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#37 復興活動と救済活動


 野営地に戻ると、そのまま対策会議をすることになった。

 上流を調査した12名のメンバーと、昨日の対策会議に出席した3名の千人隊長と参謀部1名、行政チームの2名、そしてクリスティーナ嬢とシャントットも呼んだ。

 俺たち12名は食事がまだだったが、誰一人不満を口にすることなく、その表情は『なんとかしたい』という階級差を超えた使命感に満ちていた。


 まずは、治安維持部隊、復旧作業部隊、それぞれ初日の現状報告から始められた。そしてカリム将軍は先立って、「この会議の場では、自由に発言することを許可する。階級や身分、立場に遠慮することなく、忌憚ない意見を求める」と宣言した。


 被災地周辺地域の治安に関しては、住民同士の喧嘩程度で野盗などの情報はなく、比較的落ち着いているようだ。

 次に、橋などの復旧作業に関しては、やはり、引かずに滞留したままの水の影響が大きく、予想通り難航しているとのことだった。

 そこで、上流を調査して分かったことや、複数個所での塞き止め案を俺から説明し、具体的な塞き止め方法も提案した。


「上流では、川幅が狭く直線的な形をしていますので、複数個所で丸石を積み、流れの勢いを殺します。そうすることで、メインの塞き止めエリアにかかる水圧を弱めてやります。また、下流の川幅が広く流れが緩やかな流域で塞き止め箇所を3ヵ所作り、プールできる許容量を多くします。一番問題となるのはその塞き止め方法ですが、橋を架けるときのように等間隔で杭を打ち、木材を積み上げ壁を作り、河底や河原の丸石と泥で補強を考えています」


 俺の説明を、上流調査チームだけでなく、他の出席者も真剣に聞いてくれている。子供の思い付きだとは思わず、復興に向き合う一人として扱ってくれているのだろう。上流調査チーム以外の出席者からいくつか質問が出たので、分かる範囲で1つ1つ丁寧に説明したが、それには俺だけでなく、調査チームのメンバーも補足などを加えてくれた。


「では今の案を元に、早速明日から実行に移す。若君は参謀部と協力して、具体的な計画と指示内容をまとめてもらえるか?」


「はい。今夜中にまとめます」


「お疲れのところ済まないが、よろしく頼みます。では、復旧部隊は明日からその作戦指令書に基づいて動け。橋の復旧、流木や土砂などの撤去作業はそのあとだ。それと、治安維持部隊も半分を復旧作業へ回せ。若君が立案した塞き止め作戦を最優先で動くのだ」


「ハッ!」

「ハッ!」


 上流調査を提案した際に、カリム将軍が同行すると言い出した時は戸惑ったが、結果的には、一緒に調査と検証をしてきたおかげでスピード感のある判断と命令に繋がった。

 俺がこの場で仕事がやりやすくなったのも、最高指揮官という後ろ盾があるからこそだろう。流石は、生粋の叩き上げで将軍となった人物だ。間違いなく、軍部の将来を握るキーマンだと核心を強めた。


 続いて、被災民支援部隊の報告となった。


「まずは、状況報告から始めます」


 報告を始めた千人隊長のライアン隊長の表情は、緊張の色が見られる。

 今まで報告と提案することに集中していたので気付けなかったが、ライアン隊長だけでなく、被災民支援部隊に同行した行政チーム、そしてクリスティーナ嬢とシャントットも浮かない表情で、ここまでの会議の流れとは異質なものを感じる。


「被災者の主な避難先となっています、ラッカ寺院、モスコ寺院、そして宿場町グスタフの避難民キャンプと教会へ予定の支援物資の搬入、及び救護、炊き出し、その他支援活動を開始しましたが、グスタフにはすでに聖教会が支援活動を始めておりまして、トラブルになることが予想されましたので3刻ほど待機したのち、私の判断で撤収しました」


「そうか。アブルダリル聖教会が先に手を回しておったか」


「はい。昨日の斥候班からの報告では、その情報が無かったので油断しておりました。折角クリスティーナ様にご足労いただいたのに成果を得られず、申し訳ございません」


「いえ、事情は充分理解しております。わたくしこそ、力不足で申し訳ございませんでした」


 アブルダリル聖教会?なぜそれがトラブルに?

