第二十章──決断Ⅱ
決断Ⅱ
Ⅲ
「ねぇ浩子、感じない?人の霊気を…」
「えぇ…少し前から感じていたわ。おそらくは信枝の…」
「ということは、いしが上手くやってくれたってことね…」
「狛族は狡狗と違って頭の良い種族よ。その狛族の中でもいしは特に機転の利く賢い子だもの。あの子ならばスンのメッセージの意味を理解してくれると信じていたわ」
──「いし…ごめんね。あんたを下僕だなんて…それに囮に使うなんて…。私は悪い主人だね…。でも他に方法が見つからなかったの…ここを出たら真っ先に助けに行くからね」牢から出られない自分を歯がゆく感じながら、錫はいしの無事を願った。もちろん信枝をこんな場所に来させてしまった事にも後ろめたさを感じていた。
──「信枝…絶対無事に辿り着いてね」自分は周囲から支えられ助けられて生かされている非力な人間だということを、錫はここでも思い知らされるのだった。
錫は薄い膜に両手とおでこをぴったり張り付け、外の景色を覗いてみた。
「来た…来たわ!信枝が来てくれた!」牢獄に続く緩やかな長い坂道の向こうに、信枝の姿が小さく飛び込んできた。
──「信枝……ありがとう…」脇目も振らずに駈けてくる信枝の姿が、一コマ一コマ大きくなってくる。お互いの姿が確認できるまで近づくと、信枝は大きく手を振って口元に笑みを浮かべた。錫も同じように手を振ろうとしたその時、信枝の後ろにもう一つ別の姿があることに気づいた。錫は思わず大声で信枝に叫んだ。
「危ない!気をつけて…うしろに何かいる!」辛うじて錫の声が聞きとれた信枝は、慌てて後ろを振り返ってみた。信枝の真後ろに張り付いていたのは狛犬Bだった。一旦は安心した信枝だったが、更にその後ろ上空を追いかけてくる見知らぬ姿が目に入った。獣と人間とを掛け合わせたようなバランスの悪い体つき──狡狗に違いなかったが、さっきの奴より明らかに強そうだ。見つかってしまった狡狗は、にやにやと気味悪く笑いながら信枝の前に立ちはだかった。
「ちっ、見つかったか…ならばさっさとオレ様に喰われろ」言うが早いか、正面から信枝に襲いかかろうとした狡狗を素早く阻止したのは狛犬Bだった。不意を衝かれて噛みつかれそうになった狡狗だったが、ひらりと体を躱し、いつの間に手にしたのか、仄かに青白く光る鞭を着地寸前の狛犬Bの背中に叩きつけた。
「ぐっ…」苦痛に耐えながら着地した狛犬Bは、なんとか体勢を整えて狡狗を睨んだ。
「ほう、狛のくせにこのオレ様に牙を剥くとはな…」狛犬Bはもう一度狡狗に襲いかかりたかったが、下手に仕掛けると鞭の餌食にされそうで尻込みした。ところが──そう思っている側から、信枝が怯みもせず狡狗に突っ込んでいった。狡狗の懐まで一気に間合いを詰めると、右、左、右と三発突きを繰り出した。あっという間のことで、素早いはずの狡狗も躱しようがなかった。例の如くダメージこそ与えられなかったが、いとも簡単に当て身を食らわされたことがよほど悔しかったらしい。
「ヌヌ…オレ様がこんなにパンチを食らうとは…絶対許さぬ…」狡狗は怒りを顕わに信枝の顔面目がけて鞭を振り下ろした。鞭の早さは相当のものだったが信枝はそれを軽く躱した。
「なんという俊敏さ…」目を大きく開いて狛犬Bは感心している。
「だけどそれだけよ。霊力の弱い私は、相手にダメージを与えられないの…」それを聞いた狛犬Bは、少し考えてピンピンと尻尾を振った。
「あたいを取り込んでください…」。「えっ!?」
「いいえ…あたいがあなた様に入ります」考え方の違いでどっちも同じことだった。有無も言わせず、狛犬Bは信枝の胸元から〝す──〟っと入り込んでいった。信枝と一体となった狛犬Bは、一切信枝の邪魔をせず、その霊力だけを両手と両足に振り分けた。
「自慢ではありませんが、あたいの秀でたところは他の狛犬より少々霊力が高いことです。ですからあたいの霊力をお使いください。ちょっとくらいは役に立つかと…」言ってる意味は分かるが、どうもピンとこない。信枝は狡狗を挑発して試してみることにした。
「…あんたさぁ、さっきから頑張ってるけど、まだ一発も当たってないわよ。手ごたえがなくてつまんないわ」
「なにぃ~!?手加減していればいい気になりやがって…」
「強がらなくてもいいの。見かけ倒しの狡狗さん」信枝は首を小刻み振り、大袈裟に呆れ顔をしてみせた。
「ギリギリギリ…ホントに許さん」簡単に信枝の挑発に乗ってくる。脳天から蒸気が噴き出しそうな怒りようだ。
「ムダよ…。どーせ一発も当たりっこないもん!」バカにした口調で追い打ちをかける。
「ンムウ~…オレ様の本当の強さを見せてやる!」怒りが沸点に達した狡狗は、信枝の周りをまるで少年漫画の忍者よろしくクルクルと回り始めた。さすがに円に見えるほど早くはないが、そうやって信枝に襲いかかる隙を狙っていた。信枝はわざと下を向いて狡狗に隙を作ってやった。そうとは知らず、狡狗は今とばかりに信枝の首を掴みに懐に入ってきた。信枝は慌てることなく、狡狗の胸元に右足で蹴りを食らわせた。
「どぅぁ──!くっ…」今までなら一時的に動きが止まるだけの狡狗だったが、今度の攻撃では苦しみ喘いでいる。間髪を容れず、信枝は顔面に正拳を突こうとしたが、狡狗は辛うじてそれを躱すと苦々しく信枝を睨んだ。
「スゴい…あんたのおかげで強烈な攻撃になっちゃったわ!」信枝は感激している。
「この狶狶様によくも…」牢の中で固唾を飲んで見守っていた錫と智信枝栄も、その名前には聞き覚えがあった。
「浩子…狶狶って途中で逃げ出したすばしっこい奴よね?」
「えぇ、私もあの動きには見覚えがあったわ…」
「でもさすが信枝ね…。俊敏な錫雅でさえ、あの狡狗には手を焼いたのに…」
「うふふ、つまり自分…」智信枝栄は錫雅尊を第三者扱いしている錫が滑稽だった。
「見て見てあの動き…まるでシマリスだよ。シマリス界のチャンピオンだ~!」
―─「このおおらかで明るいスンに今まで何度救われたか…。錫雅様とは全く違う性格なのに同じように癒される…。スンには必ず助かってもらいたい…。いや、必ず助かる。だってスンはもう謎を解いたのだから……そして秘宝はもうそこにあるのだから…」
良いとこ無しの狶狶は苦々しい表情で鞭を手にすると、渾身の一撃を決めてやろうと力を溜めた。
「向かって来ないの?ひょっとして私が恐くなった?」
