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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第四章 富国強兵の宿命
24/57

#24 スピーチの影響


 軍部視察の翌日、朝から城内の中庭をジョギングしていた。

 5歳の時、脳内に50代中年の記憶が発現して以来、健康管理と体力作りの一環として毎朝ジョギングをしていたが、今回の帰還で王都を離れてからは忙しくて、ジョギングをサボってしまっていた。だから、今朝から再開した。但し、一人で城内をウロウロすることは禁止されているので、護衛のシロツグと一緒だ。


「トーマス様は、いつも、朝から、走ってらっしゃった、のですか?」はぁはぁ


「そうですよ。朝は空気が澄んでいて、汗を流すと気持ちいいんですよね」はぁはぁ


「空気、ですか。空気が、澄んでいるとか、汗が、気持ちいい、なんて、不思議な方ですね」はぁはぁ


 近代日本の50代の感覚では、朝の空気が澄んでいるのも、運動で汗を流すのが気持ちいいのも普通のことだが、ここでは貴族だけでなく一般庶民でも、健康志向や運動の大切さなど、そういう考え方自体が無いのだろう。


 半刻ほど軽く走り、中庭の井戸で水浴びをしてから自室に戻ると、7の刻を知らせる鐘が聞こえたので、着替えてから朝食に向かう。

 今朝は、クリスティーナ嬢だけでなく、父上とコーデン夫妻も同席だった。

 挨拶を済ませて着席すると、早速食べ始める。今朝のメニューは、キノコと葉野菜と鶏肉を煮込んだスープにゆで玉子とパンだ。地元の野菜や名産の鶏肉を使ったメニューが多く、食物繊維と良質なたんぱく質が摂取できているおかげで、快便だし体の調子もいい。王都での食事は、肉料理ばかりだったからな。


 と、健康的な食事に一人満足していると、 コーデン叔父上が話しかけてきた。


「トーマスよ。あとで執務室に来てくれ」


「はい。私からも執務官殿に用がありますので、食後に伺います」


「執務官に用だと?お前はまた、細かいことを気にしているのではないのか?」


「いえ、厩舎のことを勉強したいと思いまして」


「なぜお前が厩舎のことなど?」


「まぁ良いではないか。トーマスは少し変わり者だが、愚か者ではない。この歳で執務に興味を持つことは良いことだ。好きなようにやらせてやれ」


 おや?叔父上のいつもの小言が始まると思ったら、意外にも父上が叔父上を窘めてくれた。やはり、昨日の話は俺たちのことを認めてくれていたからこその話だったのだろう。

 これは、父上の期待を裏切るような真似だけはできないな。


「はぁ、兄上は甘い」


 父上の秘書官から本日の予定を聞き、食事を終えると自室に戻り、歯を磨いてから執務室に向かう。

 執務室には父上と叔父上、その他、秘書官や数名の執務官がいたので、そのうちの一人に「すみませんが、厩舎の担当官にこれを渡してください」と昨日作成した質問状を渡してから叔父上に声をかけた。


「来たか、トーマス。お前に見せておきたいものがある」


 叔父上がそう言うと、秘書官が封書や巻紙など大量の書状を出してきた。


「この書状の山がどうかされたのですか?」


「婚約披露の夜会から今朝までのあいだに届いたものだ。お前のスピーチを聞いて、各方面から陳情や請願、夜会の招待状や寄付の申し出、現地視察の要請に生まれたばかりの子息の命名依頼なんてものまである」


「たった三日でこれほどの。凄いですね」


「何を他人事のようにのんきなことを言っているのだ。口だけの若君などと言われぬよう、お前が対応するのだ」


「了解しました。今日から早速取り掛かります」


「え?やれるのか?」


「対応しろとおっしゃったのは叔父上ではありませんか。それが跡継ぎの仕事とあれば、謹んでやらせていただきます」


 50代中年の記憶では、大学を出て就職したばかりの時代は、職場でも根性論が当たり前の世情で、上司からの指示命令に対して「わかりません」「できません」と答える奴は無能の烙印を押された。だから、できるかどうかを考えるのは後回しで、まずは「わかりました」と答える習性が身についてしまっている。昭和生まれサラリーマンの性だ。


「一通り目を通して、お礼の返事を送るだけでも良いからな。無理をせずに頑張るのだぞ」


 自分の仕事をしながら聞き耳を立てていたのか、父上からのアドバイスがもらえた。


「はい。クリスティーナ嬢と二人で、頑張ってみます」


 書状を自室に運ぶように依頼して、客室に寄って「準備が出来ましたら、手伝ってください」とクリスティーナ嬢にも声をかけ、自室に戻って早速1つずつ目を通していく。

 2~3通、目を通した頃にクリスティーナ嬢もやってきたので、二人で手分けして進める。


「これは、予想していたよりも大変ですね。1つ1つの書状の内容がバラバラなので、返事の内容も実際の対応も、1つ1つ考えてやらないといけない」


「あの、まずはリストにして整理されてはいかがでしょうか?似た内容のものを仕分けることができれば、少しは対応も簡素化できるのではないでしょうか」


「そうですね。まずはリスト化しましょうか」


 リスト化の発想がすぐに出てくるというのは、事務方の仕事に向いているのかもしれない。やはりクリスティーナ嬢は、有能だ。

 世話係にお願いして紙とペンを用意してもらい、送り主、主な内容、期日、などを箇条書きにしていく。

 お昼を知らせる10の刻の鐘が鳴るころにようやく全ての書状に目を通し終わった。

 書状は全部で28通もあった。恐らく、三日間という時間的なことを考えると、城下や領都の近隣からばかりなので、遠方からの書状がこれからも届く可能性はある。しかし、滞在期間も決まっているので、可能な範囲でこなしていくしかない。


 まず、一番多いのは、陳情や請願。要は「トーマス様のお力で、何とかしてほしい」というわけだ。

 ハッキリ言って、行政の実務に関して俺にそのような権限はない。そもそも、8歳の子供にそんな権限あったらおかしいでしょ。

 なので、送り主には「私のほうから書状に一筆添えて、担当官に渡しておきます」といった内容で返事を送り、あえて一筆添えずに実務の担当官に回した。

 手紙1つで動くほど、俺はそんなに甘くないんだぞ、というスタンスだ。


 ここまでの処理を終えると残りの書状から、寄付金の申し出には丁寧なお礼状をしたため、夜会の招待状は丁重にお断りの書状を返し、子息の命名にはクリスティーナ嬢に考えてもらった名前を送り、最終的に絞り込んだ書状が3つ残った。


 ここからが、俺とクリスティーナ嬢の本領発揮と言えよう。現場視察の要請だ。






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