第8話 草薙のツルギ
暁乃宮一族。
その一族の王位につく者には、三種の神器が引き継がれる。
その三種の神器の一つが、草薙のツルギ。
最高の権力の象徴。最強のツルギ。
帝の奥方。花鳥后御也のみが持ち運んでいる宝。
それは、美しい刀身をしている。
「草薙のツルギか…」
青銅の刀身。
秘術により、その重さは軽い。
「これを、オレにくれるのか?」
「ええ、そうよ」
この男にだけあげる。
他の男には、絶対渡さない。
一目惚れ。そう、一目惚れだったけど。
この想いは、強くなっている。
気づかないでしょうね。
男の子には。
わからないでしょう。それで良い。
ただ、いつか気づいて。
「最強のツルギか…」
「カッコいいですね。古問朗」
「何かすごいよ」
修行三人組は、草薙のツルギを前にわいわいと浮かれている。
「…」
それを見守っていた、花鳥后御也が、突然、崩れ落ちる。
「奥方…?」
古問朗は、草薙のツルギをしまい、駆け寄る。
熱を出している。
無理もない。先ほどまで手錠をかけられていた。
上流階級の奥方だ。打たれ強いワケがない。
甲賀の医師が、すぐにやってきた。
第8話 草薙のツルギ
甲賀の里。忍び診療所。
「花鳥后御也は、精神的な不良を起こしただけで、問題はない」
医師が話す。忍者医師だ。
「花鳥姉さんは、帝と結婚してから、緊張で心痛を病んでいて、薬を必要としているほどなんだ」
弟の業木御が、心配している。
そうだろうか。
ここにいた、花鳥后御也が、心痛を病んでいるようには見えなかった。
いつも、にこやか。秘密愛人などという無茶を言ったり、果物をたくさんくれたり、元気な印象がある。
それには、反対に業木御が驚いた。
「よほど、好きな人ができたんだね」
姉を慕う業木御は、安心する。
甲賀の里。古元家。
「草薙のツルギか…」
青銅の色があざやかである。
気に入った古問朗は、愛用のシノビカタナと二刀流にするか迷う。
二刀流の修行などしていない。
「姉さん。二刀流って、どうやるんだろうか」
「二刀流ですか…」
加茂姉さんも、二刀流は未経験だ。
それより、暁乃宮一族の宝物をもらっていいのかを、気にするべきか。
いやいや、花鳥后御也から、いただいたのだ。
活用するしかあるまい。
すぐ使いたい。
それほど、このツルギを気に入った。
やはり、二刀流だ。
古問朗は思う。
「古問朗。言いにくいのですが…」
「何だ。姉さん」
「そのツルギ、すぐ使うことになるかもしれませんよ…」
「え?」
甲賀の里。頭領屋敷前。広場。
里の忍びが集められた。
大事件である。
暁乃宮桃太御也=帝から、直接の依頼があった。
“大ヘビ退治”。
明星の山深くに、“大ヘビ”が出たのである。
目撃したのは、伊香忍軍の忍び。
いや、目撃したというより、生み出してしまったという方が正しい。
伊香忍軍は、動物をあやつる術を得意とする。
特殊な霊力を注ぎ込み、あやつるのが、伊香忍軍のやり方だ。
暁月の都の金持ちたちが持つ宝石をねらう目的で、主に、ネズミをあやつることを実行してきた。
ネズミに、宝石を盗ませるのだ。
しかし、ネズミにばかり盗ませる手口が警戒されるようになり、手法を変えた。
“ヘビ”に盗ませるように変えたのである。
しかし、ヘビに特殊な霊力を注ぎ込むと異変が起こった。
ヘビが巨大化したのだ。
“大ヘビ”となってしまったのである。
「大ヘビ…」
「こ、怖いですよ」
「こ、怖いよ」
修行忍者三人組は、かなり震えあがった。
「大ヘビは、制御不能で、暁月の都にゆっくり向かっているそうですねえ」
五右衛門さまの甲賀忍者への説明が続く。
伊香忍軍は、暁月の都の金持ちたちから宝石を奪わせるために、ヘビに特殊な霊力を注ぎ込んだ。
大ヘビとなったが、それは、伊香忍軍の目的通りに暁月の都に向かっているのだ。
宝石を奪うために。
「それは、伊香忍軍とやらが悪いではないか。何故、宝石をねらうのをやめないのだ」
「オニタマー」
少年山賊の面面とオニタマちゃんが、不満を口にする。
納得いかないのだ。
伊香忍軍がかける、あやつりの術は、洗脳に近い。
行動を強制できるのだ。
しかし、大ヘビには、行動の強制ができなかった。
あやつりの術で、あやつれない。
宝石はねらうが、人を傷つけない義賊の心を持つ伊香忍軍。
首領は、女性。
構成員も、全員女の娘。
それが伊香忍軍。
ただ、宝石に目がない首領のひきいる忍びたち。
暁月の都の危険など望んでいない。
勝手な話だ。
しかし、本当に危険なことは本望じゃない。
伊香忍軍の首領は、“大ヘビ発生”の情報を、暁乃宮一族に、すぐ伝えた。
そして、帝の耳にも入り、甲賀忍者への戦闘任務となった。
「大ヘビには、伊香忍軍の攻撃が全く通用しないらしいですねえ」
「攻撃が通用しない?」
古問朗は、首をかしげる。
大ヘビは注ぎ込まれた霊力を取り込み、霊気の盾を張りめぐらせているという。
それで、攻撃が通用しないのだ。
伊香忍軍の攻撃が効かないのならば、甲賀忍者の攻撃も効かないものと思われる。
大ヘビに、攻撃できる者がいない。
「古問朗…」
加茂姉さんが、しっかりと弟を見つめる。
「あなたのツルギですよ…」
「え?」
「草薙のツルギで戦うんですよ…」
「オレが?」
気づくと、周りの全員が古問朗を見つめている。
古問朗に与えられた、未知なる霊力を感じるツルギ。
暁乃宮一族に伝わる最強のツルギ。
それに、期待が集まる。
最強の助太刀。
草薙のツルギが、綺麗に輝く。