「なに───っ!」挑発に乗せられた狶狶は、怒りを顕わにして鞭を振り上げた。信枝は慌てず狶狶の懐に入ると〝ニッ〟っと笑って顔面に右の正拳を突いた。狛犬Bは信枝が右の正拳を放つ動作をした瞬間、機転を利かせてその拳にすべての霊気を集めていた。鍛えた信枝の拳に霊気を上乗せされた正拳を見舞った狶狶は、次の瞬間後ろにひっくり返り、不気味な声を立ててのたうち回った。それでもなんとか体勢を立て直した狶狶は、吐き捨てるように信枝に言った。
「今日のところは許してやる…。次に遇った時には覚悟しておけ…」
「あんた自分が負けたくせにその言い草はないでしょ?」
「ダマれ…オレ様だからこの程度ですんだのだ…」たしかに狶狶は他の狡狗と違って俊敏で霊力も高い。雑魚の狡狗であればドロドロになっていたかもしれない。「とにかくこの勝負はおあずけだ…。オレ様は〝逃げるが勝ち〟という言葉が好きでな。何しろ逃げて勝ちになるのだからな…」
「何よあいつ……最後は逃げてばっかり…」尻尾を巻いて逃げる狶狶に呆れていた錫だったが、それより一人で立ちつくしている信枝が気になり、つい叫んでしまった──。
「信枝ぇ──!」この一言に信枝の恋心が高鳴ったのは言うまでもない。
「錫雅さまぁ~ん♡!」色っぽい声だ。「私の名前を呼び捨てに!?」
「ふえぇ~~……しまったぁ…」思わず両手で口を押えたが手遅れだ。
「あらあら…今のスンは錫雅様なのよ。気をつけてね……くふっ」
「もう…浩子ったら人ごとなんだから…。男になったり女になったり──器用に使い分けできないよぉ…」二人がやり取りしているうちに、信枝が牢のすぐ近くまでやってきた。智信枝栄は、その信枝の足を止めた。
「信枝様、そこでお止まりください。この牢は扉も柵もありませんから簡単に入れます。ですが…一旦入ったが最後、絶対に出られません。気をつけてください」信枝はこっくりと頷いた。
「信枝殿…このような危険な目に遭わせてすまなかった」
「私は錫雅様のお役に立てればそれで…。それに…どうしても、もう一度お会いしたかったのです…」信枝は顔を赤らめた。先ほど狶狶と戦っていた勇ましい女性と同一人物だとはとても思えない。
「そうそう…錫雅様これを!」
「ありがたい!よくここまで運んでくれた。それを投げ入れてくれぬか?」信枝は無言だった。
「どうした信枝殿…?早く投げ入れてくれ…」
「いいえ…投げ入れません…」
──「エッ!?…ちょっと待ってよ信枝。ここまで来て、またおかしな事になるの…?」錫が不安に思っていると、信枝はとんでもない行動に出た。
「何をする信枝殿!」。「信枝様いけません!」隣の牢の智信枝栄も慌てて止めた。だがもう遅かった。
「はい錫雅様…どうぞ!」信枝は自ら牢に入ると直接錫に手渡した。
「これはとても大切な物なのでしょう?投げたりはできません。それに、わざわざ私にここまで持って来させるということは、これがあればこの牢から出られるということだったのでは?万が一そうじゃなくても、私はここで錫雅様と死ぬ覚悟ですから…」
──「さすが信枝──度胸が違う」錫も智信枝栄も同時に思った。
「このような無茶は二度となりません信枝殿」
「はい♡」叱られてなお嬉しそうな信枝だった。
「さて…」錫は牢の中央に膝をついた。そして天の秘宝である錫杖の頭部を左手に持ち、右手に信枝から受け取った杖を手にして大きく深呼吸した。「天地の秘宝はこの二つに違いない…」錫は祈りを込めて二つの秘宝を填め合わせた。
果たして──今まで全く感じなかった霊気が双方から漂い始め、天の秘宝は青い光を、地の秘宝は赤い光を帯びてだんだん強くなっていった。やがて二つの異なった霊気はゆっくりと融合し、金色の輝きを放つ〈錫杖〉と化した。
「これだったんだわ──ついに完成したのよ。いや、ついに完成したのだ!」興奮のあまり、つい女言葉になってしまう錫だ。
「やった──!見つけたのですね、錫雅様!」さすがの智信枝栄も興奮を隠せない。
「この錫杖を試してみたいが…」そこへまるで計算されたようなタイミングで、一体の狡狗が牢へ入り込んできた。
「おかしな力に誘われて来てみたが、その杖が源だな…よこせ!」
「ダメだ…。お前なんかに渡せるものか」
「うるさい…つべこべ言わずによこせ」
「錫雅様、早速試す相手が来ましたわね?」嬉しそうに錫雅尊を覗き込みながら信枝は狡狗を指さした。
「ええい…早くよこせ!」気短な狡狗はプロレス技のエルボーを繰り出すように、右の腕を真横に伸ばすと、そのままその腕を前に振り出した。錫と狡狗との間合いは充分あったはずだが、その腕は錫の左肩に直撃した。早さも威力も大して無さそうだったが、錫は牢の端まで吹っ飛んだ。
「錫雅さまぁ!」信枝が咄嗟に叫んだ。
「大丈夫だ…まさか腕が伸びるとは…」飛ばされて尻もちをついた錫だったが、それでも秘宝はしっかり抱えたままだ。
「錫雅様になんてことを…」信枝の腹の中は沸々と煮えたぎった。
「伸びる剛腕──オレ様は狡狗一の強さを誇る!ホッホッホ~~、ホッホホホ~」得意気に自分を称え、ケンケンしながら踊り出した。
「…この狡狗、力はあるけど頭は抜けてそうですわよ…錫雅様」
「そのようだな。ではこいつで試してみるか…」調子に乗って踊っている狡狗を横目に、錫は錫杖をしっかり握ると自分の霊力を高め始めた。やがて杖が手にしっくりと納まるような気がした錫は、今が頃合いだと直感し、釣り竿のリールを投げるような格好で狡狗目がけて錫杖を振り下ろした。十二個の遊環が互いに触れ合って〝しゃくしゃく〟と鳴り響くと、金色に輝く錫杖の先から、同じく金色に輝く霊気の玉が飛び出し狡狗の胸元に当たった。けれどもその霊気はゆっくりと狡狗の体に溶け込むように消えてしまった。
「何かをぶつけたようだが、残念ながらオレ様には効かないな。痛くも痒くもないわ!ホッホッホ~…」狡狗はそう言ってまた踊り始めた。
「なんだかあの踊りもかけ声も癪に障るわねぇ…」信枝が煙たそうな顔で狡狗を見ている。だが錫はそんなことより、秘宝が効かないことに苛立ちを覚えた。
──「どうして効かないの…?まだ私の霊力が足らない…?」気まぐれな狡狗は踊りを止めると、錫に向かってニヤニヤと笑いながら言った。
「さぁ~てと…じゃそろそろ本気で行くぞ!」
「休む間もなく踊ったり襲ったり忙しい奴だ…」そう言いながらも錫は体を躱せるように身構えた。狡狗はさっきと同じように右の腕を真横に伸ばすと、その腕を前に振り出して錫に剛腕を食らわせようとした────が、狡狗の手は錫に届かない。
──「あれ……全然伸びてこないじゃない?」拍子抜けした錫だったが、狡狗がもう一回仕掛けてきたので再び身構えた。
「い、今のはお遊び……これからが本番だ。恐いぞ恐いぞ吹っ飛ぶぞぉ~…ほれ行くぞぉ~ホッホホホ~」錫を脅しながら狡狗はまたまた右の腕を真横から繰り出してきた。だが今度も錫には届かない。
