじゃテイムされちゃったと思われるじゃ――――ん!!」



 夕刻にしては薄暗い森を抜け、城の前庭に出た。

 虚飾を排した質実剛健の建築物。

 石柱が4本、地面に転がったままの、黒鉄の扉。

 壊れたまま修理せずに放置している、不用心だ。

 それが、かえって不安にさせる。


 これが、魔王城。

 北方で魔物を統率する『北の魔王』の住む城。


 遺物欠片(オーパーツ)の入手で刑罰は回避できるが ――――?

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