 むしろ、軍の支援が遅かった分、避難民の支援をしていてくれたのだから、有りがたい話ではないのか?


「いや、婚約者殿の責任は一切あるまい。連中が出てくればこうなってしまうのも仕方ないだろう。ラッカ寺院とモスコ寺院での救援活動は予定通りに進めたのだな?」


「はい。問題なのはグスタフの避難民キャンプと教会であります」


 どうやら、この場で事情を呑み込めていないのは俺だけで、他の出席者はアブルダリル聖教会の名前を聞いただけで、事情を察しているようだ。


「あの、勉強不足で申し訳ないのですが、聖教会が関わるとなにが問題なのですか?」


「自分から説明させてください」


 そう申し出てくれたのは、シャントットだ。


「はい、お願いします」


「以前、アブルダリル聖教会と国家や民衆が衝突してきた歴史をご説明しましたが、現在は、互いが干渉せず領域を犯さないことが前提で成り立っている平和でもあるのです。つまり、聖教会が先に今回の被災者を救済しているとなると、我々軍も行政も支援の手が出せないのです」


「ああ、なるほど。そういうことか」


 例の壺売りのミルが、被災地でも既得権益の勢力争いか。これはまた、面倒な。


「そして厄介なのが、今回の災害は洪水ですので、聖教会の言い分は『雨と水を司る女神ミルの神罰』ということになるのです」


 そんなアホな。

 今回の洪水は、季節的な増水と天候不順、そして地形的な問題が重なったことで発生したものだ。神罰などではなく、科学的根拠がある。


「つまり、王国やこの地の領主の行いが悪いから落ちた神罰だから、あなたたち民草は女神ミルを崇めることで救われるとでも言って、救済活動という名の布教活動をしていると?」


「はい。そういうことになります」


 50代中年の記憶でも、癌の告知をされたあとにどこから嗅ぎつけてきたのか、いくつもの怪しい宗教を名乗る連中が、『あなたの病気は天罰です!ですが私たちの神を信じれば、あなたも救われる!』とか言って、胡散臭い話を聞かされたものだ。

 俺の病気は、働き過ぎとタバコが原因だっつーの。もしあれが天罰だったら、世界中のサラリーマンが天罰喰らって癌になっていないとおかしいだろ。

 奴らはゴキブリ並みにしつこくて、何度追い返しても来やがったが、人の心が弱っている時ほどチャンスとばかりに、都合よく書き換えた話で食い物にしようとしているのだろう。それは、この世界でも同じということか。


「それで、避難民キャンプと教会の避難民たちは、充分な食糧や衣類などは与えられているのですか?」


「それが、軍服の我らでは町に入ることすら困難で、現状の把握ができておりません。実は、クリスティーナ様が『街中へは一人でも行く』と仰られて、我々で必死になって止めた状況でして」


「わたくしは軍服ではなく軽装でしたので、わたくしにできることをやろうとしたまでです」


 くっ

 また、クリスティーナ嬢の頑固虫が発症したのか。

 むしろ、よく止めてくれたと感謝したいほどだ。

 

「とにかく、当面はグスタフには手を出さず静観しよう。被災民支援部隊はその分の物資を持って、ラッカ寺院とモスコ寺院の支援を強化せよ」


「了解しました」


「では、本日の対策会議は終了とする。みな、ご苦労だった。明日もよろしく頼む」


 聖教会の件は新たな悩みの種だが、俺は今夜中に上流塞き止め作戦の指令書を作成しなくてはいけない。明日以降の軍部の指針になるものなので、こちらが最優先だ。

 聖教会のことは、それが終わってから考えよう。





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