第3話 加茂姉さん
甲賀の里。入り口への洞窟。
「花鳥后御也の依頼で果物を届けに来ました」
「側近の姉妹です。通してください」
荷車から、女の娘の姉妹が声をかける。
甲賀の里は、甲賀忍者の里。
そう簡単には入れない。
周りは、険しい山にかこまれ、入り口は、目立たない小さな洞窟。
「護衛役の加茂です…」
灰色の髪の忍びが一人。
語りかける中…。
「洞窟に入れ…」
と、声がする。
姉妹たちは荷車で洞窟に入った。
洞窟の中は、幾通りにも枝分かれしていて、迷路だ。
「右…」
「中央…」
導く小さな声を頼りに、荷車は、洞窟を抜けた。
甲賀の里。忍びの学習堂。
「伊香忍軍が、山賊の宝石をねらっているらしい」
山賊とは、その名前の通り、山の盗賊。
山を通る荷車などを襲う盗賊たちである。
鋼師は、伊香忍軍が、山賊の多くの宝石を奪っているという。
修行忍者三人組は、心して聞く。
甲賀の里は、険しい山でかこまれている。
山賊すらも出没しないが、暁月の都の近くには、比較的にゆるやかな明星の山がある。
明星の山の山賊が、反対に襲われはじめたらしい。
宝石をねらう、伊香忍軍に、だ。
第3話 加茂姉さん
甲賀の里。宿屋入り口。
「ミカンだ」
古問朗は、喜んで手に取る。
「サクランボもありますよ」
「リンゴもたくさん」
比曽加と手巻も大喜び。
「よくやったわ。ご苦労をさせたわね」
花鳥后御也が、側近の姉妹をねぎらう。
「道中は安全だったか?」
「山賊が出ました」
古問朗の質問に、側近の妹は、平然と言う。
「え?…大丈夫だったんですか?」
今度は、比曽加が質問する。
側近は山賊に遭遇していたらしい。
相手は、孤高の山賊を名乗った山賊女性。
食料を要求してきたという。
よく無事であったなと思われる。
「加茂さんが追い払ってくれました」
「護衛役ですから…」
ひかえめな女性が、つぶやく。
古元加茂。18歳。
灰色の髪の女の娘。
古問朗の姉。
「加茂姉さん。山賊は大丈夫だったか」
「大丈夫ですよ…。古問朗」
ゆったりとした加茂姉さん。
それよりも、秘密愛人の件を聞いてくる。
「帝公認の秘密愛人とは、本当ですか…?」
暁月の都で、護衛任務中だった姉は、弟の情報を把握していない。
それは、姉に言いにくい古問朗。
「…お姉さんがいたの?」
髪の毛の色が違う。
燃えるような赤毛の弟。
静寂のような灰色の髪の姉。
帝の奥方は、思いつめた顔をする。
「血のつながりはわからない。共に暮らしている加茂姉さんだ」
「そうなのね」
血がつながっているかわからない姉弟。
この姉は、古問朗と共に暮らしているのか。
この姉は、古問朗のそばにいる女の娘か。
花鳥后御也は、不機嫌になる。
「要注意人物ね」
つぶやいた。
甲賀の里。古元家。
古問朗と加茂姉さんの暮らしている家。
「姉さん。リンゴ美味しいんだ」
「ありがとう…」
リンゴを皮のまま食べるのが好きな古問朗は、そのままかぶりついている。
ミカンを手に取った加茂姉さんは、その皮を手でむいて一個ずつわって食べる。
「わたしはミカンの方が好きですよ…」
「ああ。オレもミカン好きだ」
「こんなに果物をたくさんもらったのですか…?」
「秘密愛人のことだけど。果物をくれるんだ」
姉に伝える。
ある日、突然、花鳥后御也がやってきて、秘密愛人の話をされたこと。
断ったのに、続いているらしいこと。
帝公認らしいこと。
難しい話はわからない。
とにかく、果物をたくさん食べられる。
ラクをしたい古問朗は、深く考えないでいる。
「帝公認で、秘密愛人なのですか…?」
正直に驚く。
帝は、黄金集めを趣味として、それ以外に興味がないとは聞く。
しかし、奥方に秘密愛人などいていいのだろうか。
「知らん。オレは、果物を楽しむだけでいい」
「わがままですね…。古問朗」
弟に何事もなければ、加茂姉さんも気にはしない。
甲賀の里。宿屋。
花鳥后御也に呼ばれた古問朗たち、修行忍者三人組。
加茂姉さんも一緒に呼ばれている。
「加茂。ちょっと、いいか」
忍びの一人が声をかけてきた。立ち止まる。
「はい。何ですか…?」
「荷車を襲った山賊。少年山賊の面面じゃないのか?」
確認したい様子の忍び。
少年山賊の面面。
甲賀忍者の安虎と山賊女性の間の息子で、明星の山で暮らしている。
「安虎は、甲賀の里の入り口を守る忍びだろう」
「息子さんがいたんですね」
「へえ〜」
忍者三人組が、話題をしていると、当の本人である安虎がやってきた。
「息子の面面を甲賀の里で保護したい」
「山賊…。女性山賊でしたよ…」
「面子だ。別居中の妻だ」
「伊香忍軍の忍者に、山賊がねらわれているんだ。迎えに行きたいのだが、入り口警護のため動けない」
安虎は、三人組に、お使いを依頼してくる。
明星の山へ、少年山賊の面面たち母子を迎えに行ってほしいのだそうだ。
甲賀の総まとめ役である五右衛門さまの許可は取ってあるという。
「明星の山へお使いか」
「わたしも行きますよ…」
加茂姉さんが手伝ってくれる。
「じゃあ、三人と姉さんで行こう」
「危険なところへいくのね。大丈夫なのかしら」
花鳥后御也が心配してくる。
呼ばれていたが、遊びたかっただけらしいので、後回しにしてもかまわないだろう。
「危険なことも忍びにはある」
古問朗たち三人組と加茂姉さんは、明星の山へ向かう。




