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#42 若君のマーケティング戦略


 カリム将軍からの疑念に関しては、今更慌てたところで仕方ない。

 もっと慎重になるべきだったが、敵対行動をとったわけでは無いし、歳相応ではない知識や発想を疑われているというだけで、まさか暗殺だの追放だのという話にはならないだろう。そのようなことを考えれば、カリム将軍の立場だって危うくなるからな。

 そう考えると、制限ばかりで不便だと思っていた領主の跡継ぎという立場は、今回に関しては都合がよかったかもしれない。


 と、クヨクヨ考えていても、目の前に山積みされた復興問題は待ってはくれない。

 商工ギルドに委託していたグスタフに避難していた被災民の情報を、面談からちょうど一週間後に、ギルド長のハンス殿が自ら野営地まで報告に来てくれた。


 挨拶を済ませると、さっそく本題に入り、受け取った報告書に目を通しながら口頭での説明も受けた。


「把握できた被災民の人数は55名。男性が19名、女性が36名、15歳未満が22名、成人以上が33名になります。成人の主な職は農夫と牛飼いですが、どの世帯も畑や家畜は今回の洪水で全滅とのことです。あと、20数名が教会の聖堂に寝泊まりしておりますが、残りの避難キャンプは、廃材などを組んで作った雨よけ程度で、ほぼ野宿ですね」


「うーん、やはり野宿か。女性や子供が思ったより多いのも気になりますね」


「女性や子供は、優先的に教会が受け入れているようで、比較的安全は守られているようです」


「ほう、それは安心ですね。女性や子供がひと月以上も野宿生活はでは、何が起きてもおかしくありませんからね」


「はい。それで、トーマス様がご心配されていました健康状態に関しましては、下痢や嘔吐の症状を訴える者が多く出ているそうです。病が流行している可能性が考えられ、また栄養状態もよろしくないようです」


「病に対して何か対策は取られているのですか?」


「潜入した者の話では、聖教会側は祈りを捧げるだけで、特になにもしていないようですね」


「お祈りだけとは、またなんというか・・・」


 所詮、壺売りのミルか。

 薄っぺらな施しで入信させて、ガッツリ搾取する算段なのだろうな。


「報告書の内容から見ると、食事は支給されているようですが、充実した食事とは言い難いようですね」


「一人当たり一日2食で食事内容はパンが1つとスープが支給されておりますが、それでも被災民たちは「ありがたい」と言っているようですので、ひと月以上の避難生活で、それが当たり前だと認識されているようです。ですから、明確な要望や不満を持つというよりも、この先の生活への漠然とした不安感が蔓延しているように感じます」


「漠然とした不安ですか。ラッカ寺院やモスコ寺院の被災民とは、心理状態も違うようですね。我々が支援しているラッカ寺院やモスコ寺院の避難者たちのほうが、明らかに良い待遇ですからね。気持ちの持ちようや不安を向ける方向が、違うのでしょうね。問題は、グスタフの避難者たちに、どうやってその待遇の違いを伝えるかと、どのようにグスタフから移動させるか・・・」


「情報を伝えることなら簡単ですぞ。商人にとって情報は武器ですからな。その使い方も熟知しております」


「ほう。どうすれば良いと?」


「例えば、噂を流すのです。「ラッカ寺院やモスコ寺院に避難した連中は、一日3食も食べて、仮設住宅や仕事の斡旋も受けられるそうだ」と、グスタフ内で広めてしまうのです」


 商人にとって、噂をコントロールして商材の相場を操作するなどは常套手段だが、聖教会もバカではないだろう。グスタフに出入りしている商人がそのような動きをしたら、警戒されるなり商工ギルドに圧力をかけてくるかもしれないし、最悪、こちらが後ろで手を引いていることまで気づかれるかもしれない。


「うーん。噂という手段は良いのですが、問題は誰がやるかですね。商人が商いとは関係のない噂を広めているとなると、聖教会もこちらの動きに気付く可能性があるのですよね」


「それは、我々としても避けたいですね」


「ラッカ寺院やモスコ寺院の避難している被災民の方たちに依頼してはいかがですか?もとは同じ村の住人同士ですし、避難生活で手が空いている者も多くいました」


 そう提案してくれたのは、クリスティーナ嬢。


「確かに、被災民同士、村民同士なら話の信憑度も上がるでしょうし、一番確実か。しかし、被災民を危険な目にあわせられないな。グスタフ内の治安はどうなのですか?」


「住人側と聖教会側とで、小さなトラブルは起きているそうです。避難者たちへの警戒心も強いようですね」


「そうなるのは当然か。そこへ被災民たちを送り込んで良いものだろうか」


「わたくしは、大丈夫かと思います。日々、被災民の方々と対話をしておりますが、彼らはとても強いです。不安や不満をこぼすことはありますが、誰一人、折れてはいませんでした。再び立ち上がって、元の生活を取り戻そうという気概を持った方たちばかりで、わたくしのほうが励まされてしまうほどです」


「そうか。そうですね。私も被災民の笑顔に励まされました。身の安全を第一に行動してもらい、同じ村の者として心配で様子を見にきたという話なら、余程のことはないと思えますね。明日にでも彼らに相談してみましょうか」


「はい。それに、病流行のお話が心配ですので、急ぐべきです。わたくしも、被災民の方々に協力していただくよう話をいたします」


「それと、支援内容も今以上に充実させることも考えていきましょう」


「そのためには、もっと多くの意見を求めてはいかがですか?わたくしたちや行政チーム、被災民だけではなく、軍部や商人の方々からも聞くことができましたら、なにか良いアイデアを頂けるかもしれません」


「そうですね。即効性のある支援はすでに手を打った状況ですので、今後は広く意見を集めながら長期的なスパンで復興を目指すべきでしょうね。それと、ハンス殿の報告してくださった今回の情報は要点をしっかりと抑えてくださっていたので、今後の戦略を練る上で非常に役立ちました。この調子で約束の期日まで情報収集継続をお願いします。また、商工ギルドからも復興支援などの提案がありましたら大歓迎ですので、ぜひともお願いします」


「畏まりました。それでは1週間後に再び報告に参りますので、よろしくお願いいたします」


 ハンス殿の報告を受けたあとは、すぐに行政チームや被災民支援部隊を率いるライアン隊長とも情報共有と対応策の相談をして、医師や薬師などの派遣要請や、ラッカ寺院やモスコ寺院の収容数を増やすため、それぞれに仮設住宅を建てる話を進めた。

 また、移住希望者の移動に関しても、グスタフ郊外に軍の2~3個小隊を待機させて、希望者を保護する方向で調整することになった。




 


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