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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第六章 変革の息吹
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#49 産業振興プロジェクトの始動


 三日間の休暇が終わり、王都に戻る日が十日後と決まった。

 それに伴い、アブルダリル聖教会のエドバド枢機卿とは王都で会談することになった。相手側がなにを目的としているかは分からないままだが、領主である父や代行官僚である叔父上ではなく、まだ子供の俺を使命してくるということは、グスタフの件に関係しているのだろう。

 裏で手引きしていることが分からないように商工ギルドや被災民に動いてもらっていたが、使徒と直接対峙したときに名乗ってしまったから、全てバレたと考えておいたほうがよいだろうな。

 あの時はああするしか無かった。その結果こうなったのなら、腹を括るしかない。


 それよりも、王都に戻る前にするべきことが山ほどある。

 鋳物専門店の出店計画を商工ギルドのハンス殿に委託するための詰めや、それに伴う資金の調達。物流ルートの構築やラインナップの検討、価格設定やブランドの紋章デザインなどなど。

 そして、軍需品の鋳物採用をカリム将軍から承認してもらった上で、鋳物工房サイドにも供給能力向上を実現してもらわねばいけない。そのためには、人手不足の問題も手を打たなくては。


 また、火縄銃の開発に関する技術提供も忘れてはならない。50代中年の素人知識では専門的なアドバイスには限界があるが、化学が発達している近代日本の一般的な教育レベルの知識でも、役に立つものはある。例えば、弾丸の形状や火薬の量産、金属の加工技術など。さらに、日本史で習う長篠の戦いで有名な、織田信長の用兵術などもそうだろう。

 この世界にはない知識を、リスクを極力抑えて上手いこと活かすことが出来れば、実用化を5年や10年は早めることが出来るはず。それはきっと、今後想定される外敵への大きなアドバンテージになる。だから、必須事項として優先度を上げて取り組むべきだ。


 ということで、時間がないなか、まとめてやってしまうことにした。カリム将軍とハンス殿を連れて、ゴードン親方の鋳物工房を訪ねて四者会談を実現させる。そして今回は、ゴードン親方にお願いして、周辺の鋳物工房にも声をかけてもらうことにした。

 名付けて『鋳物産業振興プロジェクト』

 その目的は、グレイス領における鋳物産業の技術発展と、地場産業としてのブランド化、イメージ向上による需要の安定化、鉄鉱石や燃料となる木材などの調達ルート拡大、後継者の育成などなど。

 と、頭のなかには、ストーリーが出来上がっている。こういうのこそ、50代中年の得意分野だからな。

 ただ、大変なのが、俺サイドが企業的組織ではなく、領主の跡取りという個人で動いているので、全部自分で各所との調整をしなくてはいけない。独立したばかりの個人経営コンサルタントのイメージだろうか。ある意味、病床に臥せ志し半ばでリタイアした中年の、再挑戦とも言えるか。


 いや、そんな生易しいものではないか。

 なにせ、グレイス領に住む全ての領民の平和な生活が賭かっているのだからな。

 繁栄無くして安寧は無し。

 50代中年の記憶でも、ここまでハードな挑戦はそうは無いかもしれない。

 だからこそ、人生を賭ける意味があるというもの。


 ただ、十日後には王都に戻る身なので、最初のお膳立てしか携われない。あとは彼らに任せるしかないのが、辛いところだ。不安というよりも、もっと彼らと一緒に知恵を絞ったり熱く語りたいという寂しさか。

 だからこそ、王都に戻るまでのわずかな時間で、できる限りのことをしておきたかった。

 ちなみに、俺が王都に戻ってからのこちらでの窓口は、シャントットにお願いしてある。彼女ほどの情報処理能力があれば、俺の代理として全く問題ないだろう。むしろ、彼女の存在があったからこそ、俺が不在でも今回のプロジェクトが推進可能だと判断した。


