第2話 秘密愛人
甲賀の里。忍び学習堂。
「…伊香忍軍は、妖術を使う。主にあやつりの術だ」
甲賀忍者の鋼師が、教壇に立つ。
古問朗たち、修行忍者三人組は、忍びの知識を学んでいた。
今日は、敵の忍者。伊香忍軍の使う妖術を学ぶ。
伊香忍軍は、妖術を好む。
主に、あやつりの術。
宝石を盗むため、自然のネズミをあやつる術を使う。
それによって、あわてずに対処していくには、どうすればいいのか。
古問朗は、手を上げる。
「攻撃するのでは…」
「違う。ネズミを無傷でつかまえるのだよ」
罪のないネズミを退治してはいけない。動物たちの愛護団体が悲しむことになる。
しかし、人が危ない時は戦っていい。
ネズミとの戦いをさせる。伊香忍軍は、油断ならぬ相手だ。
「油断するな、か…」
「油断できませんね。古問朗」
「アタシ、油断しちゃうかも」
学習の時間が終わり、三人でしゃべっていると、いい香りがした。
これは、伊香忍軍の妖術であろうか。
古問朗の前に、美しい女性がやってくる。
「花鳥后御也か…」
暁乃宮家の奥方である。
「わたくしと遊びましょう」
花鳥后御也は、微笑んだ。
第2話 秘密愛人
甲賀の里。宿屋。最上級室。
「秘密愛人は、断わったのだが…」
古問朗は、緊張してかたまる。
権力を振りかざして無理矢理にでも愛人にするつもりなのだろうか。
「ワタシもいていいんですか?」
「アタシ、邪魔なんじゃ…」
比曽加と手巻が、同席している。
不安そうな、忍者三人組に、花鳥后御也は笑顔だ。
「一緒に、リンゴを食べてくれるだけでいいのよ」
リンゴの入った皿を差し出す。
むかれていない、そのままリンゴだ。
「美味しそうだな」
古問朗は緊張から、一気に喜んでリンゴを手にする。
「リンゴは、皮が美味しいんだよな」
「確かに、リンゴの皮は美味しいですよね」
「アタシも、食べたい」
「どうぞ。どうぞ」
子供たちを見守る母のような表情の、花鳥后御也。
そのまま、リンゴにかじりつく三人組を見つめる。
秘密愛人。
帝に秘密で、密会すること。
好き同士になること。
好きなど、まだわからない
若く、無邪気さの残る古問朗は、それを断わった。
大人の仲間入りなど、まだしたくない。
密会など、帝に秘密でできるものか。
古問朗は帝を守る忍者なのだ。
断わったのだ。
しかし、遊ぶだけだと言って、花鳥后御也は、甲賀の里の宿屋に滞在している。
遊ぶだけなら、かまわないと言っていいのだろうか。
複雑だ。
大人がよくわからない。
でも、リンゴは、美味しい。
リンゴを元気にほおばる古問朗の姿を、花鳥后御也は、楽しく見つめている。
「これからは、果物を色々と差し入れて差し上げるわ」
「本当か?美味しい果物がいい」
古問朗は、うれしくなる。
さすが、暁乃宮家の奥方だ。
色々な果物が食べられるなんて、うれしいぞ。
花鳥后御也は、早速、暁月の都から、使いの者を招くと言う。
「いいのか?わがままを言って」
「かまわないわ。わたくしが勝手に秘密愛人だと思っているだけよ」
「や、やっぱり、秘密愛人なのか…?」
「そうよ」
花鳥后御也は、何度もうなづく。
甲賀の里。修行の滝。
「一閃…!」
シノビカタナを滝に向かって振るう。
しかし、滝の水の力に及ばなく、上手く斬れない。
まだまだ古問朗の力は未熟だ。
「次は、ワタシですよ」
クサリカマの鎖を振りまわす。
そして、一直線に滝へ、クサリを投げる。
クサリは水の勢いにはじかれてしまう。
惜しい。比曽加は、悔しがる。
「アタシの、クナイで…。あっ、クナイがない」
クナイが見当たらない手巻。
「クナイって、これかしら?」
手に持つ、クナイを見せる花鳥后御也。
手巻の元に手渡す。
「落としてた…?」
どうやら、落とし物をしていたらしい。
そんな手巻の前に、黒い羽根が落ちてくる。
黒い羽根…。
バサっ…バサっ…
黒い大きなカラスが、頭上を旋回していた。
巨大な化けカラスだ。
「自然の化けカラスか…!」
古問朗は、シノビカタナを構える。
化けカラスは、高貴な花鳥后御也をねらった。
「っ…」
声にならない悲鳴をあげる。
そのまま崩れ落ちる。
油断なく、距離をつめた古問朗は、シノビカタナで斬りはらった。
バサっ…
化けカラスは、空高く羽ばたいて逃走する。
「奥方…!大丈夫か!」
肩を揺り起こす。
花鳥后御也は、ゆっくりと手を伸ばして、古問朗の胸元にしがみつく。
そのまま、離さない。
元気ではあるようだった。
「赤毛の男…」
つぶやく。
この騒ぎで、古問朗は、甲賀の里の総まとめ役に呼び出された。
甲賀の里。頭領屋敷。
「来ましたねえ。古問朗、比曽加、手巻」
銀装束の男が一人。
甲賀五右衛門。
見た目は、若い。するどい眼差しの忍び。
甲賀忍者の頭領。総まとめ役である。
「自然の化けカラスが花鳥后御也を襲ったのですかねえ」
「は、はい」
「ケガは、なかったと」
「はい」
「しばらく、花鳥后御也は、この里への滞在を望んでいるようですよねえ」
「…」
ゆったりした中に、威圧感のある五右衛門さま。
帝は、花鳥后御也が望むようにしろとのこと。
秘密愛人の件も、帝は公認しているそうだ。
「秘密愛人が、帝の公認…?」
何でだ。
わからない。
とにかく、秘密愛人を続ける。
それは帝の命令でもあった。




