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26:第16階層攻略戦⑦ 夢から覚めて




「……なんだ今の」


イマジナリーパピヨンがゴム毬みたいに吹っ飛んだんだけど……え、八千代先輩あの武器の発動条件満たしてたのか……!?


どうやってMPを0にしたか疑問が過ぎるが今はそれどころじゃあない……倒しきれる一手が繋がった。


「後衛の皆さんはこのまま援護射撃お願いします! 美鈴は僕がさっきまでやってた遊撃のポジに回って!!」


「おっけー!任せて!!」


「代表が目覚めない今、貴方がこちらの最高戦力になりますから…どうかよろしくお願いします!」


「頑張れよ天衣無縫!」


バシンっと背中を叩かれ、走り出す。こうやって仲間に期待されて背中を押されるのってめちゃくちゃ気合い入るな……! スキルは既に発動済み、なら次にやる事は……!!


黒織姫を中段に構え魔力(マナ)を注ぎ込む。淡い光が刃を包み込み、より強靭に、より鋭く強化されていく。だがまだ足りない。深く、深く染み渡るように……!!


白く淡い光は密度を増していき、血にも似た深紅の光へと変化していく。魔力(マナ)がこれ以上溢れないように抑え込みつつ、上へ跳躍。


武器をコーティングしていた鉱石が剥離していき、耐久値がごっそりと減っていってるがこれを待っていた!!


相手に向け刀を振ると、剥離したコーティング用の鉱石が魔力を帯び斬撃となって射出される。斬撃はイマジナリーパピヨンの胴体に大きな切り傷を付けた。


これがスキルシステムを経由しない僕だけの、僕が作り出した創作技能(オリジナルスキル)、〈閃撃〉だっ!!

ダメージは対して入らないが、ノックバックがありボスの巨体が壁へ物凄い勢いで吹っ飛んでいった。


間髪入れずに空中で方向転換。ボスが復帰する前に回り込んでスキルをガンガンぶち込んでやる!!


スキルを装填(リキャスト)しつつ大雑把に周りの状況確認。ヘイトは未だに先輩が持ちつつ遊撃組が僕の意図を察し、反対方向へ回り込んでいるようだ。こちらと先輩の負担がかなり減るからかなり有難い……!!


仕掛ける瞬間、先輩と一瞬目が合う。先輩も僕がやりたい事を察してくれたのか刀の柄頭でイマジナリーパピヨンの頭部をかち上げた。メゴッ、と鈍い音が響き口吻がぐにゃりと捻れ、仰向けに倒れた。どんな馬鹿力でやってんだ……けど、さすが先輩だ。これなら無防備の土手っ腹にこちらの最高火力をぶつけれる!!


「多分これからヘイト僕に移ります!!僕のあとに先輩も最大限の火力をお願いします!!!」


「応っ!!!!」


短くやりたい事を伝え、スキルを発動する。僕の視界外でコソコソとデバフをつけ続けていた『焃血剣(ブラッドブレイド)』を僕の元へ戻し、僕と同じ動きをさせる。


最近発見したことだかどうやらコイツ(焃血剣)は使用するスキルモーションと同じ動きをさせると、ごく稀にだがスキルエフェクトが発現するっぽいのだ。ゲーム時代にこんな仕様は無かったはずだが、これを利用しない手は無い。今回は成功したようで黒と深紅のスキルエフェクトが黒織姫を包む。


「〈堕落の剣(フォールンブレイカー)〉!!!」


直撃。悶え苦しむ奇声が響くと同時に黒織姫から少し嫌な音がした。しかし気にせず〈剣舞・突風〉も発動。『凩のイヤリング』の効果も発動し、周囲に猛烈な風が吹き荒れるっ!!!!


「殺刀六式『跳払(ハネハライ)』!!」

「〈剣舞・突風〉!!!」


僕と先輩の攻撃が重なりイマジナリーパピヨンの胸を斬り飛ばす。赤黒いダメージエフェクトが視界を遮る前に後ろへ跳躍する。手応えはあったが……


「Frrrrooooo……」


あちらももう飛べる力は残ってない……それはこちらも同様。ここからはシンプルな殴り合いになる……それならこちらも奥の手を使わない選択肢はないっ!!!


