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第7話 宿屋。占拠

10年前。

宵乃宮よいのみや花鳥はなとり姫は、結婚をした。

年は、19歳。

相手は、高齢の帝だ。

帝は再婚。

すでに、娘。興鳥こうとり姫がいた。

愛のない、形だけの結婚である。

愛を決められたことにイラ立ちをおぼえる。

しかし、帝の従兄弟。

宵乃宮の家のものとして、結婚は定められた。

現在。

つまらない毎日が続いていた。

愛を追求したかった。花鳥は、愛に憧れて生きてきた。

自分だけを、強く愛してくれる男を求めていた。

思い出す。

燃え上がるような赤毛に出会った瞬間を。

この男に愛されたい。そう思った。

しかし、男は10代。

無邪気な少年。無邪気さは、罪だ。

想いは深まっている。


第7話 宿屋。占拠


甲賀の里。宿屋。最上級室。

宿屋は、伊香忍軍の忍びに占拠されていた。

「花鳥姉さん」

弟の業木御の声で、我にかえる。

両手に手錠がかけられている。

側近の姉妹も、業木御も手錠をかけられている。

寿留する、何でだよ」

「わたしは、伊香忍軍の忍びでございます」

御者の女性。寿留。

正体は、伊香忍軍の忍び。寿留女するめであった。


甲賀の里。宿屋周辺。

甲賀の里の忍びが、周囲を取りかこんでいた。

「宿屋は、どうなったんだ」

「どうしましょう」

「大変だよ」

「大丈夫なのですか…」

修行三人組と加茂姉さんは、少し離れた場所で様子をうかがった。


「…目的は、何ですかねえ」

頭領の五右衛門さまが、代表して、前に出る。

「帝からの婚約指輪だ。よこせ」

宿屋から、大声が返ってくる。

伊香忍軍の忍びはただ一人。

女性御者と偽っていた。寿留女だけだ。

伊香忍軍は、結婚指輪を要求したが、化けカラスは、それを持ち帰ってこなかったという。

それは、化けカラスのくちばしにくわえさせて、渡したはずである。

飛んでる途中で落としたのだろうか。

「たぶん、途中で落としましたかねえ」

「落としたで、済ますな」

「化けカラスの失態だと思いますねえ」

「伊香忍軍の化けカラスに失態などない」

寿留女は、一歩も引かない。

頑固な女の娘のようだ。

「そもそも、伊香忍軍は、どうして宝石を欲しがっているんですかねえ」

ついでに聞く。

「首領が、宝石に目がないからだ」

その後も、伊香忍軍の忍び寿留女は、べらべらとしゃべる。

伊香忍軍は、女性の忍びだけで構成されていることとか。

明星の山の山賊の持つ宝石をねらっているとか。

化けカラスは、野生のものを使っているとか。

宝石は、伊香の里で保管されてるとか。

「一つずつ、奪う理由はあるんですかねえ?」

「一つずつ、確実に奪うためだ」

この世界の全ての宝石を手に入れることが、伊香忍軍の目的なのだという。

伊香忍軍の首領は、女性。

きらびやかな宝石に目がない。

「女性が、宝石に心ときめかすのは、わかりますねえ」

何度もうなづく。

五右衛門さまとしては、伊香忍軍を可愛い集団と理解した。

「可愛いですねえ」

「か、可愛いだとっ…」

寿留女は、顔を赤くする。

言われ慣れていないのだろう。


数刻後。

「五右衛門さま。里の麦畑に、指輪がありましたぞ」

甲賀忍者が、指輪を見つけて持ってきた。

やはり、化けカラスが途中で落としたのだ。

指輪は古問朗が代表して、宿屋の中に運ぶこととなった。


甲賀の里。占拠中の宿屋。

「足元に置き、離れてもらおうか」

「わかった」

寿留女は、古問朗が指輪を置いて離れるのを待つ。

離れたのを確認して、指輪を手に入れる。

指輪の宝石が、キラリと輝く。

「これは、首領が喜ばれる」

小さなふくろに、指輪を入れる。

それをふところにしまった後、寿留女は、素早く宿屋を出る。


シュタタタっ…。

その勢いで、走って逃走していく。

それを、甲賀忍者は、見逃す。

女の娘忍びだけの伊香忍軍。その争いは宝石がある上層階級の元で続くのだ。

甲賀の里で争う理由はない。


甲賀の里。宿屋。

甲賀忍者が謝罪しながら、手錠を外す。

「…花鳥姉さん、ボクの失態だよ。大丈夫?」

女性御者が、伊香忍軍であった。

それが、最愛の姉に迷惑をかけてしまった。

業木御は、姉を気づかう。

「わたくしなら、大丈夫よ」

花鳥后御也は、気丈に振る舞う。

正直なところでは、少し不安だった。

古問朗は、大丈夫だろうかと、目をやる。

いつも通りの三人組と加茂姉さんと何やら話している。

「驚いた。あれが、伊香忍軍の忍びか」

「可愛い女の娘でしたね」

「御者に化けるなんて、すごい戦法だった」

「そうですね…」

古問朗たちの話を聞いて、加茂姉さんは思い出す。

何度か、暁月城の宝石護衛の任務についている。

その際は、伊香忍軍の忍びは、全て女の娘。

宝石を一つずつ、盗んでいく。

今回のように、一つずつ奪ったら逃走する。


花鳥后御也が、近づいてくる。

「…ちょっと、いいかしら」

気丈に振る舞う。

心で決めたことがある。

「奥方。大丈夫だったか」

「大丈夫よ」

この男は、わたくしを魅了した。

与えなくてはいけない。行動で証明しなくてはいけない。

この想いを。

「あなたに、あげたいものがあるのよ」

「何だ?」

この男になら、あげてもいい。

「あげるわ。草薙くさなぎのツルギを」

「え?」

草薙のツルギ。

帝に与えられる、究極の至宝。

それを、この男に与えたい。

「草薙のツルギ…?」

「そう。それをね。わたくしが持ち運んでいるのよ」

「?」

「あなたは、影の実力者になるの」

花鳥后御也は、燃え上がるような赤毛に手を伸ばす。

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