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第1話 夢追い人

暁の桃源郷。

暁月の都。

そこには、もっとも位の高いみかどがいる。

暁乃宮あかつきのみや桃太ももた御也みや。還暦の老人。

黄金集めにしか興味を持たない。老人。


「何故、このような帝の元に嫁いでしまったのやら」

帝のきさき

暁乃宮あかつきのみや花鳥はなとりきさき御也みや。29歳。

恋を求める、美しい女性。

恋…。

そう、恋。

花鳥后御也は、恋をした。

美しく燃え上がるような赤毛の忍者に。

歳は、10代だろうか。

若い修行中の三人組の忍者の一人らしい。

「あの男は、満足させてくれるかしら」

夢を見る。

強く抱きしめられる夢を。


第1話 夢追い人


甲賀の里。

甲賀忍者の住む忍びの里。

「奥義、乱れ手裏剣!」

切り株に向かい、手裏剣を放つ。

一発も当たらない。

「しまった。失敗したようだ」

後ろ頭をかく。

古元こもと古問朗こもんろう。16歳。

長い赤毛の髪が目を引く少年。

真面目な熱血男子だ。

「ふう…。古問朗は、まだまだのようですね。ワタシの乱れ手裏剣を見てください」

切り株に手裏剣が無造作に放たれる。

やはり、一発も当たらない。

「ワ、ワタシも失敗してしまいましたよ」

落ち込む。

次手じて比曽加ひそか。16歳。

紺色の髪の少年。

丁寧語のドジ男子。

「アタシにまかせなさい」

飛び出した少女は、クナイを投げる。

切り株には当たらない。

「あれ?アタシの乱れクナイが…」

おかしいと首をかしげる。

不知火しらぬい手巻てまき。16歳。

小麦色の髪の少女。

勝ち気な紅一点の女の娘。

三人は、忍者修行中である。


甲賀忍者は、暁乃宮家の宝石をねらう、伊香いか忍軍と対立していた。

暁乃宮家は、帝の一族。

宝石をねらうのは、若い忍び。

一つずつ、ねらいすまして盗む。

宝石あるところ、どこにでも現れる。

何が目的の集団か。

宝石を持たぬ都人は、平和に過ごしている。

忍者三人組は、修行中。伊香忍軍と戦うほどの実力は、まだない。


“明星の山を行き来する山菜荷車の護衛”。

修行忍者三人組に、指名がかかった。

明星の山には、最近ウリ坊が多く出没して、山菜荷車を襲うのだという。

「今日も、よろしくな」

山菜名人に挨拶される。

「よろしく」

三人組は、頭を下げた。

山菜名人は、よく修行忍者三人組を護衛担当に指名してくれる。

暁月の都を出発して、山菜の多く採れる場所へと同行した。

帰り道。

気配に、古問朗は身構えた。

ウリ坊だ。

山菜を渡すわけにはいかない。

「ウリウリ…」

「可哀想だが、山菜を守らせてもらう」

古問朗は、シノビカタナを引き抜いた。

比曽加は、クサリカマを構える。

手巻は、クナイだ。

「ウリウリ…!」

ウリ坊は、突撃をしてきた。

「くらわぬ」

これを、古問朗は、かわす。

「いたっ…」

しかし、比曽加は、かわしそこねてしまう。

「しっかりして、比曽加」

あわてて、手巻が比曽加を助け起こす。

戦闘経験の浅い三人組。

経験の無さが、浮き彫りになる。

だが、ウリ坊一匹に負けることはない。

気合いを込めた古問朗の一閃で、ウリ坊は退却して行った。

無事、山菜荷車は、暁月の都に帰還した。

「頑張るな。若僧たち。わははっ」

豪快な山菜名人は、三人組に代金として、一人に千円を渡す。

「三人で、三千円だな」

「こんなにもらっていいのか」

「都では、これでも安いんだぞ。受け取れ。報酬とは別だから、菓子でも買えよ」

「あ、ああ。ありがとう。山菜名人」

護衛の報酬は、甲賀の里に入る。

見習い忍者の三人組は、報酬をもらえない。

生活料へとまわされる。

実際に、手に千円を持った古問朗は、大喜びだ。

三人は、暁月の都の土産屋で大福を一つずつ買った。

後は貯金だ。


「まだまだだな…」

伊香忍軍と戦うほどの力をつけてはいない。

忍者として、活躍したことはない。

甲賀の里で修行中。

古問朗は、強くなりたいと思っている。

でも、今が、楽しい。

家族は、姉が一人。

優しくて穏やかな姉。

忍びとして認められて、多くの宝石護衛の任務に駆り出されている。

自分も忍びとして認められたい。

本当は、そう思うべきなのだろう。

でも、毎日、美味しいものを食べて。好きな時に、好きなことをして。遊んで暮らしたい。

心の底では、ラクがしたい。姉とも一緒に。

忍びだけど、自由になりたい。

質素な食事。

日々の決まった時間の修練。

伊香忍軍との争い。嫌なわけではない。

強くはなりたい。

でも、今が一番楽しい。

修行忍者のままでもいい。

今がずっと続けばいいと思っている。

こんな夢を見ることはいけないだろうか。

ならば、考えるのをやめる。

自然体でラクなのだ。


ある日、甲賀の里に、高貴な人物が秘密裏におとずれた。

花鳥后御也。帝の奥方だ。

帝に内密に、目立たぬように、古問朗に会いにきたという。

「オレに、会いにきただと?」

帝の奥方に失礼でもかけてしまっただろうか。

帝の住まう暁月の都。暁月城。

この前は、土産屋に大福を買いにしか行っていない。

失礼をかけたおぼえはない。


「古問朗というのが名前かしら」

花鳥后御也は、美しいくちびるで、その名前をかみしめる。

この男だ。

赤く燃え上がるような赤毛の男。

「何用…か」

おそるおそる、古問朗は聞く。

「わたくしの…」

かみしめる。

「わたくしの愛人となるのよ?」

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