「あ、あれ……おかしいな…どうして伸びないんだ?」狡狗は首を傾げて戸惑っている。それから三度四度と右腕を繰り出してみたが結果は同じだった。様子を見ていた信枝は、狡狗の目の前にすっくと立ちはだかると、落ち着いた口調でこう言った。
「私に同じ事をしてみなさいよ…」
「信枝殿危ない!たった今無茶はしないと約束したでしょう…」
「大丈夫です錫雅様。こんな奴にやられやしませんから」
「なにぃ~!バカにしやがって…。もう許さん、お前はペチャンコにしてやる」狡狗は両腕を真横に上げると、シンバルを叩くように思い切り信枝を挟み込んだ。思わず目を閉じた錫は、それから恐る恐る目を開けてみた。
「ほらね錫雅様、大丈夫でしょ!?」信枝は涼しい顔で平然と立っている。
「ぶ…無事で何よりだ…信枝殿」錫雅尊にそう言われただけで、信枝は胸が高鳴り、天上からバラの花びらが舞い散る。
「くっそぉ~…どうなってるんだ」狡狗はわけが分からず地団駄踏んで悔しがった。その時隣の牢から智信枝栄が声をかけた。
「錫雅様、それこそが秘宝の力です!やはりその秘宝にはどんな霊力をも無力化する特性があったのです。確信は持てなかったものの、天甦霊主様は大凡分かっていたようです。秘宝の特性が予想どおりなら、邪心を持った奴らに渡れば白の国が滅びるのは必至だと危惧していました。…ずばり天甦霊主様の思っていたとおりの効力です…」
「もし奴らの手に渡っていたら、逆に私達の霊力を除去されていたということか…」
「そうです。地味な力のようですが、恐ろしい効力です」
──「そんな恐ろしい力を持った秘宝を人質交換に使おうとしていたんだわ…」苦渋の選択だったにせよ、錫は狡狗に秘宝を渡そうとしていたことにぞっとした。
「もうこの狡狗は赤子のようなものね。放っておきましょ」信枝はチラリと狡狗に目を遣っただけで相手にしなかった。
「ところで智信枝栄殿、この秘宝…どんな霊力にも効くのだな?」
「はい。そのはずです…」
「そうか…」錫は何を考えているのか──それだけ聞くと唇を一文字に結び、杖をギュッと握った。
「信枝殿、私の後ろに下がって」信枝は必要以上に錫の背中にピッタリとくっついた。
「……ち、近すぎる信枝殿…」
「あっ…恐くって…つい…」それでも離れようとしない信枝をそのままに、錫は自分の霊力を高め始めた。それに比例して錫杖にもその力が蓄えられていく。充分霊気を溜め込んだ錫は、牢の出口に向かって錫杖を振り下ろした。錫杖の先から金色の光の玉が飛び出し、薄い膜に〝とすん〟とぶつかると、そのまま膜に吸い込まれるように同化していった。
沈黙のままその様子を見ていた錫は、真後ろに張り付いている信枝に囁いた。
「信枝殿、この出口から外に出てみてもらいたい…」
「はい、錫雅様のご命令なら…」信枝は出口の手前まで歩いて一旦足を止めた。錫は口から心臓が飛び出そうだった。
──「私…今心臓なんて無いはずなのに…」どうでもよいことが錫の頭を過ぎる」
左…右…信枝は改めて一歩また一歩と小股に歩みだした。そして牢から外へ出る最後の一歩をゆっくりと踏み出した。果たして──そこに信枝の脱出を阻もうとする障害は無かった。
「やったー!出られた!」錫が飛び上がって歓喜の声を上げた。同時に信枝もくるりと振り向き、親指を上向きに〝つん〟と立てて、錫に力強く差し出した。
「とうとうやりましたね…錫雅様」智信枝栄も喜びを隠せない。
「みんなのおかげだ…」錫は心の底から礼を言った。
「さぁ、錫雅様も早く外へ」信枝が錫を誘う。
「ちょっとだけ待っていてくれ…」錫は信枝にそう言うと、今にも〝無〟と化してしまいそうな香神虎の魂を優しく抱いて囁いた。「一緒に帰ろうね…おじいちゃん…」それからその魂を懐にそっと仕舞い込むと急いで牢の出口へと向かった。
──「出られますように…」錫は左足をそっと前に出してみた──。邪魔するものは何もなかった、錫はあっけないほど簡単に外に出られた。
「やりましたね錫雅様!」信枝が喜んで錫を迎えた。錫も一緒に喜びたかったが、それはもう少しおあずけだ。
錫は隣の牢に捕らえられている智信枝栄と向き合った。「錫雅様、お疲れ様でございました!本当に…本当にお見事でした」智信枝栄は、捕らえられた状況の中で秘宝を探し出し、手中に収めるという破天荒な業を成し遂げた錫を讃えた。けれども錫は喜ぶには早いと、少しだけ唇を緩めただけだった。
「智信枝栄殿…すぐにお助けしますから…」そう伝えた錫は、信枝に一歩も動かぬよう釘を刺し、いきなり牢の中へと入って行った。驚いた智信枝栄は小声で錫に尋ねた。
「スン…どうしてわざわざ中へ?」
「だって、この膜は内側からしか霊気を遮断しないんでしょ?」錫はニッコリと笑って言った。確かに牢の外から錫杖の霊気を放っても通り抜けてしまう──うっかり見落としてしまう落とし穴だ。普段は頼りない錫だが、ここ一番には頼もしいと智信枝栄は感心した。
「さぁ…早く出よう浩子」そんな智信枝栄をよそに、錫は牢の出口に向けて錫杖の霊気を放った。
「そうね…のんびりしてる時間はないものね」互いに今からするべき事は分かっている。二人は同時に小さく頷き、牢の外へと飛び出したのだった。
漸く三人は牢の外で顔を揃えることができた。智信枝栄は真っ先に信枝に礼の言葉をかけた。
「お礼なんて…私は錫雅様の一大事と聞いて、じっとしていられなかっただけ。錫雅様にもしもの事があれば…私は生きてゆけないもの…」横で聞いていた錫は、あまりに一途な信枝の恋心に狼狽えた。
「と、とにかく今は一刻も早くいしを助けに参ろう」
「そうですね。行きましょう錫雅様!」
──「信枝は本当に真っ直ぐな子ね…。それにしても私には〝行きましょう〟と声をかけてくれないのかしら…」智信枝栄は心の中で〝クスッ〟と笑った。
囮になっているいしを探し出すのはそれほど難しいことではない。いしの霊気か、あるいは狡狗の霊気がたくさん集まっている場所を探せばよいのだ。錫と智信枝栄は自慢の高い霊力で、その方向を見つけ出し足早に向かった。信枝は小判ザメよろしく錫の後ろにピッタリ張り付いたまま離れようとしなかった。
「信枝殿…少々近すぎはしませんか…?」
「いいえ錫雅様…はぐれてはいけませんから…」
──「もう……信枝ったら、この見通しのいい世界でどうはぐれるのよ…」錫は呆れ顔で智信枝栄に助けを求めようとしたが、智信枝栄はクスクス笑って見ているだけだった。
