表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第四章 富国強兵の宿命
25/51

#25 若君の基礎経済学


 三日後、早速護衛を伴って城外へ出た。

 今日は、商工ギルドの要請で、城下町の市場や商店街を視察だ。

 馬車に揺られながらの車中では、クリスティーナ嬢に商売の基本を解説していた。


「商人は、元手を使って商品を仕入れ、それを仕入れ価格より高い値段で売ります。その差額が商人の儲けになります。これが商売の基本です。ご理解できますか?」


「はい。安く仕入れて、高く売るのですね。儲けを多くするためには、より安く仕入れて、より高く売ること、です」


「その通りです。ですが、みんながみんな高く買ってくれるわけではありません。なぜなら、お客でも商人を通さずに買えば、仕入れ値で買えるわけですから」


「そうですね。誰もが商人を通さずに買えば、安く買えます」


「でも、それでは商人は仕事になりませんし、存在する意味がなくなります。では、商人たちはどのようにして存在する意味を作り出すかといいますと、庶民が簡単に買えないものを商品として扱うのです。この簡単に買えないというのは、距離や刻、希少価値などになります。例えば、馬車で一月かかる土地まで仕入れに行き、そこで購入した物を持ち帰り、市場などで手間賃や儲けを乗せて売るのです。そうすれば『庶民が簡単に手に入れられない物を売る』という商人の存在意義が生まれます。このような商人を一般的には、交易商人と呼ばれています」


「交易商人は国境を越え、いくつもの国を回りながら仕入れと販売を繰り返すのですね」


「そういうことです。ですが、商人にはもう1つ別の形態があります。それは商店を構えて商売をするのです。生産者や仲買人から商品を仕入れ、店先で陳列して売るのです。こちらは店舗商人と呼ばれています」


「なぜ、市場と商店と異なる方法で売るのでしょうか?」


「それには色々と理由があるかと思いますが、交易商人はある意味賭けになりますが、その分当たれば儲けも大きいです。長期に渡る命がけの旅で貴重な物を見つけて、それをまた命がけの旅路を戻り、売ることに成功すればたくさん儲かりますよね。でも商店ではお店の営業がありますから、商人自ら仕入れに出られる範囲や刻は限られます。その代わり、地元の生産者との仕入れルートを作ることができれば、安定して仕入れが可能になります。商店に卸す生産者や仲買人も、お得意様となれば、安く卸してくれるようになりますし、また、商店を構えることで、専門性も打ち出せます。例えば、地元のいくつもの農家から多種多様な野菜を仕入れ、1つの商店で豊富な種類の野菜を陳列できれば、客は「あの店に行けば、欲しい野菜が手に入る」と考えるようになります」


「店舗商人とは、生産者と消費者を橋渡しする役目を、お仕事とされてらっしゃるのですね」


「そういうことです。ですが、今日はもう1つ学んでおきたいことがあります。それは、お金です」


「はい。金貨や銀貨のことですね」


「その通り。クリスティーナ嬢はお金を使って買い物をしたことがありますか?」


 そう言って、軍服の内ポケットから皮袋を取り出し、中から銀貨数枚を出して掌にのせて見せる。世話係にお願いして、今日のために用意してもらったお金だ。


「いえ、わたくしはお金を触ったことも使ったこともございません」


「僕もそうです。我々のような侯爵家の子息子女は、町に出て買い物をする機会はほぼありません。すべて使用人たちが代行してくれますからね。だから、お金の価値を理解することが難しいと思います。クリスティーナ嬢はどうですか?お金の価値を理解できていると思いますか?」


「正直に申しますと、理解できているとは言えません。大切なものだということは分かっておりますが、それがどれほど大切かと問われると、説明ができません」


「そうですよね。僕も同じです。ですが、それではダメだと思うのです。領民から税を集めて、それを使って領地の運営や軍備を整えるのに、領主がお金の価値を知らないのでは、話になりません。ですから、今日の視察はそのお金の価値を知る第一歩としましょう」


「分かりました。本日は、商売とお金を勉強するのが目的です」


 無事に本日の課題を事前共有できたところで、馬車が商工ギルド本部の前に到着。

 護衛のシロツグとシャントット、クリスティーナ嬢の従者が配置につき、扉が開いて「トーマス様、到着しました」と声をかけられた。

 まず俺が降りて、次にクリスティーナ嬢の補助をして降ろすと、ギルド長と役員数名、そして多くの市民に出迎えられた。ギルド長のハンス殿は婚約披露パーティーに出席していたので、顔と名前を憶えている。

 ちなみに、俺は今日も軍服だが、クリスティーナ嬢は普段のドレスである。


「本日はお招きいただき、ありがとうございます。これまで市井を見る機会が無かったものですから、本日は勉強のつもりで参りましたので、よろしくお願いします」


「トーマス様とクリスティーナ様をお迎えできたことは、この町の名誉でございます。商工ギルド、そしてこの町を代表して、感謝申し上げます」


 挨拶を交わしていると、周囲の大勢の市民たちから「軍服の噂、本当だな」だの「クリスティーナ様の顔、小さいわね」などなど聞こえてくるので、軽く手を挙げて「皆さん、こんにちは。お仕事ご苦労様です。今日は社会勉強に来ましたので、よろしくお願いします」と声をかけると、なぜか「おぉー」という声と拍手が起きた。まぁ、歓迎はされているのだろう。


 この日の視察では、事前に「普段の商いを見たいので、町のなかを歩きたい」と話しておいたのだが、そのために軍部の手を煩わせてしまった。

 シャントットの話では、各所に兵が配置されているほか、一般市民に紛れて相当な数の兵を紛れ込ませているそうだ。今回の視察を決めてから、まだ二日だというのに、かなり無理をさせているのではないだろうかと心配したら、どうやらコーデン叔父上の手配らしい。

 その話を聞いて、申し訳ない!と軍部に謝罪に伺いたいほどだったが、出動している兵は皆、今回の任務を喜び、張り切っているそうだ。

 きっと、シロツグみたいなタイプばかりなのだろう。喜んでもらえているのなら、なによりだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