誘拐疑惑で死刑が確定したテイマー
1人ひとつの【神の恩恵】を授かる、人類。
しかし、俺のテイムには回数制限があった。
テイマーとして致命的な1度きりの制限が。
それでも。
奮励努力で1番凄い魔物『魔王』をテイム!
が……魔王様、テイムされた自覚は、無い。
転生14年目、魔法学園中等部の女生徒だ――
初日に逮捕されて、近々王立裁判所で無罪を主張するのだが、証拠書類の1つ目『鑑定書』が作成できない。レベル9999の俺を鑑定できる、レベル9999の【鑑定士】がいないのだ。擬制自白が成立して敗訴確定、近日中に未成年者略取・誘拐罪で死刑になると、弁護人に言われた。
一発でテイムしようと、実績を積み上げてきた。
それが完全に裏目に出てしまった。
提案されたのは、司法取引。
3柱存在する、魔王の討伐。
達成条件は『北の魔王』が持つ遺物欠片の回収。
ズッ ドーーーーーォオオン!!
そんな経緯で、中央諸国を北へ向かって漫遊中。
ドッ ゴーーーーーォオオン!!
道中の魔物は、魔王様がAoEを連発して掃討。
辿った軌跡はクレーターだらけ、後々クレームが恐いが、無実を証明するために先を急ぐ旅。前だけ向いてズンドコ進んでいく魔王様についていく。
ギィイイィ バタン。
「 う 」
その快進撃が、『見た目は子供・頭脳は大人で、迷宮なし』のアイキャッチ的な音と共に、ピタリと止まった。むしろ我々は迷宮入りしている。
ここは遺跡に入ってすぐの小部屋。
黄緑色に光るコケが石壁に繁殖し、意外に明るい。
「ん~、むむむー! ぷはぁ。 ……ダメだこりゃ」
問題は、二人で入った瞬間バタンと閉じた鉄扉。押しても引いてもビクともしない。実は引き戸で横方向に開閉というオチでもないらしい。
まいった、これは困った。
ここは、トラップルーム。
探索者を脱出不能にする、死の罠。
「まおちゃん」
「な、なに?」
「道を知ってるから、先を歩いてたんじゃなくて?」
「知ってるわけないじゃん? 城から出たことない」
「引きこもりだったのか!」
「どこをどう解釈したのよ」
「魔法学園の中等部だろ?」
学生証を渡された。
パッと見は、本物。
偽造ではないが……ん?
[通信制課程] 魔法科?
「通信なのよ、通信教育。魔王討伐に来た人間が、『下校時間まだなんで~』って待たされたら気の毒でしょ? 学校には通えなかったのよ」
まおちゃん、変なとこ真面目……。
「追々細かく聞いて学業を継続する方法は考えるけど。この現状は、北へ向かって真っ直ぐ歩き、直線上にあったダンジョンに迷わず入って、完全に迷子になって、この部屋に入った?」
ゴ ワ ア ァ ァ ン !! ゥワン ワン ワン ン ……
魔王様は、全力でドアを蹴ッ飛ばした。
どこか中華風の効果音、反響が物凄い。
中華って……なに?
「誰よ、こんなとこにダンジョン建設したの誰?!」
「犯人は『魔王様の御命令で建設しました』って答えるかな」
「誰? 誰よ、その傍迷惑な魔王っ!!」
地図を思い浮かべて考えてみる。
「ここね、まおちゃんの支配地域」
「……そうなの?」
「うん」
「そっか」
やっと静かになった。
「現状を整理しようか。物理攻撃を無効化し、魔法が一切使えない結界。この部屋自体がトラップになってる」
「六方塞がりじゃないの!」
「八方塞がりね。四角い部屋の前後左右に床・天井じゃないよ?」
「面倒臭、指摘が細かっ!」
そして、これだ。
「扉にヒントを書いてる。『開キタクバ〇o〇セヨ』。時代遅れの謎解きトラップで、今さら感漂う『〇〇しないと出られない部屋』。やたらカビ臭いと思ったら、相当センスが古い。忘れてても仕方ないくらい、ずーっと昔に発注したみたい」
「じゃ〇o〇したら開くの?」
「でもね、他にヒントが無い」
ふぅむ、と思案顔になる。
そして、ニヤリと笑った。
「一旦、落ち着いて? AoEじゃないよ?」
「扉を開く、3文字、真ん中は小さい。簡単な謎解きだな!」
「さすがは魔王様」
「はーっはっは!」
魔王様は、偉そうにふんぞり返った。
体は14才だ、乳揺れなどは、無い。
「きっ……きききキッスでしょ?」
「そんなわけない」
「試してみる価値はあるよ~?!」
全否定しちゃダメだったか。
顔を真っ赤にして怒ってる。
でも。
「ソロの探索者はキッスする相手がいないですよ? 1つ目の部屋で詰み。そんな残酷なトラップ仕込みます? かといって、なぞなぞを正解するまで出られない。破壊不能に設定した金属扉、こんなに頑丈で……」
コンコン!
