32:剣聖
何が何だか分からないまま身支度をさせられそのままホテルの最上階からヘリで空港に向かい、何故か用意されてた僕のパスポート(取得した覚えがない)を渡され手荷物検査も無しにギルド専用の飛行機に乗せられ、気がついたらロシアの首都で美鈴と姉ちゃんと一緒に写真を撮っていた。いえーいピース
この間おおよそ6時間っ!!
「……はっ!? なんで僕はロシアにっ!?」
いやいや、あまりにスムーズ過ぎて全然気づかなかったけどどうしていきなり!?
「はいこれ、ピロシキ」
「あぁ、これはどうも……じゃなくて!! なんでいきなりロシアに連れてきたんだよ!?」
呑気そうに結構な大きさのピロシキを二口で食い切った姉ちゃんはなんでか怪訝そうな顔をしていた。いやそれ僕がするべき表情なんですけど……
「あれ言ってなかったっけ?? ギルドからの依頼だよ」
「うん、聞いてないね!それいつ言ったよ?」
「デートした時の夜ご飯食べてた時に言ったよ? ね?美鈴ちゃん」
「へ? ウチ昨日始めて聞きましたよ??」
「え゛……」
美鈴も美鈴でフッ軽にも程があるが、やはり忘れてたな?まったくこの姉は……
「まぁもういいよ……で?何依頼されたの??」
「ええと確か……そう、ここからもうちょい行った先のサンクトペテなんとかって場所で異獣が大量発生したからそれの駆除と原因の探索……だって」
なるほどねぇ、僕と姉ちゃんが呼ばれたってなるとかなりやばいレベルで異獣……いやモンスターがいるっぽいな。さっきチラッと『探索』と『エコーロケーション』を発動してみたけど範囲ギリギリら辺の所で結構ゾワっときたから多分数万匹はいるかも。
「大体分かったけど、美鈴もギルドから呼ばれたの??」
「ううん、雨音さんのサポーター役として付いてきたの。まぁそれは建前で……単純に面白そうだからかな!」
うーん苦い顔。若干心配になりそうだがここは僕がしっかりして2人を支えないと。それはさておき……
「で?次はどうすんの?? ギルドの支部にでも行く?」
「もう少しでお迎えの車が来てくれるんだけど……あっあれかな?」
姉ちゃんが手を振る先には黒のリムジンが止まっていて、そこからガッチリとした白髪のおじさんがのそっと出てきた。遠目で見たら熊と見間違えそうな程の巨体で軽く2mは超えていそうだ。
「『白銀姫』様ですね? お迎えにあがりました、ギルドロシア支部長のボルシチ・カラシニコフと申します。」
見た目からはまるで想像できない程丁寧な所作だ……それに日本語上手っ!? 普通に日本の方と思うくらいにはナチュラルな話し方でかなり驚いた。
「ご苦労様です、カラシニコフさん」
「ありがとうございます。……で、こちらの方々は?」
「あー……えっと、雨音さんのサポーターでCランクの羽曳野美鈴です!」
「紅時彼方、です。Xの、えーと確か……あ、そうだそうだ『天衣無縫』だったっけ? 」
ギルドのお偉いさんにランクを隠しても別に大したメリットがある訳でもないし、ここは包み隠さずちゃんとした方の自己紹介をしておかねば。
「おぉ、貴方があの『天衣無縫』様でしたか。これはとんだご失礼を」
「いやいや、別にそんな丁寧じゃなくても大丈夫ですよ」
こんだけ畏まられてもちょっとむず痒いんだよなぁ。それもかなり年上の方だし……なんか変な気分だ。
「それではギルドの方にご案内致しますのでこちらへ」
そう言ってリムジンのドアを開いてくれた。中には小型の冷蔵庫やオードブル類が置かれているテーブルなどが合った。しかしそれにしては……
「中……なんか広くないですか!?」
そう、なんか妙に広いのだ。見た目は至って普通のリムジンの筈なのに車内の広さがハイエースとキャンピングカーを合わせたくらいのスペースが広がっていた。さながら一人暮らし始めたての大学生なら満足するくらいの1Kの部屋だった。
「……間違ってたら申し訳ないんすけど、もしかして『空間曲解』って才能使ってます??」
「…流石『天衣無縫』、その通りです。私はランクはDですがサブジョブがレア職業の『建築家』でして」
