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#36 馬を走らせ河に入り、焚火を囲み


 早朝4の刻、日の出とともに野営地を出立した。

 メンバーは、俺とシロツグ、カリム将軍と護衛の一個小隊8名、斥候班からも1名の12名で、全員軍服姿でそれぞれ馬に乗っての移動だ。


 この地域の地形に詳しい斥候の話では、野営地から川沿いを3刻から4刻程度の位置に滝があり、そこまでの範囲の地形を調査するのが目的なので、少しでも距離と時間を稼ぐために駈歩で進む。

 馬上から河の流れを眺めながらの騎乗だが、昨日の長距離行軍のおかげで随分と俺も馬も慣れ、正しく頼れる相棒だ。


 移動中は、カリム将軍も他のメンバーも無言のまま引き締めた表情で、この調査に対する真剣さが見て取れて、心強い。

 そして、誰一人、俺を子供扱いしないのも、かえってこちらも気を遣わずに済んで、助かった。


 1刻も走らせると、濁っていた水流は清んだ水になり、丸石の河原が見え始めた。


「すみません!ここで最初の調査をさせてください!」


「了解!全員止まれ!」


 馬を木に繋げると、カリム将軍と斥候、シロツグに護衛数名を連れて河原に下りて調査を始める。

 水は綺麗だが、思ったよりも水量は多く、流れも速くて冷たい。まだ雪解け水が流れてきているのか。冷たいのを我慢して水面に直に顔を浸けて水中を覗くと、一番深いところで2メートル以上はある。地図を広げて場所を確認すると、洪水エリアに比べれば川幅は狭くなっているが、目測で7~8メートルはあるだろうか。これでは人工的に塞き止めるには広すぎる。メートルをライドに換算して、それらの情報を地図にメモしていく。


「若君、ここで塞き止めるつもりか?この川幅を埋めるのは、簡単ではないぞ?」


「そうですね。流れも速いですし、難しいと思います。ただ、広範囲で情報を収集しておけば、比較する材料になるかと思いまして」


「ふむ。地道にシラミ潰しか」


「はい。塞き止めた際に周辺の農産業や住民生活などへの影響も考えられますので、失敗は許されません。最小限のリスクと最大限の効果を出す為には、まずは情報だと考えます」


「よく分かった。とことん付き合うぞ」


「すみません。助かります」


 移動を再開すると、その後もコンスタントに馬を止めては同じように調査をし、地図に情報を書き込んでいく。

 そして、出立から3刻余りで岩場に到着し、ここからは徒歩での移動となるので、休憩を取ることになった。


 焚火を焚いて、携帯食を食べながらここまでの調査内容の整理を始める。

 川幅や地形的な条件から判断して、すでに何カ所か候補はあるが、流れが上流にいくほど速く、そこが最大の問題だと考えていた。

 そして、施工方法や資材の調達なども考えなくてはいけない。

 近隣の木を伐採して使うなり、河原の石を使うなりするか。

 軍部なら人手はあるから、人海戦術でなんとかできるだろうか。


 いや、素人の俺が一人で考えても、空論ばかりだ。

 折角ここには俺以外に11人もいる。それも、将軍に斥候に正規兵や農家出身のシロツグという多種多様の人材がいるのだから、意見を求めるべきだろう。50代の中年の記憶でも、管理職として、そうやって意見やアイデアを集めて、数々の難局を乗り越えてきた。

 近代日本だろうと、この世界であろうと、こういう時こそチームワークだ。


「あの、みなさん。休憩中にすみません。河の流れが速い場合の塞き止める方法、もしくは、流れそのものを遅くする方法で、なにかよいアイデアはありませんか?」


 しかし、俺の問いに、顔を見合わせるばかりで答えてくれる人がいない。


「なにかないのか?分かるやつは誰か、おらんのか?」


 あ、俺以外全員軍人だった。

 将軍が居る場で、好き勝手に意見出せるわけないのか。


「無礼を承知で将軍にお願いなのですが、些細なことでも幅広い意見やアイデアを聞きたいので、この場だけは階級差関係なく発言することを許していただけないでしょうか」


「おう、そうだな。全員、自由に発言することを許可する。ありったけ知恵を絞れ!」


「あの!参考になるかわかりませんが!」


 最初に挙手してくれたのは、シロツグだ。

 やはり、素直で順応性が高い彼を連れてきたのは正解だった。


「自分は田舎の生まれで、ガキの頃はよく川遊びをしました。それで、川魚や川エビなどよく捕って食ってたんですが、石を積み上げて囲いを作ると、そこに魚やエビが集まってくるんです。流れを遡るというか低いところから高いところにいこうとする習性みたいなものがあるらしく」