ギィイイイ――――ィ。
「ごめん。ノックだった」
「なんてことしたのよ!」
「や。だから、ごめんて」
「そんなことじゃ~魔王をテイムなんて夢のまた夢だよ?!」
まいったな、すねた。
完全に機嫌を損ねた。
「じゃ、成功したから御褒美ください」
「む。テイムの好機を逃さぬよう、なんなりと申してみよ!」
「では。キッスを」
「うむ、よかろう」
「ぬ?」
「今……なんて?」
「だからキッスを」
「や、ややや、ぃゃいやいやいや! 早すぎるでしょ~?!」
「遅かれ早かれでしたよ? ノックでなきゃ、キッスでした」
「色々選択肢あるでしょ! キックとか!!」
「最初まおちゃん、豪快に蹴っ飛ばしてたし」
「ほら! 他に、あれとか?」
「どれ? キックとキッスと、ノック以外?」
「や……パッ、と出てこないけど」
「じゃ、今はキッスしてください」
「なんて言い草、ファーストキスだよぉ?!」
「そっか。なら、キックでいいや」
「 そ う い う と こ だ よ ! 」
「じゃ、やっぱり。まおちゃんにしてみたい」
ビックリ → 困惑 → 赤面。
思いっきり、大声で叫んだ!
「イケメンだからって魔王が好き勝手されるもんかーっ!!」
「はい、ちゅ~♪」
へ た り
「あ……ほっぺ?」
「3文字で、真ん中は小さい」
「〇o〇? よ、よかろう!」
「うん。ぷにぷにしてて、すっごく良かった」
「そ、そうか? なんなら左も確かめるか?」
「そうする」
地図をペラリと広げた。
「欲張りな奴め……ぇ、左にもするのぉ?! ま、まぁ、魔王が約束を違えるわけにはいくまい? ひ、ひっ、ひ、左のホッペもチューを許す!!」
「やっぱり。地図ではダンジョン通らないみたい。左に迂回路がある」
「え、道? 左って……道?」
「一応、道を確認しておこう」
ギルドから貸与されている、人工遺物を起動する。
少しだけ間があって……『宣託の塔』に接続した。
『こちら宣託の姫巫女、アポカリュプセ・オッフェンバールングです! 本日は、どのような御相談でしょうか?』
「アポカさん、北の魔王城って、ダンジョン左の脇道を北上?」
『お久しぶりですグラスプさん! はい、道なりに北上です!』
「左の道が最短ルートですか?」
『はい! 道中お気をつけて!』
最短で、最難関。
それが左ルート。
「左の道を行こうか? たぶん一番早く着く」
「その前に少し休も? 足、痛くなってきた」
なにしろ歩幅が半分くらい。
予定の半分も進んでいない。
野宿に備えて持参した、羊毛の毛布を広げて腰を下ろす。
まおちゃんは靴を脱いで、小さい足をモミモミしだした。
こういう姿は本当に子供っぽい。
ワガママも聞いてあげたくなる。
そもそも、基礎体力は無さそう。
今日は無理させすぎた……。
「にしても。ファーストキスは言い過ぎじゃない? そんなに可愛いのに、世界の始まりから今の今まで、浮いた話のひとつも無いって、ありえないでしょ?」
「いや、なぁに。頻繁に討ち取られては生き還っているのだ。14年も生きたのは初めてのこと。まおちゃん初体験だらけ、やさしくしてネ! ……どしたの?」
「うん。整理するから待ってて?」
初めて14才を迎えた?
死んでグルグル輪廻した、回数が凄いだけ?
まおちゃん14才から先の経験は皆無とは。
攻略法を練って挑む人類側に、頼りの魔力総量だけで戦略も無くゴリ押しちゃ~アッサリ討伐されてきた魔王が、初めて、反抗期まで生き残れた。
やんちゃな娘だと思ってたけど。
物凄く不憫な娘なんじゃないか?
「俺、誤解してたよ」
「は? 誤解って?」
「俺。まおちゃんを、立派な魔王に育ててみせるっ!!」
「いきなり育成系~?! 人類に反旗を翻したのぉ?!」
「結果的に探索者ギルドのレベル9999なだけで、自分がテイムできないから、探索者の成長を見守る活動をしてたんだ。これからは最強魔王になる手助けする、プロデューサーのレベルを上げることにした! 今、そう決めたっ!!」
「いやいや! テイムしないで9999したグラスプが、最強魔王企画を統括管理してPLvを上げたら、人類滅亡しちゃうでしょ~?!」
「そこは。ほら……匙加減?」
「なんでそこ小声なのぉ?!」
まずは「北の魔王」に相談。
そこからプロデュース活動。
これから忙しくなるぞ~!!
ペースアップするかぁ……。
「よいしょ、っと」
「キッスの後に、お姫様抱っこ~?!」
「こうしちゃいられない」
「近い、これ、すんごい顔が近いっ!」
「大丈夫、任せて」
「大丈夫じゃない、心拍数ヤバぃい!」
「俺、健脚だから」
「そう? じゃなくって――――ぇ!」
グッと両足を踏ん張って力を込め、魔物を蹴り飛ばしながらダンジョンの入口へ向けて一気に加速。数秒で左の迂回路に到達し、そのまま道なりにドンドン速度を上げていく。
「急ごう」
「待って、止まってぇ~?」
周囲には沢山の魔物が横行闊歩していたが、唐突に飛び出してきた超高速の人間(と、この地域を治める魔王)。事態が呑み込めず、ぽかーんと見送るだけだ。
これなら、今日中に到着できる。
道路整備、クレーターよりマシ。
「見てる、みんな見てるからっ!」
「質問責めに合うよりいいだろ?」
「これじゃテイムされちゃったと思われるじゃ――――ん!!」
夕刻にしては薄暗い森を抜け、城の前庭に出た。
虚飾を排した質実剛健の建築物。
石柱が4本、地面に転がったままの、黒鉄の扉。
壊れたまま修理せずに放置している、不用心だ。
それが、かえって不安にさせる。
これが、魔王城。
北方で魔物を統率する『北の魔王』の住む城。
遺物欠片の入手で刑罰は回避できるが ――――?




