7話:出会い方、繋がり方
朝起きると、奏真は父に車に乗せられる
休日であるため、珍しく父は休めるというのに、平日よりも圧倒的に忙しない
「今日行くの?親父」
「今日くらいしか行ける日ないんだよ、親戚の集まりで」
「わかったよ…」
奏真は半ば諦めの音を発する
母は家で待機して参拝者の対応をするらしい
「母さんとしては、神社の存続は大事なんだろうし、立場としてはこっちが下だ、向こうの申し出は親の俺等には断れない」
今日会いに行くのは奏真の許婚の神社で、向こうの両親がどうしてもと求めている
「でも、俺も母さんもお前の意思を尊重する気だ、断っても来るようならまぁ…なんとかするさ」
車で山を登っていくと、自分の神社と同じ系列であり、区内で二番目に大きい神社に着く
車を降りると、神主が張り付いた笑顔でこちらにやってくる
「いやぁ、ようこそいらっしゃいましたぁ」
「どうも、こっちの予定にようやく都合がついたもんでね、どうしても私じゃないと愚息を連れてこれないのが申し訳ない」
「いえいえ、たまに会えるだけでも結構ですよ、ささこちらにお上がりになって」
奏真は簡易的とはいえ、場所に見合った服を着ているため蒸し暑く感じる
そそくさと本殿からつながっている別の建物に連れて行かれる
「友羽、奏真さんが来ましたよ」
戸を開けると、巫女服を着た女性が正座している
「お久しぶりです」
「お久しぶりです」
奏真が声をかけると、女性はそのままに返答する
彼女こそが、奏真の許婚である徳嶺友羽だ
「相変わらず硬いですねぇ、同年代なのですからもう少し打ち解けてもらってもいいのに…」
神主がぼやく
「親しき仲にも礼儀ありですよ、この会い方はまだしばらくは続くでしょう」
奏真が即答する
「まぁ、それもそうですね、今日の話は子どもに聞かせる話ではありません、友羽は奏真さんを部屋へご案内しなさい」
「はい」
友羽は立ち上がると、廊下を通り、また別の建物に行く
そこは先程よりかは狭いがプライベートが保障されており、現代らしい部屋になっている
「はぁぁぁぁ…」
部屋に着くなりだらしない声を上げる
「やっぱり疲れるわぁ」
「早いな、相変わらず僕と会うのは断らないのか?」
「僕が言っても親父は聞かないよ、どうしてでも君と結婚させる気だ」
美人な見た目とはそぐわない口調を見せる
「僕と君は結婚には向かないと言っているのに」
「そうだね」
二人は何度も会っているが、お互い恋愛関係のような素振りは一切ない
「そもそも君は僕の好みじゃない」
はっきりと友羽に宣言される
「そうだね、君は年下の男の子が好みだ、同年代の僕は趣味じゃないだろう」
「そうだ君は兄だ、僕は弟を求めているんだよ、それに君では明らかに立場が僕に見合っていない」
「…」
奏真が黙り込む
「…悪い、今のは配慮が足りなかった」
「いいよ、君の趣味にも立場にも合っていない、それは事実だ」
「そうじゃなくて…いや、うん、そういう認め方をしよう、でも、君を見下しているわけじゃないよ」
友羽が弁解する
「それは態度を見れば分かる、いくら神社の位が僕のほうが低くても、君はそれを理由に僕を無碍に扱うような人ではない」
「僕を買ってくれているようで嬉しいよ、まぁ、このままぼんやりと破談になってくれれば嬉しいんだけどね」
この婚姻類似関係はお互いの求めるものではないが、仲が険悪であるわけでもない
「僕は君の趣味も気になるところだが、聞かないでおこう、たぶんそこは君の深い暗闇の中だ」
「そりゃどうも」
奏真も姿勢を崩す
友羽は準備されている布団の上に横たわる
「こんな布団もいらないのにね…親父はどんな話をしてるんだろうか、こんなことを求めてるんだから君の神社を渡すようにでも言ってるのかな?」
友羽は探りを入れる
「今日は上の神社の話だ、親父に聞いたけどそっちの神社にとっても上の神社の存在は厄介なようだよ」
「なるほどね…まぁ、それが変に本心をさらけ出さないし妥当か」
「君はどう思うんだい?上の神社について」
「心底どうでもいいね、僕は僕の求める人生に必要なものがあれば十分だ、権力とか跡継ぎなんてどうでもいい限りだよ」
「んまぁ、それがいいよ、僕のじいちゃんと君のおばあちゃんが兄弟で決めたことに今更口出しすることでもない気がする」
「それは同感だ、よっぽど神社の知識や神事を学んでいたほうがこの神社の存続に有意義だよ、親父は広げることしか考えていない」
友羽の父親はよっぽど野心家のようで、目的のために娘を利用しているようだ
もちろん愛がないわけではないが
「君と僕は今のままでいいよ、ただの同級生でいい」
二人は昔から神道を学べる私立学校の神敬学園に通っている
ふたりとも高等部にまで入っているが、ただの友人関係が続いており、ツンデレという関係すら似合わない
「あとは時間を潰すかい?」
友羽がゲームを取り出す
いつもはここから二人での遊びが始まるが、奏真は本を取り出す
「悪いけど、今はこの本を読んでいたい」
友羽がその本を開くと目を見開く
「僕その本を見たことあるよ、本殿裏の蔵だ」
「本当か?!」
「あぁ、たぶんそれの下の番号は違うが見覚えがある」
「今持ってこれるか?」
「バカを言うな、蔵の前の廊下は今は親父達が話してる、行ったらバレるよ」
「そうか…じゃあ、今度持ってきてくれ」
「わかった、今日の夜に取りに行ってやるから…代わりになにか報酬はもらうぞ」
「もちろん、読み取ったことぐらいは教えよう」
「それじゃあ足りんがまぁあとで追加しよう」
二人が情事に及んでいれば神社の人間にとっては喜ばしい一大事であるため、報告は行くだろうが、このような小さな声での約束は誰も気づかない
次の日になると父が車を出す
「本日はありがとうございました、またよろしくお願いします」
相変わらず神主は張り付いた笑顔で話す
「お子さんはどちらでしょうか?」
神主はあたりを見回す
「さっき貴方の娘さんのところに行きましたよ」
「そうですか…では二人の逢瀬を待っているとしますか」
奏真の父にとっては二人が恋愛関係にならないことはわかりきっているため、何かを企んでいることはわかっていたが言わないことにした
「はい、これ」
友羽は全く同じ色、字体が使われた本を渡す
「ありがとう、これでもっと何か分かるかも」
「お礼はちゃんとしてよ」
「はいはい」
あまり長居するとバレるからと二人はそそくさと距離を離す
奏真は本をバッグに入れると車の方へ走っていった




