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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第四章 富国強兵の宿命
27/51

#27 銀貨一枚に込めた期待


「お金の利点はなんだと思いますか?」


「歴史学では、『お金が無い時代は物々交換をしていましたが、人によって物の価値がバラバラでした。ですが、お金で売買するようになって相場という概念が生まれ、共通の価値で取引ができるようになった』と教わりました」


「お金の一番の利点は、その通り『共通の価値』だと思います。ですが、視点を変えてみましょうか。それは、時間の経過。鮮度です」


「鮮度ですか?」


「はい。小麦や飼葉などは腐ったりしますので、時間の経過によって価値を失います。なので、早めに食べるなり売るなりしなくてはいけません。ですが、お金には鮮度という物がありませんので、ずっと保管しておけるのです」


「あ、そういうことですか。小麦ですと、新しく収穫して増やしても、去年までの古い在庫は価値を失うので財産自体は増えていきません。ですが、商人や貴族は財産をお金にして保有し、稼いだ分だけ財産に上乗せできるので、更に増やせます」


「そういうことです。お金は財産を貯蓄するのに非常に便利なのです。つまり、クリスティーナ嬢は銀貨1枚を使い切ってしまいましたが、今の私は銀貨1枚を使わずに、貯蓄しているのです」


「トーマス様は、お金の使い方を計画的に考え、貯蓄されていたのですね」


「はい。そして、この『お金で貯蓄』することで、財産の格差を生みました。貯蓄をたくさんしている人、貯蓄ができない人の差が生まれたのです。今の私とクリスティーナ嬢もそうですよね。でも、貯蓄をしている人はお金を溜め込んでいても、お金そのものを使わないままでは宝の持ち腐れとも言えます。そして、貯蓄が無い人は、お金が無いからこそ、必要に迫られている場合があります。ここまでのお話、理解できますか?」


「はい。トーマス様は銀貨1枚を貯蓄しましたが、買い物をしなければ、お金を持っているだけです。そして、私は銀貨1枚を使い切ってしまいましたので、このあとに買い物をするにはお金が更に必要です」


「そういうことです。つまり、お金をたくさん持っているけど使わない人と、お金を持っていないけど必要な人がいます。そこで、『貸し借り』というやり取りが発生するわけです。要は借金ですね。

 貸す場合も借りる場合も、価値に鮮度の無いお金は都合が良いのです。例えば小麦を貸した場合、新鮮な小麦を貸したのに、鮮度の落ちた小麦を返されても困りますよね。逆に、古い小麦を借りたのに、新鮮な小麦での返済を求められたら返すのが大変です。でも、お金だと鮮度がありませんので、お互いに共通の価値で貸し借りができるわけです。ただし、ここで注意しなくてはいけないのが、貸す側にメリットが無いと貸す意味がありません。お金を貸したことでのお礼が欲しいのです。それが、利息という考えです」


「お金は貯蓄に向いているから格差が生まれ、その格差がお金の貸し借りを成立させている。貸主は利息を条件にお金を貸して、借主は利息を払うことを条件にお借りするといことですね」


 自分の解釈が間違えていないか確認するかのようにそう話すクリスティーナ嬢は、真っすぐに俺を見つめている。その真剣な眼差しは、とても7歳の女児とは思えない。


「はい。具体的な例を出しますと、今日、馬車の中で話した『商人は元手を使って商品を仕入れる』という商売の基本ですが、借金することで元手を用意するのです。お金を借りて商品を仕入れ、それを売って儲けたお金から借金を返済する。特に個人の商人や新参の商人のほとんどはこの方法で、少しずつ貯蓄して、元手の額を増やすことで仕入れる量も増やし、それを売ることでさらに売上も増やすのをくりかえして、財を築くのです」


「貯蓄が無い人でもお金を借りることで商売ができるのですね。そのおかげで、たくさん貯蓄している人も利息が目的でたくさん貸すようになります。そうやって、お金を循環させているのですね」


「その通り!私が言いたいことはそういうことです。では、もう一つ、貯蓄したお金の使い方を教えます。それは、投資です」


「投資ですか?」


「はい、投資です。私宛の書状に、寄付の申し出が何通かありましたよね?あれも投資の一種です。要は、私という未来の領主に『このトーマスっていう跡継ぎは将来期待できる。だから今のウチに恩を売っておいてやろう』という考えで投資をしているのです」


「寄付には、そのような意図があるのですか」


「今の例えは少し誇張しましたので腹黒く聞こえますが、寄付を受ける側はそんな腹黒さなど些末なことなのです。なぜなら、投資してもらうことで自分の事業にお金を回せて助かるわけですから。そして、その事業を成功させることで、投資した人の生活や商売が豊かになれば、お互いが満足できるのです。例えば、交易商人が私に投資しました。私はそのお金を使って道を舗装して街道を整備して、馬車を通りやすくし事故を減らし、物流を活性化させました。そのおかげで私に投資した交易商人も商売がしやすくなって、たくさん儲けることができれば、「トーマスに投資して正解だった」と満足してもらえますよね」


「つまり投資には、将来への期待も含まれているのですね」


「そういうことです。ではここで、クリスティーナ嬢が先ほど話した「もっと勉強をして、上手なお買い物ができるようにがんばる」という言葉に期待して、私が持っている銀貨1枚を君に投資したいと思います」


「トーマス様はまだなにもお買い物していらっしゃらないのに、よろしいのですか?」


「私はここでなにかを買うよりも君に投資したほうが、価値があるお金の使い方だと信じています。ただし、1つだけ課題を追加します。この銀貨1枚で、このあとに視察する商店街で『一番安いパン』と『一番高いパン』を買ってください。その時に、どうしてそのパンが安く売ることができるのかと、なぜそのパンが高いのか、それぞれの理由も確認してください。それが投資する条件です」


「わかりました。この銀貨1枚にトーマス様の期待が込められ、その課題が、次にわたくしが学ぶべきことなのですね?」


「そうです、これも勉強です。いくつものお店を回り、情報を集めることが必要になります。これを市場調査と言います。上手な買い物をするには、この市場調査が必要です。投資してもらった銀貨1枚を有効に使うために、頑張ってみてください」


「次の商店街でもお店をたくさん回ってよろしいのですね。楽しみです」ふふふ


 よし。クリスティーナ嬢のモチベはまだまだ充分のようだ。

 やはり、初めての市場、初めての買い物体験での高揚感と、学ぶことを本当に楽しめる性分なのだろう。実際に俺が話した経済の話はかなりかみ砕いてはいたが、内容自体は大学の経済学と同等のレベルだった。それを過不足なく理解して、自分の言葉で再定義できるということは、近代日本の大学生並みの理解力があると言っても過言ではない。それは、優秀な頭脳だけではなく、高い学習意欲があるからこそなせる業だ。


 それにしてもこのチーズは重いな。腕が疲れてきた。

 しかし、あれほど偉そうに自分で持つと主張したのだ。

 武士は食わねど高楊枝。

 時にはやせ我慢も必要だ。






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