止まった時計塔 その5
最後に聞こえたのは、誰かの声だった。
『――やっと、来てくれたのね』
その声は、女性のもののようでもあり、老人のもののようでもあり、あるいはもっと別の、この世のものではない何かの声のようでもあった。悲しみと安堵が入り混じった、複雑な響きを持っていた。まるで、長い長い時間、たった一人でこの場所に佇み、誰かの到来をひたすら待ち続けてきたかのような、そんな響きだった。
それが誰の声なのか、湊にはわからなかった。だが、なぜかその声を、自分はずっと前から知っていたような気がした。懐かしさにも似た感覚が、胸の奥からこみ上げてくる。まるで、遠い昔に聞いた子守唄の旋律を、不意に思い出したときのような。
意識が急速に薄れていく中、湊は最後にもう一度、あの振り子の鼓動を感じた。規則正しく、しかし確かにずれた、不完全なリズム。それを整えなければならない――そんな、根拠のない使命感のようなものが、意識の底に刻み込まれた。まるで、生まれる前から定められていた役割を、今ようやく思い出したかのように。
そして、すべてが暗転した。
次に湊が目を覚ましたとき、彼はもう、元いた世界にはいなかった。
意識の最後の欠片で、湊は自分の名前を、家族の顔を、繰り返し心の中で呼び続けた。もし本当にこれが何か取り返しのつかない事態なのだとしても、自分が自分であることだけは、絶対に手放したくなかった。その小さな抵抗こそが、彼が新しい世界で目を覚ますための、最後の錨となった。
『――やっと、来てくれたのね』
その声が消えた後も、湊の耳の奥には、その残響がしばらく漂っていた。誰の声なのか、なぜ自分を待っていたのか。すべての疑問を抱えたまま、湊の意識は完全に闇の中へと沈んでいった。
意識が完全に途切れる直前、湊は微かに、鐘の音のようなものを聞いた気がした。それが幻聴なのか、それとも何かの予兆なのか、確かめる術はもうなかった。
その声の余韻だけが、暗転していく意識の中に、いつまでも残り続けていた。
意識が薄れていく最後の瞬間まで、湊はあの振り子の鼓動を、確かに聞き続