いしの霊気を追いかけていると、遠くの宙に黒い大きな塊が見えてきた。
「錫雅様、あの塊…狡狗の集団です」智信枝栄が静かに言った。
「あれがそうか…。あそこにいしが…」錫は拳をぎゅっと握った。
「急ぎましょう、錫雅様」。「いしを早く助けましょう」智信枝栄と信枝が錫を急き立てた。だがどうしたわけか錫はその場所から動こうとしない。
──「スンはどうしちゃったんだろう?この場に及んで尻込みするはずもないし…」考えている智信枝栄に錫が頼み事をしてきた。
「智信枝栄殿、今から私と一緒に強い霊気を放出してもらえぬか?」
「い、今ここででございますか?」驚いている智信枝栄に、錫は狡狗の群れを指さして言った。
「あそこまで行く時間がもったいない…。ならばこちらの霊気を狡狗に気づかせて、おびき寄せてやる」
「かっこいい…錫雅様♡!」信枝にバラの花びらが舞い散る。
「なるほど、妙案です。奴らの方からこっちに来れば、その分いしへの負担も軽くなります」
「そのことを一番に考慮してのことだ」
「凛々しくて賢い錫雅様♡!」
──「…もう信枝ってば…調子狂うなぁ…」拍子抜けする錫を〝ちらっ〟と見て、智信枝栄は〝クック〟と声を出さずに笑った。錫は信枝に悟られないよう般若のような顔を智信枝栄に向けると、敢えて穏やかに言った。
「さぁ、智信枝栄殿…私と一緒に霊力を高めてくれ」
「はい…錫雅様」智信枝栄は澄まして答えた。
霊力を高めた二人に強い霊気が漂い始めると、狡狗はスズメバチの大群よろしく群れを成して近づいてきた。思惑どうりいしを早く解放してやることには成功したものの、狡狗の数の多さに錫の肝は縮み上がった。
「お見事です錫雅様!」信枝は錫の気も知らずに喜んでいる。いしを助けたい気持ちに偽りは無かったが、一目散に逃げ出したいのも事実だ。
「錫雅様…どう戦いますか?」智信枝栄が尋ねた。
「で、出たとこ勝負だ…」狡狗の数に錫はそう答えるしかなかった。
「男らしいぃ~っ!錫雅様ステキですぅ♡!」
──「もう信枝ってば…なんでそうなるの。私はレディです、か弱いレディですぅ~」今は信枝の恋の病につける薬はなさそうだ。
「錫雅様、信枝様、大群ですからお気をつけて…」
──「こうなったら覚悟を決める。私は錫雅の生まれ変わりだもの…」錫は自分にそう言い聞かせた。
狡狗の群れはみるみるうちに錫達をぐるりと囲んだ。
「逃げ道なんてありませんねぇ?」信枝は切迫した状況でも慌てない。
「えぇ…どこにも活路が無いわ…」智信枝栄がそう言った途端、三人の正面にいた狡狗の大群が〝さー〟っと左右に分かれて、たちまち一本の通り道ができた。
「か、活路が開けた!」錫は安易に喜んだ。
「残念だが活路ではない…」開けた道の奥から悠々と近づいてきたの矢羽走彦だった。錫のささやかな希望は一瞬にして打ち消された。
「活路などではなく、地獄へ通じる道だ…」矢羽走彦は不敵な面構えでゆっくりと歩み寄ってきた。
「なんと俗っぽい台詞でしょう」珍しく智信枝栄が皮肉った言い方で言葉を返した。
智信枝栄は牢中で矢羽走彦の存在を錫から聞かされたが、時代がズレているらしく、知らぬ霊神だった。
三人の前に立った矢羽走彦は、それぞれの顔を交互に見ながら吐き捨てるように言った。
「やはりお前達の霊気だったか…。だが分からぬ…どうやってあの牢から逃げ出せた?それにこの異質な霊気はなんだ?」恐怖心は拭えないものの、錫も負けじと不敵な顔を装うと、嫌みったらしく矢羽走彦の疑問に答えた。
「すまんな…。すべての答えはこれだ!」錫はわざと自慢げに錫杖を矢羽走彦に突き付けた。「お前には礼を言わねば…。秘宝を偽物だとガラクタ扱いして、二つとも牢に放り投げてくれたことにだ」
「で、ではあれは本物だったと?…だが私は二つを合わせてみたが何も起きなかったぞ…」
「本物だと信じていた秘宝が偽物だったことに一番ショックだったのはこの私だ。本当にお前を騙すつもりなどはなかったのだ。…牢獄で途方に暮れながら、私は何が間違っていたのかを何度も繰り返し考えた。そして、とうとう謎を解いた。本物が何なのか、どこにあるのかを…。だが脱獄不可能な牢に閉じ込められた私には、すべてが手遅れだった……そこで…」
「もうよい……みなまで言うな…」自分の詰めの甘さを腹立たしく感じて、矢羽走彦は錫の話を最後まで聞かずに打ち切った。「私は狡狗のような単細胞ではない…。そこにいる新しい女…そしてあの忌々しい狛の行動…それだけで大体のからくりは見えてくる…」
「そうだ…勝者はご主人様だ…」矢羽走彦の後方からいしの声が聞こえた。「脱出できたのですねご主人様」
「いし…無事でなにより。よく本物の秘宝を持って来てくれたね…ありがとう」
「はい…お役に立てて嬉しいです………けん…」いしの全身に痛々しい鞭の跡が残っていた。それでも最後の力を振り絞って、なんとか愛する主人の前まで辿り着くと、そのまま錫の腕の中で倒れた。
「いし…いし……?……いやぁ────!」錫は空気が裂けんばかりの声で叫んだ。
「そいつはな、ご丁寧に〝本物の秘宝を持っているのは自分だ〟と言いふらしながら逃げ回っていたんだ…。お前がその狛を囮にして狡狗どもをおびき出し、その隙にそっちの女がお前に本物の秘宝を渡すといった計画だったのだろう?だとすると、そいつがこんな目に遭ったのはお前のせいだ。そうだろうが?ガハハハ…」
「そのとおりだ…すべて私のせいだ…。だが、やはりいしをこんな目に遭わせたお前達を許せない!」
「ならばどうする?どんなにお前達が強くとも、この狡狗の数に敵うか?」
「私がどうやってあの牢を抜け出したと思う?」
「………」矢羽走彦は眉を〝ひくっ〟と動かした。
「知っているはずだ──この錫杖にどんな特性が備わっているかを…。私達を閉じ込めていた牢の膜も、錫杖の力で簡単に破ることができた。秘宝をガラクタ扱いしたのがお前の大きな失敗だ」
「グウゥ…」矢羽走彦は苦虫を噛みつぶしたような顔をして悔しがった。
「いしの敵だ!この秘宝の威力をとっくりと味わうがいい…」錫は怒りを錫杖に込めて、霊気を片っ端から放出した。矢羽走彦は咄嗟に狡狗を盾にして隠れた。怒りが収まらない錫は、そんなことにはお構いなく錫杖の霊気を狡狗達に浴びせ続けた。錫杖の霊気をぶつけられた狡狗は、無気力になって襲いかかることさえしなくなった。
智信枝栄も手の平に霊気を溜め込んでは狡狗にぶつけた。拗隠の国では霊気が取り込めないため威力は不十分だが、それでも一度に十体近い狡狗が智信枝栄の霊気を食らい、ドロドロとしたゼリー状の塊と化した。
