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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第四章 富国強兵の宿命
23/52

#23 座学の時間

 軍部の視察から城に戻ると、クリスティーナ嬢と食事をしながら反省会を始めた。


「父上の言葉が重くて、自分の甘さを痛感しました」


「わたくしも、これまで、責任の重さを分かっていなかったと思います」


「ですが、落ち込む必要はないはず。父上は、僕たち二人の成長を認めた上で、跡継ぎとしての自覚と責任に気づかせてくれたのだと思います。それだけの価値があると認められたということです」


「トーマス様はお強いですね。わたくし一人では、そのような考えには至りませんでした」


「僕たちは、まだ8歳と7歳の子供です。この先も長く続く学びの道を歩き始めたばかりです。二人で手を取り合い、互いに足りていない部分を補いながら、いまは学ぶことこそ父上が言った「誠実さと真摯な姿勢」だと信じて、歩いていきましょう」


「はい。わたくしの学びは、トーマス様と共にあります。これから、よろしくお願いします」


 食事を終えて食器などを下げてもらうと、昨日の厩舎視察で課題とした、馬の世話や管理に関する質問状の作成に着手した。

 まずは、質問したいことの洗い出し。

 ・城内にある各厩舎で保有している馬の頭数。

 ・1頭が食べる飼葉の一日の量。そこから導き出される城全体の消費量。

 ・飼葉の仕入れルート。

 ・馬の品種や業務内容の違いによる、食事などの差。

 ・馬の怪我や病気の際の対応。専属の医師などいるのか。

 ・厩舎内の換気方法。換気口設置の可能性。

 あまり多すぎては相手も困るだろうし、あくまで社会勉強としての質問状なので、これくらいだろうか。

 質問状はクリスティーナ嬢がしたため、最後に俺と彼女のサインをして封をした。


「明日にでも、担当官に渡すように執務官にお願しておきます。次は、重さに関する学習ですが、シャントット、お願いできますか?」


「はい。では、重さの単位の種類と、その歴史と概念に関して説明させていただきます」


 続いて、重さに関する学習だ。

 俺にとっては、今回帰還するまで失念していた重要な概念。50代中年の記憶では、日常生活のなかで大きな役割のある概念だったが、この世界でも非常に重要である。

 売買や税収、予算組みや軍備、馬の飼葉だってそうだし、産業や商業、領地運営や軍備などのあらゆる面で関わるものであり、全ての単位を理解して日常レベルで使いこなせなければ話にならない。

 それほど大事なものを、ぬくぬくとした王都の貴族生活で失念していたのは、我ながら間抜けな話であった。


「まず、王国内で一般的に使用されています単位には、ビル、テト、ミルの3つがございます。ビルは、穀物や鉄鉱などの資源を表す単位になります。テトは、家畜や食肉などを表します。そしてミルが、水や酒などの液体を表す単位になります」


「やはり、水には別の単位があったのか。では、人間の重さを表すのはテトになるのですか?」


「いえ、人の重さを測ることは禁忌とされていますので、単位は存在しません」


「え!?禁忌ですと!?そんなバカな・・・」


 50代の記憶では、人は生まれた直後に体重を測り、日々の体の成長も体重と身長で記録と判断をしていた。それほど人にとって体重とは身近なものだ。それが、ここでは禁忌とは。宗教的な影響が大きいのだろうか。

 でも、確かに俺自身、今まで一度も体重を測ったことはなかった。当然、弟のヤリスも、生まれたばかりのエリカも測っているのを見たことがない。社会通念として、人が体重を測る行為が禁忌とされているのだろう。だからこそ、今まで俺は、重さの概念に気づくことができなかったとも言える。

 しかし、そうなると、医学進歩の足枷となっているのではないだろうか。


 いや、いまは専門外の心配をしたところで、俺個人にはどうすることもできない。まずは俺自身の足元にある、ビル・テト・ミルの3つの単位だ。


「失礼。3つの単位、それぞれ具体的な目方、もしくは目安を教えてください」


「はい。ですが、その説明をする前に、この3つの単位の歴史と関係を説明します。トーマス様が知りたい目安などにも大きく関わる話になります」


「3つの単位には、それぞれに歴史としがらみがあるのですね。分かりました、お願いします」


「まず最初に生まれた単位は、ミルとされています。雨と水を司る女神ミルがこの世界の人間に授けたことが起源とされており、1ミルとは女神ミルが常に抱えている壺1つ分の重さと容量を表します。具体的には、この壺がその1ミルになります」


