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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第三章 グレイス家の若君
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#19 地平線を望んで


 クリスティーナ嬢に「体の疲れは大丈夫ですか?」と確認すると、「大丈夫です。わたくしも、物見櫓を見学させてください」と言うので視察を続行し、シロツグを前触れで先行させた。


 厩舎から一番近い城壁の階段を上がり、狭い通路を通ると城壁の上に出た。

 岩を削り出して作られたブロックを組んだと思われる城壁は、頑丈だが足場としては歩きづらい。


「足元に気を付けて」


「はい、大丈夫です」


 クリスティーナ嬢を気遣いながら進むと、物見櫓が見えてきた。

 櫓自体も岩のブロックで建築されているが、入口横には1ライドほど(約50センチ)の大きな鐘が吊り下げられ、中に入ると床は板張りで暖炉もあり、壁には城を中心とした周辺の地図が貼ってある。

 監視役は3人詰めており、俺たち一行を敬礼で迎えてくれた。


「お役目、ご苦労様です。少し見学させていただきますが、私たちのことは気にせず、任務を続けてください」


「ハッ!」


 覗き窓が3つあり、2つは監視役が任務で使用している。残りの1つが予備なのか使っていなかったので背伸びして外を覗き込むと、城下町が一望でき、その先には連なる山々と地平線まで続く平原が見えた。


「おお!これほど遠くまで見えるとは!ぜひ、クリスティーナ嬢も見てください」


「はい!見ます!」


 クリスティーナ嬢の身長では覗き窓には背が届かず、即座にシロツグが踏み台を用意してくれたので、手を貸してクリスティーナ嬢を上がらせると、窓枠に手をかけて覗き込んだ。


「す、すごいです!これほどの景色、王都でも見たことがございません!」


 クリスティーナ嬢がこれほど興奮するのは、かなり珍しい。


「山が白いのは雪でしょうか?雲に届くほどの山を見るのは初めてです」


「左手に見えるのがアルム山脈で方角は北になり、王都は南に位置し、太陽はここから見て正面から登ります」


 監視役のリーダーだと思われる兵士が解説してくれた。


「なるほど。ここは東の物見櫓ということですか?」


「あ、はい。その通りでございます。この城には東西南北それぞれに物見櫓がありまして、ここはその東櫓になります」


「クリスティーナ嬢も地理学で勉強した方位を憶えていますか?城がどこから攻められてもすぐに察知できるように、4方向に見張りを立てているのです」


「はい。太陽は東から登るので、正面から日の出が見えるこの櫓は東ということなのですね」


 クリスティーナ嬢を踏み台から降ろすと、シャントットが監視役の任務に関して説明してくれた。


「物見櫓の監視役はどこも常時3人体制で、二名が監視、一名は報告を担当します。敵襲があった場合は入口の鐘を鳴らして城内に知らせますが、敵襲以外の異変、例えば城下に火事などあった場合は、報告担当者が執務室に走り、直接コーデン様や執務官に報告することになっています」


「火事などの対応は時間との勝負なので、間を挟まず最短ルートで情報が行くようにしているのですね。監視任務は交代制ですよね?3交代ですか?」


「はい、その通りです。午前6の刻と午後3の刻と午後10の刻の3回交代しております」


「なるほど。最大で7刻も集中を切らさずに監視をしなくてはいけないのですね。夜間は暗くて見えにくいでしょうし睡魔もあるので、大変ですね」


 50代中年の記憶でも夜勤の経験はあるが、事前に睡眠をとっていても、体が生活のリズムを憶えているせいで眠くなるんだよな。ちなみに、トラブル絡みの修羅場で、ぶっ通しで連続48時間勤務という記憶もある。


「城と領民を守るために、重要な任務をされているのですね。毎日のお役目、ありがとうございます」


「え!?あ、その、どうも・・・」


 話を聞いていたクリスティーナ嬢が頭を下げてお礼を述べると、リーダーだけでなく、監視任務をしていた他の二人も口を開けて驚いている。


「長居をして重要な任務に差支えがでてしまうといけませんので、そろそろ引き上げましょうか」


「はい、貴重な勉強ができました。ありがとうございました」


 再度お礼を言って退出すると、監視役の三人とも敬礼で見送ってくれた。

 物見櫓の外に出ると、太陽は西に見える城郭に隠れ、東の空は霞み、黄昏時を知らせていた。


 ふと立ち止まると、クリスティーナ嬢と護衛の二人に声をかけた。


「僕は、グレイス侯爵家に生まれたというだけの、ただの子供です。勉強をして知識を増やすことができても、料理も洗濯もできませんし馬の世話もできません。7刻も集中して監視任務なんてとても無理です。戦となれば、なんの役にも立たないお荷物です」


 50代中年の記憶でも、会社じゃ偉そうにしてたって、家庭では家族を守るどころか、浮気されて離婚するようなダメな人間だった。近代日本よりも生存が厳しいこの世界で子供の俺は、本当に無力だ。


「はい。わたくしにもできません」


「昨日今日と、そのことが身に染みて分かりました。ここから見える城下に住む領民や、地平線まで続くこの地を守るためには、僕一人の力では絶対に無理です。クリスティーナ嬢やシャントットやシロツグ、調理場や洗濯場、厩舎や物見櫓、その他の城や町の全ての領民の力が必要です。だから、これから先、どうか僕に力を貸してください。よろしくお願いします」


「ハッ!お役に立てるよう!精一杯、頑張ります!」

「ハッ!我らの命をとして、トーマス様の盾となり、剣となります」


「わたくしは、グレイス家へ嫁ぐことを決めたときから、その覚悟ができております。この命が尽きるまで、どこまでもお供しますので、なんなりとお使いください」


「三人とも、ありがとう。今日はいい勉強になりました。明日は軍部の視察が控えていますので、今夜はゆっくり休みましょう」


「はい」



 第三章、完。






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