そして、華麗に演武を舞うように戦っていたのは信枝だ。彼女が狡狗の攻撃を食らうことはまずない。逆に信枝の懐に入り込んでくる気の毒な狡狗は、次の瞬間どんな一撃を受けたか分からないまま倒されていった。たとえ囲まれても、突き・手刀・裏拳、さらに前蹴り・後ろ蹴り・足刀・回し蹴りと多彩に技を繰り出し、秒殺でぐるりの狡狗はドロドロの塊になった。これは狛犬Bの霊気が宿っての威力だ。
意気込んで戦っていた狡狗も、猛威を振るう三人の強さに尻込みし、気づくと大半の狡狗がちりぢりに逃げ去っていた。隠れ蓑を失った矢羽走彦は、ぽつんと置き去りにされる形で再び姿を現した。矢羽走彦は残された僅かな狡狗に〝やめろ〟と命じた。
「今回は私が軽率だった…。だがこれで諦めたわけではない。天甦霊主へ伝えておけ──『復讐を果たすまでは絶対にくたばらん…首を洗って待っていろ』とな…」矢羽走彦はそれだけ言い残すと、どす黒い天に向かって舞い上がり姿を消してしまった。
「勝ち目のない戦いを嫌いましたね…。矢羽走彦…なんて不気味な奴…」智信枝栄が不快な顔で呟いた。
「智信枝栄殿、逃げた矢羽走彦より、今はこいつらをなんとかしないと…」
「それなら取るに足りませんわ錫雅様。私に任せてください」信枝はにこやかに錫にそう言うと、今度は口元を〝きりっ〟と締めて叫んだ。「あんた達…大将が逃げたからって急にビビッてるんじゃないの!?私が相手になるからいくらでもかかって来なさいよ!」信枝は怯むことなく強い口調で狡狗を嗾けた。ほとんどの狡狗はとっとと逃げて行ったが、中には自分の力量も分からずに襲いかかり、こてんぱんにされるおつむのネジの揺い狡狗もいた。こうなれば勝敗は目に見えている。残り僅かな狡狗を智信枝栄と信枝に任せた錫は、いしの亡骸を優しく抱いてやった。
「いし……弔い合戦は終わったよ…。ごめんね…いしを殺したのは私よ…」噎び泣きしている錫に、戦い終わった智信枝栄が囁いた。
「錫雅様…お取り込み中のところ、まことに申しわけないのですが…」智信枝栄は至って丁寧だ。
「どうしたの…?」錫はぐちょぐちょの顔で頭を上げた。
「お悲しみところすみませんが……いしは死んではいませんよ…」
「……………………へっ!?」錫は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で目をまん丸くした。智信枝栄は少しだけ目を細めて悪戯っぽく錫を見た。
「いしは肉体がありませんから死ぬことはありません。けれども無になることはあります。その時は影も形も無くなりますから…」智信枝栄の説明に錫の目は輝いた。
「そうかぁ…いしは生きてたのね!?…いや、生きてないけど死んでなかったのね…いっしぃ~!」ややこしい。
「錫雅様って、ときどき女言葉になりません…?」信枝が智信枝栄の耳元で尋ねた。
「あっ…あのぉ…。じ、実は錫雅様は…」
「錫雅様は?……ナニ?」
「錫雅様は…。そう…い、今まで何度も女性に生まれ変わって修行されておいでなのです…。ですから時々女言葉が無意識に出てしまうのです」
「ふ~ん……では、錫雅様は人間の女だったことがあると…?」
「そ、そうです…。そのなごりで…」智信枝栄はなんとかその場を繕った。
「…ご苦労されておられるのね……さすが錫雅様だわ…」以外とすんなり受け入れてくれたので、拍子抜けした智信枝栄だった。
Ⅳ
錫はいしの大きな頭を自分の膝の上に置いて介抱してやっていた。鼻先からおでこにかけて優しく撫でてやるたびに涙が一粒流れ落ちた。智信枝栄と信枝は気を使って、少し離れた場所でその様子を見守っていた。
「錫雅様といしは単に飼い主とペットという間柄ではないのですね?」
「はい。いしは錫雅様に絶対服従です。錫雅様の下僕だというスタンスを決して譲りません。けれど錫雅様はいしを下僕などと思ってもいませんし、そのような扱いをされていないことはあれを見れば明らかです」智信枝栄は改めて錫雅尊がいしを労る姿に目を向けた。「あのお二人の間に私とて割り込むことはできません…」
「…。智信枝栄様は錫雅様のことを…?」
「い、いいえ…そ、そういう意味ではなくて…その…」
「隠さなくてもいいですよ。私も女だから分かります。でも私だって錫雅様への想いは誰にも負けないつもりです。たとえ錫雅様が異国の人であっても私は諦めません。これから智信枝栄様とは恋のライバルね…。だけど安心して…私は卑怯なことは嫌いなの。どこまでもフェアで戦いますから」信枝の実直さはイヤというほど知っていた。だからこそ智信枝栄は後ろめたさを抱いた。不本意ながらも智信枝栄が浩子であることも、錫雅尊が錫であることも伏せていることにだ。
──「ごめんね信枝…でも私もスンも、あなたのことを愛しているわ…」いつかは本当のことを話さなければならないが、錫雅尊への恋心を聞かされ、〝フェアで戦う〟と宣言までされた智信枝栄は、ますます真実を打ち明けづらくなった。
魂が震えそうな痛みを覚えていしが目を開けると、愛する主人が介抱してくれていた。
「ご主人様…」いしは自分が世の中で一番幸せな狛犬だと感じた。
「目が覚めたのね!?良かったぁ…私、いしが死んだと思ったのよ…」
「すみません…ご心配をおかけして…」いしは無理に体を起こそうとした。
「ダメ!もう少し休んでなさい」
「ご主人様…なりません。勿体ないです…」
「何を言ってるの…私のせいでこうなったのに…。ごめんねいし…ごめんね…」
「何を謝ることがありましょうか…。このようなわたくしを大事な役目にお使いくださり、こんな光栄なことはないですけん…」
「あんたって子は…。命令よ…もう少しこのままでいなさい」
「本当によろしいのですか?…では…」錫の優しさに甘えて、その膝に横たわるいしは、痛みさえも喜びに感じるのだった。
「ところでご主人様…わたくしの謎解きは間違っていませんでしたか?」
「えぇ、完璧よ。見事だったわ」
「それを聞いて安心しました。ところでご主人様、一つだけ教えて頂けますか?」
「なぁに…?」錫はいしの頭を優しく撫でながらそう言った。
「裏の軒先に吊してある棒が地の秘宝だと、どうして解ったのですか?」
「そのことね…。毎度のことだけど、最初は全く解らなくてね…フフッ。それで、写真のおじいちゃんに縋ったの…」
「写真のおじい様にですか…?」
「そう、今まで何度も見てきた例の写真を思い浮かべてお願いしたの。そしたら気づいたのよ。お母さんからもらった杖と、写真の中でおじいちゃんが持っている杖とは明らかに長さが違うって。写真の杖はおじいちゃんの背丈以上はあったわ。でもお母さんからもらった杖はもっと短かった…」
