第16話 真なる起源
「『真なる起源』」
異能の名前を口にするや否や、俺は真っ白な空間へと入り込む。
そして眼前には黄金の光を放つ球体が鎮座していて、
『よく来たなルードよ』
と脳内に直接響く声を投げかけてきた。
「大祖父様、すみません。今はあまり時間が……」
『わかっておる。この精神世界にいる間は時間経過がないとはいえ、ゆっくりと落ち着ける状況ではないということはな』
「ありがとうございます……」
小さな光との会話を手短に終え、俺は巨大な門の前に立ち、手をかける。
「第二の門、解錠」
呟くと同時に、俺の体を覆う金色の神気は膨れ上がり、四肢は龍のものへと変じて背中からは翼が生えてくる。
俺の希望の名前は『真なる起源』。
精神世界にいるご先祖さまと会話して資格を示すことで、力を解放することができる。
第二の門は普段は使わない。神気の消耗が激しいから……というのももちろんあるが、これを使った状態では戦力が過剰になり、味方戦闘員の経験を損なってしまうから。
そして……
「フッ……!」
あまりの強さに魔晶獣相手では戦いにならず、俺自身の経験も積むことができないから。
俺は背中の翼を動かして、巨人型魔晶獣の頭上をとった。
黒紫の巨人は頭部に宿した六つの光を俺に向けてきて、ついでその巨大な腕を振り上げてきた。先ほど戦闘員を一人、殴り飛ばした脅威の一撃。
だがそれは、今の俺にはあまりにも遅い動きだった。
「神刀・滅却」
さっきまで使っていた剣はすでにグランドバッグに入れてある。魔力親和性の高い武器ではあるが、神気の密度が上がりすぎると内部から崩壊してしまうから、第二の門を解錠した状態では使えない。
だから金色の神気を刀の形にして武器にする必要がある。そうして作り出した神刀を無造作に振るう。
振り下ろす神刀。振り上げられる黒紫の拳。
真っ向からぶつかるはずの両者の攻撃に、音は発生しなかった。
当然といえば当然。
ナイフで水を切ったとして、音など響くはずがないのだから。
俺の神刀は音もなく巨人型魔晶獣の右腕を切り飛ばし、一部分が欠損した魔法構造体はぐらりと体勢を崩す。
その時にはすでに、俺の腕は横薙ぎに振り払っていて……
巨人の頭は地面に落ちていた。
生物の姿を模しているゴーレムは、同じく生物的な弱点を持っている。頭部を失って死なずにいられる生き物は存在しない。
そうして巨人型魔晶獣は、空気中に溶けていった。
『巨人型の排除は完了しました』
司令室に連絡して、同じことを小隊長に伝えておく。
『おう!こっちももう少しで終わる。魔晶獣の残数も少ねえから、少し休んどけ』
小隊長はそう言ってくれたが、魔晶獣掃討作戦の最中にこれだけのことが起きてしまったのは初めてだ。何もせずに待つのも落ち着かない。
そう考えてもう一体の巨人型魔晶獣の加勢に行こうかと考えた直後、轟音と共に離れた位置にいる巨人型の胸部に風穴が開く。
これほど豪快な音を響かせる攻撃は多くない。俺はすぐにコクトの『打兎の如く』による蹴りだと悟った。
そして先ほどの巨人型と同じく空気中の魔素に還ってゆく姿を見て、おそらくこれ以上の脅威はないだろうと判断した俺は、巨人型魔晶獣に殴り飛ばされた戦闘員を探す。
まだ戦闘行為は終わっていないが、現状では加勢する必要のある部隊はない様子だ。なら次にすることは怪我人の手当てと駐屯地への移動。
俺は治癒師免許を持っていないが、この姿なら空を飛んで怪我人を運べる。
見つけたところできっとこの行為は無駄になるだろうが……何もしないでいるよりは遥かにマシだ。
……そう思っていた。
「……なんでここにいるんですか……?」
「あ〜……えっと……」
数分後、ここにいるはずのない女性を見つけるまでは。
巨人型魔晶獣、強襲事件。
のちにそう呼ばれることになるこの日のことは、人々の記憶に深く刻まれることになった。
死者なしという奇跡を以て。