 シャントットはそう言って、足元に置いてあった壺を持ち上げ、口をこちらに向けて中をみせた。


「この壺は、調理場から借りてきたものですが、アブルダリル聖教会が女神ミルの使いとして作り、世に広めたものになります。ですから、今では水やお酒を売買する業種は教会でこの壺を手に入れ、商売道具として使用します。そして、約700年前までは、水や酒だけではなく、壺で測れるものは全てミルで重さを表していたそうです」


 やはり、宗教絡みか。聖教会が計量の独占権を握っていたわけか。

 この世界でも宗教団体が壺を売るとか笑えないが、既得権益が絡んでいるとなると、これは厄介だな。


「これを踏まえた上で、ビルを説明します。ビルは農作物の生産者のあいだで自然発生し広まった単位で、1ビルは5ライド×5ライドの面積で収穫できる麦の量とされています。毎年の収穫量や販売量の計算に必要な単位で、領主の税収もその影響でビルが一般的に使用されています。ですが、この単位に対してアブルダリル聖教会が「女神ミルを冒涜するものだ」と異を唱えたのです」


「つまり、それまで多くの分野で使用されていた壺を使わなくても済む単位が登場すると、壺の需要が減り、聖教会の利益が減ってしまうと。もしかして、人の体重を測ることが禁忌とされているのも、聖教会の影響ですか?」


「はい。そういうことになりますが、そのことを正面きって聖教会を批判するのはタブーとされています。つまり、ビルを限定的に認めることで棲み分けをしたわけですが、水の単位をミルとすることや、人の重さを測る禁忌だけは譲れないということです。そこに至るまで、多くの異端者狩りや聖戦などが各地で起こり、人口の約3分の1が失われ、聖教会や各国、そして庶民もこれ以上の血を流すことを恐れ、暗黙のルールとして、今現在は聖教会への批判をしないわけです」


 壺を売るために異端者狩りとか聖戦とか、どれだけ銭ゲバな宗教団体なんだよ。


「それはまた凄い話ですね。家庭教師から教わっている歴史学では、そのような講義はありませんでしたので、初めて聞く話です」


「貴族の子息子女へその歴史を教えることは、聖教会への批判ととらえられかねませんので、慎重になるのでしょう」


「確かに、反教者や異端者などの噂一つで命すら危ないですからね。では、テトは?」


「テトの誕生は比較的新しく、150年ほど前になります。そしてこの単位はトランベル王国内だけの固有単位で、1テトが兎1羽分の重さになります」


「ほう。王国だけとは、それはまた興味深い話ですね」


「ですが、あまり期待するほど面白い話ではございませんよ。トランベル王国では、牛や羊、鳥や魚など、様々な獣や家畜を食べます。ですが、近隣諸国では、牛や羊を食べる習慣がなかったり、法律で禁止している国などが多いのです。つまり、トランベル王国では必要な単位として生まれましたが、他の国や地域では、1頭2頭、もしくは1匹2匹と数えれば充分事足りてしまうのです」


「そういう経緯があるのですか、非常に勉強になりました。それにしても、シャントットの説明は整理されていて、本当に分かりやすいです。といいますか、学が無いと言いつつ、とても情報通ですし、博識ですよね?兵士以外にも家庭教師としての道もあったのでは?」


「女性の家庭教師を雇うような貴族は、おりませんよ」


「確かに・・・クリスティーナ嬢は、今の講義内容で重さの概念を理解できましたか?」


「はい。ミルが壺、ビルが定められた面積での収穫量、テトが兎1羽分、です」


「私などよりも、そのお歳でいまの講義内容を理解できてしまうお二人のほうが、凄いことかと」


「私たち二人は、勉強が好きなのですよ」


「はい、学ぶことはとても楽しいものです」




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