「つまり、おじい様は例の写真を撮った後、地の秘宝の杖を軒下にそれとなく吊しておき、その代わりに別の杖を使っていたと?」錫はこっくりと頷いた。
「最後に見た干し柿の夢は、おやつのアメ玉の続きでしかないと思ってたの──だから全く気にも止めなかった。だけど違う杖が存在することに気づいた時、この夢は本物の杖の在処を示す夢に違いないと思った──その途端、写真と夢とが一瞬で繋がったわ。干し柿を吊してある軒下の棒こそが、本物の地の秘宝だとしか考えられなかったのよ!」
「…やっぱり私のご主人様はスゴいお方です。牢中に居ながら秘宝を探し出し、手元に収めるという離れ業をやってのけたのですけん」
「スゴくなんかないわ…教えてくれたのはおじいちゃん。そして秘宝を手にできたのはみんなのおかげだよ…。特にいし、お前には言い表せないくらい感謝してるよ…。だけど…本当に大根を持って来たらどうしようかと思ったわ」錫はクスクスと笑ってそう言った。
「はい。あそこに本数で数える物は大根しかありませんでしたが、いつぞやの智信枝栄殿のお話に、秘宝は移し替えができないので、食べ物など腐敗する物にはまず遷さないと言っておられたのを覚えておりました。それに天の秘宝の筒の部分にピッタリ合うものといえば、吊してある棒以外にありませんでしたから…」
「いしなら必ずそのことを思い出してくれると思っていたわ…。それからもう一つ謝らないと…。いしのことを下僕だなんて言ってごめんなさい…」
「あれは暗号ではないですか…そんなことで悄気ないでくださいご主人様…」
「ありがとういし…」錫といしの会話は尽きそうになかった──。
「さてと…もうそろそろ行きましょうか?信枝様…」
「そうね…ぼちぼち頃合いね…。いしにヤキモチ焼きそう…」錫といしを少し離れて見守っていた智信枝栄と信枝が腰を上げた。
「いし…お疲れ様でした」智信枝栄が優しく声をかけていしの頭を撫でてやると、いしは目を細めて喜んだ。
「いし…」次いで信枝もいしの頭を撫でてやろうと手を差し伸べた。
「ぐぅ~~!」いしが今までにない野性的な唸り声をあげて信枝を睨んだ。さすがの信枝も出しかけた手を慌てて引っ込めた。
「い、いし…どうしたの?」驚いた錫はいしを押さえつけた。
「驚かせてすみませんご主人様…。しかし、信枝殿から狡狗に似た霊気を感じたものですけん…。いえ、それよりもっと恐ろしいというか…悍ましいというか…」
「あっ!もしかして…」信枝は〝ピン〟ときた。「ねぇ…出てきなさいよ」そう言われて信枝の胸元から飛び出たのは狛犬Bだった。
「コ、コイツです…悍ましい霊気の根源はコイツですけん」いしのものの言いかたが癇に障ったのか、狛犬Bはいしを鋭い目で睨みつけた。いしも女の睨みには弱いらしく、すごすごと錫の懐に隠れた。三人はそんないしが愛らしくて思わず吹き出した。
信枝が狛犬Bと出会ってからの経緯をすべて話すと、狛犬Bは心配そうに口を開いた。
「お聞きのとおりです…どうかあたいをこの世界から逃がしてください…」
「…智信枝栄殿、別に問題はないな?」白の国の法を知らない錫は智信枝栄に確かめた。
「はい、狛犬を白の国に連れて行ってはならない決まりはありません──けれど…」
「けれど…?何かあるのか?」
「この狛犬、何か言いたそうですよ。どうしたの?言いたいことがあるならお言い」
「では…お言葉に甘えて…」そう言うと狛犬Bは、いしの鼻先をクンクンと嗅ぎ、二~三歩後ずさりしてから口を開いた。「あたいの霊気が恐ろしいとか悍ましいとか…よくも言いたいことを言ってくれたわね!」かなり強い口調だ。
「そ、それは悪かったが…こんな場所だと警戒心も強くから仕方ないだろ…」
「今回は勘弁してあげるけど、雌だからって見くびってたら承知しないよ!」いしは何も言い返せず、尻尾をお尻の内側に巻いて錫の耳元でひそひそと囁いた。
「コイツは思った以上に悍ましい奴ですけん…」その言い方が可笑しくて錫はクスクスと笑っていしの頭を〝パシッ〟と叩いた。それから左の人差し指を口元に当て〝しー〟っと、いしを黙らせた。
「錫雅様、あまり長く拗隠の国に留まりたくありません。そろそろ引き揚げましょう…」いしのことを気にしつつも、智信枝栄はそのことを言わざるを得なかった。いしは体を起こし、錫の回りを軽く駆け足で跳ねてみせた。
「もう大丈夫…このとおりですけん。わたくしは皆さんと違って、この国の霊気を取り込めますけん回復も早いのです」
「ここはいしの故郷ですものね…」智信枝栄がからかい半分で言うと、いしは迷惑そうに答えた。
「智信枝栄殿…意地悪なことを言わんでください…私の故郷は白の国ですけん…」
「冗談よ。それだけ元気になったらもう心配ないわね」
「ありがとうございます!」いしが〝お手〟をすると、智信枝栄はニッコリ笑って手を取った。
「それはそうと帰りはどうやって元の世界に?」錫雅尊が尋ねると、いしがすぐに答えた。
「わたくしが案内しますからご心配なく。少し遠いですがついて来てください」一行はいしの先導で帰りを急いだ。
「狡狗の親玉がいなくなったということは、これで白の国は平和になるということか?」期待しながら錫は智信枝栄に尋ねた。
「残念ですがそれはないでしょう。ご存じのように奴らはそれほど知能が高くありません。他の国に行ける抜け穴があると分かれば単体でも攻めて来ます。それに矢羽走彦のような奴がまた現れて狡狗を牛耳るのも必至…。そうなれば奴らはまた集団で攻めて来るに違いありません…」
「では方法は何もないのか…?」
「はい…私達がこれから通って帰る抜け穴を塞がない限り、どうすることもできません」
「そうなのか…。その昔──騙されたとはいえ、矢羽走彦が抜け穴を塞いだように、誰かが犠牲にならねば白の国に平穏は訪れないということか…」錫は顔を曇らせて下を向いた。
矢羽走彦も好きで白の国の敵になったわけではない。彼のおかげで暫くは白の国が安泰だったのは確かだ。錫は矢羽走彦を心から憎む気にはなれなかった。
それからどれくらい歩いただろうか。いしがオアシスでも見つけた勢いで口を開いた。
「あそこです!あの穴がそうです!」いしの言葉に一行の足は自ずと速まった。
それを抜け穴と呼ぶにはあまりにも大きかった。地面にどっかり空いた穴の表面には、黒い霧が渦を巻きながら蠢いている。覗き込むと吸い込まれそうで不気味だ。
「直径三㍍はありそうな穴ね…」信枝は抜け穴を恐れもせず体を乗り出して覗き込んだ。
