最後の花言葉
春にしては肌寒いある日、僕は仕事帰りにラナンと待ち合わせていた。茶店に入ると、ラナンは既に椅子に座っていた。
思い返すと、ラナンは仕事でも時間をきっちりと守る性格だった。
「······話って何? アズーラル」
仕事中は結んである黄色い髪は解かれており、僕はラナンのいつもの甘い香りと髪型一つで胸がざわついていた。
「······単刀直入に聞くよ、ラナン。僕は今、八つの花言葉を集めている。最後の花言葉はパクグリット家が継承していることが分かったんだ。それはつまり、君の家で間違いないかな?」
僕とラナンの間に重い沈黙が流れた。いつものラナンの柔らかい表情が消え、どこか憂愁を帯びた雰囲気を感じた。
「······ええ。貴方のいう通り、私の家は確かに花言葉を継承しているわ」
半ば分かっていた事実でも、ラナンの口から直接聞くと僕は動揺してしまった。よりによって、想いを伝える相手から花言葉を教えてもらわなければならなくなったからだ。
「······花言葉は親から子へ伝えられる。子が二十歳になった時に」
ラナンは一週間後の誕生日に二十歳になる。僕は花言葉をラナンの親から聞くべきだったのかと、自分の判断を後悔していた。
だが、親に聞くのは想いを伝えるラナンを無視するような気分になって躊躇してしまったのだ。
「そうよ、アズーラル。もうすぐ私は親から継承するわ。代々守り続けた花言葉を」
ラナンの口調はいよいよ冷たくなり、僕は居心地の悪さを肌で感じていた。
「······ラナン、お願いだ。継承した花言葉を僕に教えてほしい」
「······花言葉を知りたい理由は?」
「······想いを伝えたい相手がいるんだ」
「······花言葉を悪用した時の罰は知っているの?」
「勿論知っているよ。僕は悪用したりしない。ただ花言葉の魔法で、自分の気持ちを相手に知ってもらいたいだけなんだ」
僕は誠心誠意、花言葉を集めている理由をラナンに伝えた。だが、ラナンは黙り込み、再び気まずい沈黙が訪れる。
ガタッ。
突然ラナンが席を立った。そして悲しそうな目で僕を見下ろす。
「······アズーラル。一週間後、もう一度ここで会いましょう。その時に私の出す問いに貴方が答えられたら、花言葉を教えるわ」
ラナンはそう言い残すと、長い髪を揺らし足早に店を出ていった。テーブルの上には、冷え切った珈琲が寂しく佇んでいた。




