試験
仕事帰り、僕は心を必死に落ち着かせようと努めた。早歩きで花屋に入ると、ガラス瓶には色とりどりの花が咲き乱れていた。
ラナンの誕生日に贈るふさわしい花はどれか、キョロキョロと店内を見回す僕の目に、青い花びらが映った。
その花は可憐というよりは凛としたという表現が合い、彼女のイメージに重なるような気がした。僕は名も知らぬその花を買い、待ち合わせの店へと急ぐ。
一週間まえとは異なり、今度は僕が先に到着したようだった。僕は席に座ると隣の椅子に花を置いた。店員に紅茶を注文すると、あとはひたすらラナンが来るのを待つばかりだ。
この一週間、僕は考えに考え抜いた予定を頭の中で整理する。今日ここでラナンから花言葉を聞き出す。
そしてすべて揃った八つの花言葉を魔法の詠唱に変える。花言葉の詠唱の順番に規則性があるか調べないとならないので、一ヶ月もあれば花言葉の魔法が使用可能になると僕は踏んでいた。
そしてその花言葉の魔法でラナンに求婚する。僕はこの時、自分の行動に迷いはなかったはずだった。
「お待たせ、アズーラル」
沈んだ声と共にラナンが入店し、僕の前に座った。ここ一週間、仕事中のラナンは今まで見たことがないくらいに快活さを失っていた。
その原因を僕はわかり兼ねていた。今日はラナンの二十歳の誕生日であり、なんとか彼女に明るい誕生日を過ごして欲しかった。
「ラ、ラナン、誕生日おめで······」
「一週間まえにいったこと。単刀直入に聞くわ、アズーラル」
隣の椅子に置いた花束を掴もうとした瞬間、僕の言葉はラナンに遮られた。
「アズーラル。貴方が想いを伝える相手へと気持ちを私に教えて。それが、花言葉を貴方に教える条件よ」
ラナンはまるで睨みつけるような両目で僕を見る。
「き、気持ち?」
「そうよ。貴方がどれくらい相手のことを想っているか。それを聞かせて。私が納得すれば、花言葉を教えるわ。でも想いが足りないと判断したら、残念だけど花言葉は諦めて」
僕は突然試験が始まったことに気づいた。試験内容は僕がどれだけ相手を想っているかを言葉にすること。そして、試験官はその想いを伝える筈のラナン本人。
なぜこんなことになったのか、僕は頭の中が混乱していた。だが、ラナンの真剣な顔つきを見ると、誤魔化しは一切許される雰囲気ではなかった。
「······分かった。言うよ。僕がどれだけ相手のことを想っているか」
ラナンは黙して頷き、後戻りができない世にも奇妙な試験が始まった。