「彼方ちゃーんっ!!!!」


「姐さん!?……おっ!ありがとうございます!!」


姐さんが察してくれたのか遠くの方からMP回復用のポーションを投げてくれた。それも最高品質の『エルフの霊薬』じゃないか!?


……とりあえず感謝は後で。今は僕がやるべき事をやるだけだっ!!


グイッとポーションを飲み干し、駆ける。スキルをリキャストしつつもう一度〈閃撃〉を放つ準備を整える。


この〈閃撃〉だが、あくまで過剰に溜め込んだ魔力を剥離した鉱石片に纏わせ飛ばしているというだけなので〈技能(スキル)〉システムを経由していないのだ。だからこそスキルと掛け合わせる事ができるんじゃないか……ってさっき思いついた。


『気配遮断』、『隠密歩法』、『静音』、さらに『影移動』も発動。魔力が全回復できたお陰でだいぶ戦い方に余裕ができた。自分のヘイトを消し、相手の死角に回る。その間に黒織姫の状態を確認、さっき嫌な音がしたからな……恐らく大丈夫だろうけど一応厄介な事にならないようにはしときたい。


……うん、刃と持ち手の接合部分にヒビが入ってただけっぽいな。これなら接着するだけでなんとかなる。流石『カタナ』の牙なだけの事はあるな、そう簡単に……というか多分コイツと同等の存在と殺り合わない限りヒビすらも入らないだろう。


サッ、と接着し準備を整える。そしてあちらもようやく起き上がり再度発狂攻撃を再開し始めた。先輩に変わらずヘイトが向かっているが、遊撃組が少し苦戦しているようだ。


どうらやら本来イマジナリーパピヨンがするべきだった挙動と今のよく分からないバグのような挙動が掛け合わさったのかさらに動きの整合性がなくなっている。見てるだけで酔いそうになるな……


『隠形術』の効果時間が終了し、あちらが僕を認識する。ヘイトは……移らない。ならば、ここが勝機!! 後はさっき後方部隊の人達にさっき念話で伝えた事をやってくれれば……ん?あれってまさか……!!


「……」


どうやらユーリィがようやく目覚めたようだ。杖で少し体重を支えてるからまだ意識はハッキリとしてなさそうだが、こちらの攻撃の手数が増えるのはありがたい。


「代表!!目が覚めたんですね! ……代表??」


「……す」


「だ、代表? 大丈夫ですか?」


「殺す殺す殺す殺すっ……!!! 思い出したくないもの思い出させやがって……! 〈主天使ノ呼声(ドミニオンズコール)・破壊の咆哮〉!!!」


轟ッ、と獅子の遠吠えにも似た咆哮がイマジナリーパピヨンの羽根を貫く。完全にブチ切れてるようで周りの人の静止の声も届いていないようで、ガンガン『技能教本(スキルブック)』に記録されているスキルを放っている。あんなに高価なアイテムを湯水の如く消費するとは……


「〈インフェルノハウンド〉!! 〈グラビティハンマー〉!! 〈ヨハネの福音(ラッパ)〉!! 〈轟風槍嵐〉!!」


戦場がより混沌(カオス)になっていく。瓦礫と砂煙で視界と足場が悪くなって上手く集中しきれないっ……!!! クソッ、ありがたいの面倒くさいのが半々だ!!


攻撃系スキルは……〈抜刀「綴」〉のみ使用可能な状態か。MPはたんまりあるのにリキャストタイムが噛み合ってない……むちゃくちゃに使いすぎたか。しかし、たられば言ってもしょうがないので魔力を再度刀に込め始める。今残ってるMP全部持って行きやがれっ……!


深紅の光が、どす黒い光へと変化していく。刀を支える両腕に悲鳴を上げそうになる程の鋭い痛みが走る。呻きそうになるが押し殺して構える。呼吸が浅くなる、視界がチカチカする、全身が震える。だがっ……勝負はここで……き、決めるっ!!!!


