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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第三章 グレイス家の若君
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#18 馬と目方


 午後の1の刻の鐘が鳴り、クリスティーナ嬢の世話係が「準備ができました」と知らせにきたので迎えに行くと、クリスティーナ嬢は小豆色のジャケットと黒のペチコートの組み合わせで、ライディング・ハビットと呼ばれる乗馬服スタイルだ。

 スカートではあるものの、普段のドレスや夜会などで着ているドレスとは全く異なるデザインと色使いなので、ガラッとイメージが変わる。

 それでも、侯爵令嬢としての気品を失わないのは、流石だと言わざるを得ないだろう。


「これはまた、普段のドレスとは違って、素敵な乗馬スタイルですね」


「トーマス様には初めてお見せするので、少し恥ずかしいです」


「大丈夫です。とても似合ってらっしゃる。では、行きましょうか」


「はい。よろしくお願いします」


 この城には、複数の厩舎がある。領主や上位高官用の馬車専用の厩舎に、物資運搬用馬車の厩舎に、早馬や来客用の厩舎などなど。ちなみに、領軍の大型厩舎は城外にある。その中でも今回は、物資運搬用の厩舎を視察する。


 俺は軍服姿のままなので、城内では相変わらず驚きの視線を向けられるが、今回はクリスティーナ嬢も乗馬スタイルなので、午前中よりもさらに注目を集めていた。いったいなにを始めるつもりなのだ?とでも思われているのだろうか。視察するだけで、なにも始めないのだが。


 厩舎に到着すると、さっそく中を見学させてもらった。ただし、見慣れない人間が近寄ると、馬が不安になったり興奮して突然暴れ出すかもしれないからと、近づくことは禁止された。俺としても、クリスティーナ嬢が馬に蹴られでもしたら切腹ものだから、こればかりは仕方ない。


 厩舎の中は20頭ほど入れる馬房があるが、いま残っているのは4頭だった。恐らく、荷物を運び出したり、仕入れのために出ているのだろう。

 しかし、馬は出ていても馬丁(作業者)の仕事は山ほどあるようだ。留守の馬房の糞を始末して、飼葉を補給して、休憩中の馬には水をやって毛並みを手入れしてと、何人もの馬丁が汗を流して働いていた。

 ただ、午前中に視察した調理場や洗濯場と違って、ここは男性のみで女性の作業者はいなかった。恐らく、馬相手ではケガが多くて危険だし、馬を引いたり糞を片付けたりと力仕事も多いので、男性の職場という認識が強いのだろう。


 そして、想像はしていたが、やはり臭いがきつい。50代中年の記憶にもあるが、馬や牛を飼育している厩舎や牧場は、慣れない人間にはきついだろう。

 しかし、早々に根を上げるかと思ったクリスティーナ嬢は、顔色一つ変えずに平然としている。やはり、自分から馬を見たいと希望したくらいだから、意地でも我慢しているのだろうか。それとも、侯爵令嬢としての品位とプライドで、平気なふりをしているのか。


 いや、そんなことを気にするよりも、現地調査だ。


「シャントットとシロツグは、馬には詳しいのですか?」


「自分は、実家でも買っていましたし、軍に入隊してからも騎馬の訓練は受けています」


 馬に関しては、シャントットよりもシロツグのほうが詳しそうだ。


「馬にも色々なタイプがあると思うのですが、脚の速い馬、速くなくとも持久力のある馬、力のある馬などに分類できて、その特徴を活かして、脚が早ければ早馬など、持久力があれば軍馬、力があれば荷役馬、と使い分けている?この認識であっていますか?」


「はい。おおむねその認識で間違いないと思います」


「では、それはどのような基準で分けるのですか?品種で決めるのですか?それとも、個別に審査などして見極めるのですか?」


「ほぼ品種なのですが、目方もありますね。体重が重いほど力がありますが、脚はその分遅くなりますし、逆に軽ければ速いです」


「なるほど。そういえば、ビルという単位を最近知ったのですが、それは馬の目方を計る時にも使う単位なのですか?」


「ビルは主に穀物や鉱物などの物資の重さを表す単位ですね。馬や牛などの家畜や、鳥や牛など食用肉などの目方は、テトという単位です」


 ビルとテトの違いを説明してくれたのは、シャントットだ。

 ビルに続いて新たにテトという単位が出てきたぞ。世の中には、まだまだ知らないことだらけだ。


「あの、目方というのは、重さのことですか?あのような大きな馬体の重さを、どのようにして計るのですか?」


 クリスティーナ嬢も、積極的に質問をしている。

 さっそく有言実行なのだろう。ただの箱入りお嬢様ではない。こういうところが、彼女の美点だ。俺も負けてはいられない。


「1テトでどの程度の重さなのでしょうか?1ビルも知っておきたいです。あと、水の重さの単位はテトなのですか?ビルなのですか?それともまだ別の単位があるのですか?」

「やせ細った馬は食事を多めに与えて重くするのでしょうか?でも、太った馬は重労働をしているのに、食事が少ないのはかわいそうではありませんか?1頭あたりの一日の食事量はどの程度なのでしょうか?この城には何頭いて、一日当たりの飼葉の総消費量はどれほどなのでしょうか?」


 俺が重さの単位に興味あるのに対して、クリスティーナ嬢はやはりというべきか、馬やその食事に興味があるようだ。


「重さに関することは、後ほど座学で説明させていただくのが良いかと思います」

「ちょ、ちょっとお待ちください。馬に関しては我々でもそこまで詳しくないので、持ち帰って、後日説明させてください」


「すみません。私もクリスティーナ嬢も、つい夢中になってしまいました。馬に関しては質問状を作成して、厩舎の担当官に問い合わせするようにしましょうか。重さに関する学習は、シャントットの言う通り、のちほど座学でお願いします。護衛の職務以外のことで手を煩わせてすみませんが、お願いできますか?クリスティーナ嬢もそれで良いですか?」


「了解しました。私で良ければ、講師を務めさせていただきます」

「はい。問題ありません。お二人とも困らせてしまい、すみませんでした」


「あ、いや、自分は!トーマス閣下とクリスティーナ様のお役に立てることが名誉の極みであります!」


「あまり大声で騒いでいては、馬も落ち着かずにゆっくり休めませんので、そろそろ外へ出ましょうか」


 外に出ると、みんな一斉に深呼吸を始めた。やはり、みんな我慢していたんだな。

 外でもまだ臭いはするが、中よりは幾分かマシだ。換気扇などあれば、厩舎内の環境をもう少し改善できるのだが、流石にないものはどうすることもできないな。

 あ、換気口ならどうだろうか。これも質問状に記載しておくか。


 3の刻を知らせる鐘が聞こえ、時刻的に今日の視察は次で最後になりそうなので、俺からのたっての希望で、城壁にある物見櫓へ行くことにした。







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