ほぅ建築家か……たしかに名前の割にレアな職業だし、なんならやれる事に対して建築家って名前が負けてるんだよなぁ……どっちかっつたら魔法使いなんだよなぁ。
そこから大体30分くらい車に揺られてからギルド関係者専用の駅で降ろされ、特急かなんかの電車に乗りなんだかんだでギルドのロシア支部へと到着した。よーーーやく移動終わりかぁー!!もう身体のあちこちがバッキバキ……
「それではこちら隣接されているホテルのカードキーになります。明日のお昼頃に最上階の応接間に来てください。そこでこちらの代表、Xランク序列5位『剣聖』から今後の方針と最前線の現状打開についてお話がありますので決して遅刻なさらないように、それでは」
淡々と今後の説明を受けホテルへチェックインする。が、ここで重大な問題が……
「へ?1部屋しかないんすか??」
「大変申し訳ございませんっ……!!こちらの不手際でダブルブッキングになってしまいお部屋の方がスイートルームしかご用意できなくなってしまい……」
まじかい……え、どうすんのさ今日の宿…他になんか系列のホテルも空いてる部屋無いらしいし……
「はぁ……とりあえず2人はそっちのスイートルームでいいから、僕の宿だけさがしてもらってもいいですか?全然安いとこでもいいんで……無いならもうこっちでどうにかするんで」
なんだかなぁ……最近ツいてない…いや、いい事があり過ぎたからそれのツケがまわってきたのかなぁ。そそくさとホテルマン達が確認の電話か何かをし始めたのでもう大人しく待つしかないか。えーと近場のホテルは……
「?何言ってんの彼方。彼方も一緒の部屋で良いじゃん」
「いやいや、姉ちゃんが良くても美鈴がダメでしょ。まだ知り合って間もない成人男性と一緒の部屋はさすがになんかコンプラ的にアウトな感じだし……」
「大丈夫でしょ。ね、美鈴ちゃん??」
「う、うん……大丈夫だ、よ??うん、か、彼方と一緒の部屋でも緊張し、しないにょ!?」
「ね?……もし彼方が何かハレンチな事しようとしたらわたしが止めるから心配ないし」
若干心配になりそうな慌て方だが……いや、ここは素直に甘えるか。とにかく大人しくしてりゃ漫画みたいなハプニングも起こんないしだろうし……というか起こしちゃいけないっ!実際、姉ちゃんがキレたら僕が肉塊になるしね……
「……うん、じゃあそっち泊まるわ。部屋の風呂とか使わないし、ベッドから超離れた場所で寝るんで」
「……? 別に一緒のベッドでもいいよ?彼方なら間違い起こすとは思ってないし」
「へぇ!? ちょ、ああああ雨音さんっ!?ななな、何言ってるの!?!?」
まじで冗談でもそういうのはやめてくれ……い、胃が痛くなってきた。姉ちゃんの冗談はたまに冗談に聞こえないんだよ…
荷物を部屋に置いて同じフロアのレストランでまたまた豪勢な夕飯を食べ、僕は別棟の大浴場で疲れきった身体を解しながら明日の事を考えていた。
「『剣聖』かぁ……たしか1位の次に強いとかなんとかって美鈴言ってたな。ちょっと会うのが楽しみだわ」
ランクの順位基準はあくまで総合的なステータスの総量らしいし、多分姉ちゃんと同じタイプの尖り方してるっぽいな。はてさてどのステータスが吹っ飛んだ性能してんだか。
「……そういや、僕もレベル上がってるからもしかして順位変わるとかあるんだろうか」
順位が変わるなんて前例が無いだろうしどういう裁定になるんだろ。ま、なんでもいいんだけどね。とりあえず今は僕自身の明確な目標も無いし気ままに過ごせたらいいや。……ダメだ、そろそろのぼせそう。上がろ上がろ。
「「おかえり〜」」
部屋に戻ると2人とももう寝巻きに着替えてベッドの上で簡素な宴会をしていた。姉ちゃんはともかく美鈴の寝巻き姿はなんだか新鮮な感じがする。
「あ、そうだ。姉ちゃんあの武器どうだった??結構使いやすかった?」
「使いやすいってレベルじゃなかったなぁ。もうなんかずっと使ってた歴戦の相棒って感じ。とにかくわたしに馴染むし、あっちもわたしに合わせて変化していってる……みたいな?」