「つまり、なにが言いたいのだ?」


「えっと、丸石で囲ってやるのがトーマス様のやろうとしてることに似てる気がしまして、おまけに、えっと」


「魚も捕れて一石二鳥だと?」


「あ、はい!」


「ばかもの!」


 カリム将軍がシロツグを一喝すると、周囲の兵士たちは笑いだし、一気に緊張感がほぐれた。


「シロツグに質問なのですが、河の速い流れの中で丸石の囲いを作って、崩れたりしないのですか?」


「うーん、どうだったでしょうか。自分は、完全に塞き止めるのではなく、川幅の1/3くらいを塞いで、川の流れそのものは止めてなかったように記憶しております」


「自分もガキのころ、よく川を塞き止めて、魚を捕っておりましたが、やはり、シロツグ殿と同じように部分的に塞き止めてやるんですが、自分は川底の石を使って壁を作って、水深が深くなるようにして潜って遊んでいました」


 シロツグに続いて川遊びの話を語ってくれたのは、護衛小隊のメンバーの一人だ。


「なるほど。塞き止めて遊ぶのは川遊びの定番なのですね。ここで実際に試すことはできますか?」


「ええ、この流れなら簡単だと思います」


 シロツグを含めた数名は帯剣を解き軍服やブーツなどを脱いで下着姿になると、河に入って作業を始め、あっという間に丸石を使った小型ダムを作り上げた。俺も軍服とブーツを脱いで下着になると河に入るが、顔だけ浸けるのとは段違いで冷たくて体が震える。しかし、気合と根性で潜って調査を始める。

 人工的に作ってくれたダムは底が深くなっており、そこに居ると河の水流に体が押されることが無かった。積み上げられた丸石は安定しているようで簡単には崩れそうには無いが、隙間があるので、水流の圧を逃がしているのかもしれない。


「この壁の影響で、ここだけ河そのものの流れも変わりましたね。それに、丸石の壁は隙間から漏れて流れてフィルターのような状態です・・・そうか、石や流木だけなら流れが完全に止まるわけではないのか。氾濫流域は、泥がこの隙間を埋めていたのかもしれません」


「恐らく、その可能性が高いだろうな。しかし、それを知ったところで、現状の打開にはならないぞ?」


「はい。あくまで、河川氾濫の原因となる複数の要因の1つというだけの話です。ですが、泥が厄介な存在であることを理解して行動することで、今後の方向性が変わる可能性もあります。解決につながらない情報でも、ここで知れたことは良い結果を生むかもしれません」


「そうだな。とことん付き合うと言ったのだから、性急にならずに、ワシも多様な目線で見なくてはいかんな」


「すみません。偉そうなことばかり言いまして」


 河から上がり焚火で暖を取りながら、再び情報の整理を始めた。

 しかし、今度は俺一人の脳内ではなく、焚火を囲む12人でだ。


「上流に行くほど川幅が狭くなるのですが、その分、流れの勢いが増してきますので、完全に塞ぐのは難しく、これまでも、自然に流木などで塞がれることもほとんど無かったのではないでしょうか」


「そうか。上流は流木などが引っかかることがあっても、勢いがあるからすぐに流されて塞き止められずに済むが、今回洪水した流域のように流れが緩やかな下流だからこそ、一度引っかかってしまうと流されずに、他の流木や岩まで塞き止めてしまうのだな」


「泥も同じことが言えます。流れが緩やかな下流だと滞留しやすく、流木や石の隙間に詰まった可能性が考えられます。更に、川幅が狭いと水をプールできる面積や容積も狭くなるということになりますので、塞き止めたあとのことを考えると、川幅が広い方が適しているように思えます」


「ここまで作業性を重視していたが、むしろ、その塞き止め作業さえクリアーしてしまえば、川幅がある下流のほうが多くの水を貯めることができると?」


「はい、そういうことになります」


「あの、自分も考えたのですが、分散させてはどうでしょうか?塞き止めるのを1ヵ所ではなく複数個所で塞き止めれば、より多くの水を貯めることが可能になるかと」


「それです!グッドアイデア!可能なら、そうするべきですね!」


「では、更に上流へ行くよりここから引き返して、もう一度下流を洗いなおしたほうが良いだろう」


「そうさせてください。今度は広い川幅を塞き止める視点で確認しなおします」


「よし!体が温まったら移動を再開するぞ!方向性が見えてきたのだ!全員、ここからが本番だと思え!」


「ハッ!」


 こうして、来た道を戻りながら調査を続け、野営地に戻ったのは夕刻の6の刻を過ぎていた。






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