 そして、まず最初に取り組むべきは、資金調達。父上との交渉だ。

 これを自分でクリアーしなければ、俺は理想を唱えるだけの空想家になってしまう。絶対に承諾を取り付けてみせるぞ。


「目的と狙いは分かった。中長期的な展望と採算の見込み、その具体的根拠はあるのか?」


 俺が提出した企画書に視線を落としたまま、父上は落ち着いた口調で当たり前のように問いを投げてくる。

 さすがは、王国中央で国政に携わっているだけあるな。分かってはいたが、息子だからと甘えなど一切認めないスタンスだ。


「具体的には、一年後に城下に一号店を出店。さらに半年以内に軍需品の供給を開始。それに必要な土台はこの一年で作らせます。併せて、新兵器に関する実用化も進めます。こちらの目標は三年ですが、用兵術の練兵も含めますと、実戦への投入は五年が目処になるかと考えています。また、専門店の採算に関して具体的な数値は資料にありますが、出店から三年で黒字転換を目標にします。根拠に関しては、軍需品の供給頼みの時点で一定の売上が確保できていますので、初期投資の回収と年間での減価償却をうんたらかんたら」


「もうよい。資金に関しては、トーマス宛の寄付金があっただろう。それを使ってかまわん。あとは、グレイス家名義で大金貨二枚を出資する」


 銀貨一枚が日本円で2~3万程度のイメージだから、大金貨二枚ならざっと500万程度か。あくまでリスクを考慮して様子見レベルの投資額だが、子供のお遊びの範疇を超えたマジな額だ。

 それなりに勝算の手応えを感じてくれたと、判断してよさそうだな。


「ありがとうございます」


「お前のやりたいようにやってみよ。そして、必ず成功させて期待に応えろ」


「はい、必ず成功させます」


 事業計画として、調達・生産・物流・販売などの体制作り、マーケティング戦略と行政による販促援助などのアイデアも盛り込んだ企画書を用意して挑んだが、詳細説明に入る前に許可が出てしまったな。

 まぁ、内容はガチだからな。簡単だが分かりやすいグラフやチャートも使って、プレゼンの概念が無いだろうこの世界としては、革新的なアピールにはなっただろう。

 8歳の子供が作った企画書としては異常な完成度だったのはわかっているが、父上の場合だけは、これでもまだようやく及第点だからな。跡継ぎに求める理想が高い分、俺も手加減はしてられない。


 次に忘れてはいけないのが、クリスティーナ嬢の意見やアイデアの聞き取り。

 このプロジェクトは、発起人は俺になるが、発案者は彼女だ。彼女の提案がなければ、もっと遠回りをしていたかもしれない。そんなクリスティーナ嬢の功績を形として残すためにも、彼女の要望を出来る限り反映して成功させることで、実績と自信を持たせたい。


「わたくしの要望ですか・・・紋章のデザインに、胡蝶蘭とベルを入れてはいかがでしょうか?」


「ほう。なにか意味を込めているのですね?」


「はい。この出店のお話は、トーマス様とゴードンさんの出会いから始まったものです。胡蝶蘭はトーマス様でベルはゴードンさんを表わす象徴として、二つを重ねた紋章にするのです」


「なるほど。胡蝶蘭は僕と君の二人の思い出の花でもありますからね。それでいきましょう。あと他にもなにかありますか?例えば、城下に出店する店舗についてなにかあれば」


「要望ではございませんが、投資のことで王都に戻る前にお父様にお手紙で相談しまして、大金貨3枚のお約束を頂けました。出店資金の足しになりますでしょうか?」


「え!?3枚!?それは凄い・・・足しどころか、グレイス家の出資額より多いですよ。そうだ。ブラン家がメイン出資者として、店舗はクリスティーナ嬢の名義にしましょう。出店準備や営業などの実務はハンス殿にお任せする方向で考えていますが、オーナーは君です」


「わたくしが、お店のオーナーですか?」


「はい。グレイス領初の鋳物専門店は、君のお店です」


「わかりました。オーナーとして責任重大ですが、わたくしが提案したことですからね。オーナーの名に恥じないように、頑張らせていただきます」


 そう話すクリスティーナ嬢の表情は、特に気負った様子はなく、いつも通りの気品が溢れた澄ました表情のままだった。

 その表情を見ていると、なんの根拠もなく不思議と『このプロジェクトは成功するだろう』という確信を感じていた。

 クリスティーナ嬢には、他者に安心感を与えるような不思議ななにかがあるのだろう。






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