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第6話 いらないもの

甲賀の里。宿屋。最上級室。

「あの化けカラスは、わたくしの結婚指輪をねらっているのね」

お付きの姉妹に長い髪を結わせている。

花鳥后御也は、湯上がりのようだった。

「…出直す」

古問朗たちは、部屋を出ようとする。

「いいのよ。…大事な話なのよね。話してほしいわ」

「しかし…」

「いいのよ」

奥手な男。

まだ少年だから、しょうがない。

燃え上がるような赤毛を見つめる。

古問朗を、だ。

「とにかく、伊香忍軍の刺客が、化けカラスの正体だった」

「化けカラスは、奥方の婚約指輪をねらっているのです…」

古元姉弟は、説明する。

「化けカラスは、伊香忍軍の刺客だったのね」

古問朗にだけ、笑顔を向ける花鳥后御也。

その姉には、差別的な視線を送る。

明らかな嫌悪感だ。

今まで、古問朗と暮らしてきた女。

気に入らない。

「奥方。姉さんの話も聞いてくれないか」

異変に気づいた古問朗。

これには、加茂姉さんが、遠慮する。

「高貴な方に、失礼ですよ…。とにかく、婚約指輪を守る話を進めましょう…」

「いらないわよ」

花鳥后御也は、不機嫌に言った。

「帝との結婚指輪なんて“いらないもの”よ」


第6話 いらないもの


甲賀の里。頭領屋敷前。広場。

明朝。

化けカラスの群れがやってきた。

頭領の五右衛門さまは、帝との結婚指輪を化けカラスのくちばしにくわわせた。

『いただく…』

化けカラスは、空高く去って行った。


甲賀の里。忍び学習堂。

「伊香忍軍は、化けカラスを操る」

「そして、宝石を一つずつ奪います」

「帝との結婚指輪を奪った」

修行忍者三人組は、今回の件のおさらいをしていた。

花鳥后御也の“いらないもの”。

帝との結婚指輪は、化けカラスに持っていかれた。

甲賀の里の決戦になることはなかった。

それにしても、簡単に渡していいものだったのだろうか。

結婚指輪がいらないものとは、秘密愛人の古問朗がいるからなのかもしれない。

複雑な気分だ。

「帝は、黄金集めが趣味で、宝石にこだわりはないといわれている」

教師の鋼師が説明する。

「宝石護衛も、失敗して、怒られることはない」

「怒っていないのか?帝は?」

古問朗は、怒られるものだと思っていた。

伊香忍軍を怒っていると思っていた。

帝は、寛大なのか。

それとも、本当に黄金集めの趣味にしか興味がないのか。

宝石とは、そんなに必要じゃないものなのか。

必要としているのは、伊香忍軍だけか。

ワケがわからない。

その後、忍びの一人に古問朗は、宿屋に呼ばれた。


甲賀の里。宿屋前。

高級な馬車が止まっている。

宵乃宮よいのみや業木御ぎょうきみさまのお越しでございます」

御者の女性が、挨拶する。

宵乃宮。

帝の従兄弟にあたる一族である。

あまり、知られてはいないが、女性のお付きだけを側近とする長子がいる。

その長子が、宵乃宮業木御。25歳。

見た目は若い。少年のような青年。

帝の奥方、花鳥后御也の実の弟である。

「キミが、秘密愛人なのかな」

「え…、一応、そうらしい。わからないが」

古問朗は、答えに迷う。

「ボクは、花鳥姉さんの弟なんだ」

業木御は微笑む。

無邪気な笑い方をする。


「業木御。何をしにきたのかしら」

花鳥后御也が、驚いた顔で宿屋を出てきた。

「花鳥姉さんに会いにきたに決まってるじゃないか」

「業木御…」

突然の弟の来訪に、不安な顔をする。

実の弟。

この子は、実の姉を好きでいる。

この弟が、古問朗ならば良かった。

業木御は甲賀の里の宿屋辺りを見渡す。

質素な場所だ。

「花鳥姉さん。こんな質素な場所にいたんだね。暁月城を出てまで、滞在するような場所かなあ」

悪気なく業木御は、感想を言う。

甲賀の里は、確かに、暁月城に比べれば質素だろう。

忍びが、豪華な暮らしをする方がおかしい。

「…古問朗。変な男の子がきましたね」

「…変とか、思ったら駄目だよ。比曽加」

比曽加と手巻も、感想を言う。

二人は、ひそひそ話をしていたのだが、御者の女性に聞かれていた。

「業木御さまのことを悪く言わないでいただきたい」

「す、すみません…」

「ご、ごめんよ…」

「自由でいいよ。寿留する

寿留。

御者の女性。

するどい目つきで、古問朗たちをにらんでいる。

業木御に、落ち着くように言われる。

「…」

寿留は、黙り込む。

「花鳥姉さんがいるなら、ボクも滞在するよ」

業木御は、宿屋に入っていく。


甲賀の里。古元家。

「宵乃宮業木御が、いらしたのですか…」

家には、加茂姉さんがいる。

「また、果物をたくさんもらったんだ」

「そうなのですか…」

「ミカンを多めにもらってきたんだ。一緒に食べよう」

古問朗は、風呂敷いっぱいのミカンを見せる。

リンゴが好きな古問朗だが、加茂姉さんはミカンが好きだ。

ミカンをたくさんもらってきた。

姉さんは喜んでくれた。

うれしい。

「高貴な方が二人もいるとなると、里の警戒を強くしないといけませんね…」

「化けカラスなら、オレたち三人組で追い払うぞ」

修行三人組に自信を持つ古問朗。

最近は、腕が上達してきていると思える。

伊香忍軍の化けカラスなら、勝てる。

どんとこい、だ。


次の早朝。

甲賀の里の宿屋が、いつの間にか忍び込んだ伊香忍軍の忍びに襲撃された。

甲賀忍者に衝撃がはしる。

『伊香の寿留女するめである。宿屋を占拠する』

伊香忍軍の者からの挑戦状であった。

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