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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第六章 変革の息吹
48/51

#48 報告と休息 


 領都の城に戻ると休む間もなく、父上とコーデン叔父上にトッテム河洪水の被災地視察についての報告をすることになった。


 どこまで報告するかが悩ましいところだったが、まずは今回の視察のメインであった、氾濫流域の復旧状況と、洪水発生の要因の1つである地形的な問題。

 それに関連して、河川沿いの堤防と、低い盆地などに雨水を逃がすための空池を作ることなど、今後の治水対策も提案した。

 50代中年の知識を持ち出しての提案だったが、実際に被災地で調査し、復旧事業に携わった上での提案だったので、特に違和感を持たれることもなく、父上も叔父上も提案内容については前向きに検討するべきだろうと評価してくれた。


 また、ラッカ寺院とモスコ寺院で保護している被災民たちの困窮状況も報告し、現在の支援状況と、今後必要な支援として、近隣の村との合併案やその為の補助金、避難民の自立支援のための住居や職業の支援策などの検討も提案した。

 これについては今後のことを考えると、行政府がメインになって進めるべきなので、俺からはあえて具体的なことは言及しないでおいた。


 そして、アブルダリル聖教会との摩擦についても。

 特に、都市部を狙われやすいことや、子供や女性を狙った布教と信者育成プログラムなどの仮説も報告した。

 ただし、父上も叔父上も実際に見ていないからなのか、危機感は感じられず興味が無さそうではあったが。

 

 ひと通り報告すると、父上から「実際に被災地や被災民を見て、なにを学んだ?」と聞かれたので、「自然の驚異の恐ろしさと、それでも立ち直ろうとする農民たちの強さを学びました」と答えたが、相変わらず「ふむ」としか返ってこなかった。

 恐らく、父上が「ふむ」と答えたときは及第点なのだろう。

 また、叔父上からは、「相変わらず細かいことばかり気にしていたようだが、今回は、トーマスのその性格が役に立ったようだな。しかし、お前は将来領主になるのだからな?お前の仕事は実務ではなく、采配することだと忘れるなよ」と、以前の「お前が気にする必要はない」よりは、具体的なことを言われるようになったので、一応は評価が上がっているのだろうと受け止めた。


 無事に全ての報告を終えると、精神的にもようやくひと仕事終えたという安堵を感じた。これも元サラリーマンの性なのだろう。

 特に今回は、達成感よりも安堵のほうが強い。

 それはやはり、復興も聖教会との摩擦も、まだ解決したわけではなく、これから先も続く問題だと認識しているからだろう。


 ◇


 翌日から三日間、完全休暇となった。

 俺とクリスティーナ嬢だけでなく、護衛任務のシロツグとシャントットもだ。ちなみに、俺の世話係も休暇となったが、クリスティーナ嬢の世話係と従者は違うようだ。彼らはグレイス家ではなくブラン家の所属だからな。


 しかし、せっかくの休暇でも、自由な身ではないので、護衛なしではジョギングや城内の散歩すらままならない。結局、部屋に閉じこもって、商工ギルドのハンス殿に渡す鋳物専門店の出店計画書や、それに伴う物流などの提案書に、カリム将軍に渡すための軍需品を鋳物製品奨励の要望書、復興対応の行政チームに渡す河川の堤防や盆地の空池の具体的な草案などを作成していた。


 と、働き方改革とは無縁の休暇を過ごしていると、クリスティーナ嬢が俺の部屋を訪ねてきた。どうやら、彼女もヒマで退屈していたようだ。

 被災地視察のあいだ、俺のシャツとズボンをずっと着ていたから、ドレス姿を見るのは久しぶりだ。軽装のクリスティーナ嬢も可愛らしかったが、やはりドレスになると、気品と可愛らしさが際立つな。まぁ、8歳の女の子なら、なにを着ていても可愛くなるのだろうけど。


「ごきげんよう、トーマス様」


「ごきげんよう。お休みなのに、どうしました?」


「せっかくのお休みなのに、トーマス様はまたお仕事でもしてらっしゃるのではないかと思いまして、お茶とお菓子を持参しました」


「ええ、図星ですね。他にすることがないので、計画書などを作成しておりました」


「被災地視察では休む間もなく働かれたのですから、体を休めなくてはいけませんよ」


「そうですね。君の顔を見たら、働く気が消えてしまいました。今日はゆっくりお休みしましょうか」


「はい。お休みしましょう」うふふ


 テーブルのイスを勧めると、世話係がテーブルの横に運んだティーワゴンで、クリスティーナ嬢が自らティーポットにお湯を注いだ。


「茶葉とお菓子は、パン屋のサラサさんの紹介で取り寄せたものです。今日は、わたくしがお茶を淹れますね」


「お茶の淹れ方も勉強したのですか?」


「はい。世話係にお願いしまして、教わりました」


「ほう。スープの調理やお茶の淹れ方なども学ぶ姿勢は、とても良いことだと思います」


「学ぶことは、楽しいものです。学術だけではなくお買い物やお料理も、王都ではできないことばかりでしたので、ここでの生活は、とても楽しいです」


 2つのカップにお茶を注ぎ、クリスティーナ嬢も座ったので、カップに口をつけた。ほど良い渋みが胃袋に染み渡る。長い野営地生活だったので、この香りも久しぶりに感じる。


「グレイス領をお気に召したようで、僕も嬉しいです」


「トーマス様には本当に感謝しております。わたくしに、学ぶ喜びと期待に応える責任を教えてくださり、自分らしく生きる意味を知ることができたのは、トーマス様のおかげです」


「自分らしく生きる意味ですか。哲学的ですね。僕にはまだ、自分らしく生きる意味は分かりません。ただ、責任感だけで生きている気がします」


「トーマス様は、不思議な方です」


「不思議ですか?理屈っぽくてマセているだけでは?」


「理屈っぽいのは、わたくしも同じです。不思議なのは、責任感だけで生きていると仰りながら、その責任に縛られていないところです。お言葉の1つ1つに強い責任感を感じるのに、何ものにも縛られない自由なことばかり仰ります」


「ほう。君には、僕がそのように見えるのですか」


「はい。常に貴族の矜持や振る舞いを大切にされてらっしゃるのに、言葉の意味することやお考えが、貴族の枠に収まらないと言いましょうか・・・非凡な才覚を持ってらっしゃるからこそ、貴族であろうとしてらっしゃるのでしょうか」


「なるほど、哲学的だ」


 まぁ、見た目が8歳でも、中身は中年のおっさんだからな。そりゃ不思議に見えるか。


「そのようなお方だからこそ、被災民や兵士の皆さまが、トーマス様を慕ってらっしゃるのだと思いました」


「僕が慕われている?僕ではなくて、むしろ、慕われているのは君のほうでは?」


 特に被災民の連中は、俺とクリスティーナ嬢とで全然態度が違ったからな。

 あからさまなあの態度の差には結構ショックだったから、根に持ってるぜ。


「わたくしの言葉は、トーマス様のお言葉です。被災民や兵士の皆さまはわたくしを通して、トーマス様を見てらっしゃるのです」


「いや、それだけは違う。君の言葉は君のもの。自分らしく生きると言ったのは、君だよ?」


「そうでしたね。言葉とは、難しいです」






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