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#43 農民と村社会


 寺院というと、近代日本では仏教のお寺を思い浮かべるが、この世界では仏教に相当する宗教はなく、寺院といえば、土着信仰の祠という位置づけになる。

 その役目は様々で、信仰する土地神を祭るだけでなく、寄合などの集会や収穫祭などのイベント、そして今回のような避難所としても使われる。お寺よりも神社や公民館のほうが近いイメージか。

 グレイス領内では、ほとんどの村に1つはあるもので、ラッカ村にある寺院はラッカ寺院、モスコ村にある寺院はモスコ寺院と呼んでいる。

 ここまでの知識は、今回のグレイス領帰還を前に家庭教師から教わったものだが、実際にその土地に訪れて村民や避難者から話を聞くと、もっと詳しい村社会を知ることができた。


 村というのは1つの生活共同体だが、村同士で横の繋がりも強い。

 農民は子供を多く作る傾向があり、村の中では嫁探しや婿探しに限界がある。そのため、他の村にて嫁探しなどをする必要があり、血縁関係が広がり、交流や物流も増える。そうやって村同士でも繋がりが出来上がり、今回のような災害時でも『困ったときはお互い様』と被災民を受け入れる。


 逆に、グスタフのような宿場町の住民は、余所者を『お金を落とす商売相手』として見るため、お金のない被災民とは距離を置く傾向が強く、避難した被災民たちも、『都会に出て一発逆転!』や『人が多く仕事も多いから、なんとかなる』みたいな幻想があったのかもしれない。

 その結果が、地に足の着いた生活を疎かにしたがために怪しい宗教に騙されてしまうというのが、近代日本の都会に憧れて田舎を飛び出した世間知らずの田舎者のイメージと重ねてしまう俺は、やはり中年のおじさん思考なのだろう。

 まぁ、8歳の子供が「近頃の若いもんは」と嘆くことほど、滑稽な話はないが。


 しかし、だからこそ、なぜアブルダリル聖教会がラッカ村やモスコ村ではなく、宿場町グスタフをターゲットにしたのかも理解できてしまう。隣人同士の結束力の強い村よりも、隣人との距離がある街のほうが、取り込みやすいのだろう。


 そして、俺たちが今からやろうとしているのは、「地に足の着いた生活を、もっと大事にしようぜ!」的な、原点回帰というか村社会回帰とでもいうべきか。

 今回被災地視察に来て、被害状況や村社会を色々と見て聞いて知って考えた結果、こういう地味な活動こそが聖教会対策として有効だろうという結論だった。

 これは、決して聖教会対策だけではない。これまで見てきた領都でパン屋を営むサラサさんや鋳物工房のゴードン親方、そして今回のラッカ寺院やモスコ寺院の被災民たちは、みんな自分の生き方というものを持っていた。そういう人間は、逆境に強い。逆境に強い領民が多ければ、グレイス領全体も逆境に強くなる。綺麗ごとや理想論ではなく、本当にそうだと実感している。

 この実感こそが、俺がこれからやろうとしているグレイス領の富国強兵策にとっても、必要な土台となるだろう。


 ということで、その第一歩となりうる『グスタフへの潜入及び噂の拡散作戦』の協力を避難民たちにお願いするため、モスコ寺院にやってきていた。


「かくかくしかじかでして、グスタフに避難している被災民たちをこちらに誘導してほしいのですよ」


「うーん、そりゃオラたちも、あっちに避難した連中のことは心配だけんども、今は自分たちのことで手一杯だべなぁ」


「そこをなんとか!」


「うーん」


 むむ

 思っていたよりも、難色を示しているな。

 これは一筋縄ではいかないか。


「わたくしたちは、一人でも多くの被災民の方々が、元の生活を取り戻すお手伝いがしたいのです。ここにいる方たちだけを優遇するのではなく、村民全体が生活の立て直しをすることが本当の復興になるのです」


「あ、はい!くりすちーな様のお願いとあらば!オラたちなんでもやらせていただきやすぜ!」

「オラもやります!」

「オラも!」


「ありがとうございます。頼りにしておりますね」うふふ


 あれ?

 一筋縄でいかないはずでは?

 なに、この差?

 クリスティーナ嬢は、気品と自信に満ちた表情で微笑んでいる。

 渋っていたはずの被災民たちは、なぜかハイテンションで元気一杯だ。

 チラリとシロツグとシャントットに視線を向けると、目を逸らされた。


 8歳のくせにおっさん臭いことばかり言っていたから、生意気な糞ガキとでも思われているのだろうか。そういえば、コーデン叔父上にも「この有様」とか言われていたっけな。


 その日の午後、ラッカ寺院にも行き、同じように『グスタフへの潜入及び噂の拡散作戦』の協力をお願いしたが、同じ反応だった。

 パーフェクト侯爵令嬢だもんな。中身がおっさんの生意気な糞ガキとは違うよな。


 あ、もしかしたら、カリム将軍が怖い目で俺を睨むのも、「生意気な野郎だな」とか思われているからなのか。それだと俺の想定から外れることになり、懐柔が難しくなるぞ。

 いや、そんなはずはない。あれは、軍部内で研究段階の火縄銃に詳しいから疑念を抱いた目だ。そうに違いない。むしろ、そうであってほしい。





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