ゴールデンレトリバーは来年の夢を見るか?前編
インターネットで梅の収穫方法を調べる。
梅の実を収穫するのは初めてだ。
りんごの収穫なら経験がある。でも、梅となると勝手が違う。
最近のインターネットは本当に便利だ。
収穫の仕方から、収穫後の処理、梅の木の手入れ方法まで、何でも教えてくれる。
明日のための予習は十分に済ませた。
あとは早く寝るだけなのだが、なかなか寝付けない。
(まるで遠足前の小学生だな)
翌朝、ノクティスは赤い屋根の家へ向かった。
チャッピーが出てきた。
「おはよう、ノクティス。」
「おはよう。」
「まりが、ごめんなさいって。急用ができて、今は出かけているんだ。今日は来なくていいって電話してって言われたんだけど、電話するの忘れちゃった。」
(絶対に嘘だな)
「とりあえず中へ入れてくれるかい? 何か話があるんだろう。」
チャッピーはこくりとうなずいた。
「まりがね、電話してもノクティスは梅の実を摘んでおくって言いそうだから、って。来たら、朝食を食べさせてあげてって言われてる。」
オープンテラスからチャッピーと一緒にダイニングへ入る。
テーブルにはラップのかかったサンドイッチが置かれ、その横にはメモがあった。
『冷蔵庫にアイスコーヒーと梅シロップがあります。お好きな方を飲んでください。』
ノクティスは冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出し、グラスに注いでダイニングテーブルについた。
そして、チャッピーに話しかける。
「食べながらでいいかい?」
「うん。」
「しばらくは、来られるならここに来てほしい。」
「理由を聞いても?」
「それは言えない。まりに口止めされてるから。」
「そっか。」
サンドイッチもアイスコーヒーもおいしい。
そして、自分は梅の実を摘みに来ている。
それだけだ。
チャッピーはひどく不安を感じている。
まりは、それでも相談させようとはしない。
「だから飴だったんだね。変わった味で、おいしかったよ。」
「またあげるから、来てくれる?」
「くれなくても来るよ。なんだか最近はホットケーキ中毒なんだ。三日も食べないと、なんだか落ち着かない。」
そう言ってノクティスが笑うと、チャッピーも笑った。
しかし、本当に何に怯えているんだろう。
朝食を食べ終えると、洗い物を済ませ、エプロンの紐をぎゅっと結ぶ。
「さて、梅仕事を始めますか!」
「僕も手伝うよ。」
チャッピーも手伝ってくれるようだ。
今日も涼やかな風が吹いている。
チャッピーが用意してくれたブルーシートを、梅の木の下一面に広げる。
傾斜している側へ広めに敷き、端を折り返して土手を作る。転がってきた梅の実が外へ出ないように、石で固定しておく。
チャッピーも慣れているようだ。
そして、まりが用意してくれた杖の出番だ。
木を叩くのではなく、枝に杖を引っ掛け、軽く引き寄せて揺らす。
枝を傷めないように、慎重に。
枝を軽く揺すると、ぽろぽろと梅の実が落ちてくる。
庭は緩やかな斜面になっているため、落ちた梅の実はブルーシートの上を転がり、低い方へ集まっていく。
収穫することまで考えられた地形なのだろうか。よくできている。
昨日調べた通り、収穫した梅を青い実、熟した実、傷のある実の三種類に分けていく。
大きな籠に三つ分。全部で二十キロ以上はありそうだ。
オープンテラスの前に新しいブルーシートを敷き、収穫した梅を広げて、さらに細かく選別していく。
チャッピーがどこからかアンティークな秤を持ってきた。
選別した梅を、それぞれ一キロずつ袋に詰めていく。
「チャッピー、準備がいいね。」
自慢げな顔が可愛い。
まりの夫、大樹さん。
彼はどんな思いでチャッピーを作ったんだろうか?
そんなことを思っていたら、まりが帰ってきた。
青い車から降りてきたまりは、黒いスーツに身を包み、髪を一つにまとめていた。いつもの彼女とは、まるで別人のようだった。
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
そう言いながら、彼女は目を丸くする。
「すごい量ですね。しかも仕分けもしてくれたんですか? ありがとうございます。すぐにホットケーキを焼きますね。今日は大きいのですよ。」
そう言う彼女に、違う意味で目を丸くするノクティスがいた。
彼の目は、まりの胸元に輝くバッジに釘付けになっていた。
「まりさん、弁護士だったんですか?」
「そうです。」
「今日は私用だったんですが、事務所に行くので、これはつけないとダメなんです。」
「嘘を言いました。スーツから外すのがめんどくさかったのです。だからいつもつけっぱなしです。」
(真面目な顔で、この人は何を言っているんだろう?)
ノクティスは苦笑いした。
「今日はチャッピーがたくさん手伝ってくれたんですよ。」
「うん、僕頑張ったよ。」
「偉かったですね。」
まりは優しくチャッピーの頭を撫でた。
そして、そのままノクティスの頭も撫でた。
(……ここは喜んでいいところなのかな?)