「ッ……!!ばっ、〈抜刀……!!」


「カナーッ!!!」


集中しきっていた意識に大きな声が響く。


「……せ、先輩っ!?」


「構え方ーッ!!『水月の構え』思い出せーッ!!」


『水月の構え』って確か……あ、そうかそうだったあるじゃん。強ばっていた身体から力を抜き、深く呼吸する。そして改めて抜刀の構えをとる。



『水月の構え』それは『兎ヶ崎流抜刀術』の基本で唯一の形。一般的な構えと何ら変わりは無いが、特筆するべき点は全身の脱力のみ。刀を持つ腕以外全てを水の様に脱力。ただそれだけの事をひたすらに身につける。そして、抜刀する瞬間に緩めていた筋肉を引き締め、足から腰へ伝わる力を刀に収束させる。そこから放たれる一閃は音速に近い速度で相手を切り伏せる。



自分と世界の境界線が分からなくなっていく。自分の身体が溶けていくような、風に流されるような、そんな感覚。次第に思考も鋭く、けれど青空の様にぼんやりと。刀に纏っていた魔力も流れが穏やかに、だけど黒々しく光続けている。


「……」


次第に僕の耳と目に入る情報が僕の呼吸音とイマジナリーパピヨンが何処にいるかだけになる。機会はもうすぐ来る、だから……まだまだ力を抜くんだ……







遠くで誰かの声が聴こえた。








「……今っ!!!」


伝わる意識より早く、刀を抜く。〈抜刀「綴」〉がコンマ数秒遅れて発生し、〈閃撃〉と共に空へ舞う。黒と水色の魔力が三日月の様な斬撃となり、イマジナリーパピヨンの胴を切り裂く。


「〈権天使(プリンシパリティズ)ノ呼声(コール)・ハンドレッドゲイル〉!!!!」


僕の数秒後にユーリィが放っていたスキルがイマジナリーパピヨンの身体に直撃する。僕が付けた傷に追い討ちする様に百のかまいたちが襲いかかる。


「全員畳み掛けろっ!!!」


ユーリィの号令で全員が一斉にスキルを発動する。様々な色のスキルエフェクトが混ざり合い、イマジナリーパピヨンの体を貫く。そして、轟音と砂煙が消える。目の前にはポリゴンへと変化していく蝶の亡骸があった。


集中の糸が切れたのか忘れていた腕の激痛がやってきた。吐きそうになったがみんなが喜んでいるのを見て何とか耐えたが、それ以上に疲労感があったようで意識が強制的にシャットダウンした。





『第16階層ボス 《イマジナリーパピヨン》 を討伐しました』


『討伐参加者が固有アイテム[夢蝶の鱗粉]を獲得しました』

『討伐参加者が固有アイテム[夢蝶の翅片]を獲得しました』

『最もダメージを与えたプレイヤーが固有アイテム[夢蝶の触角]を獲得しました』

『最も活躍したプレイヤーが固有アイテム[夢蝶の炉心]を獲得しました』



『一部のプレイヤーに隠しクエストが発生しました』



『第17階層が解放されました。……承認。それに伴い以下のレイドモンスターとランダムエンカウントするようになります』



・disaster03: イーグル『ハリケーン』

・disaster05: フロッグ『パンツァー』

・disaster06: マンティス『イラプション』




















「……どうでしたか、御当主」


「まぁ、現時点であれなら成果は上々といったところだろう。で、決まったのか?」


「はい、今しがた『ギルド』から通達が来ました。半年後に東京でやるそうです」


「……まだ政府はあんな場所を首都だと言い張ってるのか。いい加減に京都に移せばいいものを」


「それと、今回は『代行者』が出席する様です」


「ようやく重い腰を上げたか……なら、丁度いい。来月本殿に全員集めろ、雨音を正式に宗家の当主にする」


「……畏まりました」


「あぁ、それと『彼』も呼んでおいてくれ」


「宜しいのですか?奴……いえ、『彼』は兎ヶ崎の人間ではありませんが……」


「……私が呼べ、と言ったんだが?」


「ッ……!?も、申し訳御座いませんっ……!!!」


「もういい、下がれ」


「はっ……!!」





「……春風、神弥よ、貴様らの子存分に使わせてもらう。貴様らも好き勝手にしたのだ、私も自由にやらせてもらおう」


読んでいただきありがとうございます。

2章完結です。

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