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終響のポリフォニー  作者: 更待レリア
1章(春)
4/10

4話:きっかけ

三人の邂逅から数年が経ち、奏真に至っては高校生になっていた

「こんなに小さい神社でもさすがに地域の祭りはしないとね」

いよいよ親からは神事までも任されるようになり、一人で祭りの道具を運搬する

「ん?」

鳥居にかける幣を取るとその下には一冊の本があった

今までは何度も見てきてはいたが文字の書き方と、表紙の言葉の意味を少しだけ理解できた

「神音…蒐拾…」

かろうじて何かを集めたものであることがわかり、さらにその下には九と記されている

「これが他にも少なくとも八冊あるのか…」

個人的な興味を掻き立てられ、中身を見る

「うっすらは読めるな…」

奏真にとっては学校で習って間もない古文の文章が連なっているのに加え、筆の流れも複雑だ

だが、はじめの一文にその困難さを超えてでも読みたくなる一文があった

「此処に神有る地作り、神成る者の導残す」

「これは、神社で仕事をしている人としては読まずにはいられないな」

奏真はその本を手に取り、ホコリを払って一度家に持ち帰る

「ただいま」

奏真は家の中に入る

「おかえり」

玄関のすぐ隣の部屋から母の声が聞こえる

母は何年も前に足に怪我を負い、車椅子までは必要ないが、移動にかなりの困難を要する

そのため玄関や居間のすぐ横に母の部屋がある

「ねぇねぇ、この本知ってる?」

奏真は先程手に取った本を見せる

母はその本をじっくり見た後首を横に振る

「たぶんうちの神社にある本だけど中身は読んだことないわね、それがどうしたの?」

「少し読めそうだからしばらく自分の部屋に置いておいて良い?」

「全然いいわよ、神社の管理はあなたに任せてるもの、その本も好きにしてくれていいわ」

母はあっさりと認める

「お祭りの準備も全部させちゃってごめんね、お守りとかはこっちでできるけど、そっちには頻繁にはいけないから…」

「仕方ないよ」

「その代わり何かしてほしいこととかあったらすぐに言ってね」

「もちろん」

奏真は自分の部屋の扉を開けると机の上に先程の本を乗せる

その一ページ目を開くと、やはり読みにくく古い文字が並んでいるが、不思議とその中身を読み解きたくなる

学校で配布されている古文単語帳やパソコンを開き、文字に触れていく

いくら薄い本であるとはいえ、読み終わる頃には日が暮れ始めていた



幸斗は参道の階段を歩いている

ここは愛浜区朱音島

幸斗の母方の祖父が死んでから父の地元のこの島に戻ることになった

市内全域が朱音島最大の神社、朱音神社の祭りの影響でお祭り状態となっている

今日はその当日として、剣舞の演目に幸斗自身が呼ばれている

祖父の道場はあれ以来閉鎖されたものの、こちらの島にある市内でも有数の剣道場に入門することができた

祖父の道場では戦うための剣を教えられていた一方で、こちらの道場ではまさに剣道の試合のための剣を教えられたため、慣れるのに一年程度はかかった

参道の頂上には道場の先生がいた

「こんばんは、天宮賢司先生」

白髪を生やし、穏やかな風貌をした男性は、にこやかに笑う

「名字だけで構わないよ」

「いえ、この神社には名字が同じ人がたくさんいますので」

この神社の神主はこの刀の先生であり、継承先の孫も何人かいる

そのため、この神社は代々天宮家が管理しており、当然天宮という名字だけでは誰かがわからない

先生が剣舞会場へ向かっていく

幸斗もその後ろをゆっくりとついていく

そのとき一人の少女が見えた

「舞お姉ちゃん!」

太陽のようなオレンジ色の髪をなびかせるその人物は、かつてこの島に住んでいた時によく遊んでもらっていた幸斗にとっては憧れの人だった

こちらに戻ってきてようやく天宮舞がこの神社の神主の孫娘であることを知り、当面の間は疎遠になっていた

幸斗は久しぶりに見つけられた舞に呼びかける

しかし、その舞はまったくこちらを意に介さず、一緒に話している人と別方向に向かっていく

(聞こえなかったのかな…)

舞台に上がるまで時間がなかったため、幸斗は先に行ってしまった先生を追いかける



「はぁ~」

内容を書き写したノートを見て奏真はため息をつく

本の中にはこの市内にある神社とそれらが祀っている神について書かれていた

「収穫はこれだけか」

奏真は一つの神社の名前を指さす

「無原神社…聞いたことのない神社だな…」

九つあった神社の中でも唯一ネットで調べて出てこない神社があった

「だが、この本に書いてある情報が少なすぎて何もわからん」

知っていた神社があったおかげで、字体はかなり読みにくい中、スムーズに内容を理解できた

しかし、その内容の殆どは知っている内容ばかり

奏真はその本を一度机の中に入れる

「結局、市のお祭りでもこんなちっちゃい神社じゃあ全く人は来ないし、何も変わらない日常すぎるね」

奏真がぼやくと後ろから声がする

「まぁ、こっからが面白くなるところだ」

「陸空か」

「大正解」

数年前に会ってから、久しぶりの再会だが自然と驚かない

「何だ?僕にすることでもあるのかい?」

「今のところはないよ、どちらかと言うと白斗のほうが面白いことになりそうだ」

陸空はあの時あったもう一人の少年の話をする

「そうか、今日は彼に特別なことが起きるんだね?」

「まさに、ここから僕らの物語の本編が始まるさ」

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