第9話 大ヘビを斬れ
甲賀の里。忍び診療所。
「ここは…どこかしら」
花鳥后御也が、目を覚ました。
「花鳥姉さん」
弟の業木御が、喜ぶ。
静かな場所。
いや、甲賀の里自体が静かになっている。
多くの甲賀忍者が、出かけたからだ。
“大ヘビ退治”のために。
「古問朗は…?」
「姉さんの与えたツルギを持って、皆んなと一緒に出かけてしまったよ」
「草薙のツルギ…」
あの男にふさわしいツルギ。
与えるべきもの。
それは、あの男に何の衝動を与えたの。
業木御は、大ヘビについての話を簡単に説明する。
甲賀の敵対する、伊香忍軍の失態で作りあげてしまった大ヘビの話を。
「そう…」
帝の奥方は、待つだけの女ということ。
草薙のツルギで試練を与えてしまったということ。
でも、あの少年の笑顔を待てる。
それがうれしい。
明星の山。高台。
「よくきてくれた甲賀の忍びたちよ」
真っ白な羽織りをまとった白銀の流れる髪の美女。
伊香重本。年齢不詳。
伊香忍軍の首領の女性だった。
「大ヘビは、すぐそこゲソ」
首領の片腕の須見が、指をさす。女の娘だ。
山中の森深くを巨大な大ヘビがうごめいていた。
第9話 大ヘビを斬れ
「宝石集めが好きなのは、私だ」
「私がヘビに変えようと言いはじめたゲソ」
伊香忍軍の重本首領と須見。
他にも、女の娘の忍びが複数人いる。
大ヘビは、うごめく、ゆっくりとした速さで、暁月の都に向かっている。
「デカすぎないか、あれは」
「家より大きいですよっ」
「あれは、デカすぎ」
古問朗、比曽加、手巻は、思わずわめく。
大ヘビは、想像をはるかに超える大きさだった。
両手を広げる大きさどころではない。
本当に、甲賀の里のどの家よりも大きい。
「あんなのに、太刀打ちできませんよ…」
比曽加は、怖気づいて、古問朗にしがみつく。
「アタシも無理だと思う」
手巻もしがみつく。
「いいや。帝の草薙のツルギを持つ古問朗ならば、必ずや、倒せるであろう」
「オニタマー」
面面とオニタマちゃんが堂々としている。
他の大人の動ける甲賀忍者たちは、大ヘビの状態を調べに行っている。
加茂姉さんが、一人戻ってくる。
「何の攻撃も効かないのは本当みたいですよ…」
大ヘビは、手裏剣もカタナも何もかも受け付けないという。
「そう。攻撃も妖術も、霊力の盾があり効かない」
「どうするゲソ」
伊香忍軍は、すでにできる限りの手立てを打っている。
重本首領たちは、その上で何もできないのだ。
女の娘だらけといっても、一大忍者集団。
宝石窃盗として、暁月の都を困らせる腕前は高い。
特に、特殊な霊力によるあやつりの術が、伊香忍軍の得意技だ。
あやつりの術であやつれない大ヘビには、手立てがない。
「草薙のツルギがあるのだが…」
古問朗は、進み出た。
「草薙のツルギだと…?」
重本首領が、古問朗を見つめる。
草薙のツルギ。
帝の暁乃宮一族に受け継がれる三種の神器の一つだ。
奥方の花鳥后御也が、持ち運ぶことを許可されているツルギ。
古問朗は、腰にぶら下げたツルギを見せる。
青銅色の刀身。草薙のツルギだ。
「本物…なのか?」
信じられない顔の重本首領。
花鳥后御也が、秘密愛人を作ったとかいう戯れ言は、暁月城の宵乃宮家のウワサとして、盗み聞いたことはある。
相手は、甲賀の里の若い忍者だとか。
この男が、花鳥后御也を誘惑した本人なのか。
草薙のツルギすらも、手に入れたと…。
「男狂いか。酔狂だな」
目の前の古問朗が持つ草薙のツルギは、本物だろう。
そう見える。
宝石狂いの重本首領だ。
この男の価値の真髄まではわからないが、草薙のツルギから、強力な霊力が眠っているのを感じる。
「重本首領。このツルギから強大な霊力を感じるゲソ」
「そうだな。キミに賭けてみるか。秘密愛人くん」
「…秘密愛人の話を知っているのか」
有名なのか。
戸惑う古問朗。
「頼むよ」
重本首領は、古問朗の肩に手を置いた。
明星の山。森の中。
ウゴゴゴっ…。
大ヘビがうごめく音がする。
「こっちだ」
甲賀忍者に声をかけられ、修行忍者三人組は、走り寄る。
バキバキっ…。
木々の折れる音が聞こえる。
大ヘビが少しずつ動いているのだ。
「草薙のツルギが通用するか。確認したい」
「確認するゲソ」
「試しに斬ってみろ」
「斬ってみろゲソ」
伊香忍軍の重本首領たちが、うながす。
「あ、ああ」
古問朗は、草薙のツルギだけを持つ。
「気をつけてください。古問朗」
「勇気だよ。古問朗」
比曽加と手巻が応援する。
うなづいた後、古問朗は、ゆっくりと大ヘビに近づく。
家よりデカい巨体だ。
すぐに目につく。
巨大なため、動きは、のろい。
ゆっくりと近づく。
目の前に大ヘビの胴体が見えるところまで歩いた。
一気に、草薙のツルギを持つ手に力を入れる。
「行くぞっ…!」
気合いを入れて、ツルギを振り下ろす。
キラアアン…。
直撃した瞬間、すさまじい光りがほとばしる。
すごい熱量だ。
身体が熱い。
光りにつつまれるのを、古問朗は必死にこらえた。
離れて見ていた。重本首領が、笑いはじめる。
「ははははっ…。一撃なのか」
笑いが止まらない。
「一撃だな。秘密愛人くん」
伊香忍軍と甲賀忍者たちの目の前で、大ヘビは、元の平凡なヘビに戻っていた。