「私達の世界では黒の国に通じる穴を〝臍〟と呼んでいます。これよりもっと大きな穴ですが、太古より存在する穴です。ですが突発的に現れた穴がこれほど大きくなるのは珍しいです。〝抜け穴〟と言うからには、大抵は小さな穴なのですが…これほど大きければ狡狗はすぐに見つけ出してしまいますね…」智信枝栄は険しい顔で説明した。
「穴はこれだけなのか?」錫は素朴な質問を投げかけた。
「ご主人様、抜け穴はそうそうできるものではありません。ですが現にこうしてここに存在しているということは、他には絶対無いとも言い切れないです…」
「いしの言うとおり…。少なくとも今狡狗が気づいている穴はここだけでしょうが、針で突いたような穴がどこかに存在しているかもしれませんね…」いしの説明に智信枝栄が付け加えた。
「そうなのか…」錫はまた顔を曇らせて下を向いた。
「さぁ、早く人間界に戻らないと…。信枝様には離脱してここまで来てもらっているのですから…」智信枝栄は信枝の手前、錫のことには触れずにみんなを急かしたが、一番気がかりだったのは錫の事だった。一刻も早く錫の肉体に魂を戻してやりたかった。「信枝様からお入りください。白の国に出ましたら、その場所を絶対に動かないでください。もしも離れた場所に出てしまっても、必ず探しますから」
「分かったわ…それじゃお先に」信枝は躊躇いもなく抜け穴に飛び込んだ。
「さて…次はスンといしでどうぞ。私と狛犬Bは最後に行くわ」
「うん…」返事はしたものの、錫は抜け穴に入ろうとはしない。
「どうしたのスン…今さら恐いなんてなしよ…?」
「うん…。ねぇ…悪いけどこれ浩子が持っていてくれない?」そう言って懐から取り出したのは香神虎の魂だった。智信枝栄は錫の本意が分からぬまま虎の魂を受け取った。「あのね…私は最後に行くわ…。浩子はいしと狛犬Bを連れて先に行ってちょうだい…」錫のその言葉ですべてが理解できた。
「バカなこと考えないで!」智信枝栄は青ざめた顔で錫を怒鳴った。
「バカなことじゃないわ!大事なことよ…私はここに残るの!」錫は強い口調で言葉を返した。それを聞いて正気を失いそうになったのはいしだ。
「なりません…そのようなことを考えてはならんですけんご主人様!」その場をうろうろしながら狼狽えるばかりだ。「智信枝栄殿…助けてくだされ!ご主人様を止めてくだされ!」智信枝栄は悲しい目でいしをチラリと見た。それは錫の気性を知る智信枝栄の諦めだといしは直感で悟った。
「聞かせてスン、ここに残ってどうするの?」錫は誰とも視線を合わせず、僅かに宙を見つめながら答えた。
「私は今まで、なに不自由なく生きてきたわ。生きていることが当たり前だと思っていた。でも今は違う──みんなに支えてもらって生きていられるんだと心から感じるようになった。この秘宝を見つけ出せたのも、私を取り巻くたくさんの人達が助けてくれたからよ…」
「それは…それは分かるけれど…」
「偉そうなことを言うけど…自分が人間として生きている意味が少しだけ分かったような気がするの…。人間界と白の国とは別々ではないわ。いずれは正しく生きた人達が必ずお世話になる国よ。もしその国を救える者がいるとしたら──おこがましいけど、今の私しかいない。自分に出来ることで誰かの役に立つことは、人間として当然の勤めだと思うの…。もしそれが多くの人を助けることになるのであればなおさらのこと…」
「だからって何も…」正論すぎて智信枝栄は反論する言葉が見つからなかった。
「今までいろんな人に支えられて生きてきた私が、今度はみんなにお返しする番なの…。今それをしなければ、香神錫がこの世に生まれてきた意味がないの。だから………私は……ここに残ります…」
「ダメです…ダメですダメですご主人様、それだけはいけません…」無理もないが、いしは完全に取り乱していた。
「泣くのはおやめなさい…」智信枝栄は優しくなだめた。
「しかし浩子殿………永遠の別れになってしますのですよ…」
「わかっています…」
「ならば止めてください…止めてください……後生ですけん止めてください…」いしは、なおも取り乱して泣きじゃくった。
「泣くのはおやめいし…。これからは浩子がお前の主人よ。お前も浩子なら不足はないでしょ?」
「ですがご主人様…それとこれとは…」
「聞き分けがなさすぎるよいし…。お前の忠誠心はどこへ行ったの?この穴を潜るまではまだ私が主人だよ。黙って言うことを聞きなさい」
「しかし…しかし…」
「もう行って浩子…。早くいしを連れて行って…」ぐらつく気持ちを必死で抑えている錫の気持ちを察して、智信枝栄は頷いた。
──「お別れはしないわ…お互い辛いだけだもの。ありがとうスン…ありがとう錫雅様…」
「いし行きますよ。狛犬Bもついて来なさい」智信枝栄は半ば強引にいしを抱えると、錫に声をかけることなく抜け穴へと飛び込んだ。
「ダメです…ご主人様ダメです…。いしも残ります…いしも残りますけん………後生です…いしはご主人様と一緒に残ります…ご主人様…ご主人さまぁ~…」最後までいしは叫び続けた。だんだんと遠ざかるいしの声を、錫はいたたまれない気持ちで聞いていたが、その声が聞こえなくなると、錫の目に初めて涙が潤んだ。そして溜めきれなくなった涙が頬をつたい始めた時、とうとう錫はその場に泣き崩れた。
「ごめんなさい…ごめんなさいパパ…お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん…。気障りのおばあさんも…浩子も信枝もみんなごめんなさい…」
それからどれくらいの経っただろうか―─。錫の涙はまだ止まらなかった。
「いし…許してちょうだい…。最後までお前には辛い思いをさせてしまったね…。本当にごめんね…」いしがずっと〝ご主人様〟と叫び続けていた声が、錫の脳裏にこだまして離れなかった。とは言え、このままうじうじと悲しみに暮れているわけにもいかず、錫は自分を奮起させた。
「霊力が残っているうちに最後の勤めを果たさないと…」
十八歳を迎えた錫は突然霊能力を授かった。それと同時に秘宝探しを否応なしに課せられた。それまで無縁だった霊の世界を垣間見、恐がりの錫には酷なこともたくさんあったが、結果的には見事に秘宝を見つけ出し、その手に収めることができた。
その過程で、錫は祖父の秘密を知り、白の国の住人達と再会を果たした。
錫が人間として成長できたのは、自分を取り巻く者たちをとおして〝恩〟に気づいたことだ。自分を支えてくれる者達がいてくれたからこそ、今ここに秘宝があるのだと、錫はその〝恩〟を強く心に刻み込んでいた。