なんじゃそりゃ……だが、そのレベルになると最早武器というより一つの意思を持った生命みたいだ。そんなバカなと言いたい所だけど、実際ゲーム時代での裏設定ではそういった前例はあるし意外と考え過ぎって程じゃない……
「なるほど……でも、姉ちゃんに馴染んでるなら何よりだよ」
「うん、ありがと。もうお金は振り込んどいたからまた確認しといてね」
「オッケー」
そこから2、3時間談笑して、気づけば日付を跨ぐ時間になっていた。時間経つの早いなぁ……そろそろ寝ないと。えーと毛布はあるから、あそこのソファでいいや。
「それじゃ、僕もう寝るから」
「あれ?こっちで寝ないの?」
「いや、もうそれいいから……んじゃ」
「……」
「やっぱり一緒の布団で寝たかった?」
「そ、そんな事ないですってば!!!」
=========================
翌朝、特に何もトラブルは起こらず平和に朝を迎えることができた。朝飯もたらふく食ったし、僕の部屋も用意して貰えた。こっからは真剣なムードで挑めそうだ。
「それじゃ、ウチ会議してる間周りお散歩してくるね」
「あれ?参加しないの?」
「うん、本番はもちろん参加するけど会議はあくまで上のランクの人しかダメってボルシチさんに言われちゃった」
「なら仕方ないか……あ、そうだこれ持っといて」
「なにこれ?カフスボタン??」
「簡易的なビーコンのような役割を持つ物だよ。魔力流すと僕の位置が分かるから道に迷っても大丈夫だから。はいこれ姉ちゃんの分も」
「そうなんだ……嬉しい、ありがとうね!!!」
「いえいえ」
美鈴とロビーで別れ、改めてエレベーターで最上階へ向かう。ものの数秒で最上階に着き、扉が空くと目の前にはボルシチさんともう一人。
白、としか表現出来ないほど髪の毛も、肌も真っ白で、一瞬そこに人がいると認識出来なかった。目を奪われるとはこの事なんだろうと痛感した。本当に綺麗で……
「……あ」
僕と同じくらいの身長で、ポニーテールが良く似合うその女性は、紅い眼でこちらを見ていた。寒気がした。ほんの僅かな恐怖とそれを上回る無垢でふんわりとしたオーラというか……
「…… О, я очень хотела тебя увидеть.」
ロシア語だろうか、何がポツリと呟きながらこちらに向かって歩いてくる。……気のせいだろうか、なんか目が潤んでいるように見えた。
「Всё-таки я просто не могу это сдержать.……!!!」
「え、あ、えーと……ど、どうも??」
急に手を握られる。ちょ、何が何だか分からんっ……!!
「……失礼、日本語の方がよかったかしら?」
そう言って流暢な日本語に切り替えて話しかけてくる。
「お、お構いなく……?」
「むむむ……彼方なんかちょっと近くない??」
「へ?い、いや大丈夫、大丈夫だから……」
なんだ?凄い不思議な感覚だ。てか、この人がもしかして……
「あぁ、自己紹介がまだでしたね、では改めて…初めまして、『白銀姫』さん、そして『天衣無縫』さん。私はジーナ、ジーナ・アルダーノヴァ。世間一般では『剣聖』と呼ばれている者です。」
そう言って彼女……いや、ジーナさんはまた僕の手を握ってきた。え、なんでまた握んの……!?
「『天衣無縫』……いえ、確かカナタさんでしたっけ??」
「は、はい……そうですけど」
「ふふ、そんなに緊張なさらないで」
なんでだろう……この人と目が合わせらんない。それに……し、心臓の音が妙にうるさくて全然集中できない。
「……ねえ、カナタさん。一つ貴方に伝えたい事があるの」
「な、なんでしょう……あ、と、討伐の協力ですか?もちろん承諾しますよ!?」
「いえ、そんな事はどうでもいいの……お返事もまだでいいから」
「お、お返事???」
「カナタさん、どうか私と結婚を前提にお付き合いしていただけないかしら?」
「……はい?????」
読んでくれてありがとうございます。
ロシア語はGoogle翻訳先生頼りなので文法とか間違っててもご愛嬌という事で。
最後のヒロイン登場です。
アルビノ赤目ポニーテールで若干お嬢様なジーナをよろしくお願いします。




