灰色の草原 その1
目を覚ますと、風の音がしなかった。
湊は灰色の草原に横たわっていた。仰向けのまま、しばらく身動きが取れなかった。全身が鉛のように重く、頭の芯がじんじんと痛む。まるで、全速力で走り続けた後のような、深い疲労感が骨の髄まで染み込んでいた。ゆっくりと瞼を開けると、見慣れない灰色の空が広がっていた。太陽らしき光源はあるものの、その光は妙に平坦で、影がほとんどできていない。時刻すら判然としない、奇妙な光だった。
「……ここ、どこだ」
掠れた声で呟き、湊はゆっくりと身体を起こした。周囲を見渡すと、地平線まで続く草原が広がっている。だが、何かが決定的におかしかった。草は一本一本が同じ角度で傾き、揺れる気配すらない。風は吹いているように見えるのに――遠くの木々の梢が、確かに傾いているのに――草の葉一枚さえ動かないのだ。まるで、時間の止まった写真の中に、自分だけが迷い込んでしまったかのようだった。
空を見上げると、一羽の鳥が翼を広げたまま、空中に縫い止められたように静止していた。羽ばたきの途中の姿勢のまま、まるで写真の中に閉じ込められたかのように。湊はしばらく、その不自然な光景から目を離せなかった。恐る恐る近づいてみても、鳥はぴくりとも動かない。生きているのか死んでいるのかすら、判断がつかなかった。
湊は自分の身体を確かめるように、両手をゆっくりと開いたり閉じたりした。怪我はないようだった。だが、着ていた服も、持ち物も、すべてが元のままだということが、かえって不気味に感じられた。まるで、この異様な世界にそぐわない異物が、そのまま放り込まれてしまったかのようだった。
湊は自分の頬をつねってみた。痛い。夢ではないらしい。乾いた笑いが、思わず口から漏れた。こんな状況で笑えるということが、自分でも不思議だった。だが、笑うことでしか、この現実を受け止める術が見つからなかった。
目を開けた瞬間の眩しさに、湊は思わず顔をしかめた。見慣れない灰色の空が、どこまでも広がっていた。
灰色の空を見上げながら、湊は自分がどれほど遠くまで来てしまったのかを、まだ実感できずにいた。
灰色の世界に横たわりながら、湊はしばらくの間、状況を整理することができずにいた。
風のない世界で、湊はしばらくの間、自分の呼吸音だけを頼りに、状況を整理し続けていた。
風の止んだ世界の静けさは、湊にとって、これまで経験したことのない異質なものだった。