関わった者達だけに限らず、もっともっと多くの者達にその恩を返せるとするならば、それは今しかない。
もしもあの日──霊能力など授かっていなかったら、錫は拗隠の国に来ることも、たった一人ここに残ることもなかっただろう。けれどもそれを決めたのは錫自身だ。誰からも頼まれてはいない、強制されてもいない。錫が自分の意思でここに残り白の国を助けると決めたのだ。その決意は正真正銘錫の本心そのものだった。
矢羽走彦の話が事実だとするならば、彼が白の国を救ったことになる。だがそれは騙されてのことだった。結局彼は後々白の国の脅威となった。言葉は悪いが、白の国は騙したツケが回ってきたことになったのだ。
狡狗は人間の邪心が具現化したものだった。それによって人間の魂そのものが脅かされることになっていた。如何なることも、結局は回り回って誰かが責任を取らなければならないのかもしれない。そうであるならば、誰かに受けた恩を誰かに返すこともまた、人間にとって必要なことなのではないかと錫は強く感じていた。
これから錫は人生で最後の大仕事をする。その勤めを胸を張って果たそうと錫は覚悟を決めた。
──「私は矢羽走彦のように騙されてここにいるわけじゃない。これから一人ここに残っても、狡狗に取り憑いてまで生き残ることもしない…。ただただ白の国に平和が訪れることを願って…。いしや浩子が安心して白の国を守れるように…。いつか私の家族や信枝…多くの魂が白の国で平穏にすごせるように────これからこの抜け穴を塞いでみせる!」恐怖感はなかった。だが別れに対しての悲しみだけが錫の心を苦しめていた。錫は一刻も早くその悲しみを打破すべく、抜け穴の正面に立つと自分の霊力を高め始めた。
──「霊力を使い果たしても構わない…これが人生最後の役目なのだから…」そう思いながら霊力を高めていくと、なぜか錫の脳裏にあの日からのことが次々と浮かんでくるのだった。
大仏殿の穴潜り、祖父の謎、狡狗との戦い、集鬼鈴と晶晶白露、気障りの婆さん、いしとの出会い、浩子の秘密、秘宝の在処──浮かんでは消え、浮かんでは消えてゆく映像を心に刻みながら、錫は霊力を高め続けた。
邪魔する者はいない──慌てる必要はなかった。そうして駆け巡る想い出と共に、錫の霊力が最大限に達した。
「どうか私の霊力で、この穴が塞がりますように…」錫杖を握っていた両手に今一度力を込めると、錫の霊気がそのまま錫杖へと伝わった。一段と眩い金色の霊気を纏った錫杖は、今までより一回り大きく見えた。「お願い……私に力を貸して…」錫は願いを込めて錫杖の霊気を抜け穴目がけて放出した。今までの玉のような霊気と異なり波動型の霊気が迸る。その勢いで自分が弾かれるような気がして、腰を落として錫杖を強く握りしめた。
金色の霊気は抜け穴にどんどん吸収されてゆく。これといった変化は無かったが、諦めずに霊気を放出していると、抜け穴の表面で渦を巻いていた黒い霧の速度が遅くなり、表面が波打ち始めた。
──「思ったとおり。この秘宝は抜け穴だって塞げる…」錫は前にも増して勢いよく霊気を送り込んだ。渦を巻く早さが弱々しくなると、今度は抜け穴が縮み始めた。
──「今ならまだ間に合う…。このままこの穴に飛び込めば私の世界に帰れる…」徐々に徐々に縮んでゆく抜け穴と対峙する錫の心が乱れる。
──「この穴を塞げるのは私だけ…私しかできない使命…」萎える心を奮い立たせ、錫は何があっても霊気を緩めることはしなかった。
縮み続ける抜け穴は、奇しくも錫があの時に潜った柱の穴と同じ大きさになっていた。
──「帰るなら今しかない…完全に塞がれば……私はもう…」錫の脳裏にまたしても、もう一人の自分が囁きかけた。
「…白の国を救えるのは私だけ。…だから今こうしているんだ!」言葉に出して自分自身に言い聞かせながら、錫はさらに縮んでゆく抜け穴に最後の霊気を浴びせかけた。もうネズミの通れる穴ほどの大きさしかない。
「ここまで小さくなれば、もう潜れない…」諦めがついてホッとした錫だったが、はたと今の自分がどういう状態なのかを思い出した。「よく考えたら、肉体の無い私はどんな小さな穴でも通れるんだった…。やっぱり私は天然だわ。これじゃ、完全に穴が塞がるまで気持ちが揺らぐわね…あはは…あははは…」大声で笑ったが、目頭は涙の海で一杯になっていた。
涙が頬を一粒つたわった時──拗隠の国から白の国へと抜ける穴は完全に消滅した。
「任務完了…」ぼそりと呟き、錫杖を握っていた手の力が一気に抜けた。その瞬間、錫杖に異変が起きた。〝バチン〟という電気がショートしたような大きな音と共に霊気の火花が飛び散り、錫杖はただの杖と化したてしまったのだ。錫はもう一度、自分の霊気を錫杖に吹き込んでみたが無駄だった。「壊れたのかな…?まぁ、目的は果たせたから問題はないか…」錫は錫杖を静かに消し去ると、その場に座り込み、何をするでもなくただ宙を見つめたのだった。
「………いし…」最後のいしの悲しげな表情、悲痛な叫び声が、錫の脳裏に焼きついていて離れない。「あの子は私を恨むだろうか…?だけど早く私のことは忘れて浩子に仕えて…」さっきまで止まらなかった涙も、今は枯れ果てて一滴も出てこなかった。
これから自分が無になるまでどう過ごせばよいのか──途方に暮れながら過ぎてゆく時間は、錫の心をただ空虚に導くだけだった。
時折通りかかる狡狗でさえも錫をやり過ごす。錫を相手にしないのではなく、錫の霊力に脅え相手にしたくない狡狗達だ。
──「いつまでも、ここに座っててもしょうがない…。最後の場所でも探して、先に自分のお墓を作っておこうかなぁ…」冗談混じりにそんなことを考えながら腰を上げかけた時、一体の狡狗が宙を浮きながら錫の前を通りかかった。錫と視線が合った狡狗は、無言のまま、ギラギラとした目で錫の頭から足先まで舐めまわすように何度も見回した。今度の狡狗は雑魚とは違って、かなり手強そうな奴だと錫は直感した。抜け穴を塞ぐのに霊気を大量に使っていなければ勝てる見込みはあったが、今戦えば勝率は半分以下だと錫は見て取った。
「こんなところで何をしている…?」狡狗が宙に浮いたまま声をかけてきた。
「何もしてはいないわ…」
「そうか……ではオレ様が相手をしてやろうか?」その言葉に錫はさっと身構えると、右の手の平から迫り出した晶晶白露を素早く左手に取った。狡狗はそれを見た途端、血走った眼を大きく見開き、獣のような口を裂けるほど大きく開くと徐に両手を上げ、いきなり錫目がけて上空から襲いかかって来た。




